第14話『おねえちゃん、ずっとずーっと大好きだよ♪』
「――――」
「……あはは、おねえちゃん♪」
「なんて顔してるの~?」
「私のこと――忘れちゃった?」
セレスの形をした少女は、凪の頬をつたう雫を指でそっと拭う。
はかり知れないほど長く――ようやく辿り着いた夢をこわさないように。
「――バカ」
「忘れるわけないだろ……!」
「この、アタシが」
「お前を……!」
「――七海」
凪は、一瞬の静寂を裂くように、セレスの形をした少女――もとい、七海を強く抱きしめた。
長い時の重ささえ、溶けてしまうほど優しく、強い力で。
「あは…………ひぐっ」
「うん……うん」
「ごめん。ごめんね、おねえちゃん……!」
涙が、凪の胸元を濡らしていく。
神聖で神秘的な雰囲気をまとっていた彼女は、凪の腕の中でその面影をほどき、ただ幼い妹の顔に戻っていた。
***
「ふふ、七海~」
「お前はいつまで経っても、甘えんぼだなぁ」
「えへへ♪」
「うん、そうだよ~」
「七海ちゃんはず~~っと、ず~~っとおねえちゃんの妹だもん♪」
凪は膝の上にいる七海を抱っこしながら、椅子をギコギコとゆりかごをしていた。
「――――」
凪はふと、先日同じことをした少女のことを思い出す。
しかし、それを問いかけた瞬間、この夢が壊れてしまうのではないかと口に出せずにいた。
「あはは、そうだよね」
「気になるよね……セレスちゃんに、なんで私が入っているのかとか」
「――――いや」
「おねえちゃん、無理しなくて大丈夫♪」
「それに、もうそんなに時間も残されてないんだ――」
「え? それってどういu――」
七海は凪の唇に指を置き、発言を制止する。
「――おねえちゃん。聞いて」
「きっと、ワールド消滅の期限が早まったのは私が原因」
「アイツらが、セレスちゃんもろとも、私を消そうとしてるんだと思う」
「アイツら?」
「うん」
「ごめんね。この身体……セレスちゃんの権限じゃ名前を言った瞬間、完全に捕捉される可能性があるの」
「でも、おねえちゃんはその組織の名前を聞いてるはずだよ」
「私の――大事な、"友だち" からね」
凪はそのワードを聞いた瞬間、頭の中で全ての点と点がつながった。
「――っ!」
「やっぱりか……」
「七海、全部わかったよ」
「アタシに――おねえちゃんに、全部任せとけ」
「あはは。さすが、おねえちゃん♪」
「……」
「――もうそろそろ、限界かな」
七海はそう言うと、まるで夢と現実の区別をつけるように――凪の胸に顔をうずめて、ゆっくりと口を開く。
「おねえちゃん、元気?」
「あぁ」
「お前に会えて元気モリモリだ」
「――おねえちゃん、ごはん食べてる?」
「あぁ」
「セレスがオムライス食わせてくれたぞ。卵が甘いやつ」
「――――おねえちゃん、お仕事無理してない?」
「あぁ」
「ちゃーんとベッドで寝てる。フカフカのな」
「えへへ……やっと言えたぁ」
凪は唇をギュっと噛みしめ、七海の額に優しいキスをする。
「七海……よく一人で頑張ったな」
「おねえちゃんが守ってやるから――絶対に」
「それにこの前言ったろ?」
「七海の言うことなら、なーんでも聞いてやるって」
「忘れたか?」
「――ううん。ちゃんと、覚えてる」
「おねえちゃんにずっと養ってもらうんだもん。えへへ」
七海は遠い記憶をたぐり寄せるように、精いっぱいの笑顔で答えた。
「おねえちゃん、ずっとずーっと大好きだよ♪」
「ちゅっ」
「あはは」
「かわいさ……メタエッジスコア100億万点だ」
いつしかの記憶にある、別れの挨拶を繰り返す、凪と七海。
それは神聖で、二人にしかわからない再会の誓いだった――。
しだいに七海だった少女の身体から、力が抜けていく。
凪は1秒でも七海が寂しくないように、また強く抱きしめた。
『……!』
『むー!』
『ちょ……く、苦しいのですg――』
「セレス……ちょっと黙ってて」
「…………あと5分」
顔を見ることを許さない――強くも温かい凪の抱擁。
小さく震える腕を落ち着かせるように、セレスは黙って抱きしめられることにした。
***
「…………んっ」
「やば……寝てしまってたか」
『……ええ』
『それはもうぐっすりと』
ベッドで目を覚ました凪の目の前に、セレスはジト目で応える。
『まったく。凪さんは甘えんぼさんですね~』
『私が何時間、ソコに挟まってたと思うんですかね~』
「ははは」
『…………』
『いや、何か言ってくださいよっ!』
「朝から元気だなぁ。セレスちゃんは」
「仕方ない」
「すぅ……はぁ」
「そう! アタシは甘えんぼなんだ!」
「だから、もっと甘やかしてくれんと困る!」
『……ちっ』
ゴミを見る目で、セレスは怒りの舌打ちをする。
凪に対して何か違和感を覚えたが、それも怒りで胸の奥底に沈んでいった。
『はいはい。もう元気なようですね』
『朝ごはんを用意しているので、食べたらお仕事ですからね』
「うぇ~い」
「朝ごはん楽しみだなぁ♪」
スタスタと部屋を出ていくセレスの後を、凪はスキップで追って行った。
***
「……んぐんぐんぐ」
「セレス……んぐんぐんぐ……聞いてくれ」
『飲み込んでからしゃべってください』
「んぐんぐ……(ゴクン)」
『はい、どうぞ』
「あのさ、この前 "バイラルマーケティング" 第一弾成功したじゃんかぁ」
『凪さんが! 勝手に! 全プレイヤーにカメラONにしたやつですね!』
『えぇ、えぇ! 大成功ですね!』
『おかげで! 今もMAUは回復していってますよ!』
※MAU=ひと月に1回以上、"ワールド:日本" に訪れるユーザー数
「ふふふ……そこでだ」
凪はニヤニヤしながら、片手をピースにしてセレスの前に突き出す。
『な……次は何をやらせるつもりですか!』
『ひ、酷いことするつもりでしょう!』
「さすがセレス。察しがいいな♪」
「あと、"酷いことするつもりでしょ。エ〇同人みたいに" までがテンプレだ」
『おい。早く言えよ』
セレスの冷めた目に、凪はゾクゾクしながらも一枚の写真を取り出す。
「じゃじゃーん♪」
「セレスには今日の世界を始めるときに、これを着て挨拶をしてもらいまーす!」
『――!』
『ちょ、どこでそれを!?』
「ふふふ、エンプからもらいました~♪」
「セレス。持ってるんだろ?」
「み・ず・ぎ♪」
『イヤです、イヤですー!』
『どれだけ恥を晒させるつもりですかぁ!』
セレスは頭が取れそうな勢いで、首を横にブンブンと振る。
「セレスぅ。アタシはな、お前の仕事を手伝ってるんだ」
「めちゃくちゃ頑張ってる」
「でぇ、ワールド消滅を防ぐのは、誰の仕事だ?」
『……わ、私です』
「うんうん、そうだよな?」
「やっぱりできることは、何でもやるべきだと思うんだよなぁ」
「あ・た・し、は」
『ぐぬぅ……この人は』
『分かりました!! 分かりましたよ!』
『着ればいいんでしょう!』
『…………』
『あっち向いててください!』
セレスはパチンと指を鳴らすと、一瞬謎の光に包まれる。
光が解除されると、水着姿のセレスが顕現する。
「あぁ……これこそ "女神" だな」
「神に感謝を――」
「さぁ! 女神よ」
「ワールド:日本のプレイヤーに、後光を見せに行こうか!」
凪はミュージカルのようなポージングで、セレスに世界の展開を促した。
『ちっ』
『コマンド:メンテナンス状態を解除』
セレスが目を開くとともに、暗闇だった背景に世界が展開される。
セレスの戦いが今始まる――水着姿で。
―第15話につづく―
どうも!せーぶうわがきです!
少し捕捉をば。
七海と凪の間には、第10話『……残念な知らせじゃ』で七海が言っていたように約118年の時間差があります。
凪は、七海がいなくなって数日後、過去からアクセスしてこの電脳世界にいます。
七海は、行方不明になってから118年電脳世界で一人です。
二人の最後のやり取りは、第6話『Hello, new world?』のやり取りのことです。七海が行方不明になる前日ですね。
是非とも、6話・10話を読み返していただけると嬉しいです。
七海がどんな気持ちだったのか、少し垣間見ていただけたらわたくしすごく嬉しいです。
では!第15話でお会いしましょう!




