嫉妬するほど愛している??
今晩は。テンションおかしかったら、時間帯のせいだと、察して頂ければ……と、思います。
公爵家のサンルーム。
アイヴィーとヴィルベルトは、二人並んでテーブルの前、葉の模様が美しい豪奢なソファに座っていた。
現在二人は、結婚式の準備の真っ最中である。と、いっても、その結婚式はまだ、半年後と少し先であるが。
アイヴィーは、招待状や料理のメニューなどに使う為の紙の選別をしていた。
テーブルの上に並べられた、種類の違う大量の紙を一つ一つ見比べながら、難しい顔をして目を通しているアイヴィーに、ソファの背もたれに肘をついているヴィルベルトが突然、話しかけた。
「そう言えば、聞きたい事が有りました」
「あら、なんですの? それより――どちらの、紙が良いか、選んで下さいませんか?」
アイヴィーは先程から見比べていた紙の束から、漸く選ぶ事の出来たニつの紙を隣に座っているヴィルベルトへ手渡すと、紙の束を一つに纏めてから、溜め息をついた。
「私はこちらの方が、良いと思うよ」
ニつの紙の内、ヴィルベルトは、一枚選び取ったものをアイヴィーに手渡した。
アイヴィーは、ニコリと笑顔で、
「では。それにしますわ」と言って受け取った後、テーブルの先程の紙の束とは違う場所にその紙を置き、その後、カップに入った紅茶を一口飲んだ。
「やっと終わりましたわー」
背伸びをして、固くなった体を伸ばすアイヴィー、そして、ヴィルベルトが手に持っていた選ばなかった方の紙をテーブルの上に無造作に置くと、先程の言葉を再び投げかけてきた。
「貴女に聞きたい事が有ったのです」
「何でしょうか?」
アイヴィーは、やっと開放された紙の選別に気が軽くなっているのか、難しい顔を解いて、そのアイスランドブルーの目を優しく細めた。
「昔、貴女が想っていたというカルバート次期伯爵殿の事についてお聞きしたいのです」
ヴィルベルトはできるだけ、なんでも無いという体を装っているが、しかし、その真剣な表情からは、何やら物言わぬ緊張がヒシヒシと伝わってくる。
改めてその名前を出して来るということは、仕事か何かの為に事前に知っておきたいという事だろうか?と、考えたアイヴィーは、折角開放された表情を再び固くし始めた。
そして、ヴィルベルトが、笑顔を貼り付けたまま、アイヴィーに問うてきたのである。
「カルバート次期伯爵殿と、何処まで関係が進んだのですか?」
ヴィルベルトのその言葉に呆気に取られるアイヴィー。
まさか、そんな事を今更聞かれるとは思ってもいなかった。そもそも、ヴィルベルトにその名前を言われるまで、カルバート次期伯爵を思い出す事すら無かったというのに、何故また、とアイヴィーは、思っていた。
アイヴィーが、目を丸くして、ヴィルベルトを見ていると、ヴィルベルトが、背もたれから身体を起こし、顔を背けて、
「やはり、答えなくて結構です」と、恥ずかそうに答えた。
「本当に答えなくて、よろしいのですか?」
アイヴィーがそう尋ねると、ヴィルベルトは暫く思いを巡らせた後、アイヴィーの方を見やってから、目を細めて、溜め息ついて答えた。
「ええ、答えなくて良いです。狭量な考えでした。忘れて下さい」
「ふふふ、ヴィル様でもそんな事お思いになるのね。ご安心なさって下さい。私とカルバート次期伯爵様とは、今でも、ただのクラスメートですわ」
アイヴィーが、笑いを隠すように顔を背けると、ヴィルベルトは、その美しく纏められた髪から落ちた横髪をそっと耳にかけた。
そして、そのまま、アイヴィーの顎に手を添えて、ヴィルベルトの方に向かせると、隣に座っているアイヴィーとの距離を更に詰めてきた。
「一瞬でも貴女に思われていた事を、嫉妬する男は、お嫌いですか?」
ヴィルベルトは、笑顔のままそう言うと、アイヴィーが再び驚きに目をパチクリとさせて、「そんな事はございませんわ。けれど……」と言って口を開き、言葉を続けたのである。
「どうして、こんなにお近くに??」
「貴女の瞳に私だけを写してほしくて」
「どうして、手を添えていらっしゃるの?」
「貴女が私以外を見ないように」
「どうして、そんなに楽しそうなのでしょう?」
「貴女が、動揺している姿が可愛くて」
まるで、赤ずきんと狼のやり取りのようである。
しかし、アイヴィーは昔のようにただ、顔を赤らめるだけの少女ではなかった。
姉ウェンディによって、迷子になって、その存在すらも忘れかけていた女子力の底上げに成功していたのである。
「ヴィル様?」
アイヴィーが艶めいた声を発して、ヴィルベルトの首に左手を回した。
ヴィルベルトは、表情を変えることなく、返答をした。
「何でしょう?」
「私、ヴィルベルト様の事愛しておりますのよ。ですから、そんな意地悪なさらないで下さいまし」
アイヴィーがそう言うと、顎に有った、ヴィルベルトの手を取って、一度その瞳を伏せると、ゆっくりと持ち上げて、上目遣いに見つめてくるのである。
流石ウェンディ様のご享受の賜物である。
中二病なアイヴィーが、色の混ざった行いをする日を目の当たりにする日がやってこようとは。
ヴィルベルトは、驚きで、目を丸くした後、再びいつものように優しい笑顔に戻って言うのである。
「……貴女がいつから、その手の事に不自由しなくなったのか、教えて下さい」
「私、始めから、不自由しておりませんが」
色っぽいアイヴィーは何処にいったのか、体勢が変わらないのに、眉を寄せて不満そうに言う表情一つで、いつもの阿呆な雰囲気が戻ってこようとしていた。
「いいえ、不自由しておりました。私の想いを何時だって素通りして下さっていたではないですか。その上、やっと気持ちが通じたと思ったら、頬を引っ叩かれました」
「あれは!! ヴィル様が!」
そう言う事と、アイヴィーは、ヴィルベルトの首に回していた左手をその胸の当たりまで落として、文句を言った。
すると、その左手をヴィルベルトが優しく取り、その手の甲に口づけを落として言うのである。
「私は何時だって、貴女にこうして触れたいのです。それを否定されれば、不自由していると思った方が合点がいくというものです」
ヴィルベルトが、その優しい笑顔で毒を吐いていた。
そして、口づけを落とした左手は、しっかりと指を絡めて握っている。
「……私、本当に、不自由しておりませんわ。ヴィル様がこうして触れて下さる意味をちゃんと理解しておりますもの」
「では、どういう意味だと?」
「……狼という事です」
「……いや、確かに間違えては居ないですが、それだけではないのですよ??」
アイヴィーの返答に、珍しく、目が泳ぐヴィルベルト。一体、何を思い当たったのか。
「では、他に理由が?」
「……逆にお聞きしますが、貴女は、何故触れたいと思わないのですか?」
ヴィルベルトが、アイヴィーにそう尋ねるると、アイヴィーがその、長い睫毛を上下に瞬かせ、可愛らしく顔を傾けて言うのである。
「?? 私だって、触れたくなりますわよ? ですから、嫌がりませんでしょう?」
そうだったのかー!!! と、初めてヴィルベルトが、ガックリと両膝をつくほどの衝撃だったに違いない。
そのイケメンが見事に崩れ……てはいないが、その笑顔が、何やら色々物語っている。
今まで、一体、何を我慢していたのだろう。
「では、これからは、もっと積極的に貴女に触る事にします」
「え゛。今くらいで、十分では?」
「足りません。私は、四年もアヴィーと離れていたのです。その分を埋めなくては、私の中のアヴィーが全く足りてません」
「……これから、長い時を一緒に過ごせますから、それで、ご勘弁……」
アイヴィーがそう言い終える前にヴィルベルトの顔が近づいてきて、アイヴィーの口にその唇を重ねようとしていた。
アイヴィーは、両手が不自由な状態で、避ける余裕もなく、それを受け入れるしかなかった。
いつに無く、長い口づけが終わると、ヴィルベルトが、繋いでいた両手を離し、アイヴィーを抱きしめて言うのである。
「アヴィー、愛しています」
「……やっぱり狼ですわ」
アイヴィーが頬を赤くして、そう答えた。
嫉妬話題回収しました。
ヴィルベルトが嫉妬した後、速攻で、別れてしまったので、ヴィルベルトは、アイヴィーがカルバート次期伯爵に対してどう思っているか知らないのですよね。
これ、話の展開をサクサク進める為に切った話題だったので、番外編にて、書かせてもらいました。
結局、カルバート次期伯爵について、殆ど触れてませんが……(汗)
もし、あの当時、別れていなかったら、こじらせ女子のアイヴィーの力で、ひと悶着あったに違いない!!
と言う事で、切ったネタがいくつかあるので(←え?)本編ほど更新速度は早くないと思いますが、適宜更新していきますので、お付き合いいただけましたら、嬉しく思います。
ごま豆腐




