07
ギルドで鑑定の魔道具を見てから、シアナは魔法の基礎の勉強と平行して魔道具についても調べた。
(うーん、魔石に魔力を籠めて、魔力回路を経由して次の魔石に魔力を伝えるってのは分かったんだけど……)
そこからどうやって望む効果を得ているのかが分からない。
(ポットは分かるのよ、ポットは……)
魔力に属性はないが、魔石には属性が存在し、火属性の魔石に魔力を通すと魔石が熱を持つ。その特性を活かして中に入っている水を温めるのである。
ポットのような単純な魔道具なら大まかな仕組みは理解できるのだが、鑑定の魔道具は一体どうやって、調べたいものと内容が合っているのかを判断しているのか。
シアナが調べた限り、魔石には精霊と同じく六属性が存在するが、それらの特性に鑑定に繋がりそうな性質はなかった。
(どうやったら袋から取り出してもいないのに合ってるかどうかが分かるの……数だって結構あったのに……)
魔道具は魔法学の中で言えば、応用も応用だ。精霊を介さず、魔力と魔石だけで現象を起こしているという点で考えれば魔法ですらないのかもしれない。
あー、と一人頭を抱えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえ、シアナは顔を上げる。
「お嬢様、ルークが参りました」
「分かったわ」
今日は魔法の授業の日だ。シアナは魔道具に関する本を閉じて、教科書に使っている魔法書を準備する。
「失礼致します、お嬢様」
「ルーク、忙しい中今日もありがとう」
「いえ、これも務めですので」
ルークはにこりと微笑むと、シアナが脇に除けた本に目を止めた。
「これは、魔道具に関する本ですか?」
「ええ、そうよ。調べたいことがあって読んでいたの。あっ、ちゃんと授業の予習はしているわよ?」
「左様でございますか。お嬢様は魔道具に興味があったのですね」
だから魔法の勉強を早くにしたがったと思われたようだ。
「魔道具に興味というか、全く興味がなかったわけではないけれど、この前ギルドについて行った時に鑑定の魔道具を見て、仕組みを調べたくなった感じかしら?」
「なるほど、ギルドの……」
「ルークはギルドの鑑定用の魔道具、見たことがある?」
「ギルドに関しては運営にクローデル家も関わっておりますので、実際に赴いた時に遠目に見ました。ですが、実際に動いているところは見ておりませんね」
「そうなのね。あの魔道具、すごく不思議なのよ? 台の上に薬草が入った袋を置いて、魔石に魔力を通すだけで、他の物が交ざっているかどうか教えてくれるの」
シアナが簡単に説明すると、ルークは口許に手を当てて考え込む。
「それは……どのような仕組みになっているのか、気になりますね……」
「でしょう!?」
ルークもこういったことに興味があるのかもしれないと、シアナは表情を明るくする。
前世の知識が多少あるとはいえ、シアナの頭は並程度だ。成績も真ん中辺りをうろうろしていた。頭の良いルークが一緒に調べてくれたら、少しは捗るかもしれない。
(って、ルークに頼ったら、ルークがまた忙しくなるか……ここは我慢、我慢……)
「私も魔道具についてはまだそれほど学んでいませんが、お嬢様が読まれていたこの本は初学者向けの本だったと思います。もしかしたらギルドの魔道具については書かれていないかもしれません」
「そっか、じゃあ、違う本を見つけてこないとね……」
「ひとまず、今日の授業を始めましょう。魔道具に関する本については、私も大旦那様に尋ねてみます」
その程度ならそれほどルークの負担にはなったりしないだろうか。
シアナは祖父に会う機会がなかなかないため、頼めるならお願いしたいところだ。
「本当に頼んでもいいの?」
「はい、もちろんです」
笑みを浮かべて言うルークに、シアナもほっと息を吐いて微笑った。
「ありがとう、ルーク」
目を閉じて、胸の中心から湧き出た温かな力の塊を、肩から腕、手先へと送る。魔力が通った部分はほんの少しだけ温かい。これは魔力が通ることで身体が活性化するかららしい。
「はい、結構です。次はそこから左手に移動させて下さい」
ルークの言葉に従い、シアナは右手にある魔力に意識を向けたまま、今度はそれを左手へと動かす。元来た道を戻って、次は左手へと行くルートを思い描き、そこに魔力を乗せていく。
これができるようになったのは少し前だが、もっとスムーズに動かせるようにならなければならないと言われ、繰り返し練習をしている。
左手まで魔力を移動させると、魔力が通った場所がほんのりと熱を持つ。
冬に入って空気も冷たくなったため、身体が温まったのがはっきりと感じられた。
「はい、結構です。もう合格を出してもいいかもしれませんね」
ルークの言葉にシアナはぱっと目を開ける。
「本当!?」
秋からずっと、シアナはノーラが傍に付き添える時には練習をするようしていたのだが、魔法の勉強を始めたのならと、途中から歴史や領地に関する勉強も始まっていた。
そのため自然と魔力操作の練習に割く時間が減り、気付けば冬に入っていたのだ。
「ええ、今度から生活魔法の練習に入ってもいいかもしれませんね」
ここまで長かった、とシアナは盛大に息を吐いた。
「やっと魔法の練習ができるのね……」
(もうちょっと早く次に行けるかと思ってたのに、こんなにかかるなんて……)
冬になる前には生活魔法の練習まで終わっているのではないか。そんなことを思っていたシアナの見込みは甘かった。
(この冬はルークが持ってきてくれた本を読んで過ごすつもりだったのに……)
魔力操作の練習だけで冬になってしまったのだ。計画は完全に狂っている。
「お嬢様はランクⅤの魔法まで使えますからね。魔力操作は念入りに訓練しませんと」
ルークの言葉に、シアナは、「ん?」と首を傾げる。
「低いランクしか使えなかったら、そんなに練習しなくていいの?」
「ええ。ランクの高い魔法ほど扱う魔力の量が大きくなりますから、魔力操作も正確性を問われます」
「そうなの?」
「例えば、そうですね、生活魔法程度の魔法でしたら、魔力を集めた後に発動に失敗しても魔力は霧散するだけです。ですが、その数倍以上の魔力を溜めた後に失敗したら、残った魔力はどうなると思いますか?」
シアナは魔力操作の練習をしている時のことを思い出す。
最初の頃、まだそれほど魔力を溜められなかった時は、集中が途切れると同時に魔力は何処かへと消えていた。
それから少しずつ慣れてきて、ある程度魔力を溜めれるようになると、魔力操作の練習が終わった後も、魔力はそこに残り続け、ゆっくりと時間をかけてなくなっていた。
「ちょっと生活魔法の時みたいに消えるけど、残りはそのまま……?」
「はい。これが体内ならば徐々にまた身体に溶け込んでいくのですが、魔法発動のために既に外に出していた場合、下手をすると魔法が暴発します」
「え゛……」
「体外に魔力を出して精霊が受け取ってしまえば、魔法が発動しますからね」
「普通に発動はしてくれない……?」
「失敗にも色々ありますが、発動段階での失敗は主に三通りです。精霊への魔力の受け渡しが上手くいかない、発動させるための魔力が足りない、発動させる魔法のイメージが明確ではないまま魔力を身体の外に出してしまう、です。一つ目と二つ目の場合は問題ないのですが、三つ目の場合は意図しない形の魔法が発動してしまいます」
ふむふむ、とシアナは頷く。
「えっと、精霊は私達の心を読んで魔法を発動するから、悩んだまま魔法を使っちゃうと、それがそのまま魔法になっちゃうってことよね?」
形や大きさが違ったり、発動させる場所が違ったり。何もない所に間違って出てしまうならまだいいのだろうが、出てはならないところに魔法が出てしまうのは確かにまずい。
「その通りです。なので、イメージが明確になるまで魔力を体外に出さないこと、そして発動が危険だと判断した場合、魔力がそれ以上体外に出ないよう止める必要があります。この二つはどちらも魔力操作です。ランクの高い魔法ほど、暴発した時の影響は計り知れません」
周辺一帯を破壊するというランクⅤの魔法。それが暴発するところを想像して、シアナは顔を蒼くする。
「高ランクの魔法を使える者ほど魔力操作の訓練が必要なのは、そういう理由からです」
「そう聞くと、ランクⅤの魔法は使えなくてもいい気がしてきたわ……」
そんなものを何度も使っていたら、いつか悪役に仕立て上げられそうで怖い。
それはどうでしょう、とルークは首を傾げる。
「ランクⅤの魔法にも色々とありますから」
「でも、怖いくらいの威力があるのでしょう?」
「攻撃魔法はそうですね。ですが、魔法には防御魔法も支援魔法もありますから」
そう言われたが、具体的にどのような魔法があるのかシアナには分からない。魔力操作の途中で誤って魔法を発動させないように、魔法の内容については、魔力操作の合格が貰えるまで調べてはならないと言われていたのだ。
「まぁ、それは次回の授業にしましょう。今日はそうですね、闇属性の生活魔法だけ練習してみましょうか」
そう言われてシアナは頷いたが、いざ闇属性の生活魔法と言われても、そもそも闇属性と生活魔法というものが頭の中で結びつかなかった。
(火属性とか水属性はそれぞれ火や水がちょっと出るんだろうけど、闇って……? 黒いものが出るの……?)
「闇属性って、夜とか静寂を司ってるのよね……? それがどうやって生活魔法になるの……?」
「闇の精霊が司っているのは確かに夜や静寂ですね。象徴、と言い換えた方がいいかもしれません。実際の魔法としては鎮静効果でしょうか。生活魔法では音やにおいを消したり、あとは眠らせることですかね」
「実際に使っている場面が思い浮かばないのだけれど……」
「においを消すのは結構重要ですよ? 生活していると、まぁ、色々と臭いますし……」
困ったように苦笑するルークに、シアナは、ああ、と察した。要するに臭い場所に闇属性の使い手がいれば、消臭できるということだ。
「あとは、赤ん坊を眠らせたり、眠れない病人を眠らせたりといった使われ方をしますね」
「へー……」
全く活躍の場がないわけではないようだが、何とも地味だ。しかもルークは例を挙げなかったが、音を消すとか、どう考えても犯罪に使われそうな内容である。
闇属性のイメージの悪さは、色だけではなくそういう点からも来ているのではないだろうか。
「とりあえず、今日は音が鳴らないようにしてみましょう」
「分かったわ……でも、どうやって……?」
「音が鳴る物を用意するだけです。――ノーラ、すみませんが、ティースプーンを二つお願いします」
スプーンを二つ頼んだルークに、シアナもすぐに方法が分かった。
「スプーンに魔法をかけて、それで叩いても音が鳴らなければいいのね」
「ええ、そうです」
シアナはノーラが準備したスプーン二本を見つめる。
「これは、両方に魔法をかけるの?」
「スプーン同士がぶつかった時に音が鳴らなければいいので、片方だけで大丈夫です。魔力を溜めて、精霊にスプーンの音がしなくなるように念じて下さい。そうして、魔力を精霊に渡す――身体の外に出すイメージで押し出します。最初は音を消す方のスプーンに触ると精霊に伝わりやすいでしょう」
シアナは軽く息を吸って呼吸を整えた。魔力操作を練習していた時のように魔力を溜め、右手へと移す。そうして片方のスプーンに人差し指で触れた。
(えっと、こっちのスプーンの音を消して下さい、でいいかな……?)
繰り返し同じことを考えながら、溜めていた魔力を指から押し出す――。
(押し、出す……?)
押し出せているのかさっぱり分からない。魔力が身体の中を流れるイメージなら分かるのだが、外に出すイメージと言われると、途端にどうしたらいいのか分からなくなった。
シアナは困ってルークの顔を見る。
「魔力って、どうやったら外に出るの……?」
「そこが一番の難関ですね。言葉でイメージは伝えられるのですが、実際の感覚は当人にしか分かりません。私も色々とイメージを変えながら、成功した時の感覚を少しずつ積み重ねていきました。お嬢様も色々と試してみて下さい」
「わ、分かった……」
その日から、生活魔法の特訓が始まった。
幸いなことに、シアナが練習する生活魔法は音を消すである。疲れたら必ず休憩することを約束に、一人でも練習していいと許可が出た。
魔力を外に出すイメージをしながら精霊に音を消してとお願いし、成功したかどうかスプーンでスプーンを叩いてチンチンと鳴らすのである。魔法の練習でなければ行儀が悪いと怒られているところだ。
ルークが言っていたように、少しずつイメージを変えながら練習を繰り返し、どれだけ経っただろうか。
前世のところてんを押し出すようなイメージで押し出そうとしたり、大きな水膨れができるイメージで押し出そうとしてみたりしたのだが、どれも上手くいかなかった。
そもそもイメージのセンスがなさ過ぎるとシアナは思った。押し出すという言葉に引きずられていたのかもしれない。
ならばそこから見直さなければいけないと、体内の魔力を自分の一部だと考え直し、それが自然と外に流れ出るようにイメージを変えた。
そうすると、少しずつだが魔力が身体の外に出ていっているような感覚を感じるようになった。
これはいけるのでは? とそこから、イメージを少しずつ変化させていくこと数日。指を切った時に血が流れるイメージに魔力を重ねて、ようやく魔力を出す感覚を掴めた。
(我ながら、イメージが物騒……)
いやしかし、成功したことには変わりないと、シアナは片方のスプーンに触れながら、音を消して下さい、と精霊にお願いする。
(で、できたかな……?)
恐る恐るスプーンを両手に持って打ち鳴らす――が、音は全くならない。
「っ! やったー! できたー!」
シアナは両手を挙げながら歓喜した。すぐさま自分が今貴族の令嬢であることを思い出し、口を閉じて手を下ろしたが、部屋にいたノーラには丸見え丸聞こえだ。
「あの、ノーラ、今のは見なかったことに……」
「礼儀作法の合格はまだしばらく貰えそうにありませんね」
苦笑するノーラにシアナは言葉を詰まらせる。この様子だと礼儀作法の教師に話が行くだろう。
(いや、私が悪いんだから仕方ないけど……)
前世で一度成人したことがある身とはいえ、上流階級の礼儀作法など前世で無縁だったものがすぐに身につくはずもない。
これでも頑張ってるんだけど、と心の中で言い訳をしながら、シアナは「はい……」と返事をした。
一度発動に成功したからといって練習をやめていいわけではない。生活魔法程度なら一瞬で発動できるくらいの慣れは必要だろうと、シアナは毎日空き時間には練習を繰り返した。
ルークに持ってきてもらった魔道具の本を少しずつ読みながら、休憩がてら魔法の発動させる。練習の甲斐あってか、“消音”と短く心の中で唱えるだけでも魔法が発動するようになった。
なかなかいい感じなのではないか、と満足げになるシアナの目にふと黒いものが映る。
消音の魔法をかけたスプーンの周りを、黒い靄のような塊が転がっている。
前世の漫画やアニメでこんなものを見た気がする、と思いながら、シアナはそっと指でそれを触ろうとした。
が、黒い靄はするりとシアナの指を掻い潜って反対側に行く。埃などではなさそうだ。
だったら何なのだろうかとシアナは頭を捻る。
(魔法を発動させるまではなかったよね……?)
外に出した魔力がこんな風に見えているのだろうか。
そんなことを思いながらもう一度触ろうとすれば、黒い靄はやはり逃げる。だからといって何処か遠くへ行ってしまうというわけではなく、ずっとシアナの指の周りを転がっている。
(これ、もしかして、生きてるとか……?)
ただ空気の流れで動いているようには見えない。
こちらが触ろうとすれば逃げるが逆はどうだろうかと、シアナはあと少しで触れるぎりぎりのところに指を出して靄を観察する。
靄は様子を見るかのように軽く左右に揺れた後、シアナの指に触れてきた。
(っ!? い、生きてる……!!)
はわわ、とシアナは軽く震える。やはりこれは体外に出た魔力が可視化とか埃のような何かではなく、意思を持った存在のようだ。
向こうから触ってきたのだから、とシアナは靄を指でそっと押し返す。シアナが意図的にそうしたと伝わったのだろうか、靄が、はわわ、と震えたように見えた。
(い、意外と可愛いかも……?)
見た目は薄っすら黒い半透明の毛玉のようだが、小さく震えたり自分から寄ってくる様は小動物と変わらない。
(動いてるんだし、何かの生き物だよね……図鑑とかに載ってたりするのかな……)
また暇な時に書庫に行ってみようかと考えながら、指で靄と戯れていると、シアナの手元に影が差した。
「――お嬢様? 何をなさっているんですか?」
突然聞こえてきたルークの声に、シアナはびくりと身体を揺らす。
「ルーク! びっくりさせないで……!」
「申し訳ございません。入り口でお声を掛けたのですが、気付かれていないようでしたので」
靄に気を取られて聞こえていなかったのかもしれない。それなら自分も悪い、とシアナは心臓に落ち着くように語りかけながら、「気付かなくてごめんなさい」と謝る。
「いえ、私の方こそ、申し訳ありませんでした。それよりも、何かありましたか?」
「大したことではないわ。靄みたいな生き物がいたから――、あれ、いなくなってる……」
ついさっきまでテーブルの上にいたのに、とシアナは辺りを見回したが、何処にもそれらしき姿は見えない。
靄もルークが現れてびっくりして逃げてしまったのだろうか。
いないなら見せられない、とシアナは諦めてルークに向き直る。
「また見つけたら教えるわね。ルークの方はどうしたの? 今日は魔法の授業はなかったと思うのだけれど……」
「大旦那様から勧められた本に、鑑定の魔道具が載っていたのでお持ちしたのです」
「えっ、本当!?」
ルークは、「はい」と頷いてテーブルの上に一冊の本を置いた。
「これは、精霊に関する本……?」
「はい。魔道具ということで、そちらに関する本から探していたのですが、鑑定の魔道具は魔道具の中でも特殊なようです。――ここですね」
ルークが開いたページには、シアナが先日見た鑑定の魔道具の絵が描かれていた。魔道具の傍には小人のような存在も描かれている。
「鑑定の魔道具は、魔石を介して本の精霊に魔力を渡すことで鑑定を行います」
「本の、精霊……? ええと、最初に読んだ魔法書に六属性以外にも物質に宿る精霊がいるって、書いてあったかしら……?」
「はい、その通りです。基本的に我々が魔法を使う際に魔力を渡すのは六属性の精霊だけです。それとは別に、好んだ物質に宿り、性質が変わった精霊がいます。有名なのは遥か南の地に生えている精霊樹ですね。精霊樹は、精霊が樹木に宿り、一体化した存在です」
元々が何の精霊であったのかはまだ判明していないそうだが、樹木が生きるのに必要な土や水、光や闇の精霊が関与しているのではないかと言われているそうだ。
精霊樹は、その枝や種子から樹木精を生み出すそうだが、これは精霊と生き物の中間の存在とされている。
「そして本の精霊は、木から紙が作られるようになり、暫く経ってから発見されたそうです。恐らく精霊樹の眷属か樹木精の一種なのでしょうが、詳細はまだ分かっていません。その中で本を好み、文字を覚えた精霊がこの本の精霊です」
ルークは本に描かれている小人を指して言う。
「えっ、精霊が文字を読めるってこと?」
「本の精霊だけですが。古い時代には人も他の生き物も、精霊が見えていたという話は覚えていますか?」
「ええ。どんどん見える人がいなくなって、今は少ししかいないのでしょう?」
「その通りです。鑑定の魔道具は、本の精霊が見えた研究者が作ったそうです。本の精霊が文字を読めるということを発見した彼は、本の精霊と意思疎通を図り、魔力と引き換えに調べてもらうという手段を確立しました。仕組みとしては、調べたいものを提示して魔力を渡すと、本の精霊が図鑑などの書物を調べて提示したものと合致しているかを判断する、という仕組みのようですね」
シアナはふと、鑑定の魔道具から薬草袋へと飛び込んだ何かの存在を思い出す。
(あれって、もしかして……)
ルークの説明通りの仕組みで、あれが精霊なのだとしたら、その精霊が袋の中身を確認し、その後本の内容と比べて判断したという流れなのだろう。
(魔法で自動的に情報が分かるとかではないのか……)
「要するに、精霊に代わりに調べてもらってるってことね……?」
「はい。ここの記載を見ると、本の精霊は離れている所にある本でも行き来ができ、かつ我々よりも早く中身を把握できるようですね」
ギルドなど、薬草のように大量の物が持ち込まれる場所ではとても有用だろう。セストについて行った時も十秒程度で鑑定が終わっていた。
本の精霊はかなり優秀なのだろう。だが――。
(本から情報を取ってきてるなら、ステータス鑑定みたいなことはできないか……)
シアナが期待していたような魔法ではなかったし、応用や改良でどうにかするというのも難しそうだ。
鑑定の魔道具の仕組みが分かっても悩んでいたからだろう。ルークが「お嬢様」と声を掛けてきた。
「もっと詳しいことが知りたければ、シルヴィオ様にお尋ねするといいかもしれません」
「お母様の弟のシルヴィオ叔父様?」
「はい。シルヴィオ様は確か魔道具の研究をされていたはずです」
シアナはごく偶にしか会わない叔父の顔を思い出す。
シアナがまだ幼い所為もあるのかもしれないが、叔父が来た時は大体挨拶だけをして、後はいつも大人達だけ話している。
「今度来た時に訊いてみようかしら……」
鑑定の魔道具は参考にならなかったが、研究をしているなら似たような別の魔道具を知っているかもしれない。
お読みいただき、ありがとうございます。
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