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悪役令嬢はパラ萌えされる  作者: ハルノ_haruno
2年生
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キス禁止令

「わぁ! これふわふわで甘くておいしい~」

「でしょう? シーラの手作りなの」


 アンジュはシュークリームを幸せそうに頬張っていた。

 丸い大きな瞳をうっとりさせて、次のお菓子を吟味する。


「これは何ですか?」

「ショコラよ」

「しょこら? すごい黒いですけど、お菓子なんですか?」

「ふふ、食べてみなさい」


 何たって私の一押しです。


「んん~! 溶けました~!」


 将来の騎士様とは思えぬほど緩んだ顔をしています。

 喜んでくれてよかった。


「そう言えばアンジュに渡したいものがあるの」

「えぇっ!? まだおもてなしされるんですか!?」


 私はシーラから細長い小箱を受け取る。


「急ごしらえで悪いのだけれど」


 テーブルの端にそっと小箱を置いた。

 そう言えばアンジュに贈り物をするって初めてかもしれない。

 なんだかちょっと照れくさいです。


「すごい……きれい……」


 小箱の中のレースの飾り紐を見ると、途端にアンジュは大人しくなった。


「髪にも結えるし、薄いから服に挟んでてもいいし。お守り代わりにしてもらえたらと思って」

「リシリア様が編んでくださったんですか?」

「えぇ。アンジュの安全を願って」


 一針一針気持ちを込めた。

 アンジュの行く先で、アンジュが無事であること祈って。


「う、嬉しい……」


 アンジュはその大きな瞳から、はらはらと涙を流した。


「アンジュ!?」

「絶対、絶対大事にしますっ」

「う、うん」

「あぁでも汚してしまうかも」

「そうしたら何度でも編むわ」

「リシリア様ぁ~!」

「もう、泣かないの」

「さっきまで甘かったのに、しょっぱいです~」


 私は子犬のようなアンジュの頭を撫でた。

 全く、可愛いのだから。






 コンコンコン。


 ノックの音がしてシーラが外へ出る。


「ほらアンジュ、お菓子はまだたくさんあるのよ?」

「ふぁい」


 私はアンジュの涙をハンカチで拭いてやる。

 しばらくするとシーラが戻ってきた。


「リシリア様。アルバート殿下がお呼びだそうです」

「急ぎでしょうか」

「用件までは。執事が外で待っております」


 うーん、執事が取り次いでいるということは、何か公の呼び出しでしょうか。


「私待ってますから行ってきてください」

「そう?」

「今日はお泊りですからねっ。時間はたっぷりありますよ!」


 それもそうか。


「ではシーラ、アンジュをお願いね。少し席を外します」

「承知いたしました」

「ごゆっくり!」


 ゆっくりするつもりはありません。





 私は廊下に出る。


「リシリア様、休日に申し訳ございません」

「いえ、大丈夫です」 


 ほんのわずかな距離を、執事についてアルバートの部屋に入る。


「殿下は居室でお待ちですので、そちらへ」


 えぇ。

 前室で執事付きとかがいいのですが。


「こちらではいけないのですか?」

「人には聞かせられない話ですので、念のため」


 話し声が漏れたら困るということでしょうか。


「わかりました」


 私は居室へ続く扉の前に立ちノックをする。


 花の水路でのキス事件以来話していない。

 皆の噂話はアルバートの耳にはどう伝わっているんだろうか。

 やけに気恥ずかしい。


「入れ」

「失礼いたします」


 アルバートはラフな格好で執務机にもたれていた。

 その手には便箋が一枚握られていた。


「母上から手紙が来た」

「ザラ様から?」

「叔父上の処遇についてだ」

「フランシス先生の」


 フランシス先生は昨年度いっぱいで学園を退職した。

 生徒たちは何も知らないが、夜会でのことが原因であることは私たちには自明だった。


「母上の監視下で、一からやり直すそうだ」

「そうですか」

「母上は相当ご立腹なようだ。見るか?」


 そう言って封筒を差し出すアルバート。


「いいえ。やめておきます」


 私はもう怒ってないし、本当は懲罰だって望んでいない。

 でもやはり、王族には王族のけじめがあったのだと思う。


「ではこれは処分しておこう」

「はい。ザラ様にはご迷惑をおかけいたしました」

「それはこちらの台詞だ」


 アルバートは手紙を執務机に置くと私に近付いた。


「あ、あの! 今日はアンジュが来ているので、失礼いたします」

「なんだ、そうなのか」

「はい」

「お泊り会か?」


 アルバートの手が私の顎にかかる。

 否が応でも目が合う。


「は、はい」

「私の希望はまだ叶えてもらっていないのに、羨ましいことだな」

「それは……ちょっと」

「仕方ない。キスで我慢しよう」


 !!


「それも! ちょっと!」

「なに?」

「キスはしばらく禁止にします!」


 呆気にとられるアルバートをぐいっと押し返した。


「なぜだ」


 なぜってわかるでしょう!

 だいたい最近会うたびに安易にキスしすぎだったのですよ!


「慎みを! 持とうかと!」

「は?」


 アルバートは眉をひそめた。

 あぁ、そんな目で見ないでください。


「何を企んでいる」

「企んでなどおりません」

「しばらくとはいつまでだ」

「しばらくとはしばらくです!」


 私の剣幕にアルバートは少しひるんだ。

 よし、いける。押し切れる。


「よろしいですね?」

「あ、あぁ、いや――」

「ご理解くださって嬉しいです」

「嬉しいのか?」

「ではアンジュを待たせているので失礼します」

「おい、リシリア」


 私はアルバートが頭を回す前にさっさと部屋を出た。



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