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負けず嫌いの転生 〜今度こそ幸せになりたいと神様にお願いしたらいつの間にかお姫様に転生していた〜  作者: 山里 咲梨花


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王女としての公務

いよいよ三泊四日の公務の始まりです。

 ルーチェステラ王治世10年9の月風の日、ノビリタスコラの終業日前日。


 私とお父様は、フィデスディスレクス領に向けて二人で先発する。

 私もお父様も側近を連れているし、それなりの数の近衛騎士を同行させるので、この大所帯でどうやって移動するのだろう、と思っていたら、アッサリと転移陣を使うと言われた。


 だよね。

 馬車で2週間はかかるってメアリが言ってたもん。

 私にしては珍しく今から緊張してるみたい。

 頭の中で神殿で見た映像をリフレインさせてばっかだったからなぁ。

 責任重大だよぉ。

 いやいや、それも楽しみの内だよ、うん。

 

 初日の今日は、午前中にフィデスディスレクス領に隣接するテルミノスモンス領に転移して、午後に騎獣でフィデスディスレクス領に移動する。

 テルミノスモンス領からフィデスディスレクス領までは、騎獣で半日かからないらしい。

 そのまま新しい領主館に一泊して、翌日の午前中に屋外の転移陣を設置する。

 その後、新たに設置した転移陣の試運転を兼ねて、お母様とお兄様方が転移して合流する。

 屋内の転移陣は、魔力の回復の為に時間を空けて、三日目の午前中に設置する。

 そして、四日目に転移陣で城に帰る、という旅程になっていた。


 私は初めて知ったのだけど、騎士団や物資を転移する大規模な転移陣は、王城と騎士団詰め所の間の広場に設置してあるのだそうだ。

 その転移陣で、人、騎獣、荷物を一気に移動する。


 すげえ!

 どんだけの大きさなんだろ、その転移陣!

 見るのが楽しみぃ〜・・・ん?

 てか、それを造んの?

 私が?


 集合場所の王城前の広場に移動しながら不安になった私は、お父様に駆け寄ってこっそり大丈夫なのか尋ねる。

「お父様、六つ柱の大神に習ったとおりにすると、私が造る転移陣はかなり小さいと思うのですけど大丈夫なのでしょうか?」


「ふふふ、大丈夫だ。転移陣の設置は其方(そなた)しか出来ぬが、転移陣の大きさの調整や設定等は私の仕事だ。心配せずとも良いのだよ」


 お父様が、余裕の笑みを浮かべてそう言うのなら大丈夫なのだろう。

 私は、安心して準備に集中する事にした。

 

 今回のお供は、側仕えが3名(メアリ、オリビア、イザベル)と護衛騎士3名、それに騎獣4頭である。

 メアリは夫のクリストフがお父様の側仕えとして同行するので、夫の騎獣に同乗する。そして、イザベルは自分の騎獣で移動するが、オリビアはイザベルの騎獣に同乗させてもらう事になっている。


 オリビアは、夫の騎獣を借りる事も考えたけれど普段から騎獣に乗り慣れている訳では無いので長距離の騎獣移動は自信がない、と言って、イザベルに同乗させて欲しいと頼んでいた。


 イザベルは、自分の騎獣はユスティス(ポニーの様な小型の馬形)でそれほど力がある訳ではないから大丈夫だろうか、と悩んでいたところ、それを近くで聞いていたセブランが、重量軽減の魔法を使えば大丈夫だろう、とアドバイスしていた。


 なぬ?

 重量軽減の魔法とな?

 また新しい魔法だ!

 いろんな魔法が有るんだねぇ。

 あー、早くちゃんと魔法を習いたい!


 私の初めての外泊が、三泊四日の公務である。

 お父様と一緒の旅であっても、呑気に新しい魔法に気を取られていても、ビビリの私は内心では緊張していたりする。


 目の前の側近達は、特に慌てる様子もなく粛々と準備を進めている。

 私はその様子を頼もしく眺めながら、無意識に、転移陣設置の魔法を賜った時の映像を頭の中でリフレインしてしまうのだった。


 やがて同行者が勢揃いする頃になると、お母様が見送りに出て来た。

 お兄様方はノビリタスコラに行っているので、前もってお出かけの挨拶を済ませている。


「お母様、お見送りをありがとう存じます」

「アデル、気を付けて行ってらっしゃい。転移陣が出来たら、わたくしも参りますからね」

「はい、お母様。楽しみにしております」


 私をギュッとハグしてくれた後、お母様はお父様に行ってらっしゃいの挨拶をしている。


 挨拶がひと段落すると、お父様が(おもむろ)に呪文を唱えた。

アレクディシプリナム(勅命) エクシィ(出でよ)


 すると、目の前の地面にじわじわと紋様が現れてきた。

 おおっと驚きながら見ているうちに出来上がったのは、直径が20mはあろうかと思われる巨大な転移陣だった。


「総員、転移陣の中に整列!」


 騎士団長であるロベールおじ様の掛け声で、全員動き出す。

 私とお父様が転移陣の中心に移動すると、私の周りを側近達が取り囲む。


「総員、騎乗!」


 ロベールおじ様の掛け声で、近衛騎士と護衛騎士が騎獣に騎乗して私達の周囲を取り囲む。ただし、掛け声をかけたロベールおじ様はお父様に、セブランは私に、騎獣を従えて近くに控えている。

 騎乗した騎士達は、側仕えや文官を含む非戦闘員を内側に配置した形で、全方位を警戒している。


 そりゃそうだよね。

 転移してみたら周りは敵だらけなんて事も考えとかなきゃ。

 用心するに越した事なし!


「では、参ろうか」


 そう宣言すると、お父様は転移陣に魔力を流し始めた。

 すると、転移陣が六つ柱の大神の属性色に輝き始め、転移陣の縁から六色の光が虹の様に綺麗に並んで昇り立ち、私達を取り囲んだ。

 そして、その虹の光は縁に沿って回転を始め、回転が早くなるにつれて回転する方向にウエーブを描き出した。


 うぉー、前世で小さい頃に見た床屋さんの赤と白の回転灯みたい!

 なんか目が回るヨゥ!


 気持ち悪さにギュッと目を閉じて、転移陣の光を意識からシャットアウトする。

 次の瞬間には、お父様に挨拶する壮年の男性の声が聞こえてきた。


「おお、国王陛下。サミュエル・ル・ヴィ・テルミノスモンスでございます。この度は我が領にご来臨を賜り、感激の至りでございます。家臣一同、厚く御礼を申し上げます」


 そっと目を開けて様子を伺うと、騎乗した騎士の向こうに貴族と騎士が整列して膝をつき、私達を待ち構えていた。

 先頭で膝をついて嬉しげに挨拶したのは、領主のテルミノスモンス子爵だ。

 私も何回か挨拶した事があるから間違いない。

 ふと周囲を見ると、見知らぬ屋敷の中庭にいる。

 どうやら無事にテルミノスモンス領に転移したようで、ホッとする。


 お父様が前に進み出るのに合わせて、近衛騎士が護衛の体制に移動していく。


「テルミノスモンス子爵、出迎え大義。此度(こたび)の協力に感謝する」

「なんの、これしきの事。国王陛下の行幸を仰ぎ、臣下の一人として身に余る栄誉でございます。粗茶など用意してございますれば、何卒、当屋敷まで御身をお運びくださいますれば有り難き幸せに存じます」


「ふむ、折角来たのだ。茶に呼ばれよう」

「ははっ、有り難き幸せ。では、こうお()でなされませ」


 テルミノスモンス子爵がお父様を丁重に屋敷の方へ(いざな)うのを見た子爵の家臣が、ロベールおじ様に近付いて来て騎獣の世話を申し出ている。


「アデリエル、其方(そなた)も参れ」

「あ、はい、お父様」


 私が出来るだけ優雅に見えるようにお父様の所へ行くと、お父様が嬉しげにエスコートの手を差し出してくれた。

 私は有り難くその手を取り、お父様の顔を見上げてニッコリ微笑む。

 続いてテルミノスモンス子爵の方を見ると、彼もまた嬉しげにニッコリと微笑んでくれた。


「アデリエル第一王女殿下、ようこそお越し下さりました。聞けば、王女殿下には初の遠出で在らせられるとか、誠に我が領地の誉でございます。ささ、どうぞ陛下とご一緒にお寛ぎいただけますれば幸いに存じます」


「テルミノスモンス子爵、丁寧なご挨拶をありがとう存じます。本日は子爵の手を煩わせてしまいますが、どうぞ良しなに」


 お互いにニッコリと微笑み合って挨拶を終えると、テルミノスモンス子爵の案内に従って領主館に入る。

 館内は、派手さは無いけれど上品で質の良い調度品で整えられている。

 これも領主一族の品格を表す一端なのだろうという感じがした。


 テルミノスモンス子爵が案内したのは、応接室だろう。中央に20人ほどは座れるソファーセットが置かれている。

 壁際の調度品には、牡丹の様に大ぶりの花が生けられた花瓶が置かれている。

 こんな所にもさり気ない歓迎の心尽くしを感じられて、少し嬉しくなった。


「国王陛下、私の家族がご挨拶を申し上げたいと願っております。お許しいただけますでしょうか?」

「許す」

「有り難く存じます。では、入れ」


 子爵の家臣が開けた扉から、子爵夫人とその嫡男夫婦が入って来た。その後ろに嫡男夫婦の子どもだと思われる少年が3人ついて来ている。

 嫡男夫婦は、お父様より少し年上かな、という感じがする。ついて来た少年も、3人とも私より年上に見える。


「国王陛下、リリア・ル・テルミノスモンス・ロバンでございます。昨年の『王家の宴』以来、ご無沙汰をいたしております。また、本日は我が家にご来臨を賜りまして誠にありがとう存じます。主人共々、歓迎いたします」

「うむ、面倒をかけるが、許せよ」

「もったいないお言葉をありがとう存じます」


 にこやかにお父様に挨拶した子爵夫人は私の方に向き直り、改めて美しいカーテシーをした。


「アデリエル王女殿下、初めて直接ご挨拶させていただく栄誉をお与えくださいまして誠にありがとう存じます。テルミノスモンス子爵が妻、リリアでございます。本日は、我が家にご来臨を賜りまして誠にありがとう存じます。どうかゆっくりとお寛ぎくださいませ」


「直接、言葉を交わすのは初めてでしたね、テルミノスモンス子爵夫人。わたくしがトールトスディス国第一王女アデリエルです。今日はお手間を取らせてしまいますが、お心尽くしを嬉しく思っています。おもてなし、ありがとう存じます」

「とんでもない事でございます。こちらこそ有り難く存じております」


 顔を見合わせてお互いにニッコリと微笑む。

 王都での社交では、王族が下位貴族の招待に応じる事は、基本的にない。それを踏まえての子爵夫人の言葉なのだろうと思う。

 私が見た子爵夫人は、美人と他人(ひと)から言われる事は少ないと思うけれど、穏やかな(たたず)まいと上品な微笑みがよく似合う良妻賢母、といった雰囲気を持っている感じが良いおば様だった。

 なんとなく雰囲気がイヴォンヌおば様に似ていて親近感が湧く。


 そう言えば、イヴォンヌおば様はテルミノスモンス子爵家のご令嬢だった。

 リリア様が(まと)う雰囲気が、イヴォンヌおば様のそれと似ていると思うのも、考えてみれば当たり前の事かもしれない。

 という事は、テルミノスモンス子爵の嫡男は、イヴォンヌおば様のお兄さんなのだろうか。


 お父様は機嫌良くテルミノスモンス子爵の嫡男夫妻の挨拶を受けている。後ろに護衛騎士として立つロベールおじ様は、心なしか緊張気味にその様子を見ていた。


 そっか。

 ここはイヴォンヌおば様の実家だもんね。

 そりゃ、緊張するわな。


 続いて私も嫡男夫妻の挨拶を受けた。

 嫡男夫妻の挨拶は、子爵の挨拶と同じ事の繰り返しだったけれど、背景が判ってしまえばとても機嫌良く受け答えができる。


 私ってば現金だよ。

 イヴォンヌおば様の実家ってだけで〝勝手に親近感”だもの。


 そして、子爵からお父様に孫を紹介させて欲しいと申し出られる。

 お父様が鷹揚に頷いてみせると、子爵の手招きに応じて少年3人がお父様の前に進み出て跪いた。


「国王陛下にご挨拶申し上げます。テルミノスモンス子爵が孫、ウィリアムでございます。これなるは弟のマルセルとクレマンでございます。本日は我が領にご来臨を賜りまして誠に有り難く存じます」

「うむ、洗礼の披露目以来であったな。健やかな様子、嬉しく思うぞ」


 お父様に声をかけられた3人は嬉しそうに笑うと、その表情のまま私の方に向きを変えて、全く同じセリフで挨拶をしてくれた。

「ウィリアム様、マルセル様、クレマン様、お茶会(側近選びのお茶会)でご挨拶して以来でございましたね。お久しぶりでございます」


 挨拶が終わると、テルミノスモンス子爵が合図をする前に家臣が動いて、お茶の準備が始まる。

 お父様の給仕はクリストフが、私の給仕はメアリがして、お茶会の作法どおりに子爵が先に紅茶に口を付ける。


 それを見てお父様が紅茶を口に運び、感想を述べる。

「ほう、美味である」

 そして、私も紅茶をいただく。少し柑橘類の風味と香りがするブレンドティーのようだ。

美味(おい)しゅうございます。風味と香りがわたくしの好みに合いました」

 私の感想に頷いて同意したお父様が、突然、口調を崩して子爵に尋ねる。


「サミュエル、堅苦しいのはここまでで良いか?」


 お父様の言葉に苦笑した子爵が、笑みの形のまま口を開く。

「それは構いませんが、陛下。ちと早過ぎませぬかな?」

「見知らぬ仲では有るまいし、良いではないか。これではろくに話も出来ぬ」


 お父様と子爵は親子ほどに年が離れているけれども、普段は主人と臣下として、ある程度ざっくばらんに話をしているのだろう。


「かしこまりました。では、王女殿下のお相手は妻に任せて、少し仕事の話をさせていただいても宜しいでしょうか」

「うむ、子爵夫人、暫く娘の相手をお願いしても良いだろうか?」

「もちろんでございますとも、陛下。では、アデリエル王女殿下、わたくしと共に庭の散策などいたしませんか?」

「はい、よろしくお願いします。お父様、行って参りますね」

「ああ、頼む」


 私は、子爵夫人に(いざな)われるままテラスに出て、転移陣とは反対方向の中庭に歩いて行く。

 後ろにはメアリと子爵夫人の侍女、その後ろに護衛騎士を連れているから、子爵夫人と二人きりという訳では無い。


 子爵夫人が手入れをしている花壇が並ぶエリアで、趣味の園芸や植えてある花の説明を受けながら、のんびりと散策する。子爵夫人は特にピボワンヌ(牡丹)の花がお好きだそうで、花壇にもたくさん咲いている。

 応接室に飾ってあった花瓶の花は、今朝、子爵夫人がご自身の手で切り、生けてくださったのだと言う。


 接待を受けるのも王女の仕事だけれど、こんなに和やかな雰囲気であれば全然苦にならない。

 これも子爵夫人の接待術が優れているからだろう。


 そうやって30分ほど時間を過ごした後、東屋で休憩することになった。

楽しみにしていた旅が始まりました。

次回はこの続きです。


お読みくださいましてありがとうございました。

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