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精霊眼をもつ者であるということ3

ゆっくりですが話を進めていけたらいいなと思っています。


窓から差し込む光で朝が来たのだと気が付く。

家にいたときから侍女が付くわけでもなく世話をされてこなかったから、一通り、自分の身だしなみを整え、軽食を取る。

昨日の考え方でみると、令嬢に侍女が付かないで自分で身だしなみを整えているのも十分異常だ。

どれだけ思考停止をしていたのかがわかる。

あまりのひどさに額をおさえていると、扉をノックする音がしたので入室許可を出す。


「ご機嫌麗しゅうございます。ユリウス殿下。」

「具合はどうだ。」

「はい、問題ありません。」

「そうか。」


沈黙が始まる。

この方と婚約者といわれても実際に二人きりで話したことはない。

そもそも会話が続かないのも今までと同じ。

このままでは何も変わらない。


「ユリウス殿下。私は、わたくし達は婚約者といいう間柄でありながら、今まで何も話してこなかった。歩み寄ることをしてこなかったのではないかと思います。」


「ああ。」

「今の状況になってからこういうことを考え出すのは遅いのかもしれないのですが、私の置かれていた境遇も、ユリウス殿下の「いるはずがない婚約者」というお言葉も、私をどう思っていらっしゃるのかも何も知らないのだと、思いましたの。」

「…そう、だな。」


いつもうつむいていた、ユリウス殿下のつま先を見つめていた。

気を抜くと今でもそうなってしまいそう。

でも、しっかりと、目を見なければ。

怖いけれど、目を見て相手の表情を見て、少しでも情報を見落としてはいけないのだから。


ああ、不思議ね。いつもは私のつむじあたりに降り注いでいた視線とことなる。

私が目を背けていた時にはまっすぐに見つめていたのに。

私がまっすぐと見つめたら、殿下は目を伏せて、私のつま先を見つめる。


「何を話すればいいのかも、どういう間合いで話すのがいいのかも、何もわからない。私たちは婚約者でありながら、他人よりも遠いそのような状態だったのではありませんか。」

「そう、だな。」

「今までは選択する権利はなかったことが、私の一方的な望み一つで手に入れられるようになるというのならば、私は知らなければいけないのだと思うのです。ですので、私たち、腹を割って話すべき時がきたと、そう考えています。殿下のご意見を伺いたいのですが、よろしいでしょうか。」

「…わ、たし、は‥‥。」


ぐっと真一文字に引き結ばれた唇、青ざめた顔、目の下にあるうっすらとした隈。

きっと私と同じで、昨日の話は初めて聞いて混乱していたのだろうその姿。

これはきっと嘘でも作為のあるものでもない、自然なもの。


だからこそ、私の話し合いたい、お互いのことを知りたいというこの提案をきっと受け入れてくれさえすれば、嘘偽りない本心や事実を知ることができると、信じられる。

うなずいてほしい。私と向き合ってほしい。

きっとただ、私のことを不快だと思っていただけなのなら、このような反応はしないはずだから。


でも、ここでせかして、決意が固まるまでに無理に話を始めるのでは意味がないから。

お願い、まずは胸襟を開いて、お互いを受け入れることから始めなければいけないほどなのだと思うから。


「決心がおつきにならないようですので、私のことを話させていただこうと思います。

私の名前はオフィーリア・ウィリアムズ。ユリウス殿下の婚約者です。母は既に儚くなっており、その原因は私が婚約者ではないと疑われたことによるショックといわれています。」

「な、なにをいきなり…。」


困惑したユリウス殿下が見たこともないようなあっけにとられた表情をしている。

殿下でもこういう表情をするのだなぁ、なんて思いながら続ける。


「父からは母の死の引き金となったことで存在を疎まれていて、その影響か侍女もろくにつけてもらえませんでした。家庭教師からの教育も母の信奉者だったものが付けられた影響で軽んじられることが多く、基本的に自分の意見を口にすることは悪だと教わりました。」

「はっ…?」


信じられないという表情で固まる殿下の表情にこれもまた初めて見るものだなと思う。


「基本的にお茶会に呼ばれることも、自主的に何か動くこともしなかったため、現在の流行については疎く、お茶会への招待もほとんどされていません。夜会はまだ年齢の影響で招待状が届かないので参加したことはありません。自我を持つことや出すことは基本望まれていませんでしたので、基本目線を合わさずに生活していました。特に好きな食べ物や色、花などはありません。

私の情報なんてこれくらいです。

いつも頭がぼうっとするように空っぽで、なにも、ないのです。個と呼べるようなものは本当に何も。

私は空っぽなんですよ、ユリウス殿下。」


絶句した殿下にふわり、と諦観をうかべた笑みを向けて続ける。


「それでも不思議なんです。王城に来てから頭がすっきりしていて、おかしいですよね。

意識がはっきりしたから、だからこそありえないことだらけなのだと気が付いたんです。」

「そ、それは、…?」

「おかしいとは思いませんか。ユリウス殿下が否定したからと言って、なぜこの世界で共通認識の精霊眼の持ち主を王国全体で軽んじる動きが起きていたのか。そしてそれを誰も咎めない、その扱いを受けている本人の私ですら、それを当然と受け入れていたのか。何より精霊眼の持ち主の扱いの管理監督を担うモルゲンデンメルング国がなぜここに至るまで全く介入がなかったのか。そしてなにより、なぜ今になって、それも王弟殿下がいらっしゃる形での介入になったのか。」

「‥‥。」

「まるで今まで、コントロールされていたみたいじゃないですか。そう思うのは、陰謀論を持ち出しているように聞こえてしまいますか。1つならまだ偶然と思えました。でも、いくつも重なっているのです。そして、口をつぐみ続けて私から目を背けているユリウス殿下。殿下もまた誰かの言葉で縛られてコントロールされているように見えます。家庭教師の言葉で考えることをやめさせられていた私のように。」


しばらく見つめて言葉を発しないでいると、殿下はすっと目を合わせて、私の表情を探るような動きを見せた。

そうでしょう。違和感があるはず。

このように冷静に考えるなんて少し前の私ではありえない。12歳の少女がここまでの状況で冷静に話せるだろうか。


「なぜ、君はそこまで異常を認識して冷静にしていられるんだ。

実家でもそのような状況だとなぜ私のところに情報が来なかったんだ。

何より、―――――君には、前世の記憶があるのか。」


信じられないことを目の当たりにしたような、それでいてどこかすがるような声で、掛けられたその言葉に、私は静かにうなずいて答える。


「はい。私には前世の記憶があります。ですが、前世で私は誰とも結ばれることはなかったと記憶しております。―――だからこそ、ユリウス殿下の存在しないはずの婚約者、という言葉にも納得しておりました。ユリウス殿下。殿下がそのように発言した理由は、この認識で合っているのでしょうか。」












胸襟を開いて話さ(傷を負う覚悟が)なければ


(何も手に入れることなどできはしない。)















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