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ストーカー(U18)  作者: まきりょうま
第4話 ストーカーの戦略と戦術
14/33

第4話−1

 これまでは、あまりに無計画だった。俺は、何も考えてなかった。暗がりから刃物で襲うなんて、まるで幕末の人斬りじゃないか?古すぎるし、成功確率も低い。直人は、深く反省した。

 美枝子の住む肉屋は、線路に沿う商店街にあった。右隣がクリーニング屋、左は魚屋だった。その商店街から線路を挟んだ向かい側に、24時間営業のカラオケボックスがあった。直人は毎日、そこに通うことにした。

 彼は、望遠レンズのついたカメラを持ち込んだ。カラオケ屋の二階から、向かいの肉屋を常時撮影する。データをたくさん入手して、それを分析する。そして、戦略を立てる。

 初日から、重要な情報が得られた。

 第一に、線路沿いの肉屋前は、驚くほど人通りが多かった。おいおい、俺は今まで何を見ていたんだ。美枝子憎さに、すっかり冷静さを失っていた。21時も、22時も、たくさんの人々が肉屋の前を通った。みんな、駅から家に帰って行くのだ。

 驚いたのは、終電の後だった。駅前には、飲み屋街があった。終電近くに帰ってきた人は、それから駅前で一杯やるらしかった。だから、深夜2時近くまで、人通りは途切れなかった。人目があるのは、やりにくい。正義漢野郎が、直人の犯行を邪魔するかもしれない。

 第二に、美枝子と若い男は、クリーニング屋の裏道を通っていた。裏道から庭を通って帰宅していたのだ。だから直人がいくら肉屋の前で待っても、二人は現れなかったのだ。つまり直人は、最初から警戒されていたわけだ。翌日彼は、その細い裏道を歩いてみた。幅1mくらいの細い道が、駅前まで続いていた。

 月曜日は、オールナイトで部屋から監視を続けた。翌朝家に帰り、ベッドに入った。アラームを会社の始業前にセットした。一眠りしてから、欠勤の連絡を入れた。毎週火曜日は、始業前の管理職ミーティングがあった。でも今の直人には、どうでもいいことだ。

 火曜日も、町屋のカラオケボックスに出かけた。肉屋の裏をじっと見ていると、20時に美枝子と男が帰ってきた。二人は暗い庭を通って、家に入った。直人は、肉屋の窓をじっと睨んだ。すると、二階の窓が開いた。美枝子が開けたのだ。彼女の上半身が、はっきり見えた。

 あいつは、換気しないと気がすまないからな。直人は、思わずにやっとした。彼女は、直人の住む高層マンションでも窓を開けたがった。巨大な空気清浄機を買って、なんとか説得したが。

 美枝子は、やはり美しかった。彼女との思い出が、直人の心臓を鋭く突いた。あいつは嘘が得意だ。演技も抜群だ。俺と美枝子は、恋人のように仲が良かった。彼はしゃがみ込み、しばらく感情の奔流に耐えた。渦を巻く流れは、なかなか去らなかった。

「ハアッ、ハアッ、ハアッ、・・・」

 息が整うまで、随分時間がかかった。久しぶりに、彼女の姿をまともに見たせいだ。棒で殴られたときは、美枝子の声しか聞けなかった。しかもセリフは、「殺すなよ」だった。

 この部屋なら、俺は好きなだけ苦しめる。誰も邪魔をしない。落ち着いてから、彼はソファに座った。ノートPCを開き、昨夜の映像分析を始めた。どんな些細なことも、見逃すな。彼はそう自分に命じた。映像を分析し、実行を妨げる要素を見つけ出す。次に、その要素を排除する方法を考える。おそらく、それはゼロにはならない。ノイズと同じだ。だが、極小にすることはできる。

 彼は作業に没頭した。深夜3時ころに、ビデオカメラのデータをPCに移した。撮影は続けながら、直人は今夜の分析も始めた。カラオケボックスの、ナイトプランは23時から6時までだった。でも彼は、7時まで延長した。昨日は18時に入店したから、13時間この部屋にいたことになる。

 会社に欠勤の電話をすると、部長が代わって出た。

「おい、直人。お前、いい加減にしろよ」

「体調不良なんです」

「どう良くないんだ?」

「不眠症なんです。疲労も取れません」

「それなら、心療内科に行って睡眠薬をもらってくれ。休みが必要なら、そう診断書をもらってくれ」

「大丈夫ですよ」

「いいから、やれって。役員に突かれる、俺の身にもなれ」部長は、本気で怒っていた。

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