あくがきえたとき
前の章では、予想もしなかった展開へと物語が進んだ。
時空を越えて逃げたアズロンとスカイ。
二人が姿を現したのは、まったく別の場所だった。アズロンはその少年の力に衝撃を受けていた。
息を切らしながらスカイが言う。
「こんな恐怖を感じたのは初めてだ… あの怪物、ハーマンの力を見たとき以来だ!」
アズロンはスカイの首を掴み、怒りを込めて持ち上げた。
「なぜ俺のマントを掴んだ?! 逃げるとはどういうことだ?! 子供一人に負けて逃げるのか!?」
スカイは苦しそうに言葉を絞り出す。
「すまない、ボス… 逃げたわけじゃない。ただ、北と南から二つの巨大な力が近づいてきていたんだ。あの速さ…常識を超えていた!」
アズロンは驚きに目を細める。
「何だと? 俺には感じなかったぞ!」
スカイ:
「当然だ。あなたはマクルズとの戦いに集中していた。だが俺は…あの少年から放たれる奇妙なエネルギーで目が覚めたんだ。」
アズロンは考え込むように呟く。
「確かに… あの力の正体はまだ分からん。だが、ラザン一族の血をこの身に注いだ今、他に欲しいものなどない。
ラザンの力は確実に俺の中で目覚め始めている。闇の大地にたどり着けば、完全に取り戻せるだろう。」
スカイは夢見るような声で言った。
「闇の大地… 世界中の力ある者たちが夢見る場所。そこに到達することは、頂点に立つことを意味する。
そこに眠る財宝、そして無敵の力… どんなものも敵わない。」
アズロンは冷酷な瞳で言い放つ。
「だが片腕を失った… くそっ、あの少年め。確かに強かった。次に会ったときは、真っ先に殺す。」
スカイ:
「ボス… 先ほど言っていた二つの力のうち、一つはハーマンのものだ。だが、もう一つは…誰だ?
まさかアルマザの将軍の一人か?」
アズロンは冷静に答える。
「奴らの将軍は全員知っている。あれは違う… 白い長髪の男… 奴だ。」
――戦場へ――
イーザンがラーカンの首を掴んでいた。
ラーカンは息も絶え絶えに言う。
「イーザン… 目を覚ませ! 俺はお前の師であり、隊長だ!」
その瞬間、白髪の長い男がイーザンの背後に現れた。
黒いローブを纏い、軽く首筋を叩くと、イーザンは意識を失って倒れた。
ラーカンの目が見開かれる。
「シャンメル様…! あなたが…!」
シャンメルは静かに言う。
「ラーカン、イーザンのしたことは報告に書くな。彼にとって危険だ。俺はお前を信じている。」
そう言うと、一瞬で姿を消した。
数秒後、ハーマンがラーカンの背後に現れる。
ラーカンは驚き、シャンメルかと思ったが、ハーマンは周囲を見回しながら言う。
「敵はどこだ?」
ラーカン:
「逃げました… それにシーグランは…」
ハーマンはため息をつく。
「隠れ家を調べるぞ。」
一歩踏み出したその瞬間、彼は立ち止まり、低く呟いた。
「今、一瞬… 俺の知る気配を感じた…」
ラーカンが尋ねる。
「誰のことです?」
ハーマンは地面を見つめながら答えた。
「アズロンとスカイがここにいた。そして時空を越えて逃げた。」
小さく呟く。
「分かっているぞ、シャンメル… なぜここにいた?」
――森の中を静かに歩くシャンメル――
再び戦場へ。
ハーマンは地に倒れたイーザンの身体を見つめていた。
その身体からは、肉眼ではほとんど見えない黒い煙が立ち上っている。
ハーマンの目が見開かれ、慎重に近づく。
ラーカンは慌てて口を開いた。
「敵が彼に炎を浴びせましたが、ハスミがすぐに消し止めて…助かりました!」
馬鹿げた嘘だと分かっていたが、他に言い訳がなかった。
それでもハーマンは信じた―― それが不思議だった。
ハーマンは何も言わず隠れ家へと向かう。
そこには壁に鎖で縛られたシーグランがいた。
ハーマンは近づき、顎を掴んで冷たく言う。
「お前は本当に弱いな… 俺の息子とは思えん。」
鎖を片手で引きちぎり、彼を肩に担ぐ。
「俺が直々に鍛え直してやる。強くなれ。でなければ…死ぬだけだ。」
外へ出ながらラーカンに言う。
「援軍はすぐ来る。」
ラーカン:
「シーグランは大丈夫なんですか?」
ハーマン:
「今はな。だがこれからは…分からん。」
そう言い残し、彼はシーグランと共に姿を消した。
ラーカンはその背を見送りながら、苦い笑みを浮かべた。
「これで分かった… シーグランの傲慢さの理由が。あんな父親に育てられたのか… 怪物だな。」
イーザンを見下ろしながら、ラーカンは心の中で呟いた。
「そうか… 黒い暁の組織の二人を殺したのはお前か。やはりお前は… リース・ラザンの息子だ。
あの力、間違いない。
だが、まだ分からないことがある… ハーマンはリースの兄なのか?
ラザン一族は滅んだと聞くが、生き残ったのはハーマンだけ… シャンメル、お前が次に現れたら、必ず答えてもらう。」
援軍が到着し、負傷者の搬送が始まった。
「負傷者を優先しろ!」と兵士の声が響く。
ラーカンは深く息を吐いた。
「やっと… 終わったか。隊は無事だ。
だが、オウスの傷が深い…瀕死だ。」
彼は空を見上げ、静かに呟いた。
「どうか… 生きてくれ。」
――作者より――
「彼は死ぬのか? それとも生き延びるのか?
それは次の章で明らかになる――」




