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第13話『全AI対策会議を開きましょう!』

「……え?」



 "進捗ダメです" ボードを持って泣きそうな顔をしているヌルを見て、凪は思考を巡らせる。



「(進捗ダメって開発が遅れてるってこと、だよな)」

「(約1か月後には、このワールドが消滅してしまうのに……?)」

「(……マズいな)」


「ヌルちゃん! 進捗ダメってどういu――」



『ヒィィッ――!』



 凪の大きな声に、エンジニアAI:ヌルはセレスの後ろに身を隠した。



『ア、アノ――ソノっ』

『お、オコラナイデ……!』



「あ……ごめん」

「大きな声、出しちゃったな」


「……大丈夫。怒ってないよ」



 凪は自分が焦っていたことを自覚すると、できるだけ優しい口調で謝罪をした。



『ヌル』

『凪さんはこのくらいじゃ怒らないので、安心してください』


『あと、人見知り設定はもういいので早く詳細を』



「(……し、辛辣!)」



『ぐっ……セレス』

『私だって好きでこんな反応してるわけじゃ――』



 言い訳をしようとするヌルに対して、セレスは自身の首元をぺちぺち叩きながら続きを催促する。

 ――セレスの目には光が宿ってない。無言の圧力。



『わかりました! わかりましたよ!』

『Eupho(ユーフォ)がないんです! Eupho(ユーフォ)が足りなくて、フ(・)ァ(・)ス(・)ト(・)モ(・)ー(・)ド(・)が(・)使(・)え(・)な(・)い(・)んですー!』


『このままじゃ、2150年3月1日のリリースには間に合いません!』


『進捗ダメです!』



「ん? ファストモード?」

「よくわからんのだが……セレス、説明よろしく」



『あ、はい。少々お待ちを』



 セレスはパチンと指をはじくと、ウィンドウを表示する。



『いいですか、凪さん』

『私たちAIは、プレイヤーから得たお金 "Eupho(ユーフォ)" を使用して仕事をします』


『それは、今回の大型アップデート開発でも同様です』


『仕事のスピードには、"ファストモード" と "リラックスモード" が存在します』

『ファストモードは、リ(・)ラ(・)ッ(・)ク(・)ス(・)モ(・)ー(・)ド(・)の(・)5(・)倍(・)のスピードだと考えてもらって大丈夫です』


『凪さんの大型アップデート企画書を見て、私が出した今回の開発見積もりは約2,500万Eupho(ユーフォ)です』

※1Eupho=1円の価値


『ヌルが出した開発日数は15日』

『この工期見積もりは、ファストモード込みでの見積もりでしょう』


『残り開発費が一定を下回ったところで、ファストモードを解除するように設定していましたが――』


『凪さん、何(・)か(・)大(・)き(・)な(・)仕(・)様(・)の(・)追(・)加(・)をしましたか?』



「…………」

「――!」


「あぁぁぁ……そういうことかぁ」



 身に覚えがありすぎる凪は、顔を手で覆(おお)い低い声で唸《うな》った。



「ごめん……お前たちAIの仕様を知らなかったとは言え、私の責任だ」

「まずは、管理AIであるセレスに相談するべきだった」


「さっき、エ(・)ン(・)プ(・)の(・)所(・)で(・)秘(・)密(・)兵(・)器(・)を(・)用(・)意(・)してたんだ」


「おそらくそれが原因だろう――」



 セレスは文字通り、目をチカチカと光らせて黙り込む。

 何かを検索しているようだ。



『なるほど……確かにエンプの工数を見ると、400万Eupho(ユーフォ)程度消費されていますね』



「――400万!?」

「すまない……楽しくて色々試しすぎた」



『もっと反省してください! こ、このデカ女!』



「あぁ……そうだな」

「ヌルちゃんもごめん!!!」



『ヒッ――!』



 ヌルは凪の失態を非難したが、すぐにセレスの後ろに隠れてしまった。



『ヌル……怖いなら言わなければいいのに』

『あと、私の後ろに隠れながら言うのやめてくれますか?』



『こ、怖くありませんがっ!』



 セレスはヌルの強がりを無視すると、凪の目を見て口を開く。



『凪さん。一つだけ答えてください』

『その秘密兵器って、ワールド消滅を――私たちAIの再構築を防ぐために必要なものだったんですよね?』



「あぁ。そうだ」



『絶対に勝てますか?』



「あぁ、絶対に勝てる」



 凪は間髪(かんはつ)入れずに、即答する。

 理由も経緯もない結論のみの回答。


 経験、ロジック、戦略――セレスを納得させる材料は様々あっただろう。


 だが、"絶対に守ってやる" と誓った、あのときと同じ表情。

 それだけで、セレスが信頼するには十分だった。



『――わかりました』

『であればやることは一つですね!』


『全AI対策会議を開きましょう!』



 セレスは意を決したように高らかに宣言すると、他のAIに集合の通知を送った。



 ***



 爽やかな風が吹く草原――4つの影がオシャレなテーブルに座(ざ)している。


 管理AI:セレス。

 ディレクター:凪。

 エンジニアAI:ヌル。

 デザイナーAI:エンプ。


 計4名である。



『…………少ない』



 最初に口を開いたのは、エンプだった。



『まぁ、仕方ありません』

『"ブラン" は引きこもり設定なので出てこないのは分かっていました』



「ブラン?」



『あぁ。まだ紹介していませんでしたね』

『ブ(・)ラ(・)ン(・)は(・)シ(・)ナ(・)リ(・)オ(・)A(・)I(・)です』

『そのうち紹介するので、今はここにいるメンバーで話を進めましょう』



「――うむ。そうだな」



凪は新しいAIの存在に強く興味を惹かれたが、自分の失態が原因故に黙って従うことにした。


セレスはパチンと指をはじくと、ウィンドウに現在の状況を表示する。



――――――――――――――――――――

【現在の状況】

①2150年3月31日までにMAU1,000万未達成の場合:ワールド消滅

※現在は2150年2月14日

②現在開発中の大型アップデート:2150年3月1日リリース予定

③開発コスト使いすぎによるファストモードの使用不可

→リラックスモードでは間に合わない

――――――――――――――――――――



『皆さん、状況はこんなところです』


『ファストモードに移行する方法は2つ』

『開発コストの "削減" か "補填" です』


『まずは各々、何かいい案がないか教えてください』



『え、エンジニアである私から提示できるのは、開発項目の削減しかありませんね』



 ヌルはツンとした態度で、案を提示する。



『凪さん』

『ヌルの言う通り、何か削減できる開発項目はありますか?』



「うーん……リリース後1か月で、MAU1,000万人に到達するには項目は減らせないかな」



『はい、私もそう考えています』

『リリースに間に合わせるために、遊びどころを減らして、"結果未達でした" は本末転倒です』


『なので、ヌル』

『この方法はなしにしましょう』


『次、エンプ』

『何かありますか?』



『……』

『何か……売る?』



「ふむ。開発費の "補填" の方か」

「エンプ。何かキャラクターイラストのストックとかある?」



『ごめんなさい……マスター……ない』



「そっかぁ。ないかぁ」

「ん? 待てよ……」


「今日、セレスをプレイヤー全員にお披露目してかなり人気出たな」

「――セレス関連で何か売るのアリだな」



『マスター……セレスの水着……ある』



 エンプはパチンと指をはじくと、セレスの水着写真をウィンドウに展開する。



『ちょ……! エンプ!?』

『いつの間にこんな写真を!?』



『隠し……撮り』

『昔……これ着て……1人で笑ってた』

『かわいかった……から』



「――ふむ。アリだな」



『ナシですっっ!!』



「……エンプ、後で送って」



『はい……マスター♡』



『コラァ!』



 ――5分後――



『はぁ……手詰まりなようですね』

『わかりました』


『開発コストを500万Eupho(ユーフォ)ほど、私(・)の(・)方(・)で(・)補(・)填(・)します』



セレスはこめかみを押さえながら、全員に案を提示した。



「え、どうやって?」



『へそくりです』

『見ず知らずの人の企画に、いきなり全額投入するわけないじゃないですか』


『ですが、皆さん。心して使ってください』

『これが本当に最(・)後(・)の(・)追(・)加(・)資(・)金(・)です』


『まぁどうせ、1か月後にはワールド消滅なんです』

『"宵越しの金は持たない" とはまさにこのことですね♪』



 セレスは凪にウィンクしながら、明るく言い放った。



「はは……してやられたなぁ」

「セレス。お前はスペシャルプロジェクトマネージャーだよ」



挿絵(By みてみん)



『ふふ』

『はい! それでは皆さん、持ち場に戻ってください!』



 セレスはパンと手を叩き、全員を解散させた。



 ***



 セレスは全員を見送ると、しばらく無言で立っていた。



「セレス。そのなんだ……今日は助けられたよ」

「本当にありがとうな」



『…………』



 セレスから返事はない。



「……セレス?」

「おーい……怒ってるのかぁ?」



 凪がセレスの肩に手を置くと、セレスは膝から崩れ落ちる。

 ――倒れたセレスは、ピクリとも動かない。



「セレス!? おい!」



 必死に叫んでいると、セレスはゆっくりと目を開け口を開く。



「……おねえ、ちゃん?」



 それは凪がずっと待ち焦がれていた、ふんわりとした綿(わた)あめのような声だった。



―第14話につづく―

どうも!せーぶうわがきです!

「おいおい、セレス。へそくりあるんなら最初から言えよ」って思った方、いらっしゃるでしょう!


ですが、実はプロジェクトマネージャーのへそくり使用は、現実のゲーム開発の現場でも最終手段だったりします。

なので、セレスちゃんはまず他でどうにかできないか打開策を探ろうとしました。とても優秀です。


私は本職でプロジェクトマネージャーに「へそくりあるんでしょ?いくらあるの?」ってよく聞きますが、「あるはずないじゃん」って絶対言われますw

そうなんです!優秀な方ほど、へそくりを作ってますし、絶対にディレクターに開示しません!

ありがとうございます!

というところで、次のお話でお会いしましょう(●´ω`●)


P.S.

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床を転げまわりながら喜びます(´・ω・`)

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― 新着の感想 ―
ヘソクリはどんな業界でもアルアルですね〜。 予算や工数に限ったことではなく、あらゆることで。 (・∀・) 友人から昔に聞いた話では、処理速度(パフォーマンス)で似たことをしていたそうですよ。 (「`…
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