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3品目 ほくほく肉じゃが定食

 今日も今日とて、私は喫茶三日月の中に何かまだ知らぬものが無いか、と棚を開けてまわっていました。

 収納が多いので、見落としたものがあるのではないかと思ったのです。その結果、見事に見つけた物が木のお盆でした。

 明るい色の物と、暗い色の物。二つあるのはその時の料理や食器に合わせて使い分ける為ですかね?


 定食屋みたいだ、と大伯父はノートに書いていましたけれど、まさにそれらしいお盆です。これにご飯とおかずの乗せたら、確かに定食屋でしょう。

 それでも、深夜に疲れてお腹を空かせている人がいるのなら、喫茶店でも定食屋でも、別に構わないのでしょうね。

 私も使う事になると思うので、お盆は全体を拭いた後、取り出しやすいところに移動させておきました。


 その後も棚の中を見て物を引っ張り出した結果、箸置きや湯飲みなどを見つけました。いよいよ定食屋らしくなってきましたが、一か所にまとめられていた当たり、あの棚は定食屋セットが収納されている場所だったのでしょう。

 すぐに使うか分からないものは拭いたり洗ったりした後に同じ場所に戻して、使いたいときに分かるようにしておきます。


 そして、棚の中の捜査を満足するまでこなした後は、エプロンをつけて料理をすることにしました。

 定食屋セットを見つけたので、せっかくだしおかずの仕込みをしておこうと思ったのです。

 タブレットを確認して、食材を眺めつつ何を作るか考えます。やっぱり疲れた時には和食だ、と思うのは私が日本人だからだとは思うのですが、味のしみた煮物以上に心にしみるものを探すのは難しいのです。


 大伯父が定食屋みたいだ、なんて言いつつ和食を作っていたのも、恐らくは同じ理由でしょう。

 なんて考えながら食材を眺めて、作るものを決めました。

 用意するのは、男爵芋、人参、玉ねぎ、糸こんにゃく、豚バラ肉、さやえんどうです。それから調味料。出汁は市販の白だしらしきものが注文リストにあったので、それを使いましょう。


 まずはジャガイモの皮を剥き、芽をしっかりと除去します。そして少し大きめに切ったら水を張ったボウルの中に入れておいて、続いて人参を手に取りました。

 人参は皮を剥いたら乱切りに。切れた物はバットに避けて、次は玉ねぎです。

 玉ねぎは包丁で軽く切れ込みを入れたら外側の皮を剥いて、くし切りにしておきます。これも人参と同じバットへ。


 さやえんどうはスジを取って、別のザルに入れておきましょう。これで野菜の準備は完了ですね。次は糸こんにゃくです。

 糸こんにゃくはざっくり揃えて長すぎない程度に切りそろえ、これは塩で揉んでからザルに入れておきます。

 最後に、軽くまな板と包丁を水で流したら、豚バラ肉を一口大に切ります。あまり小さく切ると肉じゃがの肉の部分を感じ取れなくて悲しくなりますからね、程々の大きさにしましょう。


 食材が全て切れたら、小鍋にお湯を沸かせます。お湯が沸くのを待つ間にまな板と包丁を洗っておきましょう。

 お湯が沸いたら、そこに塩もみしていた糸こんにゃくを入れます。四分ほど茹でて、ざるにあけて水を切って、あく抜き完了です。

 続いて、少し大きめの鍋を用意します。これで煮込むので、少し余裕のある大きさが安心ですね。


 鍋を火にかけて、油を敷きます。しっかり熱されたらまずは豚バラ肉。くっつかないように炒めて、続いて糸こんにゃくを入れます。油が跳ねますが、負けずに炒めて続いて人参、玉ねぎ、ざるにあけて軽く水を切ったジャガイモも鍋へ。

 軽く全体を混ぜるように炒めて、水を投入。少し煮込んで、その隙に洗い物を済ませます。

 ただし、ジャガイモを水にさらしていたボウルはあく取りに使うので、まだ洗わずに水を張っておきましょう。


 洗い物をしている間にお湯が沸いたので、お玉を用意してあくを取っていきます。

 ちまちまあくを取っては捨ててを繰り返し、あくが出てこなくなったら味付けをしていきます。まずは砂糖。そして醤油、酒、みりん。

 酒とみりんは醤油の半量ほどで、全て入れたら軽く全体を混ぜて最後にさやえんどうを入れたら落し蓋をします。ちなみに探しても落し蓋を見つけられなかったので、今回はクッキングシートを丸く切って落とし蓋にしました。


 絶対どこかにあるはずなのですけれど、どうしても見つからなかったのです。また今度、しっかり探してみましょう。絶対あるはずなんです。大伯父が買っていないはずがありません。

 けれど、見つからなかったものは仕方ありません。今回はあきらめて、このまま煮込みます。

 ジャガイモにすっと竹串が通るくらいまで煮込んだら、落し蓋をしたまま火を止めて蓋をして冷まします。これであとは食べる時に再加熱すればいいので、仕込みは完了です。


 後でもう一度喫茶三日月に来て、その頃には粗熱が取れている鍋を冷蔵庫に入れることにします。

 使ったものを洗って水切りに置いたら、エプロンを外して喫茶三日月を出ます。肉じゃがを作っていたらお腹が空いたので、自分のご飯を作って食べることにしましょう。

 おにぎりが食べたい気分です。お味噌汁は、インスタントの物があるのでそれにしましょう。一人分を作るのは面倒ですからね、インスタントも美味しいですし、一人の時はそれで充分です。


 インスタントの味噌汁には具材を追加します。スーパーにみそ汁の具、というお湯を注ぐだけでいい物が売っていますからね。

 これを追加すれば八個入り百円のインスタント味噌汁も具材たっぷりになるのです。素晴らしい。

 あとは、卵焼きも作りましょう。喫茶三日月で定食屋さんの事を考えていたせいで、なんだか少しおかずも欲しい気分になってしまいました。


「漬物も出そうかな」


 考えながらお米を研いで炊飯器にセットして、スイッチをオンにします。炊けるまで少し時間があるので、その間に他の用事を済ませてきましょう。




 さて、一日家で仕事をしたり家事をしたり、やるべきことをやって過ごした後は、髪を一つにまとめて喫茶三日月に向かいます。

 スリッパを履き替えて喫茶三日月に降りたら、まずは掃除から始めましょう。

 まだ開店の時間までは少しあるので、その前に終わらせてしまいましょう。床を掃いて、テーブルを拭いて。そうして満足するまで掃除をしたら、手を洗ってエプロンを身に付けます。


 冷蔵庫から肉じゃがを取り出してコンロに置き、弱火で加熱しておきます。

 あとは副菜も欲しいので、何かしら作りましょう。何を作ろう、と考えながらとりあえずお米を研ぎます。研ぎ終わったら炊飯器にセットして、スイッチオン。続いてお味噌汁を作ることにしました。

 人にお出しするものなので、こちらではしっかり作りましょう。


 豆腐とわかめにしようかな、と具材を選んで注文し、小鍋に水を注ぎます。火にかけつつ顆粒出汁を注文し、小鍋に投入。

 豆腐を切って小鍋に投入。わかめは乾燥わかめなので、そのままぱらぱら入れます。増えますからね、入れすぎ注意です。


「……雑、ですかね?」


 そこまでやってふとあまりにも自炊のやり方、と手が止まりましたが、ここまで来たらこのままやるしかないので突き進みます。これ以外のやりかた、正直知りませんし。

 さて、お味噌もないのでお味噌も注文、火が通るのを待ちつつ副菜を考えます。

 タブレットで食材を眺めていたら、タコが目に付きました。……タコ。いいですね、タコ。キュウリも注文して、酢の物を作りましょう。


 というわけで、タコときゅうりを注文。現れたそれを一旦避けて、お味噌汁が沸いたので火を止めて味噌を溶かします。味見をして量を調整、ちょうどいいお味になったら、蓋をしておいておきましょう。

 さて、酢の物です。タコは茹でダコを買ったので、食べやすい大きさに切るだけで大丈夫です。キュウリは薄切りにして、わかめも入れたいのでボウルに乾燥わかめを入れて、たっぷりの水を注いでおきます。


 わかめが戻るのを待っている間に、キュウリを塩水につけておきます。そのまま使うと水っぽくなってしまいますからね。

 タコはボウルに入れて、そこにお酢と砂糖を入れます。わかめが戻ったら水を切って追加して、キュウリもしっかり水気を絞って追加します。軽くあえて、味見をして問題がなければラップをして冷蔵庫へ。

 使ったボウルを洗って水切り台に置けば、これで酢の物も完成です。


「……もう一品くらい、何か作りましょうか……」


 そんな考えを声に出しつつ首をひねって、何がいいかと考えます。

 再びタブレットを開いて食材を眺め、野菜の一覧をスクロールしていくと、ちょうどいい物を見つけました。ほうれん草です。

 胡麻和えにしましょう。そうと決まればほうれん草を注文して、大きな鍋を出してきてお湯を沸かします。そうこうしている間に時刻は十時を過ぎました。


 いつお客さんが来てもおかしくないので、少し急いだほうがいいかもしれませんね。

 とはいえ、作業を雑にするわけにもいきません。ほうれん草は一番下の茎の部分に十字の切れ込みを入れて、しっかり洗います。土などついている可能性がありますから、隙間までしっかりと。

 洗えたらざるに置いておき、お湯が沸くのを待ちます。お湯が沸いたら、茎の部分から入れて、先に茎にだけ軽く火を通してから葉の部分も沈めます。


 途中で上下を入れ替えて一分ほど茹でたら、シンクにざるを置いてお湯から上げます。軽く水で洗って触れるくらいに冷めたら、しっかり水気を切ってまな板の上へ。

 端を揃えて、一口大に切っていきます。すべてを胡麻和えにするわけではないので、今回使わない分はバットに移してラップをして、冷蔵庫に入れておきましょう。


 胡麻和えにする分はボウルに入れて、そこに白すりごまと醤油、みりんを加えます。混ぜ合わせて少し味見をして、問題なければラップをしてこれも冷蔵庫へ。

 水切り台に置いていた物を拭いて棚にしまったら、残っている洗い物を済ませてしまいましょう。

 これ以上は流石に作り過ぎかな、と思うので、洗い物が終わったら手を止めて、引継ぎノートを読むことにしました。


 最後まで読んだとは思うのですが、まだ何か情報が隠されているかも知れませんからね。

 ということで、何かないかなとノートを読み進めていたら、扉の開く音がしました。

 パッと顔を上げて、ノートを置いて立ち上がります。入口に立っていたのは、疲れた顔をしたスーツ姿の男性です。

 見慣れたようなスーツ姿に、日本に繋がったのかとも思いましたが、それにしては男性の髪色は鮮やかです。染めているわけではないのなら、やっぱりどこか別の世界に繋がったのでしょう。


「いらっしゃいませ、お疲れ様です」


 男性は、ぼんやりとした様子で店内を進んで、椅子に腰を下ろしました。まるで夢うつつ、という感じです。

 そういえば、最初はここを夢の中だと思うのでしたっけ。ということは、この方は大伯父のやっていた喫茶三日月には来たことのない方なのかもしれませんね。


「お腹は空いていますか?」

「……空いて、ます」

「分かりました、少々お待ちくださいね」


 前二日、喫茶三日月の常連だった方がいらっしゃってましたから、なんとなく今日もそうかと思っていましたけれど、基本的には初めていらっしゃる方の方が多いのかもしれません。

 なんて考えながら、お盆を出して、その上に箸置きと箸をセットします。

 ご飯をよそって、お味噌汁をよそって、続いて肉じゃがを。肉じゃがは、さやえんどうが上に来るように調整してよそいます。


 冷蔵庫から酢の物と胡麻和えを取り出して、小鉢によそって肉じゃがの横に置きます。

 うん、とっても素敵な定食です。喫茶店らしくないとか、そういうのは一旦置いておきましょう。

 一人頷きながら、出来上がった肉じゃが定食を男性にお渡しします。カウンターの上からで失礼しますね。


「どうぞ。苦手な物や食べられないものがあったら、無理せず残してくださいね」

「ありがとうございます」


 ぼんやりしつつも、しっかり受け取って手を合わせて食べ始めた男性の様子を少し眺めます。

 まずはお味噌汁から。一口飲んで、白米を構えて肉じゃがへ。……おぉ、どんどん口に運ばれて行きます。お腹が空いていたのかもしれません。


「おかわりもございますよ」


 もしかしたら足りないかしら、と思って声を掛けたら、こくりと頷かれました。咀嚼中に失礼しました。……そういえば、急須と湯飲みもありましたね?

 もう深夜なので、緑茶は避けた方がよさそうですが……何かお茶もお出ししたいですね。

 ということでタブレットを確認してみたら、黒豆茶を見つけました。これにしましょう。


 注文して、やかんに水を入れて火にかけます。棚から急須と湯飲みを取り出して傍に置いて、お湯が沸くのを待ちます。

 そしてふと男性の方を見たら、目が合いました。

 正面に移動すると、すっとお椀が持ち上げられます。


「味噌汁のおかわり、貰ってもいいですか」

「もちろんです」


 深夜にお味噌汁はしみますからね。少し温め直してからよそってお渡しして、続いて白米のおかわりをよそいます。肉じゃがと小鉢もありますからね。

 いっぱい食べてくれるのは嬉しいです。直接美味しい、と言われたわけではありませんが、こうも黙々と沢山食べてもらえると、美味しかったんだろな、と思えるので。


 そうして、最終的には肉じゃがと小鉢もおかわりをお渡しして、黒豆茶もお出ししたところでようやく箸が止まりました。相当お腹が空いていらっしゃったんですね。

 深夜に空腹で、これから帰るところだったのでしょうか。大変ですね、なんて知ったような口を利くことはしませんけれど、お腹が満たされて少しでもゆっくり休めたらいいな、とは思います。


「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末様でした。帰り道もお気をつけて、ゆっくり休んでくださいね」

「はい」


 差し出されたお盆を受け取って、お代はもう受け取りましたよ、と告げて。去って行く背中を見送って、しっかり扉が閉まったら洗い物をすることにしました。

 食器を洗って、お盆を拭いて、冷蔵庫に入れられるものはどんどん入れていきます。

 最後にカウンターもしっかり拭き上げて、今日はこれでおしまいですかね。エプロンと台拭きと食器を拭く布巾を纏めて洗濯物を入れる穴に入れて、私も家に戻ることにしました。


「と、その前に」


 帰ろうと思った姿勢から二歩ほど戻って、タブレットを開きます。

 そして世界の項目を確認してみると、新たに三つ目の名前が追加されていました。国や都市の名前は全て?で埋まっていましたが、新しい世界に繋がったことを確認できたので満足です。

 やっぱり見慣れたスーツ姿と言っても、別の世界の方だったのですね。


 確認できて満足したので、タブレットをしっかり戻して家に戻ることにしました。

 戻ったらさっさと寝支度を整えて就寝するとしましょう。明日もまた、やる事は色々ありますからね。

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