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負けず嫌いの転生 〜今度こそ幸せになりたいと神様にお願いしたらいつの間にかお姫様に転生していた〜  作者: 山里 咲梨花


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パティとお茶

室内の転移陣を設置し終わりました。

明日の屋外の転移陣設置に向けてゆっくりと過ごします。

 無事に転移陣の設置を終えて自室に戻った後、着替えて休憩する。

 さすがに長時間集中していたので疲れを感じる。


 心は大人だけど身体は子どもなのだ。

 疲れからくる眠気に大きな欠伸が出た。

 お腹が空いているのに眠くてたまらない。


「姫様、少しお昼寝をなさいませ。お疲れでございましょう?」

「うん、眠い…」

「ささ、ベッドにお入りになってくださいませ」


 メアリが甲斐甲斐しく私をベッドに連れて行ってくれる。

 私がモゾモゾとベッドに這い上がると、メアリが靴を脱がせてくれて、オリビアが毛布をかけてくれる。

 イザベルが、お休みなさいませ、と小さい声で言いながら天蓋を降ろしてくれる気配を最後に、私は深い眠りに落ちた。


 目が覚めると、すぐにお腹が空いていた事を思い出す。

 私が体を起こしてベッドから出る体制になると、イザベルが天蓋の隙間を少し広げてニッコリ笑う。


「姫様、お目覚めですか。天蓋をあげてもよろしゅうございましょうか?」

「うん、お願い」

「よくお眠りでございましたね」

「私はどれくらい眠っていたの?」


 イザベルが天蓋の布を柱に括り付けながら答える。

「左様でございますね。一刻(2時間)ほどでしょうか。お腹はお空きではございませんか?」

「うん、お腹ぺこぺこ。昼食の時間は過ぎているのでしょう?」

「はい。国王陛下が寝かせてやれと仰せでございましたので」


 そっか。

 ご飯は食べられるのかなぁ?


 そこへメアリとオリビアが部屋に入ってくる。

「姫様、お食事の支度を頼んで参りました。パトリシア様から同席なさりたいとの申し出がありましたがよろしゅうございましょうか?」

「パティが? まさか私を待っていたのではないでしょうね?」

「パトリシア様は敢えて昼食を軽く済ませられた様でございます。姫様がお一人で食事を取るのは寂しいのではないか、と心配されたご様子でした」


「そうなの? お待たせしちゃったかなぁ」

「パトリシア様の侍女は、パトリシア様は食後のお茶の時間に姫様とおしゃべりがしたい、とお考えになった様だ、と申しておりました」

「あ、お茶会!」


 メアリは私の言葉に頷きながら続ける。


「姫様、パトリシア様の侍女と打ち合わせいたしましたが、今回の滞在中にお茶会を催すのは、スケジュール的に時間の確保が厳しい様です。わたくしはお茶会よりも普通にお茶の時間を共にされる方がお二人にとって良いのではないか、と考えたのですが…」


 メアリが考えながら話す様に頬に手を当てて進言してくる。

 私はメアリの進言を聞いて、はたと思い当たる。


「そうよね。短い時間を何回も! 長い時間を一回よりそっちの方が断然良い! きっとパティも同じ様に考えたんだわ」


 私は自分の言葉にうんうんと頷きながら納得する。


 そうよ。

 お茶のたんびにパティを誘えばいいんだわ。

 同じ館にいるんだもの。

 出来るじゃない!

 うちじゃ家族でもそんなこと滅多に出来ないからなぁ。

 考え付かなかったよ。

 うちって王家だもの。

 貴族家の普通とうちの普通は違うところが沢山あるんだろうなぁ。

 うーん、ところで普通って何?


 寝起きの頭の中でぐちゃぐちゃと考えながら食堂へ向かうと、パティが待っていてくれた。

「アデル姫、お目覚めになられたのですね。お腹がお好きでしょう?」

 私を見たパティはパタパタと私に走り寄り、私の手をエスコートする様に引いて歩き出す。

「パティ、お待たせしてごめんなさいね」

「わたくしがしたくて待っていたのです。ご迷惑でなければご一緒させて下さいませ」

「もちろん。嬉しいわ」


 パティが私の返事に嬉しそうに笑って案内したのは、食堂に付属するテラスに設けられた丸テーブルだった。


「アデル姫、このテラスは家族でランチをとる時によく使うのです。まだ、新しいので植物も小さいのですけれど、将来は周囲をバラの蔓が取り囲むように設計されているのですよ」


 パティが楽しそうにテラスや庭の説明してくれるのを聞いている間に、テーブルの上にはサンドイッチやサラダ、フルーツが食べきれない程に並べられていた。

 最後に熱々のポタージュスープが供される。

「アデル姫、まずスープからどうぞ。我が家のシェフ自慢のコーンポタージュですのよ。採れたてのとうもろこしを使っていますの。ああ、熱いですからお気をつけてくださいませ」


 パティは、ワクワクしている様子で隣に座って私を見ている。

 私はふうふうとスープを冷ましながらゆっくりと味わう。

 うん、美味しい。

 城ではスープが熱々で供される事は滅多に無い。

 とうもろこしの味が濃くて、滑らかなクリームを感じる。


 それから私の食事が終わるまで、パティはお姉さんの様に何くれとなく私の世話を焼いてくれた。

 パティの侍女はその様子を微笑ましげに見ているし、メアリ達は最初は驚いていたが、私が嫌がらないので口出しせずに黙って見ていてくれた。


 うん、パティは外見と違ってガッツリ長女気質なんだね。

 貴族だけどパティは弟妹のお世話をしているのかなぁ。

 弟妹が3人もいたらそうなるのかなぁ。


 前世で一人っ子、今世では末っ子の私であるが、不思議な事にお姉ちゃんが欲しいと思った事が無いように思う。

 側近ではない人にお世話されるのは、嬉しくもありくすぐったくもある。

 初めての感覚に少し面映い。


 私達兄妹は個別に養育や教育がなされているけど、お兄様たちはそれなりに私を大切に思って気を使ってくれている。しかし、手取り足取りお世話をされた事は、なかった様に思う。

 

 お兄様たちは私の兄であると同時に、将来国を担う王子だものね。これは持って生まれた役割の違いなのかなぁと想像する。

 パティは今でこそ領主家の総領娘だけど、ついこの間までは中央貴族の跡取り娘だった訳だしね。



 食事を終えると、そのまま食後のお茶の時間だ。

 パティは、目の前のお茶やお菓子に目もくれず、午前中の転移陣作成の神事が、自分の目にどのように見えていたのかを熱っぽく語り出した。


「わたくしは他の人が魔法を使っているところは、領地に来てから何回も見る機会がありましたの。でも、そんなものとは比べ物にならないほどにアデル姫様の神事はとても美しくて、キラキラと光る粉が舞って、キラキラの中で神子姫様(みこひめさま)が舞っているお姿は本当に神秘的で、ああ、なんと表現したら良いのか分からない程素敵でしたわ」


 おおっと、熱い。

 パティの感想が熱すぎる。

 あああ、そんな風に見えたのね。

 巫女姫?(音だけを聞いて勘違いしている)

 わたしゃ舞なんぞ舞っておらんのだが…。

 本当の事は言えないしなぁ。

 困ったね、こりゃ。


 ここでパティは夢見る様な笑顔をキッと引き締めて、苦笑する私をじっと見つめて宣う。


「アデル姫様、わたくし父から、この神事の事は口外無用、ときつく言い渡されております。王家の秘密に関わる事だからと説明されました」

「ええ、そうしてくださいませ」

「ですが、わたくしの心の中は歓喜で満ちております」

「ん? え?」

「わたくしはアデル姫様にお友達にと望まれました。我が国の神子姫様(みこひめさま)がわたくしのお友達なのです。こんな誉れはございません」

「いやいや、普通に、普通のお友達になって欲しいのですが…」


 ここでパティは、興奮を抑えるように深く息を吐いてにっこりと笑う。


「もちろんでございます。少し取り乱しました。申し訳ありません。これからも普通のお友達としてよろしくお願いいたします」

「ええ、普通でお願いしますね」


 だからぁ、普通って何?


 パティのふんすと鼻息荒いお願いに、苦笑と共に返事をする。

 どうやら友達という名の庇護対象だと認識されたようだ。

 いやはや、普通、とわざわざ言う時点でおかしいんだけど…。

 でも、ま、なんとなくこちらの事情を知ってくれているのはそれはそれで有り難いし、それが極秘事項だと理解をしてくれるのなら、もっと有り難いと思う。

 これから先のお付き合いの中で、例えば何かが起こって詳しく説明できない時に王家の秘事だと言えば良いのだからね。

 嘘や誤魔化しを言わずに付き合えるのは、本当に有り難いと思う。

 降嫁した王女の娘だもん。その辺はセラフィおば様に確認してくれるだろう。


 私は、こんな感じで大丈夫かなぁ、と思いながらメアリの方をチラ見する。

 ところが、メアリにしては珍しく何かに気を取られたようによそ見をしていた。

 

 私は、メアリが何に気を取られているのかが気になって、周囲の気配を探る。

 テラスの反対側である館の表側の方がザワザワしている。

 フッと影がさしたので見上げると、5名の騎士が騎獣で領主館を飛び越えて行く背中が見える。

 何か不測の事態でも起こったのだろうか?

 私がセブランを見ると、セブランは私に頷いてマルクに何か指示を出した。

 パティも騎獣で飛んで行く騎士に気付いて、侍女に何があったのか確認するように命じている。


 しばらくして戻って来たマルクは厳しい顔でセブランに何事か報告した。すぐに、セブランが私の後ろから耳打ちをする。


「姫様、よろしいでしょうか」

「何か起こりましたか?」

「はい。魔物が暴走している模様です」

「魔物が暴走? どこで? それはスタンピードとは違うのですか?」

「はい。詳しい事は分かりませんが、どうやら結界の外のようです。マルクが事情を聞いた者はスタンピードだと言い切らなかったと申しております。今、この領地の騎士団が確認と領民の避難誘導に動いているそうです」

「結界の外にいる人達を結界の中に誘導しているという事ですか? 間に合うのでしょうか?」

「おそらくまだ距離があるのでしょう」

「その魔物の暴走は、どうやって判ったのですか?」

「国境を守る兵士から報告があったそうです」

「そうですか。心配ですね。それで、わたくしはどうしたら良いのでしょう?」

「姫様のお役目は護衛に守られる事です。今は静かにお見守りください」

「分かりました。ありがとう、セブラン」


 パティの方も同じく報告を受けたようで、今度は専属次女に自分の祖母と母親に指示を仰ぐように命じている。

 おそらくパティも今まで経験した事が無い事態のようだ。少し指先が震えているけれど、取り乱したりはしていない。私に不安を与えないように気丈に振る舞っている。

 私はパティの両手を取ってニコリと微笑む。


「パティ、どうやら不測の事態のようですね。とは言え、わたくし達に出来る事があるとも思えません。ここは落ち着いてお茶をいただきましょう」

「はい、アデル姫。すぐにわたくしの侍女がお母様のお話を聞いて来てくれます。わたくしがお側におりますからご安心くださいませ」


 その時、遠くで花火が上がっているような、ぼんやりとした音がドドドドンと連続して聞こえてきた。

 その音は少し途切れてはまた繰り返して聞こえてくる。

 私の護衛騎士たちが警戒の色を強めて周囲を見渡している。


「姫様、念のため邸内に入りましょう」

「分かったわ、セブラン。パティも一緒に入りましょう」

「はい、そういたしましょう」


 私とパティは側近達に守られて邸内に引っ込んだ。


何やら不穏な動きがあります。

スタンピードとは少し違うようですが…。

次は今回の続きになります。

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