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精霊眼をもつ者であるということ4

お久しぶりです、とりあえず生きています。


「そう、だな」

「やはり———」

「だが、それだけではない」


すがるような表情をしていたユリウス殿下の表情が引き締められる。

先ほどまでとは異なる、すっきりした表情に息をのんだ。


「私も、目を背けるのではなく、きっとあなたと向き合う必要があるのだろうな」


少し、悲し気な、寂しそうな眼差しで私を見つめる、その視線に、なぜか覚えがあった。

昔、どこかで———?


「オフィーリア嬢は、過去の伴侶についてどのくらい知っている?」

「私は、何も、知らないかもしれないです」


ユリウス殿下は、一般的なお話以上に何かご存じなのだろうか。


「私は、覚醒世界研究の名誉教授であるオーガスト・バルド教授にお話しを聞いたことがある」

「あのバルド教授に?」


私ですら知っているほどの有名な教授に直接お話をいただけているとなると、過去の実例含めて何か情報を持っているかもしれない。

思わず前のめりになる体を制して、ユリウス殿下を見つめる。


「お聞きしたのは、過去に生まれた伴侶と王族の年齢が異なるケースは一つもないというお話だった。また、幽玄世界で愛した人と姿かたちが同じという話も兄上たちから聞いている」

「そんな、ことが」


絶句する私に対して、佇まいを整えた殿下が、頭を下げた。


「リシャール殿のお話からオフィーリア嬢が特別な紋章の瞳の持ち主だとわかった。だが、過去にそうなっていた事例があったことを知らなかったとはいえ、オフィーリア嬢を苦しめる原因を作ったのは私だ。申し訳なかった」

「ユリウス殿下!私に頭を下げるなど!」


王族が貴族に頭を下げることはあってはならない。

王族が間違っていたと頭を下げるときはよほどの時だ。


「ここには私とリシャール殿しか入れないのだ。非公式の場でしか謝罪できない。許さないでくれてかまわない。けれど、オフィーリア嬢が悪いことなど一つもなかったのだということだけは知っていてほしい」

「ユリウス殿下」


ずっと、自分が悪いのだとそう思ってきた。

お父様も使用人も、周りの貴族も、誰一人として、私のことを許さなかった。

認めてはくれなかったのだ。

じわり、と涙がにじむ。


涙がこぼれるようなことはあってはならない。

貴族は感情を制御する必要があるのだから。

なのに、どうしてか、幼少期の独りぼっちでお父様の愛を求めた時期の私が、一人部屋の中で本を抱えて泣いていた時。自分が悪いから仕方ないと諦めた私の目の前に、ユリウス殿下が現れたかのような気がした。

私が、悪いわけじゃなかったって、言ってくれる人が、いるなんて思いもしないまま諦めたあの時。

目を潰して何もかもから逃げようとしたけれど、でも、今こうしてこの言葉をかけてもらえるのならば、あの痛みも苦しみも、まだ受け入れられる気がした。


つうっと伝う涙を、ユリウス殿下が驚いて見つめている。

あわあわしている殿下が、自身のポケットを探して、ハンカチーフを引っ張り出しては床に落として払っている。

———慌てすぎでしょう。

こんな風に慌てる人だなんて知らなかったわ。


「ふふっ……、そこまで慌てなくても」


思わず、笑ってしまって、涙が止まる。

驚いた表情で、ユリウス殿下は固まっていた。


「そうか」


ふわり、と花が開くかのように、ユリウス殿下が笑った。

無邪気な、子供のような顔で。


「君は、そんな風に笑うんだな」

「私も、ユリウス殿下がそのように笑う方だと、初めて知りましたわ」

「いや、僕は!」

「あら?一人称は僕なのですか?」


慌てて顔を赤くしながら、慌てる姿は酷く幼く見えて、そうか、と思う。

私も、この方もまだ子供なのだ。


もごもごとしばらく口の中で言い訳を繰り返していたユリウス殿下は口元を手で隠して、蚊が鳴くような声でいった。


「……みないでくれ。……その、普段は、気を付けているんだが」


知っていますよ、その一人称を聞くのは初めてですから。


「焦っているときにはつい、でてしまうんだ」

「そうでしたか」

「その、子供みたいで情けないだろう?」


不安そうに私を見つめる瞳が揺れている。


「ユリウス殿下、たとえ前世の記憶があったとしても、今の私たちは子供、なのだからまだいいのではないでしょうか」

「そう、なのか?」


考え込んでしまったユリウス殿下を見ながら思う。

結局のところ、記憶があっても、体の年齢に精神というものは引きずられている気がする。

ならば、まだ未熟でもいいのではないだろうか。


前世の時、子供は間違えることが多かった。

その過ちの責任を取るのは親で、大人だった。

王族や貴族である私たちは少し異なるのかもしれないけれども、それでもきっと私たちだけで抱えるには大きすぎる問題なのだ。


「公開されていない情報がいきなり出てきて、通常では考えられない状態が当たり前になっていて、動揺したって当然です」

「そうかも、しれないが」

「王族だから、でしょうか?」

「ああ、私は王族だ。ただの子供とは違う」

「であれば、責任を取るのは国王陛下ですわね」


思い切って不敬なことを言ってみる。

驚いた顔のユリウス殿下が青ざめている。

でも、大丈夫なはずだ。


だって今の私は選択肢のある紋章眼の持ち主、どういう相手に嫁ぐのか決まっていない以上、罰を与えにくいはず。

何より。


「私、記憶がないと思われていますからね。もっと子供っぽくして無鉄砲にふるまってもいいのではないかと思いましたの」


令嬢らしからぬ口を大きく開けてにやり、と笑って見せる。

顔を赤くしたユリウス殿下はへにゃりと笑って、困ったような声で言った。


「なんだろう、今の君のほうがずっと魅力的に見えるな」

「あら、それはよかったですわ」

「誰にも見せたくない気分だ、と言ったら君は困るのかな?」


すっと手を伸ばしてきたユリウス殿下が私の頬に触れた。

近くなる距離に、きょとん、としていると寂しげに笑って彼は離れていった。


「選択権があるのは君だし、僕にできることは多くない。情報すらリシャール殿にはかなわないからね」

「そうですわね」

「でも、君にこれ以上嘘をつかないと約束しよう」

「あら?」

「だから、君が選択するまでの間、知りたいことを知るための相棒にしてくれないか」


覚悟を決めたその瞳に、私は静かにうなずいた。







円舞曲は一人では踊れない


(ええ、よろしくお願いしますわ)

(光栄です、オフィーリア嬢)






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