人が信じるのはそれぞれ
そのころ、睦月のもとでは如月と水無月が悩んでいた。二人ともズヴィアに従うように作られた存在である。二人ともズヴィアに裏切られても裏切るつもりはない。しかし睦月はズヴィアも含めすべて敵としている。
ズヴィアの敵は自身らの敵。我らが主はズヴィアのみ。二人は、静かに決意を決めた。
弥生はただ茫然と空を見ていた。当初は自身も天刃としてズヴィアの駒として働き、人を殺した存在である。たまたま、文月がはぐれ、それにより崩れた陣形を戻すために自身が前に出たのみだ。そして、今こうしてなぜか敵国家でゆうゆうと、静かな面持ちでいる。
睦月は従わぬならユラと彩を殺すと言っていた。あの様子では何か催眠にかかっているようだ。睦月はそう言った人間の思考の掌握がうまかった。だからこそ、誰よりも早く、あの環境で人間らしさを手に入れたのだろう。
自身は見ていないが水無月、霜月ともにその人間らしさを毒として死んでいった。確かに、道具としては毒だ。たかが人を助けるために任務を放棄するなんて。
しかし、道具にはできないことも人間にはできる。道具では任務を優先にしもう片方を切る。しかし、自身は、俺は――
『俺はどちらも捨てずどちらもとる。欲深い俺はどちらも欲しい。ユラや彩を無事に助け出したしたいし、俺は気にくわねェ睦月のヤツの命令なんて聞きたくない。
だから、俺はユラや彩を助けて睦月をぶんなぐる。
それほどの価値がユラや彩にあるのだろうか?と聞かれれば、俺はあると断言する。信じてみせる。
俺は、自分で考え、自分で行動する道具。そう、俺は――
――俺は、道具という生まれ方をした、人間、だ。』
睦月のもとへと向かった流頼一行。ユラ、彩ともに見せびらかすように連れてきていた。同行を求める睦月に全員が拒否を言う。『人質を見捨てるつもりか?やはりあなた方は人間では無い』という睦月に、弥生は『両方とも手に入れたほうが俺らしいだけだ』と答える。
『戯言をいう、ならばどうするつもりか』という睦月に如月、水無月が強襲する。
突然のことに驚く一行、そして睦月。何事かと言う前に如月、水無月の両名がユラ、彩を救い出していた。そして水無月は二人の催眠を解いた。
何故反旗を翻したのかと問う睦月に如月、水無月は『ズヴィア帝国の答えがこれである』と睦月に言う。秘密裏にズヴィア本国の神無月と連絡を取っていた如月、水無月両名は流頼達に後を任せ、速やかにズヴィアに帰還するようにという命を下していたのだ。
『生みの親を裏切り仇に着くのか』という睦月に如月、水無月は『道具にそんな思考は必要ない』と答える。『ただ任務に従うべきだと言ったのは睦月だったではないか』と。
体制を立て直す、と睦月は一時撤退。追いかけようとする流頼に睦月は絶対に許すことはしないと言い残し、その場から去った。
如月、水無月の両名はこのままズヴィア本国へと帰ると言う。弥生、文月は両名にありがとうと言葉をかける。如月、水無月の両名は『任務を全うしただけである神無月も同様に。睦月とズヴィア、自身の天秤で測ったらズヴィアに傾いた。ただそれだけのこと』と答える。
自身の天秤、それはすでに人間の思考である。そう思った流頼たちだが、それを言葉にすることは無かった。そんなもの、すでに彼らが気づいていると、経験者である彼らにはすでにわかっていたからだ。
神無月さんおひさしぶりーっす!いや、忘れてなんて、な、ないんだからね!
『信じるモノは人それぞれ。信じないモノも人それぞれ。
相容れないモノもまた、人それぞれ』




