シリウス
夜空には、無数の星が輝いていた。
その光は、まるで世界を見守る神々の瞳のように、どこまでも静かだった。
世界の名はバル。
四つの大陸が大海を隔てて存在し、その中央には誰も支配できない島が浮かんでいる。
古くから人々はその島を「始まりの地」と呼び、手にした者こそ世界を統べる王になれると信じていた。
その信仰は、やがて欲望へと変わる。
何百年もの間、戦争は止まらなかった。
勝者が生まれても、その勝利は長く続かない。
昨日の英雄は今日の敗者となり、大地は幾度も血に染まった。
神々は天からそれを見続けていた。
「このままでは、人は自ら世界を滅ぼす。」
そう判断した神々は、一つの決断を下す。
世界中の人類を半分に減らし、さらに「魔物」という存在を生み出した。
神々は、人類が共通の敵を前に手を取り合う未来を願った。
だが、その願いは裏切られる。
魔物は神々の想像を超える速さで増え、山を埋め、森を覆い、海にまで姿を現した。
人類は戦争をやめた。
しかし、それは平和になったからではない。
生き残ることだけで精一杯になったからだった。
そして、その世界の片隅にある小さな村で、一人の少年が笑っていた。
その少年の名は、ベス。
まだ七歳。
この日が、自分の人生を永遠に変えてしまうことなど、知る由もなかった。
朝日が村を優しく照らしていた。
小川のせせらぎ、鳥のさえずり、畑を耕す人々の笑い声。
この村には穏やかな時間が流れている。
「ベス!」
家の前から母が呼ぶ。
栗色の髪を後ろで束ねた、優しい女性だった。
「朝ご飯よ。冷めちゃうわ。」
「はーい!」
ベスは木の枝を剣に見立てて素振りをしていた。
「父さんみたいな剣士になるんだ。」
そう言って枝を振る姿は、どこにでもいる元気な少年そのものだった。
家に戻ると、父が笑いながら席につく。
「また剣の練習か?」
「うん!」
「なら朝ご飯をたくさん食べないとな。」
父は大きな手でベスの頭を撫でた。
その手は剣士らしく硬かったが、不思議と温かかった。
母はパンを並べながら微笑む。
「あなたたち、本当にそっくり。」
小さな食卓には笑顔があふれていた。
ベスはまだ知らない。
この何気ない朝食が、家族三人で囲む最後の食卓になることを。
そのときだった。
遠くの見張り台から、けたたましい鐘の音が鳴り響いた。
ゴォォォォォン――!!
村の空気が一瞬で凍りつく。
外から誰かの悲鳴が聞こえた。
「魔物だ!」
「森から魔物の群れが来るぞ!」
父の表情から笑みが消える。
母も青ざめる。
ベスは何が起きたのか分からず、窓の外を見つめた。
森の奥から、黒い影がいくつもこちらへ向かっていた。
そして、、、、。
その中には、人の家ほどもある巨大な魔物の姿があった。




