第4話『……は? また仕様変更?』
『……ゲームサイクルが終わっている?』
キョトンとしたセレスが、じっと見てくる。
「――宇宙猫かよ。いちいち可愛いな」
「はぁ……セレス。お前さっき "今は、育成したホシ娘とお茶やお話をして遊びます" って言ったよな?」
『はい、言いました』
「前は?」
凪は指先でくるりと半円を描きながら言った。
セレスの目も、凪の指先を追う。
『……』
「おい」
『あ、ごめんなさい……!』
ハッとしたセレスが、ぱちんと指を鳴らす。
ウィンドウに表示していた内容が切り替わった。
『これは6カ月前、大型アップデートする前のゲーム企画概要書です』
『ページ:ゲームサイクルを表示』
――――――――――――――――
[GAME CYCLE]
①ホシ娘 育成モード
↓
②バトル(イベント・高難易度)
↓
③報酬(ガチャ石、育成素材)
↓
④ガチャ:キャラを入手(①に戻る)
――――――――――――――――
「ふむ。やっぱりオーソドックスなゲームサイクルだな」
「プレイしていて、端々からそんな感じはした」
「って、100年以上も経ってるのに、もっといいゲームサイクル出てこなかったのかよぉ」
凪は大きく肩を落としながら、未来に落胆する。
『あ、違うんです』
『10年前、新作ゲームを開発する際に、"デア・エクス・マキナ" が置いていった企画概要書でして』
『"日本プレイヤーにはこれじゃ!未発表の骨董品じゃぞ?" って言っていたのを記憶しています』
『まぁ、これを元に "ホシ娘" を開発したら、見事大ヒットしたわけですが――』
「"デア・エクス・マキナ"……?」
「直訳で "機械から現れた女神" ってとこか」
「――ふふっ、ネーミングセンスが厨二だな」
ダウナー系の凪が、珍しくニタニタと笑う。
『私たちワールド管理AIの中枢、マスターAIの名前ですね』
『ええ。自分の名前を恥ずかしがっている、ただの "のじゃロリ" です』
「属性詰め込みすぎだろ……」
「ま、今はいいや」
「話を戻すぞ」
凪はパンと手を叩き、場の空気を切り替える。
「セレスはなんで大ヒットしたゲームの、ゲームサイクルに手を加えたんだ?」
『実は……かくかくしかじか、だったんです』
セレスはパチンと指を鳴らすと、ウィンドウに "大型アップデート企画概要書" が表示される。
「あいかわらず "かくかくしかじか" の機能すごいな」
「眺めてるだけで、一気に頭の中に入ってくるよ」
"大型アップデート企画概要書" を簡単に要約するとこうだ。
――――――――――――――――
【企画経緯】
①MAU(1カ月に1回以上ログインしたユーザー数):1000万人を下回った
②①により、全ワールド管理AI MTGで "ワールド:日本" が削除対象に挙がる
③①②より、"ワールド:日本" を存続するため回復に向けて以下の大型アップデートを行う
【アップデート概要】
①ホシ娘 育成モードの大幅緩和(パラメータ上昇量5倍)
②バトル要素の難易度を大幅緩和
③新コンテンツ:ハウジングモード(ふれあいモード)追加
――――――――――――――――
「――経緯は分かった」
「んで、悪いところをはっきり言うぞ」
「ずばり、アップデート概要①②がゲームサイクルを殺してる」
「ダメ」
「圧倒的にNG」
「雑魚」
「ポンコツAI」
「無n――」
「……あっ」
凪はハッと目を開き、口を押える。
凪の目の前には、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったセレスがいた。
なんならトレードマークの眼帯まで外してしまっている。
「いや……その、悪かった」
「仕事モードになるとつい口が、な?」
「……ほら、可愛い眼帯も外れちゃってるぞ」
『…………ひぐっ』
セレスは無言でしゃくりあげながら泣いている。
「お~、よしよし、セレスちゃんの気持ちいいところはここかぁ?」
凪は、猫をあやすようにセレスのアゴ下を撫でる。
『ひぐっ……そこまで、言わなくたって……いいじゃないですかぁぁぁ』
『私だってぇぇぇ……! この世界を良くしようとぉぉぉ』
「(なんかどっかで見たことある画だな……号泣議員だったか?)」
「み、水飲むか?」
凪はどんな飲み方をするのか、興味をそそられた。
――30分後――
「落ち着いたか? ごめんな」
『――いえ、大変お見苦しいところを』
『それで、育成モードとバトル難易度の大幅緩和がサイクルを殺していると……?』
「あぁ。まず、育成モードを大幅緩和したことで限られた育成回数のドキドキ感がなくなっている」
「次に、バトル難易度の大幅緩和だが、簡単に倒せちゃうから育成モードを頑張る必要がない」
「分かるか? 次のサイクルが回らないんだ」
「育成モードでの試行錯誤をする楽しみを奪ってしまってるんだ」
凪はセレスの表情を見ながら、1つ1つ丁寧に説明する。
『え、でも、 "強くてニューゲーム" や "俺TUEEEEE" が好きなんじゃないんですか?』
「それはラノベだけだ」
『プ、プレイヤーからの意見でも "毎度強くなる敵辛い" "育成しても育成しても終わらない" とか不満が出ていましたよ?』
「それは不満じゃない」
「あまり信じすぎちゃだめだ」
「いいか?」
「プレイヤーは、難易度とプレイヤーの実力が拮抗しているときが最も楽しいと感じるんだ」
「この最も楽しい状態を "フロー状態" という」
「フロー理論だな」
「グラフにするとこうだ」
↑ 挑戦のレベル(Challenge)
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| フロー状態(Flow)←たのしい!
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└───────────→ スキル(Skill)
『そんな…………なんて非合理的な……』
セレスは信じられないと頭を抱える。
「その非合理性を求めるのが人間なんだなぁ」
「はは、面白いだろ」
『人類……難解です』
「さて! 講義はここまで!」
「それじゃあ、早速大型アプデ計画を練ろうか」
「と……その前に、どうやって開発するんだ?」
「セレス、お前がプログラム組むのか?」
『いえいえ、私はあくまで管理AIです』
『専属のエンジニアAIがいるので、ついてきてください』
セレスは指をパチンとはじくと、ドアを出現させる。
扉の奥には無数のPCが並んでいる。
『ヌルー! 起きてますか?』
『大型アップデートしたいのですがー』
「(……さらっと、スゲ―こと言ってんな)」
セレスの呼びかけに、大きなパーカーを着た小さな女の子がムクッと起き上がった。
『……は? また仕様変更?』
―第5話につづく―




