↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/57

第5話『ありがとう。おねえちゃん』

『セレス!』

『あなた、6カ月前に大型アプデしたばかりですよね!?』


 

 "エンジニアAI:ヌル" こと、猫耳ヘッドフォンロリっ子はセレスに詰め寄った。



『……?』

『はい、しましたね。大型アップデート』

 


 セレスはキョトン顔で応じる。



「(そのキョトン顔やめろ。草)」

「(……ほら~、ヌルちゃんがプルプルしてるじゃん)」



『~~~っ!』

『大型アプデもタダじゃないんですよ!?』


『6ヵ月前の大型アプデだって約4,000万Eupho(ユーフォ)もかかったじゃないですか!』


 

 ヌルがプリプリしながら、持っていたノートPCをセレスの顔に近づける。



『はい、管理AIなので知ってますよ?』



『"K◎n'n◎……クs0ヤr0───ッ!!!@#%"』


 

 無表情で答えるセレスと、キレ散らかしてるヌルの攻防がはじまる。



「……なぁなぁ、セレス、ユーフォ?ってなんだ?」



『……』

 

 

 セレスは無言でパチンと指をはじくと、凪にウィンドウを表示した。

 


「(あ、かくかくしかじか機能って "かくかくしかじか" って言わなくていいのね)」



 ウィンドウを見ると、"Eupho(ユーフォ)" の知識が頭に入ってくる。



「(なるほど。"Eupho(ユーフォ)" は通称 "幸福通貨" の単位か)」

「(人類がこの世界で課金する際に使う通貨で、価値はおよそ日本円と同じ……と)」


「(ふーん、つまりあの大型改悪アプデに4,000万円もかけちゃったってことか)」

「(ほとんどハウジングモード開発に使ったんだろうなぁ……)」



『だーかーらー!』



『はい。それで?』



 セレスとヌルの攻防はまだ続いていた。

 やれやれと、ついに二人の間に割って入る凪。



「おーい、そろそろいいかぁ?」



『――ヒッ!?』


 

 凪の声が届くより先に、ヌルはもう部屋の隅で小さくなっていた。



「え、セレス。どういうこと?」

「何この可愛い小動物」



『――』

『あぁ、人見知り設定が入っている小動物です』


 

 ちょっと謎の間を置いたセレスがジト目で答える。



「あ、そこ設定って言っちゃうんだ」


「おーい、怖くないよー」

「出ておいでー。ちっちっちっ」

「お姉さんさぁ、ちょーっと大(・)型(・)ア(・)プ(・)デ(・)開(・)発(・)してほしいだけなんだぁ」


 

『ハ、ハナシ、カケナイデクダサイ!』

『デ、デテイッテクダサイ!』


 

 気がつけば、部屋の隅に頭を突っ込んで、お尻で叫んでしまっている。



「お姉さん、傷ついちゃうなぁ……」



 しくしくとジェスチャーしながら、凪はセレスの "ない胸" に顔(・)を(・)う(・)ず(・)め(・)た(・)。



『――っ!』

『…………』


『ま、まぁ、ヌルに凪さんを紹介したかっただけなので、目的は果たしました』

『――戻りましょうか』


 

 セレスは突然の凪のスキンシップに動揺しながらも、うずめさせたまま続ける。



「んあ~い」

「じゃあねー、ヌルちゃん」


「スー……は~……いい匂い」



『か、嗅ぐなっ……!』


『じゃあ、ヌルー! 詳細はチャットで送りますので!』



 2人は押し問答をしながら、ヌルの部屋を後にした。



 ***



『……凪さん、そろそろ離れてもらってもいいですか?』

『大型アップデートに向けて、お話ししたいn――』



「――あと5分」



『はぁ…………』



 ――10分後――



「……ずずっ」

「よし、大型アプデに向けて、お話ししようか」

 

 

 温かいコーヒーをすすった凪は、キリッとした表情で話を始めた。

 肌もツヤツヤである。



『はぁ……気がすんだみたいで何よりです』

『それで、大型アップデートは何を開発するのか、決まっているのですか?』



「あぁ、すでに企画は決めた」

「セレスの胸の中でな。任せてくれ」



『はい。とても不安ですが、どうぞ』


 

「やることは3つ」

「1つ目。"協力型バトルイベント" の開発」

「2つ目。"新しいイベントボス" の開発」

「3つ目。"新しい育成モード" の開発」



『コマンド。DISPLAY(ディスプレイ)_INPUT(インプット)』

『"神岬 凪" の音声入力を視覚化』


 

 セレスがコマンドを口にすると、3つの開発内容がウィンドウ表示された。



「おお、助かるよ。ありがと」

「んで、続きだが――」



『あの~……ゲームサイクルを殺している "育成モード大幅緩和" と "バトル難易度大幅緩和" を、元に戻せばいいのでは?』


 

「ふむ。いい質問だ」

「ずばり、一度やったことを元に戻すのは、開発運営側が迷走していることが伝わるから基本NGだ」


「信用を失くすと、一気にプレイヤーが離れていく」


「現在の育成モードとバトルコンテンツは、初心者用として一旦置いておこう」

「今回は既存プレイヤー、復帰プレイヤー向けの開発だ」


「プレイヤーを引き留めるのも、呼び戻すのも面(・)白(・)さ(・)が伝わらないと意味がない」

「"なんか新しいことをやってるぞー" っていう、訴求インパクトも重要なんだ」



『……なる、ほどです。把握しました』


 

 さっきまで、少女の胸で深呼吸していたとは思えないほどの態度の変わりよう。

 セレスは仕事モードに入った凪に、気圧(けお)されていた。



『それで、各開発内容の詳細h――』



「あぁ、それはこれからまとめる」

「明(・)日(・)ま(・)で(・)待ってくれ」


「あと、悪いが静かな部屋を用意してくれないか?」



『あ、はい! すぐに……!』

 

 

 セレスはパチンと指をはじくと、ドアを出現させる。



『その部屋を使ってください』



「ん、ありがと」


「――あ、そうだ」

「セレス。"ワールド:日本" が削除されると、お前はどうなるんだ?」


 

 ドアに向かって歩いていた凪は、振り向きざまに質問した。



『――再構築されます』

『私を含め、この "ワールド:日本" に所属する全AIは』



「――再構築されるとどうなる?」



『完全初期化ととらえてもらって大丈夫です』

『外見は同じでも、それは私ではないでしょう』


『まぁ、AIに人(・)格(・)はあっても、魂(・)なんてものはないでしょうが』



「――」


「あるさ」

「じゃ、できたらチャットで送るよ」


 

 静かにそう答えると、凪は自分の部屋に入っていった。



 ***



 深夜5時。


 "ワールド:日本" をメンテナンスモードに入れたセレスは、真っ暗な孤独な空間を1人漂っていた。


 ピコンという通知音とともに、チャットウィンドウが表示される。


――――――[CHAT LOG]―――─────

> 凪:できた。

> 凪:寝る。

── 添付ファイル:大型アップデート企画ver2.pptx

────────────────────


『……本当に一晩で』


 

 セレスは凪の部屋の前に立つと、そっと入った。

 凪が机に突っ伏して寝ている。



『まったく……メガネも外さないで』

『電脳世界とは言え、身体への疲労パラメータが蓄積されてしまいますよ』


 

 パチンと指をはじくと、凪をベッドの上に瞬間移動させた。


 

 ――横になっている凪を、セレスは無言で見つめている。

 

 そしてゆっくりと目を閉じた。



『――――』


『ありがとう。お(・)ね(・)え(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)』

 

『それじゃあ、ゆっくり休んでね』


挿絵(By みてみん)

 

 その一言を残し、彼女は部屋から出て行った。



「――――」


 

 凪はそっと目を開いて、また眠る──まるで夢の続きを選ぶかのように。



―第6話につづく―


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
xから読まさせていただきました。 素敵ですね。 感想を書かせていただきます。 ゲームクリエイターである凪と、白髪のAI少女セレスが出会うことで始まるこの物語は、「ゲームを作る」というテーマを超えて、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。