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アイヴィーの結婚前夜


 本日は、アイヴィーの独身最後を祝して、ビクトリアの図らいにより、ビクトリアの客人という扱いで、王城の一室をお借りして、アイヴィーのバチェラーパーティーが開催された。


 パジャマ姿に着替えた皆は、ゆったりできるソファの上に座って、お酒を嗜みながら、思い思いアイヴィーに言葉をかけていた。


「アイヴィー、おめでとう! 明日からいよいよ、人妻ですわね」


 シルクで出来たシンプルな正統派パジャマを身につけたビクトリアが嬉しそうにそう言った。


「アイヴィーが人妻……アイヴィー、私明日のブーケトスのブーケは私に向かって投げてくださいまし!!」


 もこもこパジャマを身につけたイザベラがせっつくように、ストライプ模様のシャツワンピースパジャマを身につけたアイヴィーにお願いすると、それを見ていた、襟までレースでフリフリのワンピースのようなパジャマを身につけたウェンディが、声を発した。


「イザベラ、そんなにガッツいていると誰も寄って来ませんわよ?」

「そういうウェンディだって、最近全く貴女のお名前を社交界で聞きませんわよ?」


 イザベラが訝しげにウェンディに尋ねると、口角を引き上げたウェンディが楽しそうに口元を隠して笑って、答えた。

 相変わらず、全面包囲の女子力である。


「うふふふ。そうなの? どうしてかしら?」


 その様子を見ていた、ビクトリアが、言葉を発した。


「何故、ウェンディ様からアイヴィーの様な恋愛音痴な妹が生まれたのかしら?」

「ビクトリア! それは、酷い言いがかりですわよ! 私が恋愛音痴なのでなく、お姉様が恋愛強者過ぎるのですわ」

「……確かに、ウェンディは、恋愛強者ではあるわね」


 イザベラが、顎に手を添えて、大きめのクッションを抱き込みながら答えると、目を丸くしたウェンディが首をかしげて尋ねてきた。


「まぁ、私が恋愛強者と言うのなら、何故、私は、未だに未婚なのかしら? 何方か教えてくださる?」


 ウェンディの問に和気あいあいとしていた皆の顔が凍りついた。

 ウェンディが何故結婚して無いのか、その理由を知りたいのは、むしろウェンディ本人よりもアイヴィー達の方である。

 なんで、あんなにモテるのに、結婚しないの? と、思っていても口に出せ無かった問をまさか、本人から聞く日がこようとは。


 暫く沈黙が続けた後、その空気を打ち破るように、ビクトリアが声を発した。


「ま、まぁ、何しても、明日私は式にしか参加出来ないから、こうやってアイヴィーと久しぶりにお話出来て嬉しいわ」


 ビクトリアは、無理矢理話題を変える事にしたらしい。誰もウェンディの疑問に答える事なく、話題が広がりをみせていた。


「そ、そうですわね! ビクトリアとは、なかなかゆっくりお話する機会が減ってしまったから、私もこうして最後の夜、一緒に入れて嬉しいわ」

「わ、私も明日、ブライズメイドとして、頑張って、素敵な殿方に会えるのが楽しみだわー!!」


 話題の方向転換に無理矢理感がヒシヒシと伝わってくる中、それでも雰囲気が和やかな方へ向かおうとしていたその時、ウェンディが笑顔で言葉を発した。


「アイヴィー、貴女は明日の夜の準備は出来ていて?」


 相変わらず、ウェンディは、笑顔で爆弾を落としなさった。

 ウェンディの質問を受けて、アイヴィーは、無意識の内にビクトリアに視線を投げる。すると、皆の視線が、既婚者である、ビクトリアに視線が集中し、目を見開いたビクトリアが頬を赤くして、顔を俯かせながら、答えた。


「皆、私を見ないでちょうだい」

「でも、ビクトリア様、この中で既婚者はビクトリア様しか居ないのですよ?」


 イザベラがぐうの音も出ない事実を突きつけた。


「や、やっぱり、最初って、痛かった??」


 アイヴィーが不安そうに尋ねると、ビクトリアは、チラリと視線を上げたあと、耳まで赤くして、コクンと頷いた。


「で、でもね、アイヴィー、次期公爵様なら、その……アイヴィーの負担も理解して下さると思うから、そ、そんなに心配する必死無いと思うわよ?」


 ビクトリアは、これ以上この話題の追求を逃れる為に、アイヴィーにそう言った。


「……どうして、ヴィル様なら大丈夫なの?」


 何も知らないアイヴィーはそう言ってビクトリアに尋ねると、笑顔を引きつらせたビクトリアが、イザベラとウェンディの方に視線を投げて、言葉を発した。


「お、お姉様方々の方が、こういう事にはお詳しいと思うの」

「ねぇ、なんでかしら? お姉様、イザベラ? なんで、ヴィル様なら大丈夫なの?」


 アイヴィーの素朴な疑問に、イザベラはサッと顔を背け、ウェンディは笑顔のまま、「私、ちょっとお手洗いに……」と言って席を立って去っていった。

 それを見た、イザベラが、ウェンディに向けて、恨めしそうに睨みつけると、アイヴィーがイザベラにすり寄って、さらに尋ねてくる。


「どうして、そんなに心配いらないって言えるの??」

「そ、それは?」

「それは?」

「だから、その……」

「何??」

「と、年上だからよ!!」


 イザベラは、抱いていたクッションを、ソファに投げて、立ち上がり苦し紛れの言葉をドーンと堂々と言い切った。

 危うくヴィルベルトの過去を暴露して、結婚式当日に要らぬ火種を撒き散らすのかと思って、ヒヤヒヤした。

 イザベラが苦し紛れに、その言葉を思いついて、何となく話題を回避出来て良かった。

 ヴィルベルトは、イザベラに感謝するべきだろう。


「そういうものなの?」


 アイヴィーが不満げにイザベラに尋ねると、周りにいたビクトリアが激しく同意するように、拍手を送って頷くと、イザベラが胸を張ってさらに言葉を続けた。


「当然よ! 何の為に長く生きていると思ってるの? その分、色々知ってるものなのよ」

「――そう仰るなら、納得するわ」


 アイヴィーが少し不満そうなものの、納得したところに、ウェンディが戻ってきて、白ワインを新たに開けて、皆に配った。


「ロウレー地方のシャルドネを今日の為に買い付けたの、良かったら、皆様、ご試飲なさって?」


 席を外した免罪符とでも言いたげにウェンディがそう言った。


「おいしー! なにこれ!?」

「まぁ、本当に美味しいわ」

「お姉様、こういうものをどうやって手に入れるの? 今後の参考の為に教えてくださらない?」


 イザベラが目を丸め、ビクトリアが口元に手を添え、アイヴィーが、ウェンディを見て答えた。


「教えて下さる方が居るのよ」


 ウェンディが嬉しそうに答えると、アイヴィーが、呟くように言った。


「……相変わらず、お姉様の情報網は恐ろしいわ」

「ねぇ、ウェンディ!! 明日は私達未婚同士、助け合いましょうね!!」

「本当に、美味しいわ」


 皆、それぞれ感想を述べた後、アイヴィーが、思い出したかのように尋ねた。


「お姉様、ジョシュア様との仲は順調なの?」

「ええ、お陰様で」

「えっ!! 何それ?! どういう事!?」


 イザベラが驚きにアイヴィーとウェンディを交互に見ると、ウェンディがため息をついて答えた。


「私、ジョシュア様に惚れましたの。ですから、アイヴィーにお願いして、グルームズマンにしていただける様にお願いしたのよ」

「え?! ウェンディがまさかの略奪愛?!」


 イザベラが驚きを声にした。


「違うわ。お姉様、私がジョシュア様を振った後の話を、聞いて、『惚れましたわ!!』って、一目惚れ……したらしいの」


 アイヴィーがため息混じりにそう答えた。


「でも、なかなか落ちて下さらないのよ」


 ウェンディが寂しそうに答えると、ビクトリアが、言葉を発した。


「ウェンディ様、冷たい時ほど、男性って大切に思っているという事を私、聞いた事がありますわ」

「そうでしょうか……?」


 ウェンディが寂しそうに答えると、イザベラが声を発した。


「このウェンディに籠絡されない男子が居たとは!! 恐るべし、ジョシュア様!!」

「イザベラ! その通りよ! お姉様の手練手管を見事にスルーしているとか!」

「ま、まぁ、一体どのような?」


 イザベラが感嘆の声を上げ、アイヴィーがその言葉に納得して頷くと、興味津々にビクトリアがウェンディに尋ねた。


「手練手管なんて、とんでもない。ただ、私は、愛していると、言って欲しいだけですのに……」


 ウェンディが瞳をぬらして、そう答えるのをみて、女3人は生唾を飲み込み、イザベラがアイヴィーに視線を投げて言った。


「アイヴィー、貴女、明日は、これを見習えば、あっという間に、良くしてもらえるわよ!」

「……そうね、これが出来れば、確かに男性が頑張って下さるわ!」

「……ねぇ、イザベラ、ビクトリア、それは一体何の話なの?」


 アイヴィーが二人に訝しげに尋ねると、楽しそうに微笑んだウェンディが声を出した。


「何って、どうやって愛されるかという話よ?」

「そうよ! 愛される為の話よ!」

「アイヴィー、一晩しかないけれど、頑張りなさいまし!! これも、ウェンディ様の言うように愛の為よ!」


 ウェンディの愛とビクトリアとイザベラの言う愛の意味は絶対に違うだろうに。

 恋愛弱者のアイヴィーは、その後ひたすら、涙目で、愛をこう練習を3人の手によって指導される事になっていた。


 今後、貞淑なアイヴィーは何処に行くのだろう……?

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