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第32話 エピローグ

 アモンとの戦いから三週間が過ぎた。

 建物の損壊や道路、インフラ等の被害が酷く復旧が急がれている。


 そんな中でも人々の話題の中心となっているのは、都市伝説であったはずの魔神が出現し、それを一人の少女が、美琴が倒したということだ。

 戦いの後に意識を失って倒れ、すぐさま病院に運ばれて行き、一週間入院しその後退院したということをSNSに投稿して知らせた。


「ほ、本当に大丈夫なの……?」


 それから二週間は配信もせずに普通に暮らしていたが、そろそろ動いたほうがいいとアイリに言われたので、新調した着物を着て膝の上にあーじを乗せて、自宅の自室で配信準備をしていた。

 あの戦いから三週間も過ぎたというのにいまだに美琴の話題は上がり続けており、魔神という都市伝説の化け物と戦って人的被害をゼロに抑えた英雄と称えられている。


 むろん全員が全員美琴のことを称えているわけではなく、あの戦いの中で家が壊された人もいるし、怪我した人もいる。

 そういった人達は美琴のことを批判しているが、その声が埋もれてしまうほど賞賛のほうが圧倒的多数だ。


 それをアイリに教えられたのだが、やはり怖いものは怖いと不安になっている美琴。

 そんな美琴を見てアイリは呆れたように、ため息を吐くような声を出す。


『いい加減腹をくくってください。ほらもう配信開始まで五秒ですから』

「毎度ギリギリにそういう報告してくるね!?」


 そう言っているうちにアイリが開始させる。


”¥50000:キタああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!”

”¥50000:始まった!”

”¥50000:待ってたよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!”

”¥50000:ずっと感謝したかった! ありがとう!”

”¥50000:家壊れたけど、そんなのどうだっていい! 命があればそれが一番! 助かったよ、ありがとう!”

”¥50000:あの時の戦いを見ていました! すごくカッコよかったし、助かりました!”

”¥50000:あんなもん見せられたら一生推していくし一生貢ぐに決まってんだろ!”

”¥50000:このタイミングで収益化できたの、運営狙ってんだろw”


「うぇ!?」


 開幕早々コメントが全て真っ赤に染まった。

 いつの間にか収益化の審査が終わって許可が下りているし、いつの間にかスーパーチャットを投げられるようにしていることも驚きだが、そんなことよりも投げられるお金が全て一度に送れる最大量の五万円であることのほうが驚きだ。というか怖い。


「え、な、えぇ? なに、これ!? ぱそこん、壊れた?」


 一瞬にして投げられた額が数十万を超えて、脳がフリーズして言葉が途切れ途切れになる。


『壊れてなどいませんよ。お使いの機器はすべて正常です。お気持ちは理解できますが』

「どう、して……」


 どうにか絞り出した声は、どうして自分なんかにという自虐が含まれている。

 振り返ってみれば、とても人間の出していい速度や威力じゃないことばかりしていた。

 刀を振り下ろすだけで地面は大きく斬撃の跡が刻まれるし、何ならアモンを倒した神刀真打だって、最初の一刀は空すら割った。


 どう考えたって人じゃない。一週間入院して体が動かせない間、ずっとそのことばかり考えて、テレビやネットニュースでは街を救った英雄だと称えられていても、陰ではどんな酷いことを言われているのか想像もできなかった。

 きっと化け物とか、アモンと同じような怪物だと思われているに違いないと、ずっとそう思っていた。


 なのにいざ蓋を開けてみると、三週間前の配信の時と何ら変わりない、それどころかいつの間に開放されているスパチャに限界額を投げてくれる人がたくさんいるし、チャンネル登録者ももうじき五百万とあり得ない伸びをしている。


”¥50000:どうしてって、そりゃどんな力があろうと、たとえ美琴ちゃんが魔神であろうと、美琴ちゃんは美琴ちゃんだからに決まってるじゃんか”

”¥50000:ぶっちゃけるとちょっと怖いなーとは思ったけど、でも美琴ちゃんは絶対にそれを人に向けないでしょ”

”¥50000:あれだけ大規模な戦いだったのに、死亡者ゼロで怪我人だけで済んでいるのは、美琴ちゃんが全員を守りながら戦っていたからでしょ?”

”¥50000:あの炎の魔神がモンスター大量に呼んだ時だって、アモンと戦うことを優先するより、町の人を守ること優先してそっちを先に倒してたしね。あ、おかげで娘と妻含めてマジで助かったのでほんのお気持ちですがどうぞ”

”¥50000:つーか美琴ちゃんのこと批判しているのって、自分達が同じことすることができないから嫉妬している探索者だっていわれているしね”

”¥50000:一応怪我した人と家壊れた人もいるっぽいけど、そんなことより命があるだけ儲けもんなのになぜそれが分からんのかね”

”¥50000:あんなことできるのが他にもわんさかいたらそれこそ怖いわwww”

”¥50000:美琴ちゃんはその力を正しく使って人を助けた。だからみんなついてくる。それだけじゃ足りない?”


 次々と限度額スパチャが投げられ、その額がどんどん膨れ上がっているが、美琴はただ送られてくる文字を読むことに精いっぱいだった。

 絶対に批判されると思っていた。化け物だと言われて、配信を見に来てくれていた人が全員離れていくのだと思っていた。

 でもそうはならなかった。こうしていつもと変わらないどころか、いつもよりもずっと多い人が配信を見に来てくれている。


 真っ赤なコメント欄に送られてくる言葉はどれも暖かく、美琴のことを怪物でも化け物でもなく、魔神でもなく、一人の女子高生の美琴として受け入れている。

 それを理解した瞬間、ぽろぽろと涙がこぼれる。


『この三週間、ずっとお嬢様についてエゴサをしておりました。むろん、完璧には守り切れずに怪我をした人や住む場所を失った人がいてその人達からは批判の声が上がってはいますが、お嬢様は神の力を持っているだけの人間です。人間であるから完璧ではなく、完璧ではないからこそお嬢様は魔神ではなく人間であると証明できます。そしてこの配信を観に来てくださっている方々は、全員そのことを理解しておられます。だから罵るでもなく批判するでもなく、受け入れておられるのです。こうした場所を、機会を、作ったのはほかでもないお嬢様ですよ』


 アイリの諭すような優しい言い方に、コメント欄もその通りだとスパチャ込みで肯定する。


 京都で雷一族の神として覚醒した時、周りからは強すぎる力を持つからと疎まれて化け物と激しく罵られ、両親以外の一族からは宗家の娘から崇拝して信仰すべき神へと成り下がった。


 アモンとの戦いの後の現在、一部からは疎まれこそされているがあの時ほどではないし、神でもなく一人の女の子として見てくれている。


 あの時と今とでもう違うのだと知り、もう止められなくなる。


「わ、たし……まだこうして活動を、続けてもいいの……?」


”¥50000:おふこーすなりぃ”

”¥50000:もちろんいいに決まってるじゃん!”

”¥50000:むしろ続けてくれ頼みますから”

”¥50000:もっとかわいい美琴ちゃんが見たい”

”¥50000:ぽんこつ可愛い美琴ちゃんが見たい”

”¥50000:むしろどうして続けちゃいけないと思ったの”


「私の、こと、化け物って、言わない……?」


”¥50000:言わん言わんwww”

”¥50000:言ったら落雷喰らいそう”

”¥50000:そんな無礼なこと言わないよ”

”¥50000:もしそんなこと言うやつ見つけたら速攻消しに行く”

”¥50000:美琴ちゃんを悲しませるようなこと、天地がひっくり返っても言えないよ”

”¥50000:町を、もしかしたら国や世界すら救ったかもしれない英雄にそんなこと言ったら不敬すぎるわ”


 何度も確認する。何度も何度も、涙を流しながら、少ししつこいくらいに確認してしまう。

 その都度返ってくる言葉は、美琴のことを否定するのではなく、優しく受け入れてくれる温かいものばかりだった。

 あんまりにも温かくて、優しくて、それがあまりにも嬉しくて胸が苦しくなる。


「わた、し……私、もっとみんなと一緒にいたいって……ずっと思ってた……! でも、もし突き放されたら、否定、されたらどうしようって……怖くって……」


 嗚咽を漏らしながら、言葉に少し突っかかりながら話す。


「だ、から……みんなが、受け入れてくれて……まだこうしていていいって、言ってくれて……すごく嬉しい……! ありがとう……! ありがとう……!」


 最後は絞り出すようなかすれた声で、何度もありがとうと言う。

 それに続いてコメント欄が、泣かないでとコメントを送ってくる。


『よかったですね、お嬢様。皆様はあの力を崇拝するでもなく、ただお嬢様が好きだから差別せずにいてくれています。こういった方々が集まっているのもまた、お嬢様の功績ですよ』

「うん……うん……!」


 涙で頬を濡らしながら、笑みを浮かべる。


”¥50000:納得してくれたようで何より”

”¥50000:美琴ちゃんはやっぱ笑っているのが一番だね”

”¥50000:泣き顔も可愛いけど、やっぱ笑顔だ”

”¥50000:美少女の笑顔は万病に効くってデータがあるから”

”¥50000:それよりもさっきから送られてるスパチャ全部限度額なの普通にやべえな”

”¥50000:ツウィーター見に行ったら美少女号泣雑談と赤スパと限度額オンリーとかいろいろ入っててワロス”

”¥50000:もうこれ数百万行ってるんちゃうん?”

”¥10000:俺の渾身の高額スパチャがゴミのように埋もれていくの草”

”¥50000:これからもいいものをたくさん見せてください代”


 ぐしぐしと流れている涙を拭いて画面を見て、改めてありがとうと言おうとした瞬間に固まる。


「……………………え?」


 美琴の画面からは投げられたスパチャの額を見ることができるのだが、それがいつの間にか八桁を超えていた。


”¥50000:宇宙猫美琴ちゃんのコラ作れそうwww”

”¥50000:これ少なくとも八桁行ってんだろ”

”¥50000:結構なお嬢様でも、一回の配信でこんだけ入ってくりゃこんな顔にもなるか”

”¥50000:おし、こっからは赤スパ祭り開催だ。みんな、財布の貯蔵は十分か”

”¥50000:明日からもやし生活開始です”


「え、ちょ、ちょっと、待って……!? みんな前に言ったよね!? お金は大切にね!?」


 まだまだ増え続けるスパチャを見て十数秒頭が真っ白になり、再起動した美琴はこれ以上投げるなというが、むしろ加速していく。


”¥50000:美琴ちゃんに投げるため大切にしてきたからここで投げるのです”

”¥50000:今更赤スパがどれだけやばいか理解が追い付いてきたようですな”

”¥50000:ぐへへ……。収益化したばっかりの美少女配信者に最高額ぶち込むのはやめられねえぜ……”

”¥50000:一生推していくから~、一生楽しませて~♪”

”¥50000:というかむしろ美琴ちゃんガチの雷神だから、この配信で投げるスパチャはもしかしてお賽銭? つまりここは神社ですか?”

”¥50000:美少女の可愛い姿を見たいです”

”¥50000:美少女が札束ビンタされて泣きそうになっているのが見たいです”

”¥50000:さっき泣かせたのにもう泣かせようとしている奴いて草。あ、僕も札束ビンタで泣きそうになっている美少女が見たいです”


「神様扱いやめて!? 私、女子高生! これ大事ね!?」

『片言になっていますよ』

「ならないわけないでしょお!?」

「あ゛お゛お゛ん゛?」


 その後も美琴が手動でスパチャを閉じようとするがアイリに尽く邪魔され続け、そのやり取りを見た視聴者が面白がってまたガンガン投げ銭してくる。それはもう、四方八方から札束で囲んでビンタするかのように、あるいは野球ボールを全力投球するように。

 最終的には本当に、最初とは違う理由で泣きそうになり、それもまたアイリと視聴者が面白がってコメント欄が真っ赤に染まり、やっとの思いで配信を終了したころには収益が二億ちょっとという、正気を疑うような額になっていた。


「な、な、な、何よこれえええええええええええええええええ!?!?」


 月収や年収ならまだわかる。だがこれは一時間程度の短い配信で得られた収益で、つまり時給二億ちょっとということになる。


 ───そうだ、これはきっと夢なんだ。


 とりあえず、脳がいい加減パンクしそうなので、美琴は現実逃避に走った。

この話をもって、毎日投稿は終了です。次の更新は先行投稿しているカクヨム様で八月一日の午前八時から、小説家になろうでは十一時に投稿します。

本当はここで一旦完結にしようと思っていたのですが、時間をおいて考えをまとめていたら案外アイデアが出てくるもので、続きの執筆にとりかかりました。

また、先行投稿するカクヨム様で、同じ世界で二か月先の物語の第二部の作品を投稿再開と同じ日に連載を開始しますので、もしよろしければそちらの方もぜひ読みに来てください。

それでは、また次のお話で

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