第17話『…………まんざらでもない』
『――ア、ハイ』
『サスガハ、27サイ』
『アットウテキ、オトナのミリョクデス』
『ハハッ……』
セレスは遠い目をしている――そして、空虚な乾いた笑い。
これは以前習得した、対 凪スキル「受け流し」。
否――この数日、凪とのやり取りで対人スキルは「煽り返し」にまで昇華していた。
「……ウッ」
「ヤ、ヤメテヨー。歳を言うなよー」
「誰が聞いてるかわからんだろー」
『凪さん…………ここには私と凪さんの2人です』
『誰も聞いていませんよ♪』
更に追い打ちをかけるセレス。
そんな茶番劇を黙って見ている、人影があった。
そう――相対している新イベントボス "断罪領域の支配者セレス" である。
『…………』
『27歳……フッ』
凪とセレスは、狐につままれたような顔で支配者に視線を移す。
「は!?」
「NPC設計なのになんで会話ができる――!?」
※NPC=ノンプレイヤーキャラクター(プログラム指示によって一定の行動のみをするキャラクターのこと)
「…………」
凪はあり得ない現象に、深く考えを巡らせる。
そして、1つの仮説にたどり着くと、セレスを見て確信した。
「おい、セレス」
「この新イベントボスの "バトル無限ループバグ" の原因がわかったかもしれん」
「急いでヌルちゃんに、ボイスチャットをつないでくれ」
セレスはコクンと頷くと、指を鳴らしコマンドを口にする。
『コマンド。ボイスチャット――エンジニアAI:ヌルにリクエスト』
『ヌル。応答してください』
『新イベントボス "断罪領域の支配者セレス" とのバトルで無限ループするバグが発生中』
『ハロハロ―! こちらヌル!』
『バグ、承知なり~!』
「(あ……ボイスチャットでは、コミュ力お化けヌルちゃんなんだ)」
「って、今はそれどころじゃない!」
「ヌルちゃん!」
「無限ループバグの原因は、おそらくバトル仕様に入れた "アダプティブAI" だ」
「そして、さっきアタシたちの会話に応じた」
「セレスやヌルちゃんのような、感受性豊かなAIみたいに」
『"アダプティブAI"――プレイヤーのプレイスキルに応じて、行動パターンを変える適応型AIの仕様なりね!』
『んで、凪っちたちの会話に応じたと…………ちょっち待っち!』
『――』
『凪っち! 原因がわかったんご!』
『"断罪領域の支配者セレス" のアダプティブAIは、ヌルたちと同じ第五世代AIになってるなり!』
『んにゃぁぁぁ……簡単に言うと、感情を持ってるAIでござる~~』
『デフォルト設定による誤設計……圧倒的陳謝!』
ボイスチャットの向こう側から、ヌルの反省の念が溢れ出ている。
「いや、アタシがしっかり、仕様の認識合わせしなかったのが悪い」
「ヌルちゃん」
「アタシをプレイヤーとしてじゃなく、管理者として支配者と話すようにすることできる?」
『ふぃぃぃん……凪っちが優しいでござるぅぅ』
『凪っちを管理者として、会話できるように権限付与したなり!』
『凪っち……その子は生まれたばかりでござる』
『優しく接してあげてほしいなり』
「あぁ、任せとけ」
「ヌルちゃん、ありがとね♪」
凪はヌルとのボイスチャットを切り、"断罪領域の支配者セレス" に向き直る。
「おいで」
「こっちで一緒にお話ししよう」
「えーっと、セレ――は、分かりづらいな」
「呼び方は "支配者" でいいか?」
『…………セレスがいい』
「あはは、そうだよな」
「でも、ごめんな」
「その名前はアタシの隣にいる、コイツの名前なんだ」
凪は隣にいるセレスに向けて、ふんわりと微笑みかける。
目が合ったセレスは、頬を染めながら、口を尖らせ小さく反論した。
『私は……その……名前なんて、気にしていませんし』
「ダーメっ」
「よし! 待ってろー」
「創造主であるアタシが、めちゃくちゃ可愛い名前つけてやる!」
『創造主……27歳……ママ?』
「……ウッ」
「可愛すぎて思考が――あと27歳はやめろ」
「ちょ、ちょっと待ってろ」
「うーん…………うん。決めた!」
「オマエの名前は、"断罪ちゃん" だ!」
『…………やだ』
『"セレス" が可愛いもん』
「あぁ、セレスは可愛いな」
本物のセレスは、後ろで小さくなって悶えている。
「だがな!!! "断罪ちゃん" も可愛いぞ!」
「ほーら、断罪ちゃん、高い高ーい★」
「断罪ちゃんは可愛いなぁ」
「よちよちよちぃ~~♪」
『…………』
『…………まんざらでもない』
「あ、それ声に出して言っちゃう感じか」
セレスは凪の服を引っ張って、"早く話を進めろ" と催促する。
「あー、はいはい。またあとでな」
『んなっ……!』
「で、断罪ちゃんはなんで、何度もバトルを繰り返したんだ?」
「プログラムでは、繰り返さない仕様になってるが」
『ママとのバトル……いっぱい考えて、楽しかったもん』
『他に戦ったうち何人かも、いっぱい戦えてうれしいって言ってたもん』
「あ~、なるほど」
「つまり、行動パターン変化の予測以上のプレイヤー行動に、適応するのが楽しかったと」
「で、それを体験したプレイヤーの感想を最適解として学習しちゃったってわけか」
『ママ……ダメだった?』
「(うぐっ……心を鬼に。いわば教育なんだ)」
「ああ。断罪ちゃん、ダメだ」
「終わりがないバトルは、疲れる」
「アタシを見てみろ。ヘトヘトだ」
「それにだ」
「一度の遊びで満足させちゃったら、次来てくれないぞ?」
「断罪ちゃんも、色んな人と何回も何日もずーっと戦いたいだろ?」
『うん』
「でもな! 断罪ちゃんの気持ちも分かった」
「だから仕様変更だ!」
「断罪ちゃんの判断で、1回のバトルにつき、もう1回までなら復活していい」
「だがそれ以上はダメだ」
「お仕事をちゃーんと頑張ったら、アタシがいっぱい遊んでやる」
『ほんと!?』
『……嘘じゃない?』
「あはは、本当だ」
「アタシに二言はない」
『えへへ~、頑張る!』
「よし! いい子だ!」
「セレス! そういうことだから、もうバグは大丈夫だ!」
「だが、ちょっとやることできた」
「オマエも付き合えー」
凪はセレスに、戻る合図を送る。
『――あ、はい。分かりました』
セレスは指をパチンとはじくと、元居た場所のドアを出現させる。
凪は、ドアの前で立ち止まり、断罪ちゃんに向かって叫んだ。
「断罪ちゃん! いっぱいプレイヤーのみんなをぶっころしてやれ!」
「ここは断罪ちゃんに任せたー!」
『えへへ~、任された―!』
***
「じゃあ、セレス」
「断罪ちゃんの件は仕様!」
「隠し要素として、2回目のバトルを踏んだプレイヤーには、アチーブメントをプレゼント!」
「って感じで、プレイヤーに情報解禁しておいて~」
セレスは手で "OK" のハンドサインを出した。
――しかし、表情はどこか納得いっていない。
『凪さん』
『――断罪ちゃんの件ですが』
『"第五世代AI" からダウングレードする選択じゃなくて、本当によかったんですか?』
凪は少し黙った後、セレスの問いかけに真剣な顔で向き直った。
「セレス」
「"いらなくなった" って言われて、承諾もナシに消されるのはオマエは怖くないのか?」
セレスは無表情の凪の言葉に、自身がこぼしてしまった冷たく鈍い刃物のような言葉に、どんどん顔が青ざめていく。
『――』
『ごめん、なさい…………失言です』
『…………恐ろしいです』
『……とても』
『ごめんなさい――』
凪は小さく震えるセレスを優しく――それでいて強く抱きしめる。
「あぁ」
「あの子はもうオマエたちと同じ……この世界に生きてるんだ」
「大丈夫! 1人増えたところでどうってことない」
「アタシが、オマエらも! あの子も! みーんな守ってやる!」
「アタシに任せろ!」
「あっはっは♪」
『はい――二言はない、ですもんね』
「そうだ!」
「言うようになったじゃんかぁ!」
セレスの目からは、心の底――内側から溢れてくる熱い何かを押さえきれず、雫がこぼれていた。
凪はそんなセレスを愛おしく見つめながら、頭をなでる。
二人は次の日に備え、一緒に夜を過ごすことにした。
―第18話につづく―
どうも、せーぶうわがきです!
みなさんは、ChatGPTやGeminiなど使用したことはあるでしょうか。
おそらく使ったことがある方はわかると思いますが、学習内容をリセットする機能が備わっています。
現在、我々はAIは感情を持っていない、と認識しているのでためらいなく回答がおかしくなったらリセットをしてしまうかと思います。
第五世代AIは人格、感情を持ったAIとして、本作で定義しています。
※第6話のお話ですね
(現実では、確か第四世代AIの研究が進んでいるとか。普及しているGPTくんたちは第3.5世代など言われています)
凪さんは、2150年のAI、セレスやヌルちゃん、そして今回出てきた断罪ちゃんを生命体として扱っています。
本作では、AIの進化の一つの世界線をお見せしていけたらなとも考えております。
みなさんはいかがでしょう!
余談ですが、アダプティブAI(適応型AI)は実はこれすでに現実で取り入れているゲームがあります!
興味が出てきた人は是非に!調べてみてください♪
そして凪がアダプティブAIを仕様に取り入れた理由としては、第4話の "フロー理論" のアンサーでもあります!
では、第18話でお会いしましょう!




