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プロポーズの裏側

仮面舞踏会〜プロポーズまでの間の話です。


 『――今でも、忘れられない大切な人ですわ。』

 そう言って、アイヴィーは苦笑いを零した。


 『で、では、彼のプロポーズは受けないつもりですか??』

 そう、ヴィルベルトが尋ねると、アイヴィーは首を左右に振って、答えたのである。


 『嘘をついていたとはいえ、私が今こうして笑えるのは、彼のお陰ですわ。私は、昔から彼に何かしてもらうばかりで、何もお返し出来ていませんの。だから、彼が、私と婚約する事で幸せになれるのでしたら、それが恩返しになるのでしたら、私は、そうするつもりですわ。』


 少し寂しそうにアイヴィーは笑って、ヴィルベルトの前から去って行った。



◇◆◇◆◇



 デビッドに誘われた行くつもりの無い舞踏会で、アイヴィーに久しぶりに会ったのが先日の出来事であった。


 ヴィルベルトは、先日のアイヴィーを思い出していた。あの妖艶なマスクの下の懐かしい女性を。


 ヴィルベルトは、会場で、「アイヴィー」という名前を呼ぶ女性の声を聞いて、思わず振り返ってしまったのである。


 そして、近くにいるアイマスクを着けている女性が、アイヴィーであると分かったが、その姿はすっかりウェンディから離れ、スラリと美しい女性になっていた事に非常に驚いた。


 出会った頃からアイヴィーの印象が変わる事には驚かされていたが、女性の成長期、とでも言えば良いのか。

 その成長期を迎えたアイヴィーは、もはや、ヴィルベルトの知るアイヴィーとは別人であった。


 しかし、変わらず、あのアイスランドブルーの瞳は優しくヴィルベルトを見つめ、その度に忘れる事が出来なかった、アイヴィーへの恋情が、ヴィルベルトを包んで行ったのである。


『もう、ダーリンったら、私一人で置いていかないで下さいませ。とぅっても、心細かったですわ』


 可愛らしい声でヴィルベルトに、そう伝えてくるアイヴィーを見て、何度これが事実であったら……。と、思っただろうか。


 そして、目の前で話すアイヴィーを見て、己を戒めていた。


 あんなに辛い決断をしたのは、彼女の為だと、自分に言い聞かせ、せめてその声が聞けるだけで、満足するべきだと。


 なにより、今はジョシュアの婚約者なのだ、と。


 それでも、耐えきれず、つい尋ねてしまった。自分をどう思っているのか? と。


『――今でも、忘れられない大切な人ですわ』


 ヴィルベルトの目の前から、去ろうとするアイヴィーのその答えを聞いて、心臓が飛び跳ねたのである。


 (こんな愚かで不甲斐ない私を大切だと――?)


 その答えを聞いて、ヴィルベルトは、(ならば、自分にももう一度やり直すチャンスが有るのではないか)と、ヴィルベルトはあさましくもそう思ってしまっていた。


 そう思わずには居られなかった。


 この四年、何度忘れようとして、仕事に没頭しただろうか?

 周りが止める声を無視して、何度朝日の光に目を細め、その朝日を見て、一日の始まりに、何度自分の愚かさを哀れんだだろうか。


 答えを出したはずのヴィルベルトの感情が、追いつく事を見せない歯がゆさに、日々どれだけ一日を過ごす事を苦心していたのだろうか。


 アイヴィーの幸せを思えば、思うほど、ヴィルベルトの気持ちが辛くなる。


 例えアイヴィーにその気持ちが無かったとしても、ヴィルベルトを大切な人だと思ってくれるのなら――。


 四年ぶりの執務室で、己の醜い欲望と戦っているヴィルベルトの元に、デヴィッドが意気揚々とやって来て、ヴィルベルトに声をかけた。


「ヴィルベルト! 調子はどう……――どうした、お前、大丈夫か?」

「あ、ああ、少し、考え事をしていただけだ」

「なんだ、なんだ? 少しって感じはしないが、本当に大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ」


 ヴィルベルトが顔を上げて、デヴィッドの顔を見て苦笑した。


「なぁ、久しぶりの仮面舞踏会はどうだった? 良い出会いは有ったか?」

「出会いは有ったが……良いかどうかは分からないな」

「何でだよ? もしかして、男連れだったのか?」

「そのようなものだな」


 自嘲気味にヴィルベルトが答えると、目を丸くしたジョシュアが言葉を続けた。


「ヴィルベルトらしくもない! そんなに気になるなら、奪えよ! 男は生まれながらにして狩人だろ?」

「……今日はえらく、強気な事を言うのだな? デヴィッド、お前にも出会いが有ったのか?」

「まぁな。俺は、彼女の為に男から奪うつもりだ」


 デヴィッドのその言葉を聞いて、ヴィルベルトは、驚きに目を見開いて尋ねた。


「……奪う事が彼女の為になると?」

「本当に彼女の為になるかは分からないぞ? でもな、人生って何が自分の為になるか分からないだろ? 悪い事も、失敗しなければ、後悔しなければ、今の俺は存在しないし、成長もない。だから、彼女が本当に嫌なのなら、俺に振り向かない。ただ、それだけだろ? 俺がどんなに頑張っても、彼女が男の側を離れなければ、それが答えという事さ。だから、俺はまず、彼女に選択肢を与えたい。それで、出来れば、俺を選んで欲しいんだ」


 ニコリと笑顔でデヴィッドはそう言った。


 デヴィッドのその言葉に、ヴィルベルトは、自分勝手にアイヴィーの幸せを決めつけていた己の全てが可笑しく、ただただ、笑っていた。


◇◆◇◆◇


 (四年の間、忘れる事も叶わず、こんなにも辛いのなら、いっその事、どんな罪でも罰でも受け入れるから、彼女と一緒に歩む未来を描かせてくれないだろうか?)


 そう考えていた矢先に、恋い焦がれて、しかし、自分から会に行くまいと決めていたアイヴィーが、目の前に居るのである。


 相変わらず、アイヴィーは、美しく、優しく、ヴィルベルトの目の前に座っている。


 そして、その目の前のアイヴィーが、側に居たかったと、好きだったと、その口で、その言葉で、言うのである。


 どんなに諦めようと思っても、感情が追いつくのを待っても、その気持ちを忘れる事が出来なかったヴィルベルトに、アイヴィーが、言うのである。


 そして、己の欲望を抑え切れずに言葉を発してしまう。

 アイヴィーが、その言葉を否定する前に。


「ジョシュアと婚約するのかい?」


 ヴィルベルトが、アイヴィーに尋ねた時は既に、その言葉を取り返す事は出来ないと理解していた。

 しかし、アイヴィーの沈黙が、ヴィルベルトの気持ちをどんどん後押ししていく。


 だから、どんなに彼女を不幸にさせるかもしれない選択であっても、ヴィルベルトを選んで欲しくて、プロポーズしたのである。


 今度は、アイヴィーに選んで貰いたい、その願いを込めて。


 ――愛している、側に居てほしい――

 書いて、投稿を忘れていました(汗)


 皆様には、いきなりヴィルベルトがプロポーズした様に見えていたと思いますが、これも、ストーリー展開上、端折りました。


 ……結構端折ってますね。不完全燃焼な終わり方で、本当にすみません。


 割り込み投稿で、ご迷惑おかけしますが、新しく変なところにタイトル表示されて申し訳無いのですが、ストーリーの補足的な意味合いが強いので、ご理解頂けると嬉しいです。


ごま豆腐

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