贈り物
明日からの授業に備えて居室で本を読んでいると、ノックの音がした。
「リシリア様、お召し替えを」
「? どうしましたか?」
今日はもう2回もお着替えしました。
王宮では用途に合わせて1日に何度もお着替えするそうで。
「前室に殿下がお見えです」
「アルバートが」
私は読みかけの本に栞を挟むと本棚に戻した。
「失礼いたします」
シーラは黄色のミディアム丈のドレスを脱がせると、白のAラインのドレスを着付けた。
シンプルで上品で、何よりスタイルがよく見えます。
というか、何だか花嫁さんみたいですね。
「髪も少しおまとめいたしますね」
「はい」
アルバートと会うだけなのに、ここまでしなくてはいけないのでしょうか。
そんなことを思っているうちに私の髪はきれいに結い上げられた。
「アルバート、お待たせいたしました」
「あぁ、きれいだな」
アルバートは頬を染めて微笑んだ。
何だかこっちまで緊張してしまう。
「ありがとうございます。何か御用でしたか?」
「本当は外にでも行きたいんだがな。今日中に終わらせなければならん執務がまだあって、少しだけ抜けてきた」
「明日から授業ですものね」
私は前室の応接セットの前まで歩く。
さて、どこに座りましょうか。
8人掛けの大きな応接セットで椅子は十分にあるのですが。
「ん? どうした?」
「いえ、どこに座ろうかと」
上座、下座と通例のマナーに従って座るなら正面。
でも今はプライベートだし。
悩んでいるとアルバートが手を広げた。
「膝の上でもいいぞ?」
無視しましょうね。
「ではこちらに」
私はアルバートの隣に座った。
「それで澄ましているつもりか?」
アルバートの手が頬に触れる。
シーラがいるというのにドキドキしてしまう。
「あまりドキドキさせないでください」
「可愛いな」
アルバートが愛おしそうな声で言った。
頬に触れた手がするりと髪に入る。
きゅっと耳をつままれると体がびくりと反応した。
「あ、あの。シーラがおりますので」
「シーラはここで見たことを他言するような人間ではないぞ?」
「で、ですが」
私はシーラの方を見た。
「お茶をお入れいたします。少々時間が掛かりますがよろしいでしょうか」
「あぁ、ゆっくり頼む」
アルバートが意地悪く笑うと、シーラはこちらに背を向けてお茶の用意をし始めた。
「ほら、もう誰も見てないぞ?」
アルバートは私の耳に口を寄せると囁くような声で言った。
「っ!!」
グルではないですか!
シーラ! 主人が困っていてもいいのですか!
「リシリア」
「な、何ですか」
「誕生日おめでとう」
「へ?」
誕生日?
「何だ、忘れていたのか」
はい、これっぽちも覚えていませんでした。
4月に入ってからは日々の生活に慣れることに加え、予習に忙殺されていましたから。
私が頷くとアルバートは可笑しそうに笑った。
「期待して待っていてほしかったのだがな」
アルバートは小さな小箱を取り出した。
赤の四角いケースには、金色の細工が施されていた。
箱だけでも高価なのがよくわかる。
「私に、ですか?」
「あぁ」
アルバートが小箱を開くと、台座には大きなピンクダイヤモンドをあしらった指輪が収まっていた。
「こ、こんなもの、いただくわけには」
こんなに透明度の高いピンクダイヤモンド見たことない。
細かいカットはその輝きを幾重にも反射させ、思わず息を飲むほどだった。
「リシリア、手を」
「あの、でも」
アルバートは私の手を取り、左手の薬指に指輪をはめた。
なだらかなカーブを描くプラチナは、指あたりよくぴったりだった。
「一番良いものを選んだつもりだが、リシリアの美しさには負けるな」
「そんなことありません!」
「気に入ったか?」
「すごく、素敵です。大切にします」
目尻に涙が浮かぶ。
「愛しているリシリア」
シーラがそこにいるのもお構いなしに、アルバートは私に口付けた。
でも拒否する気なんてもう起きなかった。
「お待たせいたしました」
私たちが見つめ合っているとシーラがお茶を運んできた。
その決して外さないタイミングに頭が下がる。
「リシリア様、お似合いでございますよ」
シーラは微笑んだ。
何だか照れて言葉が返せない。
「このようなドレスを着ていると花嫁みたいだな」
「えぇ、本当に」
「全く、シーラは相変わらず良い仕事をする」
「ふふ、何のことでございましょう」
アルバートはお茶を飲みながら満足げな顔をした。
そこで私はハッとする。
アルバートが指輪を持ってきたタイミングで白のAラインドレス。
シーラに一計を案じられた気がします。
「シーラ、知ってたの?」
「私が知っていたのは今日がリシリア様のお誕生日だということだけですわ」
こわいくらいすごい。
感想に語彙力が欠如してしまうほどに。
「アルバート。こんなに素敵な贈り物をいただいて、私も何かお返しがしたいです」
「お返しか」
「はい。用意できる物、もしくは実現可能な事、で」
「そうだな」
アルバートは私の指にはまった指輪を撫でて言った。
「お泊り会とやらを所望しようか」
「お、お泊り会!?」
「アンジュとしたのだろう?」
「そ、それはそうですが」
いやいやいや、駄目でしょう。
婚前の男女ですよ!
「殿下、ご無理を言ってはいけませんよ」
「だそうです!」
あぁ、よかった!
シーラが味方です!
「ふん」
「今日のところはお引き取りくださいませ。そろそろ執務に戻られては?」
「あぁそうだな。すまないリシリア、実は本当に時間がないのだ」
「大丈夫です。今日1日、この指輪と過ごしますね」
「また可愛いことを言う。帰れなくなるだろう」
アルバートは私を抱きしめた。
「殿下」
「あぁわかった」
アルバートは私を離すと渋々部屋を出て行った。
アルバートが帰ったあと、指輪をつけたまま本の続きを読んでいた。
「あれ、何かさっきよりもするする頭に入る気が」
何でだろう。
キラリと指輪が光る。
「あ!! アルバートの指輪!!」
装備時のパラ上昇、1.3倍!!
すごいものをもらってしまいました。
アルバートの指輪!
第29部「陸上部」でちらっと出てきたアレです。




