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33 夢と現実の狭間


 セバスチャンは私に詰め寄られても、何も言わなかった。

 それを腹立たしいと思うし、開き直りやがってと憎らしくも思う。だけどどんな言い訳を並べ立てられても文句しか浮かばない心境から、何も言うなという気持ちもあった。

 思いがけず魔法陣から情報を得たが、それは現状に不安しか与えない。


「…これ、ひっくり返したところで本当に帰れるのかよ」

「お疑いの気持ちはわかりますが、召喚魔法の帰還はこの世界で実証済みです。世界は異なりますが帰還は可能です。伝承では、帰還した勇者もいます…私の言葉には信じ切れる説得力もないでしょう…しかし、これだけは覚えていてください。私は必ず、あなた方を元の世界へ帰還させます」


 信じられるか。


 真摯な目をしているとは思う。こいつだけ、顔だけ王子と違ってぶれないし最初から最後まで帰還の約束を誓ってくれている。

 ただ、帰還のために必要な努力が求められているだけ。

 魔王を倒せば帰れると、明確な目標を掲げてその通りに動かそうとしているだけ。


 顔だけ王子はそのために呼ばれたのに何故できないのだと、自分たちの都合だけ考えて勇者は魔王を倒すだけの設備と勘違いしているが、セバスチャンはすべて理解した上で話している。


 役目を果たせば帰れる。

 役目を果たさねば帰れない。

 役目を放置しても帰れるが、そのためには膨大な年月が必要で…世界の消耗を知った今となっては、この世界がその年月保つのかも怪しい。

 だから実質、帰るためには魔王を倒すしかなかった。


 今となっては魔王を倒す云々よりも、どうやって魔王からみーちゃんを奪還するかを考えなくてはいけないが、それでもセバスチャンは一貫していた。

 ある意味、勇者を求めて暴走する魔王からしてみれば、勇者を必ず異世界へ帰すと宣言するセバスチャンこそが本来の敵かもしれない。


 私はセバスチャンの胸ぐらから手を放して、力が抜けたように寝台に腰掛けた。ぽすんっと力のない音がして、全身から力が抜けていく。

 きらきらと、雨のように降る星が、相変わらず現実味がなくて夢みたいだ。


「…結局、魔法陣の情報からじゃみーちゃんがどこにいるのかわかんねぇじゃん…」

「いいえ、わかったような気がします」

「は?」


 確信を得たような物言いに、思わず盛大に顔を顰めた。そのまま顔を上げると、セバスチャンは窓の外から遠くを眺めるように曇った空を見ていた。


 そういえば今何時だ。

 ずっと眠り続けていた所為もあって、時間の把握ができていない。曇り空で太陽の位置がわかりづらいのもあって、朝か昼かもわからない。


 つられて外を見るが、ここは王宮の内部。見えるのは城の屋根や中庭で、城下町の存在も全く目に入らない。空を覆う雲も厚く、時間帯もさっぱりだった。


「魔王は勇者を求めている。夢に近い精神世界で、魔王は勇者のみーちゃん様を閉じ込めることに成功しました。そのまま二人だけで閉じ籠もることも可能でしょうが、はたして魔王は生身だったのでしょうか。流石に勇者の作り上げた精神世界に、生身で乗り込むでしょうか」

「乗り込めるんじゃねぇの。知らんけど」


 知らんけど。

 本当に知らんけど。


 私はラスボスに精神世界と説明されたとき、その場の全員が同じ夢を見ているんだな、なんて納得の仕方をした。精神世界と言われて、生身だとは思わなかった。

 とはいえ、私はあいつらの生態など知らない。こちらの常識は通用しそうになかった。だからあいつらが実は生身でしたといわれても驚かない。

 しかしセバスチャンは違うらしい。


「精神世界は、精神だけで成り立っているから成立するのです」


 ちょっとよくわからない。


「そこに現実が…実態が伴えば、あっという間に破綻します。触れて、見て、体験することができても所詮は幻想。現実味のない夢です。そこに現実が伴えば、精神世界ではなく現実世界になる」


 全然意味がわからない。

 わからないが、セバスチャンは確信を持って話していた。


「魔王はその精神世界にみーちゃん様を生身で招きました。主導権を奪い現実と接続した。その時点で、夢は現実に。永遠の楽園は崩壊しているのです」


 だからなに?

 意味が分からないと顔を顰める私に気付いたのか、セバスチャンは端的に告げた。


「みーちゃん様達はもう精神世界にはいません。現実世界に、この近くにいるはずです」

「人間にしては理解度高いですね。ほぼほぼ正解です」


 ぬらりと影が伸びた…ように感じた。


 セバスチャンの背後に影が立つ。背が高く影のような男が、瞬きをした瞬間にセバスチャンの後ろに立っていた。

 高い背を丸めて長い髪が垂れる様子はホラー映画のワンシーンのようだった。

 その男を認識した私は。


「出たな共犯者!」

「いたいいたいいたいいたい!」


 弾丸のように飛び出して脛を蹴飛ばし、痛みに膝を突いた男の顔に爪を立てた。

 うるせえみーちゃん返せ!



睦美はファンタジーな部分、聞き流して理解を放棄するところがある。

一生懸命考えるけど最終的には思考放棄。

でも流石に帰還の魔法はどうでもいいじゃすませられないので、話を聞く。信じたいけど信じ切れず悶々。

ラスボスが 現れた。

睦美は ひっかくを 使った。

効果は ばつぐんだ!


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「俺以外見るなと言われても!」

各書店で配信開始です。

よろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
セバスチャンはちゃんと考える人。頭パンクしそうなつむちゃんの前に登場してひっかかれるラスボスちょっとかわいそう
この世界の避雷針がみーちゃんなら、みーちゃんの避雷針がつむちゃん…? この世界の奴らやべーから幼児を守る盾のオマケは必須だったか。ならまおちゃんはつむちゃんこそ大事にすべきと思うぞ。
情はあるけど、理性的で、情があるからこそ人を見捨てられなくて多くを救おうとする、初志を貫徹しようとする「敵」って、厄介ですよね……。  応援しかできませんが、むつみさん、見守ってます!
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