戦いの後で(たたかいのあとで)
アズロンが消えた――
マイヤは膝から崩れ落ち、荒い息を吐きながら胸に手を当てた。
「行った……神様、危険は去ったのね……」
イェザンはその場に立ち尽くし、敵が消えた空間を見つめながら低く呟いた。
「もっと……もっと強くならなきゃ……」
その隣で、シグランは拳を強く握りしめ、悔しそうに顔を歪めた。
「くそっ……自分に満足できない……!」
沈黙の中、ラーカンがゆっくりと前に出た。
真剣な表情で弟子たちを見回し、静かに言葉を紡ぐ。
「……弟子たちよ。すまない。私はお前たちを守れなかった。
師として、お前たちを大きな危険にさらしてしまった。
今日の相手は……熟練の戦士である私でさえ容易なものではなかった。」
彼は一瞬、目を伏せると、再び顔を上げた。
「……行こう、先へ進むぞ。」
第三班は任務――重要な伝達書を届けるための旅を続けた。
長い道のりの末、彼らはついにある戦闘部隊の野営地へとたどり着く。
門の前に立つ警備兵が警戒の目で問いかける。
「何者だ?」
ラーカンが一歩前へ出て、銀色の証章を掲げる。
「私はラーカン・ヒカリ。アルマザ帝国本部ギルドからの使者だ。
こちらは私の任務仲間であり、弟子たちだ。」
兵士は証章を確認し、頷いた。
「……よし、通れ。」
案内兵が彼らを司令テントへと導く。
そこでは、隊長である ラシード・コラミ 大尉が出迎えていた。
「ラーカン先生、および弟子たち、ようこそ。」
ラーカンは軽く頭を下げた。
「ありがとうございます、大尉ラシード・コラミ。」
隊長は生徒たちの疲れ切った顔を見て、すぐに状況を察する。
「どうやらここに来るまでに、相当なことがあったようだな。」
彼は兵士の方を向いて命じる。
「食事と飲み物を用意してやれ。まずは休ませろ。
話はそのあとで聞こう。」
食事と飲み物が運ばれ、生徒たちはラカン先生の隣で静かに食べていた。
その沈黙は、彼らの胸にまだ残る戦いの緊張感を物語っていた。
その様子を、隊長の ラシード・コラミ は遠くから鋭い目で見つめていた。
戦いを知る者の目――沈黙の中にある真実を読む男の目だった。
夜になると、第三班のためにテントが張られた。
焚き火の前で、ラカンとラシードは向かい合い、星空の下で静かに語り始めた。
ラシード(真剣な声で):
「ラカン…道中、何があった?」
ラカン(深く息を吸い):
「強力な敵と遭遇した…本当に強かった。」
ラシード(眉をひそめ):
「どの帝国の者だ?」
ラカン:
「正確には分からない。ただ一つ確かなのは、そいつが《黒い暁》の一員だったことだ。」
ラシード(重い声で):
「黒い暁…最近この地域で動きを見せ始めていると聞いている。まさか…幹部クラスか?」
ラカン:
「いや…リーダー本人だ。」
ラシード(衝撃を受けて):
「なに…リーダーだと!?」
ラカン:
「とても強かった。戦い方も異常で、見たことのない技を使ってきた。本当に手強い相手だった。」
ラシード:
「そいつの狙いは…?」
ラカン(静かに):
「ラザン一族の子供だ。」
ラシード(息をのむ):
「まさか…お前のチームにラザンの血を引く者がいるのか?」
ラカン:
「いる。シグランだ。奴のせいで“アズロン”は、Bランク昇格試験の時に3人の部下を送り込んできた。そのうち1人はシグランが倒した。残り2人の死因は今も不明だ。」
ラシード(暗い表情で):
「かわいそうな子だ…。そんな血を持っているせいで、力を狙う者たちに一生追われるだろう。平穏な人生など望めない。」
ラカン:
「…ああ、その覚悟はある。」
ラカンは帝国から預かった封書をラシードに渡した。
それを読んだラシードは、顔を上げて力強く言った。
ラシード:
「明日、私の部下を数名同行させよう。この状況では、敵の奇襲に備える必要がある。特に《黒い暁》が関わっているならな。」
夜は静かに更けていった。
だがこの夜、彼らの心に火が灯った――近づく戦いの炎が。
ヤザン、セイグラン、マヤの三人は深く眠っていた。
彼らの心は、死と隣り合わせだったあの戦いの記憶にまだ囚われていた。
ラクアンは静かに部屋に入り、眠る三人を見つめながら小さくつぶやいた。
「わからない……。この若者たちが体験したものは、精神的に強い兵士でさえも壊してしまうはずだ。
それでも、彼らはまだ立っている……。きっと未来で大きな存在になる。
俺は、これからもっと慎重にならなければならない。」
夜が明け、第三班は出発の準備を整えた。
ラシード・コラミはラクアンに、封印された文書を手渡した。
「では、あの少女は誰だ?」とラシードが問う。
マヤは一歩前に出て言った。
「マヤ・ハスミです。」
「なるほど……そして君はセイグラン・ラザンだな。」
ラシードは静かに笑い、
「全帝国の歴史で最強といわれた一族の子孫に会えるとは、光栄だ。」
周囲の兵士たちはざわめいた。
「何だって?! ラザン一族の人間なのか!?」
ラシードは次にヤザンを見た。
「君は……ヤザン・ファドスか?」
一瞬、彼の表情が固まった。何かを感じ取ったようだが、自分でも理解できない。
「ヤザン・ファドス……そんな一族、聞いたことがない。」
ラクアンが割って入り、
「ある将軍の親族に関係する一族だ。」
ラシードはうなずいた。
「なるほど……光栄だ。」
ラシードは兵士に命じた。
「馬を持ってこい。」
ラクアンが言った。
「厚意に感謝します。」
ラシードは微笑み、
「あれほどの戦いを乗り越えたのだ。援護するのは当然だ。」
第三班は馬に乗り、護衛兵と共に街へ向かった。
ラシードはその姿を見送りながら、
「あの少年は……何だ、この妙な感覚は……気のせいか。」
とつぶやいた。
到着後、彼らはギルドへ向かい、ラクアンは印章を提出した。
「今は宿舎に戻って休め。明日は訓練がある。」
その後ラクアンは情報局へ行き、報告を行った。
「どうぞ」とダルウィス検査官の声がする。
「報告があります。」とラクアン。
「第三班の教官、ラクアン・ヒカリか。わかっている、続けろ。」と検査官。
「移動中、我々は“黒き暁”の襲撃を受けました。」
「なに……黒き暁だと?!」
「はい。辛くも生き延びました。敵は強力でした。名は“アズロン”、通称“消し去る者”。奇妙な技を使い、どの帝国の者かも不明です。」
「貴重な情報だ。しかしなぜ攻撃された?」
「ラザンです。」
「なに?」
「試験のときの事件と繋がっています。あのとき殺された三人は、彼の手下でした。」
「……なるほど。“黒き暁”の目的は力。若いラザン一族の少年は、格好の標的というわけか。ありがとう、ラクアン教官。これからはさらに注意しろ。」
ラクアンは退出し、ダルウィスは小さくつぶやいた。
「今、知らせるべきか……。」
彼は評議会の建物へ向かい、許可を得て中へ入る。
窓に背を向けて座る男がいた。重く威厳のある声が響く。
「何の用だ。」
「“黒き暁”が現れ、Bランクの小隊を襲撃しました。」
「どの隊だ?」
「第三班です。」
「結果は?」
「生存しました。」
「……下がれ。」
ダルウィスは廊下を歩きながらつぶやいた。
「彼は…彼らの安否すら聞かなかった……あの男の考えはわからない。」
一方、男はゆっくりと立ち上がり、窓辺に歩み寄る。
その瞬間、異様な気配が解き放たれ、建物全体が震え上がった。
ダルウィスは背後でその圧を感じながら、
「怒らせてしまったようだ……」
とつぶやいた。
こうして章は幕を閉じる。




