レディアン
盟主の黒い外套へ、
確かな傷が刻まれた。
封印の間。
誰も動かなかった。
ガルドは剣を構えたまま、
盟主を見据えている。
完全な亡霊。
人の領域を越えた力。
それでも。
その瞳だけは、
まだガルドのままだった。
盟主は、
ゆっくりと傷へ触れる。
そして。
小さく頷いた。
「……なるほど。」
低い声。
「ならば。」
「守ってみろ。」
その瞬間。
空気が変わった。
黒い影が動く。
レオンへ。
獣が地面を蹴るように、
一直線。
音より早い。
ガルドは反応する。
考えるより先に、
身体が動いた。
灰色の剣が、
レオンの前へ滑り込む。
ガギィィィン!!
黒い刃と灰色の剣がぶつかる。
衝撃。
床が沈む。
ガルドの腕が震える。
それでも。
離さない。
「……。」
レオンは、
ただ見ていた。
目の前の背中。
かつて何度も見た、
灰鷹の団長の背中。
次。
アイラへ。
黒い影が降り注ぐ。
一本ではない。
無数。
アイラの弓は、
まだ完全には戻っていない。
手元に残るのは、
折れた弓だけ。
「……。」
その瞬間。
ガルドが走る。
間に合う。
間に合わせる。
灰色の霧が広がる。
影を切る。
一本。
二本。
十本。
それでも。
最後の一本が抜ける。
ガルドは迷わない。
身体で受けた。
ドォォン!!
衝撃。
身体が揺れる。
血が落ちる。
それでも。
アイラの前には、
立っていた。
「……団長。」
掠れた声。
ガルドは振り返らない。
「まだだ。」
短い一言。
次。
リシア。
盟主の手へ、
闇が集まる。
今までとは違う。
空気が震える。
リシアは剣を構える。
白銀の加護。
まだ完全ではない。
それでも。
誰かを守るために…。
その時。
ガルドが踏み込んだ。
「!」
リシアの前へ。
黒い力が放たれる。
ガギィィィィン!!
ガルドの剣が盾になる。
衝撃。
封印の間全体が揺れる。
灰色の霧が、
大きく弾ける。
ガルドの身体が、
後方へ吹き飛んだ。
「団長!!」
石床を転がる。
動かない。
一瞬。
誰も声を出せなかった。
だが。
灰色の影の中。
一本の剣が、
ゆっくりと床へ突き立つ。
ガルドの手。
震えながら、
剣を支えにしている。
立つ。
もう灰色の霧は残っていない。
力ではない。
亡霊の姿でもない。
ただ。
一人の男として。
肩で息をする。
それでも。
前を見る。
リシアは、
その姿を見ていた。
治療師として。
命を救う。
剣士として。
仲間を支える。
そして。
力を持つ者として。
その力を何のために使うのか。
それを。
目の前の男は、
全て見せていた。
強いから守るのではない。
守ると決めたから、
立っている。
その覚悟が、
リシアの胸へ深く刻まれる。
レオンは拳を握る。
アイラは折れた弓を見つめる。
まだ終わっていない。
そんな想いが、
静かに芽生える。
盟主は、
深く頷いた。
その瞬間。
ベスが盟主へ迫る。
「……。」
灰鷹の最後の戦いが、
次の段階へ進んだ。




