王女モモタナ
授業日初日。
私はシーラに仕度をしてもらっていた。
「リシリア様、肩の力を抜いてくださいませね」
「何だか緊張してしまって」
「いつものリシリア様でいいのですよ」
シーラは私の肩に優しく手を置いた。
シーラのボブヘアーの髪は、1ミリの狂いもなく裾できちんと切り揃えられている。
頭にちょこんとのったレース付きのカチューシャも、どこにも隙きのない真っ白。のりがパリッときいていて、忙しく動き回ってもヨレることもない。
侍女ですらこんなに完璧なのに、王妃ってどんなレベルを求められるのでしょう。
「急に不安が……」
「とびきりのお茶とお菓子をご用意してお待ちしておりますね」
「シーラ……好き……」
「まぁまぁ、殿下に聞かれたら睨まれそうですわ」
シーラはくすくすと笑った。
私は「いってきます」をして部屋を出る。
ちらっと廊下の奥を見てみたけれど、偶然アルバートが出てくることはなかった。
だめだめ。しっかりしろ、私!
私は自分に気合いを入れて一歩を踏み出す。
特別講義室Aに向かって。
ガチャリ。
学園のどこよりも重いんじゃないかと思う扉を押し開けると、そこには見たことのない初老の男性がいた。
きっと先生なのだろう。
そしてその手前に制服を着た女子生徒が一人。
氷のような銀色の髪、色素の薄いグレーの目、幼くて、小柄のアンジュよりも背が低い。
私は思わず講義室を出て、部屋の名前を確認する。
「特別講義室A」
間違いない。
でもこの子誰?
同学年の生徒なら学園祭の時に全員覚えましたから、この方は他学年なのでしょうか。
「リシリア様、お入りください」
初老の男が言った。
「し、失礼いたします」
どうやら部屋は合っているみたいです。
ということは、王妃教育に生徒が二人?
んん??
「あら。この国の人間は目上の者に対して挨拶も出来ないのかしら」
目上……?
幼げな少女の高圧的な物言いにはっとする。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。ノックス公爵家、リシリアと申します」
少女は黙ったままだった。
「リシリア様、こちらは隣国エーコットの第一王女、モモタナ様でございます」
初老の男がそう紹介した。
モモタナ様。
アルバートの新しい婚約者候補として名前の上がっている王女様。
身体中の筋肉がガチガチに固まる。
彼女も王妃教育を?
それって私に勝ち目あるの?
「リシリア様、お座りください。講義を始めます」
「は、はい」
私の一挙手一投足をモモタナ様は睨むように見つめた。




