良い話と悪い話
モモタナ様へのプレゼントはシェルカメオのブローチにした。
とても精巧な作りで、落ち着いた中にも手彫りの温かみがあって、モモタナ様にぴったりの品だった。
と思ったのだけれど。
プレゼントして1か月、つけているのを見たことがありません。
お気に召さなかったのでしょうか。
そんなことに思いを馳せながら昼食をとっていると、シーラが珍しく話し掛けてきた。
「リシリア様、お食事中なのですが少しよろしいですか」
「結構よ」
「良い話と悪い話、どちらからいたしましょう」
外は梅雨のせいで昼間だというのにどんよりと暗い。
これではせっかくの休日なのに部屋にこもるしかない。
「良い話からお願い」
「ご旅行が決まりました」
「旅行? 何のこと?」
「以前殿下が所望されていた、『お泊り会』でございます」
なに!?
お泊り会!?
「シ、シーラ。あの時断ってくれたじゃない」
「あの日は殿下がご多忙でしたから、『今日のところはお引き取りください』と申し上げたのですよ。リシリア様も随分慣れてきたご様子ですので、ちょうど良いタイミングかと」
いやいやいや。良くないですよ。
ただでさえキス禁止令を出しているのに、お泊り会だなんて。
ハードル一気に上げすぎでは!?
「二人で旅行なんて駄目よ。モモタナ様のお立場もございますし」
「お二人ではございません」
「え? 他に誰が?」
「2年生全員でございます」
「は!?」
「修学旅行を企画させていただきました」
びっくりするほど良い笑顔ですね!
そしてその手に持っている大量の書類はなんですか!?
小さい字ですが「実施要項」と書いてある気がするのですが。
「は、話が急で、ついて行けません」
「以前、山か海かどちらがいいかお伺いしたかと存じますが。海がいいと仰ったので、海にいたしました」
「えぇ!? 旅行先の相談だったのですか!?」
「あぁ、私ったら。言葉足らずで申し訳ございません」
いやその顔、確信犯ですね?
「それに、リシリア様もお礼をしたいと仰っていたではありませんか」
「で、ですがーー。そ、そうだわ、一度入学したら、卒業まで学園からは出られぬ決まりでしょう!」
「はい。海辺の土地を丸ごと買い上げました。飛び地とでも申しましょうか。ご旅行先は学園の敷地でございますので、ご心配には及びません」
はい?
スケールでかすぎません?
アルバートが全校生徒のブランチ会を主催したことを彷彿とさせますね。
規模が違いすぎますけどね!
「リシリア様」
「は、はい」
「殿下がリシリア様にゆっくり向き合えるのも、今だけなのです」
急に話のトーンが真面目になる。
「そうですね。城に戻れば執務や視察で毎日お忙しいでしょうから」
今だって忙しいには違いないが、その比ではないだろう。
それに国王陛下になれば負担はもっと増える。
「どうか、楽しみだと仰ってくださいませ」
アルバートと海に旅行。
それだけ聞いたらやっぱり楽しみだ。
それに2年生は専攻に分かれてばらばらになっているし、それが全員でと考えると賑やかで楽しそう。
「ありがとうシーラ。楽しみです」
「それはようございました」
シーラは安心したように笑った。
「それから、もう一つのお話なのですが」
「あぁ、悪い方の話ですか」
「実は、この件を殿下にお話したところ、非常に舞い上がってしまいまして」
でしょうね。
「授業もろくに手につかず、それに苛立たれたノア様がリシリア様との海の思い出を語られ」
ノア!?
何してるのですか!?
「非常に険悪なムードで教師も手を焼いているそうなのです。リシリア様に仲裁してはいただけないかと話が来まして」
「それを早く言いなさい!」
私はフォークとナイフを置いた。
「仕度をしたらアルバートの部屋にまいります。先触れを」
「かしこまりました」
「もう、厄介ですね」
雨の音が一層強くなった気がした。
週末はゆっくり過ごす予定です。まったり更新になりますがよろしくお願いいたします。




