35 威力は隕石
勇者と魔王の力の出所は同じ。
世界の淀みを利用して魔法を使うので、淀みの溜まったこの世界ではどれだけ魔法を使っても魔力が底を突くことはない。
淀みを利用するからか、彼らの魔法から淀みは発生しない。希釈され、更に濾過されて、灰のような残滓はあれど環境に影響は全く出ない。魔王が世界を救うのは、そうやって淀みを消費してマナの循環を助けるからだ。
しかし使用する魔法は、世界を慮ってはいない。いつも適当に壊して暴れて淀みを消費している。
マナの循環にしか気を配っていないので、川が氾濫し大地が割れて山が崩れようが気にしない。マナが正常になれば時間をかけて直るから、全く気にしていない。
気にしていないが、つまり歴代の魔王は時間をかけて直る程度の被害に抑えていたということだ。
しかし今代の魔王は、その辺りの配慮は無理。
「間もなく隕石が落下し世界は終わります」
「その前に私とみーちゃんを元いた世界に還せ!」
「勇者も当事者なのでむずかしいですね」
勇者の力も魔王と同じ、淀みを消費して発動する。
魔王と勇者が殺し合った場合スムーズだとラスボスが言ったのは、二人で勢いよく淀みを消費するから。二人の仲がよければ強大な魔法を使用しないため、敵対しているときのほうがスムーズに世界は浄化される。
ただし勇者と仲良くしたいという魔王の願いは叶わない。
そもそも叶ったことはない。
勇者は魔王と違い、許可なく連れ去られた人間だ。避雷針としての役目を知らずとも、勇者と言う役職を与えられて「魔王を倒せば帰れる」といわれていれば、必死になって戦う。手を取り合えた過去はない。
現状、一番親密になれたが地雷を踏み抜き今回も仲は決裂した。
「これだけの事情をお話している時点で察していただけると思っているのですが、私も世界の崩壊は願っていないのです。私は魔王様の部下。魔王様を補佐するのが仕事です。魔王様の仕事は世界の浄化。世界の破滅ではないのです」
「そう思っているなら早々に止めろよ!」
「お止めしましたとも。でもおやめください~と何度宥めても止まらないのですよね。何故でしょう。言葉が通じていない気がします」
通じていないだろうよ幼子にお前の言動は。
心底わからないと首を傾げるラスボスは元人間だというのに人の心がなさ過ぎる。
「…皮肉なことに、淀みが晴れて止まっていたマナが膨大に流れているのを感じます」
「わかんの!?」
「私が感じられるのは水のマナだけですが、それ一つでも膨大な量の回復ですからなんとなくは感じられます。ですが比例して、空の様子が不穏ですね」
そう、先程から曇天には稲妻が走っていた。
私とセバスチャンはバルコニーに出て空を見上げていた。ラスボスはぬらりと移動して、いつの間にか屋根の上にいる。
見上げた空は今にも豪雨が降り出しそうで、不穏な音を奏でながら刻々と黒く染まっている。
ラスボス曰く、それは精神世界が崩壊して全力で喧嘩する幼児二人が隕石のように降ってくる前兆らしい。
「お二人が精神世界から出てくる前に、喧嘩を止めなければ世界は隕石の衝撃に耐えきれず大撃破。半分以上がえぐれて動植物の生活できない世界となるでしょう。そうなればマナも枯渇し世界は滅びます。動植物が二割は活動していないと復活の目処が立ちません」
「二割でも立たねぇだろ!」
学者じゃないので知らないが、二割に削られた状態でどう生き抜くのか。マンガじゃないんだぞ。
ラスボスは困りましたと言いたげだが、本当に困っているのか疑いたくなるくらい淡々としている。
「というか、隕石みたいに落っこちたみーちゃんはどうなる!?」
バルコニーの柵に捕まって身を乗り出して空を仰ぐが、みーちゃんらしき影は見当たらない。
「それだけの魔法を使えば淀みも晴れますので、恐らく魔王様と一緒に燃え尽きてマナに溶けるかと」
「はあ!?」
「魔王は役目を終えるとマナに溶けるのです。魔王様が勇者を放さなければ、一緒に仲良くマナに溶けて永劫に遊び続けることができるでしょう」
「永劫に喧嘩し続けるの間違いでは?」
「そこじゃねぇだろ!」
セバスチャンの疑問はなんだかズレている。
そこではない。
マナに溶けるってなんだ。
「魔王様は、淀みから生まれたマナの結晶なので」
淀みに微かに残ったマナの残滓が集まって、世界の救済装置として生まれたのが魔王だと、ラスボスは語る。
「マナは世界を循環する自然エネルギー。魔法の元になるマナは、人間の魔力がなくても膨大なパワーを生み出します。淀みから生まれたマナの結晶は、役割を終えたらマナに戻って世界を循環します。役目を終えた魔王様は記憶も経験も身体もなくし、世界に溶けるのです」
「…魔王がそういう生き物だとしても、みーちゃんはそうじゃねぇだろ!」
「ですが勇者ですので、魔王様と一緒にマナに溶けます。そのマナも隕石の影響ですぐ枯渇するので短い旅路になりそうですが…その前になんとかしないと世界が終わってしまいますね」
「もっと焦れよ何しに来たんだお前!」
怒鳴りながらいやな予感に鼓動が不規則に脈打つ。
(勇者がマナに溶けるって聞いてない…そんなことあるわけない。みーちゃんは私と同じ地球出身だ。魔王と同じ日に生まれただけの、日本人。そんな泡になって消える人魚姫みたいな生態はしてない。絶対違う)
でも、魔王と一緒に消えた事実があったから「魔王を倒したら帰れる」なんて言い伝えられているのだとしたら。
セバスチャンの見せた召喚陣が、実は全く帰還に関係なかったとしたら。
今まで何度も不安になっては説得されていた問題点が、露わになった事実からどんどん無理難題に思えてくる。
(だって勇者は避雷針。使い捨てられる存在。そんな存在を、この世界の奴らがわざわざ丁寧に帰してくれる?)
もしラスボスの言葉がすべて事実だとしたら。
みーちゃんはこのまま、力を使い果たして消えてしまうのだろうか。
ちなみに移動しても睦美の頭上ではファンシーなハートリングから星が落っこちて来ている。
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