34話 再コラボ配信
「ドキドキワクワクを皆様にお届け! どうも、トライアドちゃんねるの彩音です! 本日は特別なゲストをお呼びしています!」
「眷属の皆さん、こんにちわ! 琴峰美琴のダンジョン攻略配信の時間だよ!」
誰にも拒絶も否定もされず、今まで通りに活動していいのだと立ち直り、そして時給二億という事件が発生した三日後。美琴は再びトライアドちゃんねるとコラボ配信を行っていた。
理由としては単純に、あの時はアモンとかいう規格外なイレギュラーが発生して、もはやそれどころではなくなって配信そのものを中断してしまったからだ。
驚いたことに、再コラボの打診をしてきたのはトライアドちゃんねるの方で、もちろん即承諾した。
”おおおおおおおおおおおお!!”
”待ってたあああああああああああ!!”
”美琴ちゃんのダンジョン配信を観ることが生きがいだから嬉しい!”
”よかったよおおおおおおおおお! また美琴ちゃんの配信が見れるうううううううううううう!”
”永遠に楽しみにしてた!”
”やっぱり楽しそうに笑っている時が一番かわいい”
”でもスパチャラッシュで泣きそうになってたのも可愛かった”
コメント欄も配信を始めたばかりだというのにまるでクライマックスかのような盛り上がりを見せている。
こういうのを見ると、あの時とは違って受け入れてくれる温かくて優しい場所なのだと感じて、嬉しさと感激のあまり泣きそうになるがぐっとこらえる。
「今日はコラボのお誘いを受けてくれてありがとうね、美琴ちゃん」
「いえ、こちらこそお誘いありがとうございます。あの時は色々と大事件だったので……」
「最初は正直ちょっとビビったけどさ、思い切りあれと戦ってくれたおかげで助かったよ」
「結局、二度も助けられたなおれ達。何かお礼したほうがいいかも」
「お礼なんてそんな……! ただ助けたいから助けただけで、見返りなんて……」
「助けられた側っていうのは、その恩を返したいものなんだよ? そのうちどこかでお食事でも行きましょう。当然、私達の奢りで」
そんなのはいいと断るのだが、二度も助けられたのに何も返さないのはよろしくないからと説き伏せられる。
「あとはもちろん、お詫びもしたいってことなんだよね。……慎司くん、和弘くん」
「おう」
「分かってるよ」
彩音が二人に何か合図をすると、慎司と和弘が彩音の左右に並び、そして三人そろって頭を下げてくる。
「美琴ちゃん、ごめんなさい。あの時、美琴ちゃんはすぐに配信を切って戦うことに集中していたのに、私達は配信を切らずにあの戦いの一部始終を配信してた。そのせいで美琴ちゃんの本名とか色んな個人情報が漏出することになっちゃった。謝罪動画を投稿したけど、こうしてちゃんと面と向かって謝りたかったの。本当にごめんなさい」
「マジですまなかった!」
「ちゃんと切っているかどうか確認すればよかった。完全にこちらの落ち度だ。心より謝罪する」
「き、気にしないでください! 先輩達が配信を切っていても、どのみちあれだけ派手にやれば色々とバレますから!」
「そうだとしても謝りたかったの。本当にごめんね」
”やっぱずっと気にしてたんだな”
”あやちゃん、配信中も美琴ちゃんのことずっと心配してたし、機会があったら謝りたいって言ってたもんな”
”美琴ちゃんはそれを責めるような子じゃないって言っても、それでも命がけで戦ってくれているのに何もしなかったことが気になってたみたいだし”
”いきなりの謝罪で美琴ちゃんめっちゃ困惑してる”
”そりゃいきなり三人の先輩から頭下げられりゃそうよ”
”まあ、ここは素直に受け取ったほうがいいよ”
コメント欄も、三人の謝罪を素直に受け取ったほうがいいと言っており、どうしようと少し狼狽えるが、ひとまず素直に謝罪を受けることにした。
三人からのいきなりの謝罪の後、美琴達は早速ダンジョンの中層ではなく下層に進む。
理由としては、美琴が配信していない三週間の間に、トライアドちゃんねるはひたすら戦闘力を高めてきたようで、ダンジョン下層上域から深域までなら何とか安全マージンをクリアできるようになったそうだ。
そしてもう一つの理由として、美琴の本気の強さというのを目の当たりにしたためというのもある。
「もちろん下層のボスとも戦うことになるけど、そこでは諸願七雷は三鳴までで十分なんだよね?」
「あ、そのことなんですけど……」
三週間配信もせず、二億スパチャの後も三日休んだので話せていない情報があるのを思い出す。
「実は、アモンとの戦い以降力を抑える封印が全部壊れてしまいまして。なので、雷の力というのは封印開放関係なしに自由に使えるようになったんです」
そう言ってそれを証明するように、巴紋を出さずに持っている雷薙に雷をまとわせる。
「え、あの封印壊れたの!?」
「というかあれ封印だったのか」
「じゃあ、もう白雷とかそういうのは見れないってこと?」
”うそん!?”
”諸願七雷、名前かっこよくて好きだったのに……”
”その封印がぶっ壊れるくらい激しい戦いだったってことだもんな”
”むしろアモンくらいの化け物じゃなければ壊れない封印てなんだよって話”
”美琴ちゃんの代名詞が……”
「別に諸願七雷そのものがなくなったわけじゃないからね? お父さんに聞いたんだけど、諸願七雷って言っちゃえば人の願いを神様が叶える力らしいから、封印はなくなってもそれ自体は使えるよ。ほら」
少し誤解を招く言い方だったと反省して、安心させるように背後に一つ巴紋を三つ出現させる。
これが美琴の代名詞だと思われていることはよく分かっているし、なんだかんだで美琴も気に入っているので、この能力自体が残されていてよかったと安心している。
これからも諸願七雷を見ることができると知った視聴者達は、誤解を招くような言い方をしないでほしいと軽い説教のようなコメントと一緒に、まだ見ることができてよかったといったコメントも送ってきた。
『諸願七雷の本質が変化した形ですね。前は封印術でしたが、今はお嬢様の力をどれだけ強化するかに変化しています。上り幅もすさまじいことになっていますからね』
あの戦いの中で、戦闘の余波で壊れたため新調した浮遊カメラの中にいるアイリが補足するように説明する。
「補足説明ありがとうアイリ。でもできれば私が怪物だって受け取られかねない発言は控えてね」
『あれだけのことをしておいて未だに、普通の現役女子高生を押し通すおつもりで?』
「当たり前でしょ。私は確かに雷一族の神様だけど、それ以前にれっきとした普通の女の子なんですー」
『神の力を持っている時点で普通からはかけ離れておりますけどね』
”町の住人全員守りながら魔神を倒せる女子高生がどこにいるwwwww”
”認めなよ。美琴ちゃんは神様系女子高生なんだよ”
”一太刀で空すら割った動画が爆伸びしてるの知ってるー?”
”はい、アモン戦の動画→https://www.ourtube.com/○○○”
”美琴ちゃんがただの女子高生だって言ってるんだ! 眷属の俺達は神の言葉を信じるべきだろ!”
”お、そうだな”
コメント欄もアイリ側のようで、一部は美琴のことを女子高生だと言っているが、それは美琴がそう言ったからだと言っており、それはさながら神の言葉を無条件で信じる信者のようだ。
これはどうあがいても神様扱いは止まらないなと、若干諦めの境地に入りつつある。
「あははっ。確かに美琴ちゃんは雷神様だもんね」
「彩音先輩まで……」
『お嬢様諦めましょう。雷神であることは周知なのですから。それよりもモンスターが来ているので、そちらの対処をしたほうがよろしいかと』
アイリの言ったとおりにモンスターが姿を見せる。
今日はいきなり下層から始めているので、初めて配信に映りこんだモンスターは人の体に牛の頭のモンスター、ミノタウロスだ。
三メートルの巨躯に岩を削って作ったような歪な剣。その巨体から繰り出される一撃は非常に重く、下手に受け止めるとそのまま潰されてしまう。
そしてたとえ離れていようとも、ミノタウロスの圧倒的膂力から繰り出される突進はすさまじい速度を誇り、下層最強格の一つに数えられている。
「よし、それじゃあ美琴ちゃん、足止めをお願いね!」
ミノが登場してすぐに彩音達三人は戦闘態勢を取り、陣形を取る。
「任せてください!」
三鳴はボスでない限り過剰なので解除して、諸願七雷なしの状態で雷薙に雷をまとわせて、雄たけびを上げて突撃しようとしてくるミノタウロスに向かって薙ぎ払うと同時に雷を放出する。
美琴としては足止め程度の威力で放ったものだが、しかし思い切り加減を間違えたのか、雷と直撃したミノタウロスはそのまま消し炭になって角と核石を落として消滅した。
「…………え?」
まさかのワンパンで終わってしまい、なんとも言えない空気が四人の間に流れる。
実は諸願七雷なしの状態で雷を攻撃に使うのはこれが初めてで、それ故に加減が全く分からずにいる状態だ。
『これは、リハビリが必要ですね』
「ご、ごめんなさい!」
せっかく戦闘態勢に入って陣形を組んだのにそれを一瞬で台無しにしてしまい、美琴はアイリの言葉のすぐ後に土下座する勢いで謝罪した。
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