第十七話 魔王の世界への思い
「はあ、本当に何なんだあの魔王は・・・・・・お?」
体を動かすことができるようになった俺は、町の中を歩いていた。
俺が治っていることを町の人に気付かれると、やはり嘘ではなかったのかと言われそうであの三人には悪いので、ニット帽とサングラスを掛けて変装しながらだ。
結構歩き回ったが、体は快調の様だ。
そしてとある店の前で、ミナキと先程のエコ魔王が会話しているのを見つけ、俺は建物の陰へと隠れてやり取りを見ている。
「何やってんだあいつ。うわ女のミナキにまで顔近づけんのかよ。ドン引きしてるじゃねーか」
サンデニスはミナキに対してニヤニヤしながら、俺とトゥロリテの町であった時の様な行動をしていた。
後ろからでミナキの表情は見えないが、思い切り後退っているところを見るに大体想像はつく。
あんな変な奴を始末できないのが腹立たしくなってきた。
ミナキは後退ると途端に店の中の方を向く。
すると中からパロマとシルクが出てきて、ミナキがサンデニスの方を指差すが、サンデニスはミナキが見ていない隙にテレポートで姿を消した。
「何がしたいんだあいつは――」
「おやおや、覗き何て趣味悪いですよトウヤちゃん」
「うわっ!?」
耳元から今消えた奴の声がし、俺は驚いてひっくり返る。
声の主は勿論サンデニスだった。
凄く心臓に悪い。
「おい変態魔王。お前ああいうことする為だけに動いてないだけなんじゃないのか?」
「そんなことはないわよ。気になる冒険者を間近で観察しているだけよ?そ・れ・よ・り・も、お金頼んだわよトウヤちゃん」
宿屋で話した時とは違い、前の様なオカマ口調で接してくる。
お前なんて捕まってしまえと言いたい。
俺は魔王から一つの頼みごとを受けることになった。
トゥロリテの町へ戻って、報酬を貰ってきて欲しいとのことだ。
俺は何のことか忘れていてさっぱりだったが、フラットの町へ来る時のナイトシャドーモンキーに、100万の賞金がかけられていたことを教えられた。
何でも自分の容姿のせいで人と深く接することができず、お金も当然稼げず最近底を尽きてしまったらしい。
ゲームの世界では色んな種族がいるから、俺はあまり違和感を感じなかったのかもしれないが、この世界の住人なら当然の反応だろうか。
それで無理に奪っても問題を起こしかねないので、トゥロリテの100万を受け取ってきて、半分分けてほしいとのこと。
俺を治療したのはそれをさせる為だったらしい。
何と面倒で図々しい魔王だろうか・・・・・・。
俺としても金はあっても困らないし、反対しても魔王である以上何されるかわかった物ではないので、仕方なく受けることにしておいた。
「わかってるよエコ魔王。それより、そのカラフルの妙な服やめた方がいいんじゃないか。喋り方もそうだけど逆に人目を引く要因にしかなってない気がする」
「そうかしら。私としては上手く魔王らしさをぼかしてると思ったのだけれど」
確かに魔王らしさは無いかもしれないが、俺から見れば道化師の様で中ボスらしさが滲みでている。
俺に変装用のニット帽とサングラスを渡してくれたのもこいつだが、見るからに何かやらかしそうな怪しい奴の姿にしか見えない。
こいつのセンスは壊滅している。
何でこんなやつが魔王になっちゃったんだろう。
「それじゃ、また一週間後にこの町でお会いしましょ。トウヤちゃん」
サンデニスはそう言うと、ウィンクをして姿を消した。
何でもミナキ達は明日から一週間ほど姿を消すことになり、その間に用事を済ませろとのことらしい。
サンデニスはその間各地の町を見て周って来るんだとか。
一見すれば確かに企業のお偉いさんの様な行動には見えるかもしれない。
あれそもそも魔王ってこういう存在だったっけ。
町を大体見終えた頃には夕方になっており、そろそろあの三人が戻りそうな頃なので俺も宿の部屋へと向かった。
流石に何時間も歩くのは疲れたのでベッドに横になる。
俺は明日になるまでは体を動かせず、食堂にも行けないから飯は食べられない、ということになっているのでお腹が空いていた。
何とか明日の朝まで我慢するしかない。
気が付いたら俺は眠っていたらしく、部屋のドアをノックする音で目が覚めた。
部屋の中は大分暗くなっているのを見る限り2、3時間程は眠っていたのだろうか。
「んんー・・・、どうぞー」
俺は体を起こさずに、目を擦りながらドアの方へと返事を返す。
すると部屋へ入ってきたのはパジャマ姿へと着替えたミナキだった。
生で見る高校生のパジャマ姿に俺は思わず目を逸らす。
何を考えているんだ俺は。
「ちょ、調子はどうだだトトトウヤヤ・・・」
歯をガチガチさせながら喋るミナキに、俺の頭の中が一瞬で正常へと戻る。
「まだ痛くて全然動かせそうにないよ。それよりなんでそんなに寒そうなんだよ」
ここの宿屋はかなり暖かいはずなのに、ミナキは言葉も体も震わせていた。
それが気になり俺はミナキに聞いてみる。
「ま、まあシルクと色々あってだな・・・。それよりトウヤの荷物持ってくるから、一旦カードを貸してくれないか」
大方ちょっかいでも出して、寒い地域で効果覿面の氷属性魔法でもやられたのだろう。
自業自得だな。
そういえば荷物のことを忘れてたっけ。
ミナキに言われて、横に置いてあったニット帽の下の冒険者のカードを取り出し、ミナキへと差し出す。
「かか感謝するぞトウヤ!・・・と、ところでその帽子とサングラスは?」
カードを受け取るとミナキは口調が素になり不思議そうに聞いてくる。
さっき貴方がドン引いていた人から貰いましたよ、なんて言ったらややこしくなりそうだ。
「これは・・・昼に話を聞いていた通りすがりの旅人がお見舞いに来てくれたんだよ」
「ふーん。元気になったらスキーでもしろってことからしら。あ、それとねトウヤ」
「ん?なんだ?」
俺が適当に誤魔化すと、ミナキはちょっと不安そうな顔で。
「私達今日頼み事されちゃってね、朝から森林に妖精に会いに行くことになったの。それでその・・・頼んだ人が何があるかわからないからトウヤに伝えとけって」
この町の妖精の話はトゥロリテで俺も聞いたことがある。
町の西の森林に妖精が現れるらしいという噂だ。
でも何があるかわからない・・・か。
妖精なんて信じられないが、これがサンデニスの言っていた姿を消すことに繋がるのだろう。
これも俺が魔王に治してもらったから一緒に行く、なんて言えないから自然に返しておこうか。
「へー。妖精なんて俺はいないと思うけどな。まあ用が済んだら帰って来いよ」
「な、何よ!本当にいるんだからね!実在するんだからね!・・・とりあえず用は済んだし荷物取ってきちゃうわね」
ミナキはムキになり俺に言い返した後、体を震わせながら走って出て行った。
あいつらが何を言われたかわからないので少し不安にはなるが、サンデニスが一週間と明確にして言ってたし、気にすることは無いか。
体を起こしたくなったのでベッドに腰を掛け、俺はミナキに言われていたニット帽とサングラスをまじまじと見てみる。
・・・・・・確かにテレビでよく見るスキーとかスノボしている人が付けてそうな物だな。
サンデニスの奴、もっとマシな物は出せなかったのだろうか。
それより妖精か。
この世界なら向こうの世界に実在しない物があってもおかしくはないが、妖精はファンタジー要素の塊というイメージが強すぎて信じられなかった。
しかしミナキにあそこまで肯定されたり、サンデニスの言っていたことが当たりそうなのを思うと実在するのだろうか。
ちょっと興味があるな。
俺が妖精について悩んでいると再び部屋がノックされる。
「トウヤ、入るわよー」
ヤバい、ミナキの声だ!
もう戻ってきたのか!
俺は急いでベッドに横になり、布団をかける。
激しく音をたてながらその作業を終えると、ミナキは不思議そうな顔をして部屋へと入ってきた。
「お、おうミナキか。荷物サンキューな」
「はいトウヤのカード。 トウヤ?もう調子は戻ったの?」
未だに震えたままカードを俺の横に置き、顔色を窺いながらミナキは尋ねてくる。
しまった、焦っていつもの調子で返していた様だ。
「まだ動けないよ。俺人間だぞ?そんなに早く動けるようになるわけないだろ」
俺は表情と声を気分の悪い様に何とか装ってみる。
するとミナキはそれを聞いて部屋の隅へと荷物を下ろすと。
「そう、それなら安静にしてなさい。明日は早いから私はもう寝るわね」
それだけ言うとミナキは部屋の電気を消し、素早く布団へと潜りこんだ。
あれだけ寒がってたらそうもなるか。
隣の部屋にいるパロマとシルクの声も聞こえなくなり、辺りが暗闇になると共にシンと静まった。
暗闇の中、横を向くと布団からひょっこりと出た、ミナキの顔がうっすらと見える。
そういえばミナキは、魔王がこんなに身近にいたことを知ると何を思うのだろうか。
もし実際に出会ったら戦わなかった俺と違って、無謀とわかっていても突っ込んで行くのだろうか。
あの魔王が世界を観察していることについては、一体何を思うんだろうか。
・・・自分でも考えていて、この世界のことがよくわからなくなってきた。
魔王の手の中の世界で俺達は過ごしているんだよなあ。
ちょっと複雑だ。
「なあミナキってさ、この世界の事どう思う?」
俺は世界の真相を知らないミナキに自然と問いかけていた。
このことを知らない人が、どう思って過ごしているのかが気になったのだろう。
するとミナキは少し悩んで戸惑いながら。
「どう思うって言われても・・・・・・、私にはわからないよ。来れて良かったとも言えないし、損をしたとも思わないし。向こうの世界で命を終えて、この世界で生きていけるってそれだけのことだから、特に何も思わないよ」
そりゃこんなことをいきなり聞かれても困るか。
でもミナキの言っていることが、ここに来た人の普通の考えなんだろうな。
俺の場合はこの異世界へと来れることがとにかく嬉しかったわけだが。
「何でそんな質問をするの?」
ミナキは続けて返してくる。
そうだった、唐突にこんな質問されたら不思議に思うよな。
「いや、同じ違う世界から来た人としてちょっと気になってさ。特にこれといった意味はないよ」
考えていたことを伏せるように、そんな曖昧な返事を返す。
大事になったりしてあの魔王を刺激したくはないので、今のうちは俺の中で留めておきたい。
少し申し訳ない気もするが。
しかし今日の俺はミナキに誤魔化してばかりだ。
何か悟られたりはしないだろうか。
意味もなく質問してしまったのも悪いし、変に思われない様に俺の思いも話しておこうか。
「俺はこの世界に来てそれほど経ってないし、一度殺されたばかりだけどさ、それでもこの世界のことを気に入っているんだ。ここに来る前は魔法とか使って敵と戦ったり、仲間と一緒に冒険したり、そういうのに憧れていたんだ。だから俺はこの世界に来れてよかったと思ってる」
我ながら清々しく話すなあ。
自分でも少し驚いた。
こんなことを素直に話せるのは、俺の周りには同じ条件の立ち位置がこいつぐらいしかいない、というのが大きいだろう。
違う世界からこの異世界へとやってきた、という条件だ。
するとミナキはちょっと不思議そうな顔をして、
「トウヤらしくていいんじゃない?考え方は人それぞれだし、こんな危ない世界でもそこまで活き活きしているのは羨ましいよ」
そんなことを真面目に返してくる。
「そっか、お前は優しいな」
俺は素直なミナキの返答が嬉しくて思わずそう返していた。
普通の人ならミナキの言う通り危なっかしいと言って否定するだろう。
でもミナキは俺らしいって言ってくれて否定しなかった、それだけで凄く嬉しく思える。
「優しいだなんて、そんな大したこと言っていないよ。それに優しいのはトウヤの方じゃない。あの時私を守ってくれたんだし」
そんな称える様なことを微笑しながらミナキは言ってくる。
それを聞いて俺は急に恥ずかしくなってきた。
優しい・・・守ってくれた・・・。
持ち上げられている様なことを言うのはやめてほしい。
それに俺の鎧なら耐えれるかなって前に出たら死んじゃってたわけだし!
ああヤバい考えてたら恥ずかしくなってきた!
「ま、まあな。パーティの仲間を守るのはリーダーの役目だしな」
恥ずかしさのあまりちょっとカタコトになりながら返す。
何格好つけてんだ俺!
余計ダメな方向に持って行ってる気がするんですけど。
部屋の温度も併せて顔が物凄く熱い。
するとミナキが囁く様な小さな声でとどめを刺すように言ってきた。
「私を守ってくれて、ありがとうトウヤ」
ああ、もうダメだ。
そんなに可愛らしく言ってくるなよ。
おかしくなりそうだからあいつには悪いが、もう寝たフリをして話を止めよう。
というか女の子に対して弱すぎますわ俺・・・・・・。
その後しばらく俺は数時間眠りにつくことができなかった。
童貞主人公はこちらです。
次回こそは町の外へ出ます。




