影の中の出来事
夜は重く――まるで空が秘密を抱え込み、誰にも明かすことを拒むかのようだ。
影が帝都の壁を這い、絡まり、消える。残るのは、嵐の前の静寂だけ。
風のささやきとともに――誰も気づかぬうちに、何かが動き始めていた。
帝都アルマザの喧騒
帝都アルマザの市場は、夜になっても活気にあふれていた。
きらめく照明、声高に叫ぶ商人たち。鳩が舞い、荷馬車が行き交う。
その喧騒の中――仮面の集団が側門から侵入した。
風のように人混みをすり抜け、衛兵の前を通り過ぎる。
誰も違和感を抱かない。
一歩一歩が計算され、視線の一つ一つに無駄はない。
そして――
ピタリ。
動きが止まった。
回想(声だけの命令)
闇の中から、かすかな声が漏れる。
顔は見えない。口元だけが動く。
「任務は明確だ――標的を排除しろ。痕跡を残せ。」
声は消えた。だが、その言葉は耳にこびりつき、彼らを中心へと駆り立てる。
現在 ― 隠れた対決
だが、その後ろで――
アルマザ隊が動き出していた。
影のように路地をすべり、気配を消して近づく。
一人の仮面がそれに気づき、仲間にささやく。
「全て計画通りだ。」
ドンッ!
その瞬間、彼らは一斉に動き出した。
帝都の出口へと殺到する。
アルマザ隊に見つかる前に、逃げ切るつもりだ。
緊張の高まり
「逃がすな!」
ライードが叫び、追おうとする。
アミールも声を張り上げる。
「アスマ、急げ!」
「アンス、うん…ナディ、影の中へ!」
アスマの声は鋭い。
仮面の者たちは迷いなく動く。手慣れている。
ワエルが仲間に尋ねる。
「支援を呼ぶか?」
「必要ない。」
シグランの声は冷たい。
「俺が片をつける。」
マヤは全ての動きを観察しながら、小声でつぶやく。
「シグラン…」
帝都の罠
背後から――
別の仮面の集団が現れる。三人。
チャンスを狙って動き出した――が。
ザッ…!
彼らは罠に嵌まった。
帝都の中心に向かい、窓から侵入しようとする。
しかし、その全てが計算済みだった。
アルマザ隊
ラカンが静かに監視していた。
声を潜めて言う。
「家には…正しい扉から入れ。」
その言葉に、仮面の男は一瞬で凍りついた。
ガチッ。
アドナンは炎を纏った手を仮面の首元にかざす。
熱気が肌を焼く。
動けない。汗が滴る。目が見開かれる。
アルダは背後に立ち、冷たく笑う。
「さあ…行き止まりだ。」
仮面は半眼で見る。
逃げ道は――どこにもない。
森の中 ― 決戦
高い木々が月明かりを遮る。
風が枝葉を揺らす。
ザワザワ…
全ての視線は、アルマザ隊と仮面の者たちの対決に集中していた。
他の四人の隊員が駆けつけ、四方から仮面を囲む。
一人の仮面が仲間を見て、恐怖の声を漏らす。
「な…アイツら…オードの者たちか…!」
四人の仮面は――完全に包囲された。
シグランの圧倒
シグランが一歩前に出る。
その目は冷たく、殺意を帯び、軽蔑に満ちている。
「言っただろう…坊や。」
彼の視線が仮面を貫く。
「俺の誰かを倒せるか、見せてみろ。」
仮面はマスクの下で嗤う。
「自信たっぷりだな、小僧…」
二本の短剣が月明かりに煌めく。
「その自信――叩き折ってやる。」
ドッ!
仮面が猛然と突進する。
速度は驚異的。殺意の塊が、シグランにまっすぐ向かう。
しかし――
シグランは微動だにしない。
両腕を広げただけだ。
「なッ…!」
仮面が眉をひそめ、叫ぶ。
「ふざけているのか?!」
ガシッ!
届く寸前――その両手が捕らえられた。
容易く。恐ろしいほどに。
他の仮面たちが息を呑む。
「な、なんだ…?!」
「バカな…こんなにあっさりと…!」
一人が後ずさる。
「俺たちじゃ…レベルが違いすぎる…」
シグランはゆっくりと近づく。
仮面の顔の目前で叫ぶ。
「弱い。」
グッと手に力を込める。
「時間の無駄だった。」
バキッ!
頭突きが炸裂する。
鈍い音。仮面はその場で意識を失い、抜け殻のように崩れ落ちた。
戦いの終焉
シーン…
静寂が戻る。
たった数秒の沈黙が、すべてを包み込んだ。
ライードがつぶやく。
「くそ…強すぎる。」
アスマは息を呑む。
「すごい…」
ナディは震える声で。
「怖い…こわすぎる…」
アンスは黙って見守る。
ワエルは苦笑する。
「あいつが味方で良かった…神に感謝だな。」
マヤはシグランを心配そうに見つめ、小さくつぶやく。
「…日ごとに、危険になっていく。」
シグランはゆっくりと残りの仮面たちに向き直る。
一歩前に踏み出すだけで――
仮面たちは即座に後退した。
彼はそのまま通り抜ける。
存在していないかのように歩く。
ドサッ…
木にもたれ、頭に手を置く。
「くそ…弱い相手ばかりだ。」
半眼で彼らを見て、
「これ以上、無駄な時間は使えない。」
捕虜の尋問
ラカン、アドナン、アルダは手早く仮面たちを拘束し、覆面を剥ぎ取った。
見知らぬ顔ばかりだ。
ラカンが一歩前に出る。
「誰が送った?」
拘束されても、一人の仮面は毅然とした態度を崩さない。
「答える義務はない。」
ラカンの視線が冷たく鋭くなる。
「選択肢があると思っているのか?」
仮面は冷笑する。
「役に立つ情報はない。俺たちはただの雇われ殺し屋だ。依頼主も知らされていない。金は極秘に受け取る。」
アドナンは顎に手を当て、考える。
「…なるほど。ただの襲撃者じゃないな。噂には聞いていたが。」
その瞬間――
ギャアアアッ!
帝都の静寂を引き裂く鋭い叫び声が響いた。
恐怖の声ではない。
見てはいけないものを見た者の声だ。
「殿様が…!」
「殿様が…殺されたッ!」
「なに…!」
ラカンが振り返る。目を見開く。
「くそッ…!」
拳を強く握る。
「まんまと騙されたのか…!」
アドナンの声は低く、鋭い。
「どうやらそのようだ。」
アルダは拘束された仮面たちを一瞥し、軽蔑の言葉を吐く。
「こいつらを捕まえたのは…陽動だったというわけか。」
シーン…
数秒の重い沈黙。
そして――
全員が真実を理解した。
真の標的は――帝都の中心にいた。
風が強く吹き荒れる。
まるで、戦いはまだ始まっていないと告げるように。
森の端 ― 異変
静寂が深まる。
いつもより、ずっと重い。
イザンが――突然立ち止まった。
スカイが眉をひそめる。
「どうした?」
イザンはすぐには答えない。
目を細め、見えない何かを見つめる。
そして、静かに言う。
「…出て来い。」
シン…
スカイが不安そうに辺りを見回す。
「何だって…?俺には何も感じないぞ!」
しかし――
イザンは完璧にオーラを隠していた。
異常なほどに。
低く、声を落とす。
「場所は分かっている。」
ザワ…ザワ…
葉の擦れる音。
足音。
もう一歩。
木々の間から――一人の影が現れる。
影が先に現れ、その顔はまだ見えない。
だが――その存在感は重い。
まるで、空気そのものが止まったかのようだ。
イザンは動かない。
その人物から目を離さない。
謎の男は――
静かに笑った。
【第121章 終わり】




