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負けず嫌いの転生 〜今度こそ幸せになりたいと神様にお願いしたらいつの間にかお姫様に転生していた〜  作者: 山里 咲梨花


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始まりの終わり

 フィデスディスレクス領で過ごす三日目。


 昨日は、お母様とお兄様方は王宮に転移陣で帰った行った。

 今日は、お兄様方が転移陣作成に立ち会うために改めてフィデスディスレクス領に来る。そして、転移陣作成が終わったらみんなで結界を見に行く。

 お父様曰く『真のコントラビデウスとして知っておくべき事』だからだそうだ。

 そういう訳で、残念だけどお母様はお留守番だ。

 


 昨日と同じように、禊という名の入浴を済ませて朝食を取ったら、洗礼の衣装に着替えさせてもらう。

 着替えを側仕えに任せるのにも随分と慣れて、違和感が無くなってきた。


 あんなにぎこちなかったのが嘘みたい。


 今日の私は、結界を見に行く約束をしているからとても機嫌が良い。


 神の御業の結界なるものを直に見れるのだ。

 転移陣作成にも力が入るってもんよねぇ。

 うふふん。

 早く終わらせて結界を見に行くんだぁ。


 私はいそいそとメアリの指示に従って鏡の前の椅子に座る。


「今日の姫様は随分と機嫌がよろしゅうございますね」

「そう見える?」

「ええ、見えますとも。姫様の笑顔を見ると私共も嬉しゅうございます」

「そうなのね。うふふ」


 鏡に映る自分を見ても、もう違和感はない。

 今の境遇や生活に慣れてしまい、今ではすっかり順応している自分がいる。


 転生に気づき、周囲を信用する事が出来ないでいる頃は、順応する事を無意識に拒否していた。

 その頃は、無意識に鏡を見ると、鏡に映った今の顔に前世の自分の顔が重なって二重に見えたりなんかしていた。今はそれも無くなって鏡にはアデルの顔しか見えない。

 〝家族に愛されている〟という実感が、前世の不遇を忘れさせてくれて、現実を直視する勇気を持たせてくれて、自然と現在(いま)の私を受け入れていたのだと思う。


 それに六つ柱の大神との関わり方も、前世での私の不運を嘆く気持ちを打ち消す材料になっている。

 もちろん油断して甘えるなんて事は絶対にしないけど、少なくとも〝この世に神様なんかいない。いたとしても私の味方ではない〟なんて悲観的な考え方はしなくなってきている。

 だってこの世界では神様は実在していて、実際にこの目で見て、直に話してるんだもの。疑いようがないよね。


 とは言え、この世界だって神の存在を確認できるのはトールトスディス国の王族のみのごく少数で、他の大多数は確認なんてできない。

 もしかしたらだけど、前世の私は他の大多数に属していただけで前世の世界でも神様は存在していたのかもしれない。


 ただなぁ、こればっかりは確認しようがないんだよねぇ。

 今となってはどうでもいい事だけどぉ。


 思えば転生してから一年が過ぎようとしている。

 くどくどと何が言いたいのかというと、頭で理解するだけでなく、一年かかって心が追いついて、自分がアデリエル・ル・セス・コントラビデウスである、と漸く腑に落ちたという事である。


 極論、別の人生を歩むって事だよ。

 続きじゃないって事だよ。

 何もかも前世とは違うって事だよ。

 それを良しとする事だよ。

 ホント不器用だよねぇ、私って!

 負けず嫌いなのって心を固くする弊害があるよね、うん、実感。

 

 ※ ※ ※


 今から作成する転移陣は、王城の庭と領主館の庭を繋ぐものだ。それは非常時に或いは必要な時に、騎士と騎獣を一度に王城から領地に移動させるための国王専用の転移陣だ。

 第一義はそれだとしても、国王の考え一つで応用の幅が広い転移陣ではある。


 私は、部屋に迎えに来てくれたパティの案内で整地された中庭に出た。


「まあ、ずいぶんと綺麗に整地されているのね。新しいお庭を作るのかしら?」

「いえ、そうではなくてですね」

「お庭ではないの?」

「えと、最初から説明しますね。まず、わたくしが初めてこの中庭を見た時はとても酷い状態でしたの」

「酷い? とは?」

「地面には何ヶ所も大きな穴が空いていて、あちこちに焼け焦げた何かが散乱しておりました」

「まあ、原因は判っているの?」

「はい、何回も落雷があったと聞きました」


 おうふ、神罰だ!

 さては転移陣の破壊を狙ったな。

 だから、やり過ぎだって!


「前も言いましたが、貴族の殆どが被災していましたし」

 

 それも神罰な。


「領民達は手の施しようがなくて放置していましたから」


 他人の家(ひとんち)、それも貴族のものに領民は手出しできないって


「わたくし達が来るまで被災状況の現状維持がなされていました」


 いやー、パティったらキレイな言い方したねぇ。

 ホント、六つ柱の大神はやり過ぎだよ!

 ツッコミどころ満載じゃねえか!


「だから被災状況の確認ができたという事かしら」

「そうなのです。初めて見た時お祖父様は、まるで戦場だ、と仰いました」

「まあ、想像もできないほど酷かったのね」

「ええ、それで綺麗に整地し直したのです。庭としての整備は、他に優先する事がたくさんあるので後回しにされるようです」


 あれ?

 パティのお祖父様ってフィデスディスレクス侯爵だよね。

 戦争の経験があるのかな?

 近代史はまだ習ってないから分かんないけど……。

 嫌な予感がする。

 今は深掘りするのやめとこ!

 

 ※ ※ ※


 お兄様方は、グラーチェおじ様と一緒にやってきた。

 グラーチェおじ様は、後日のために魔法師団長としての確認が必要である、などと言い訳をしながらお兄様方の付き添いを主張している。どうやら神事だと聞いて好奇心が抑えられなかったらしい。

 お父様はニヤニヤしながら同席を許していた。国王であっても愛する弟には甘い一面があるという事だ。それにグラーチェおじ様は歴とした真のコントラビデウスなのだから何も問題はない。


 その上で、グラーチェおじ様は小声でお父様に直談判を始めた。

「兄上、実は義父上も同行したいと駄々を捏ねまして……。宥めるのにとても苦労いたしました」

「ククッ、ステラ叔父上ならばさもありなん。それで?」

「『義父上は兄上に代わって城を守るお役目があるでしょう。私がこの記録映像の魔術具でしっかり記録して参りますから我慢してください』と申し上げてなんとか宥めてやっと収まったのです。だから兄上、魔術具で記録する許可をください」

「ふむ。記録か……。神事は映らぬかもしれぬぞ? 良いのか?」

「もちろんですとも。ただの口実ですから」

 グラーチェおじ様がニンマリと笑って胸を張る。

 お父様は呆れた顔をしておじ様に許可を出した。


 全員が揃って場が整ったところで、昨日と同じ様に転移陣作成を開始する。

 お兄様方はお父様と一緒に、侯爵一家は昨日より離れた位置に控えている。

 グラーチェおじ様は連れてきた配下の魔法師に侯爵一家の後ろから魔術具で記録するように指示をした後、お兄様方の後ろに控えた。


 これだけ距離があれば、こちら側の盗聴防止の魔法だけで私が聖句を唱える声は聞こえないだろう。という事で、今日はグラーチェおじ様が盗聴防止の魔法を展開した。今日のお父様は、昨日よりもたくさん魔力を使う予定だからだ。


 今日は外だし、遠巻きに見ている見学者が多いなぁ。

 なんて呑気に考えていたのだが間違いだった。

 二回目だからスルスルと進むだろうと思っていたのも甘かった。

 神力が絡むと想定外の事が起きるのがマストなのかよ!


 屋外だからだろうか。聖句によって私の掌の上で具現化した神力が、自然に影響を及ぼしている。

 この神力が周囲の自然に与える影響は、一般人にもガッツリ見えていたらしい。

 何故なら私が聖句を唱えるごとに周囲がどよめくからだ。


 まず火の聖句では一般の人々には見えないはずの神力の火の玉の周囲に、盛大な陽炎が現れてユラユラと揺れて見えたらしい。


 なんで? 熱くないのに!


 次の風の聖句では、私の掌上の白く光る神力の渦巻きが私の周囲の空気を動かして風を起こし、その風を同心円状に広げてしまった。


 これくらいまでなら誤魔化せた、というかシラを切り通せた。

 いや、そよ風なら普通に起こるから!


 水の聖句では掌上の水の塊が空気中の水分を呼び寄せ、まるでミストシャワーの様になってしまった。


 おかげで衣装がじっとりと湿ってしまった。

 私は動いてるから暑いけど、みんな寒くないかなぁ。


 土の聖句では神力が掌の土の塊だけでなく周囲の植物まで成長させてしまった。


 私の足元の周りだけ新芽が出てきてあっという間にニョキニョキだよ。

 ちょうど整地されてて何も生えてなかったからなぁ。

 分かりやすいったらありゃしない。


 しかも、闇の聖句では晴天なのに急に陽が翳ったように周辺が薄暗くなり、光の聖句では翳りが消えた途端に私が光ったらしい。

 らしいというのは、直後のパティとの会話で知ったからだ。


「アデル姫、昨日の室内での舞も素晴らしかったのですけど、お日様の下での舞はもっともっと素晴らしかったですわ!」

「あら、そうなの? どうもありがとう?」

「姫様ったら自覚がありませんの? あんなに魔法の効果が目に見えておりましたのに!」

「魔法の効果が? どんな風に?」

「わたくしがもっとも素晴らしいと思ったのは最後の方ですわ。急に辺りが薄暗くなりましたけど、わたくしは気にせずずっと姫様の舞う姿に見惚れていましたの。でもすぐに明るくなって姫様の周りに光の粒が舞い始めたのですわ。」

「光の粒?」

「ええ、光の粒がキラキラと輝いて、姫様からも光が輝いて、ああいうのを後光がさすと言うのかしら。姫様の舞に合わせて光の粒が舞っているようで、まるで光の女神のように美しく荘厳で、魔法の効果が姫様の舞姿を引き立てて……。」


 私はその時点で、パティの怒涛の褒め言葉に押され気味に引いてしまう。

 パティが神力の影響を魔法と誤解しているのならば、そのままにしておいた方が良いだろう。

 申し訳ないが本当の事は言えない。

 当のパティは両手を胸の前で合わせた姿で目を閉じ、ほうと感動のため息をついている。


「あんなに素晴らしい舞を見たのは初めてでしたわ」


 どうやらパティの自分の感動を私に伝えたい欲求はひと段落したみたいだ。

 私は、そんな風に見えていたとは思っていなかったので、何と答えるのが正解なのか皆目見当がつかない。

 だから自然と困った表情になってしまったのだろう。

 パティは私の顔を見てポンと自分の胸を叩く。


「アデル姫、大丈夫ですわ。神事を見た人達は皆、我が侯爵家の配下の者達です。お祖父様が箝口令を敷くと仰ったので漏れたりしません。もちろんわたくしも誰にも言いませんわ」

「でも遠巻きに見ていた人が結構いたけど……」

「あれは侯爵家の騎士達です。神事を見られないように警備していたのですわ」

「そうなのですね」

「ええ、お祖父様が領主として差配すべき事ですからアデル姫は何も心配なさらなくても良いのですわ」

「侯爵がそう仰ったの?」

「はいっ」


 パティが元気よく嬉しげに太鼓判を押してくれたのだ。心配するのはやめよう。

 そう思ったのだが……。

 

 アデルは、自分の事を一部の人達が『妖精姫』だと噂している事は、すでにお兄様方に聞いて知っていた。

 だが噂とは思いもよらぬもの。

 今日の出来事を発端にして一部の人に『神子姫(みこひめ)』と噂されている事を、アデルが知るのはノビリタスコラの三年生になってからの事である。


 ※ ※ ※


 お父様が、新しい転移陣で近衛騎士と騎獣を連れてくると言って王城に転移して戻ってきた時には、イザークおじ様も一緒に連れて来ていた。


 結局、結界の視察は、お父様(国王)ディー兄様(王太子)イザークおじ様(宰相)ロベールおじ様(騎士団長)グラーチェおじ様(魔法師団長)という国の重鎮に加え、シル兄様(第二王子)(第一王女)という国事行事のような顔ぶれが揃ってしまった。

 そうして大人数で出かけた結界の視察は、南西の方向から結界に当たって方向を変え、北に続く大量の魔獣の足跡を確認する事がメインであった。


 肝心の足跡そのものは、羊や牛のような蹄ではなく熊の足跡のように大きくて爪が鋭い獣のようだった。

 ヴェシュヴァ(牛羊)ってどんな形状をしてる魔物なんだろ?

 大人達は確認や検証に余念がないようなので、近くにいた護衛騎士のセブランに尋ねる。


「セブランはヴァシュヴァ(牛羊)を見た事があるのですか?」

「はい、ですがこの様に群れで行動するところは見た事がございません」

「そう、群れで行動する事自体が珍しいという事なのね。どんな見た目をしているのですか?」

「見た目ですか? そうですね。体高は姫様と同じくらいでしょうか。パッと見は牛のように大きい羊でしょうか。子連れの場合もありますが、基本は単独で行動しています」

「それは繁殖しているという事? 魔物って魔力溜まりから発生するのではないの?」

「そこはまだ判っていません。他に子連れの魔物は見た事がありませんので」

「ふーん、そうなのね。やっぱり討伐は難しい?」

「いえ、ヴァシュヴァの討伐は比較的簡単な方でしょう。もっと凶暴な魔物がたくさんおりますので」

「凶暴?」

「はい。ヴァシュヴァは人間を見れば襲ってくるといった類の魔物ではないように思います。やり過ごす事も出来ますので。ですが、だからと言って侮ってはいけません。所詮、魔物は魔物です」

「解ったわ。ありがとう」


 私が魔物討伐をする機会は無いだろうけど、セブランはキチンと教えてくれる。

 多分、私の好奇心を満たしておかないと何をしでかすか判らないと思われている節がある。

 それはセブランだけでなく側近達共通の認識らしい。

 私の中の大人の部分が思う。


 有り難いねぇ。


 ところで、私は神力を見ようと思えば見えるので、結界を直に見る事が出来る。

 もちろん私以外の人は誰も見る事が出来ない。

 私には結界が分厚いシャボン玉のように虹色に光って見える。手を差し出しても触れることは出来ず、そのまますり抜けてしまう。

 つまり、見る事ができる、ではなくて、見る事しか出来ない、と言った方が正確である。

 魔力の登録が無い人は弾かれるのだそうだけど、生憎ここにはそんな人はいない。皆、歴とした王国人だからだ。

 

 普通に結界をすり抜けて行き来する騎士達を見ながら、不思議だなぁと思いながらもこんなもんなんだろうと納得する。

 私も少しずつではあるが、この世界の当たり前に慣れていっているのだ。

 まだまだ子供なんだもの。

 これから他の子どもと同じようにこの世界の常識を身に付けていく。


 無事に神々に頼まれた転移陣を設置したし、おまけで結界もこの目で見た。

 自分が愛し子であるが故に起きた神々の暴走の後始末で、自分にできる事はこれで終わりかな?

 あとは侯爵や領民にお願いして復興してもらうしかない。


 私はまだ子供なんだもの。

 出来る事は少ないよ。

 この世界に生まれ変わった事。

 王女である事。

 神の愛し子である事。

 いろんな事を投げ出さずに精一杯楽しんで生きていこうと思う。

これでアデルの転生物語は終わりです。

目次のナンバリングと説明や表現の不足を補填してから完結したいと思います。

最後まで読んでいただきましてありがとうございました。

次はアデルの成長物語を描ければと思っています。

よろしければ⭐︎での評価やリアクションなど頂けますと今後のモチベーションになります。

よろしくお願いします。

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