第18話『世界で2番目に愛してる』
「うぅ……頭いってー」
『あ、凪さん!』
『おはようございます』
『昨日は、ずいぶんとお楽しみでしたね♪』
――2150年3月2日 午後2時。
トボトボと現れた凪を、セレスがドヤ顔で出迎えた。
「誰のせいだよぉ~……うぅ」
「あんな幻の酒だされたらさぁ……そりゃあ飲まない方が失礼だろー」
『コレ、ですよね♪』
セレスはアイドルのようにウィンクしてみせた。
一升瓶をぶら下げながら。
「おいおいおい――なんのCMだよ」
「しかも "十参夜・霊泉" 、まだあんのかよ」
「一生に一度レベルの幻の酒をさぁ……そんなホイホイ出すなよなぁ」
「はぁ…………ちゅき♡」
「霊泉……その味はもはや芸術。日本酒の最高到達点にして、最終系と言わしめるほど。白桃のような透明感のある香り、とろけるような口当たり。長く――とても美しい香りが余韻としてずっと残る。一部の選び抜かれた酒販店にしか卸されず、特別な得意先にだけ提供される流通量。オークションでは100万で取引されるほど」
「世界で2番目に愛してる」
『1番目は?』
「妹だ」
『ゲームは?』
「…………2番目だ」
『"霊泉" は?』
「………………2……3番目だ」
『ゲームは?』
「…………2……2番目だ!」
二人の世界が一瞬止まる。
『えっと……ハイ、好きなのは分かりました』
「おい、AIの矛盾実験みたいなことすんのやめろー」
「いっつつ……」
『凪さん』
『私が喜ぶ一言が言えたら、その二日酔い治してあげますよ』
「ぐっ……こいつ! なんてAIだ!」
『……こいつ?』
セレスは無表情で首をかしげながら、凪に回答を促す圧をかける。
「(んぐぅ……背に腹は代えられん……やるか)」
「宣誓! アタシは、セレスたんのことが世界で3番目に大好きです!!!」
「"霊泉" は! に……4番目に大好きですっっ!」
『…………』
『ふん』
『まぁ、いいでしょう』
態度とは裏腹に、セレスの耳はちょろさを示していた。
『では、凪さん』
『今から秘密のコマンドを教えるので、その通りに言葉を発してみてください』
セレスは、凪の耳元でヒソヒソささやいた。
凪は時折、身体をビクッとさせながら聞く――凪の弱点が露呈した瞬間を見逃さないAIがそこにいた。
「……え、マジ?」
「そのコマンド残ってるんか」
「まぁ、言ってみるか」
「すぅ……はぁ」
凪は大きく身体を伸ばし、入念な準備体操をする。
――それはまさに、短距離走を走る前の競技選手のように。
しばらくすると、天に届くようにビシッと手を伸ばし、最強の呪文を発する。
「コマンド! プロパティ!」
「下R上RYBYB! デキタっ!」
「感覚ノイズ! 無効化っ!」
「元気になーれっ♡」
「…………」
「おぉ……お~~」
「すげぇってばよ! 本当に二日酔いが治ってるー」
凪は感動を隠せないほど興奮しているのか、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。
『その隠しコマンドは、悪用しないでくださいね』
『この電脳世界全体のデバッグコマンドみたいなものなので』
『あと、その変なポーズと、最後の呪文はいらないので』
「あぁ……承知した……2150年の電脳世界……ちゅき♡」
いつの間にか凪は、さっきまでセレスが持っていた 幻の酒 "十参夜・霊泉" に頬ずりをしていた。
『ちょ! 凪さん!?』
『飲まないでくださいね? お仕事の時間ですよ?』
「そ、そんな――最強の呪文も手に入れたのに?」
「ちょっとだけ! ね! 先っちょだけ!」
『こらぁっ!』
「ひんっ……!」
一升瓶を取り上げられた凪は、泣き崩れながらセレスに引きずられていった。
***
「スン……スンスン」
「スンスンスン……(チラッ)」
『ちょっと、スンスンうるさいんですが――』
『この現状を打破する案を、ひねり出してくれませんかねぇ』
セレスは新たな問題に直面していた。
セレスがまず最初に選んだ解決策――それは、凪をデスクに縛り付けることだった。
身動きが取れない凪の目の前には、一升瓶が置かれている。
「解決したら……飲んでいい?」
『えぇ。解決したら、いくらでも飲ませてあげましょう』
「へへっ……へへへ♪」
「あざっ、あざぁぁっす」
その光景はまさに信者と女神――否、薬物中毒者と売人の図だった。
「じゃあ、問題のおさらいだ」
「今の状況を、整理してくれ」
『はい』
『問題点はズバリ、"MAUの伸びストップ" です』
『現在のMAUをご確認ください』
――――――――――――――――――――
【現在:2150年3月2日 MAU】
5,530,505人
【1,000万人未達成の場合:ワールド消滅】
※期限:2150年3月31日まで(2/14改定)
あと4,469,495人
――――――――――――――――――――
※MAU=ひと月に1回以上、"ワールド:日本" に訪れるプレイヤー数
『現在午後2時』
『初日の伸びから、MAU650万人は固かったと考えています』
『昨日のバトル無限ループバグは、プレイヤーにも好評で上手く処理できました』
「ふむ……問題はないはずなのに、なぜか伸びないと」
『はい』
凪は目を閉じ、思考を深く巡らせる。
頭の中で、ユーザーの反応やMAUの動き――あらゆる点と点を線で結んでいく。
「――だいたい推測はついた」
「内は問題ない。おそらく問題は外だ」
「"ワールド:日本" 外の外的要因、とでも言っておこうか」
「セレス。何をしたらいいか分かるな?」
『はい! "ワールド:日本" 外のSNSのチェックです』
「正解!」
セレスは、目をチカチカと光らせ、ネットサーフィンを始める。
『――見つけました』
『"ワールド:中国" でSNSが、爆発的に盛り上がってます』
「中国…………見せてみろ」
セレスはパチンと指をはじくと、SNSの内容をウィンドウに表示する。
真剣な表情で見ていた凪は、力を抜きながら口を開いた。
「よかったぁ~~」
「セレス、大丈夫だ。なんとかなるレベルだ」
「たかだか宣伝方法が、丸パクリされただけだ」
「お前が2月にやった、水着での宣伝だな」
『んなっ! "だけ"って……あんなに頑張ったのに』
『私、許せません!』
『あの子……中国の管理AIに苦情を出してきます!』
「やめとけ、やめとけ」
「アタシがやったバイラルマーケティングも、先人の知恵だ」
「水着で宣伝なんて、よくあること」
「まぁ、リスペクトと丸パクリは違うがな」
「それにな……ふふ……ここでの借りは後々、大きく返してもらうさ」
「――いい傾向だ」
『あの……すごいセリフはかっこいいんですが、締まらないというか――』
「おいぃぃ……縛ったの、オマエー!」
「ほどけよ。どんなプレイだよ」
セレスは凪の身体にきつく食い込んだ縄をほどきながら、疑問を口にする。
『それで、MAUが伸び悩んでいる結果は変わらないのですが……対策はあるんですか?』
「ふははは! よく聞いてくれた!」
「こんなこともあろうかと――」
縄から解放された凪は、伸び伸びと大きくポーズを取り高らかに宣言する。
「アタシの大型アップデートは二段構え!」
「秘密兵器 "せれちゅたん" をリリースする!!!」
―第19話につづく―
どうも、せーぶうわがきです!
冒頭から凪が日本酒が大好きなやべーやつ感が出ておりますが、実はカクヨム版では自己紹介の記事がありましてそこに「日本酒が好き」と書いておりました笑
そうなんです、凪は日本酒が好きなんです!以後お見知りおきください。
そして私も日本酒が大好きで、作中で出てきた日本酒の元ネタがわかった方は同志です。
また二日酔いを治すコマンドも出てきましたね。
もちろん、こちらも元ネタがございます!わかった方は同じゲームをしているということで親近感しか湧かない自分がおります。よろしくお願いします(´・ω・`)←ナニヲ?
いまだにこのコマンドはコントローラーを見ずにできる自信があります笑
では!第19話でお会いしましょう。




