56 お兄様の教え
お父様と一緒にノビリタスコラに見学に行きます。
何かヒントが見つかると良いのですが…。
最近、私の側仕え達がとても楽しそうに仕事をしている。
それというのも、私の社交が正式に解禁になったからだ。
正式と言っても、公式に発表された、とかいうのでは無い。
お母様が、私への招待状の取り扱いについて指示を出した、というだけの事だ。
どうやら私の側仕え達は、私の社交解禁をすごく楽しみにしていたらしい。
社交期間はまだまだ先の事だというのに、メアリが
「姫様、もう既にたくさんの招待状が届いておりますよ」
と嬉しそうに言っていた。
その招待状はメアリが管理してお母様に報告しているのだが、私が招待状を目にする事は無い。
いずれは、私の文官が管理するようになるのだろうけど、今はメアリに頼りきりの状態だ。
仕方ないよねぇ。
だってまだ子どもなんだもん。
いや、自分でしようと思えば出来るよ!
だって、中身は大人だもの。
でも、まだ早いって言われるんだよ。
これも役割分担なんだってさ!
という事で、先ずはお母様から、参加した方が良い、と指示されたお茶会に参加する事にする。
あとは、その都度相談すれば良いよねぇ。
たぶん、お母様とメアリが厳選してくれるはず!
各貴族のバックグラウンドとか、まだ全然分かんないもん。
本格的に社交を開始する事もあって、成長した私の身体に合わせた冬物を新調し始めたのだけど、これがまた大変だった。
どうやら大変だと思うのは私だけで、側仕え達はとても楽しそうだけどね。
ドレスに普段着、下着に靴下、靴、リボンなどの装飾品などなど、頭から足まで有りとあらゆる物の採寸と試着、布地とデザインの選定に、入れ替わり立ち替わり物資が持ち込まれては運び出されていく。
私の応接室は賑やかな事この上ない。
しかも、お母様が側近を連れて乱入しては楽しそうにあれこれ注文していく。
嵐のような騒ぎに翻弄されないように目を光らせていないと、購入する物がどんどん増えていく。
あのね。
私は一人しかいないのよ!
そんなに買ってどうするの。
どうせすぐ大きくなるのよ、私は!
特によそ行きのドレス選びはもう大変。前世の影響でついつい控え目な色合いを手に取る私に、側仕え達が総がかりで、王女として相応しい物とはなんぞや、と説教付きで華やかな色合いを薦めてくるのだ。
あーね、アデルが着るんだもんね。
可愛く着飾らせたいんだよね。
うん、うん。
これはお任せした方が楽だな、うん。
普段着と下着は着心地を求めるけど、あとは黙っとこう。
あ、でも、ちゃんと予算内に収めてね。
昨年まではお母様にお任せだった事も、洗礼を受けた今年からは自分で差配するように、と言われて少しずつ増やしているところだ。
自分の事だから、できる事が増えていくのは凄く嬉しいのだけれども……。
何事も大規模なもんだから私の庶民魂とのギャップが……。
とほほ。
夥しい数の試着と仕上げを繰り返した私は、ガリガリとメンタルを削った甲斐があって、社交期間が始まる二週間前にようやくこの苦役から解放されたのだった。
いつかは慣れんのかなぁ? これ!
※ ※ ※
新しく誂えた衣装の中から、明るい藍色のベースに白い襟が付いた上品なドレスを選んだ。
側仕え達も、今日の装いに相応しい、と太鼓判を押してくれる。
今日は、楽しみにしていたノビリタスコラのディプロミィ・アヴァン(学習成果発表会)に連れて行ってもらえるのだ。
支度をしながら、一昨日に側仕えのクラリスに聞いた事を思い返す。
「クラリスは確か5年生だったわよね。ディプロミィ・アヴァンで何を発表するの?」
「姫様、アヴァンは誰でもが発表できる訳ではございませんのです」
「え? そうなの?」
「はい、クラスごとに選ばれた方が発表や披露に参加いたしますので、わたくしは裏方に回ります」
「あら、その口ぶりでは、クラリスは選んでもらえなかったという事なの?」
「いいえ、私は既に姫様にお仕えしておりますから、最初から辞退しております」
「辞退? なんで?」
「卒業後の進路が決まっている者は就職活動をする必要がございません。ディプロミィ・アヴァンは、王城や騎士団、魔法師団への就職を希望している方がアピールする場でございますから」
そういえばお父様が就活の場だって言ってたっけ。
「という事は、各局、騎士団、魔法師団の人事担当者が査定しに来るのね?」
「左様でございます。加えて領地の人事担当者もお見えになります」
なるほどねぇ。
スカウトマンが一堂に会するわけね。
ドラフト会議みたいだね。
なんとなく文化祭みたいなもんかなぁ、と思ってたけど……。
認識を改めないといけないみたいね。
支度が終わってそのまま待っていると、お父様が迎えに来てくれた。すぐにお父様と手を繋いで移動を開始する。
お父様は、王宮から王城に向かって歩きながら注意事項を教えてくれた。
「アデル、ノビリタスコラへは転移陣で向かう。現地での護衛には既に近衛騎士を配置しているので、そなたの側近はメアリだけを随行するように」
「はい、お父様」
「ノビリタスコラでは決して私のそばを離れないようにしなさい。出来るね?」
「はい。大丈夫です、お父様」
王城の転移陣に入ったのは、私とお父様、ロベールおじ様とメアリの四人だ。
シル兄様の入学式の時と同じように転移した先(ノビリタスコラの講堂)には、グラーチェおじ様とイザークおじ様が待っていた。
転移陣の部屋を出ると、お父様はサッと私を抱き上げて歩き出した。
「アデル、今日は私の視察に同行する形を取っている。従ってそなたの見たいもの以外にも付き合ってもらう事になる。時間短縮のため、移動中は私が抱いて行く。大人しくしていなさい」
「はい、お父様。解りました」
そう言いながら側近を引き連れて歩くお父様の周りは、いつの間にか近衛騎士が取り囲んでいた。
誰もいない講堂を出ると渡り廊下を進んで、教室が並んでいると思われる建物に入る。そのままその建物を通り抜けると中庭に出た。
「アデル、まずはあそこに見える闘技場に行く」
お父様の視線を辿ると、少し離れた所にイタリアのコロッセオのような円形の壁が見えた。もちろん遺跡のように崩れている所は無い。現役の闘技場だ。
石畳の上をカツカツと音を立てながら移動する私達一行を、生徒達が遠巻きにして礼をしている。
入り口にはディー兄様とシル兄様が迎えに来ていた。
「父上、お待ちしておりました。私達も同行させていただきます」
ディー兄様の言葉に頷いたお父様は、闘技場に入ってしばらく歩き、重厚な扉を潜って2階に上がる。そこは王族専用の閲覧室になっていて、私を並んだ椅子の一つにそっと降ろしてくれた。
王族専用の閲覧室は広めの個室になっていて、他の観覧席からは入り口も部屋も遮断されている。
「アデル、見てごらん」
シル兄様に言われて周囲を見渡すと眼下には円形の競技場があって、2階は全て観客席で1階の闘技場を取り囲んでいるのが見えた。
なんか闘技場というより野球場みたい。
2階席の真下が生徒の席かな?
左右に野球場さながらのベンチがあって、騎士見習いの格好をした生徒達が控えているのが見える。
シル兄様が左側のベンチを指差して騎士見習いについて説明してくれる
「アデル、騎士を目指す生徒は、ノビリタスコラが指定する騎士服を着用する事が義務付けられているんだよ。だから皆、同じ騎士服を着ているだろう?」
「あ、本当ですね」
「そして、5年生ともなれば戦闘に魔法を使う生徒が多いんだよ。たぶん、装備は自分のスタイルに合わせてカスタムしてあるはずなんだ。アデルには分かりづらいかな?」
「んー、そうですね。わたくしにはよく分かりません」
シル兄様は楽しそうに私の頭を撫でてくれる。
「ははっ、分からなくてもいいよ。アデルにとっては初めて見る模擬戦だからね。楽しんでくれればそれで良いよ」
「はい、ありがとう存じます。シル兄様」
しばらく待っていると、私がよく見る近衛騎士や護衛騎士とは色合いが違う騎士服を着用した年配の男性が競技場の中央に進み出てきた。
「アデル、あの方は以前は近衛に在籍していた方で、今はノビリタスコラの剣術の先生だよ。模擬戦の進行と審判をしてくださるんだ」
シル兄様の説明を聞いている間に、剣術の先生がお父様に向かって騎士の最上礼をしていた。お父様がそれに応えて右手を上げる。
おー、さすが元近衛騎士。
美しい騎士の礼だよ。
お父様とも顔見知りみたいだねぇ。
ロマンスグレーの細マッチョ騎士、これはこれで良きかな。
眼福。
それから剣術の先生は模擬戦を開始すると宣言して少し後ろに下がって行った。
よく見ると、剣術の先生は手元に何か書類を持っていて、それを見ながら進行をするようだ。先生が2名の生徒の名前を呼んで呼び出すと、左右のベンチから一人ずつ騎士見習いの生徒が進み出てくる。
先生の合図で二人の生徒が構えると、先生は更に後ろに下がって行く。
意識して見ていると、二人とも構えた剣に魔力を流し込んでいる。さして時間をかけずに、右側の生徒は炎を、左側の生徒は氷を、構えた剣に纏わせた。
それから二人は3合ほど打ち合わせると、スッと間合いをとってザザザッと後ろに下がった。そして、息を合わせたように大きく剣を振りかぶって振り下ろした。
すると、剣を振り下ろした先から氷と炎が地を這うように相手に向かっていく。その炎と氷は進むほど大きく膨らんでいった。
そして、膨らんだ氷と炎は二人の中間地点でドドーンと激しくぶつかり合った。
物凄い威力である。
観客席からはどよめきが聞こえる。
場内は、激しくぶつかった氷と炎のせいで凄まじい水蒸気が渦巻いている。
3秒くらいの余韻のあと、誰かが風の魔法を使ったのだろう。水蒸気がサーッと風に飛ばされて視界がクリアになった。
あまりの激しさに驚くというよりも呆気に取られてしまった私は、思わず
「わわっ」
と言ってしまった口がそのまま塞がらなくなっていた。
淑女に有るまじき体たらくだ。
「アデル、口が開きっぱなしだよ」
シル兄様がクスクス笑いながら私に指摘する。
「まあ、驚くのも無理はないけどお口は閉じたほうが良いよ」
ふと我に返って周りを見ると、周囲が生暖かい目で私を見ている。
やだ、おじ様達が私を見て笑ってるよ。
しょうがないでしょ!
こんなの初めて見たんだもん!
私が慌てておすましモードに切り替えると、お父様がこれまた嬉しそうに私の頭をグリグリと撫で回してきた。
やめて!
せっかく綺麗にしてきた髪型が乱れるでしょ!
私がムッとした顔でお父様を見ても、お父様は上機嫌で知らん顔だ。
模擬戦と言っても、あくまでデモンストレーションであるようで、二人の生徒は剣を収めて中央に寄って来た。
改めて先生から紹介を受けた生徒は、満場の拍手を受けて下がって行く。
次の試合は、一方の生徒が剣に水を纏わせて水流の攻撃をするのに対して、反対側の生徒が土壁を作って防御するというものだった。
まるで大型の高圧洗浄機から放たれた水流を、いきなり目の前に現れた土壁が押し留めていた。
これもまた凄い威力である。
でも今度は、口を開けっぱなしにして呆けるような事はしていない。
同じ失敗はしないのだ。
面白かったのは、試合後の後始末だ。
何が面白かったのかというと、対戦した騎士見習いの生徒ではなく、他の生徒が三人がかりで後始末をしたところだ。
一人目は、水流攻撃でびちゃびちゃになった場内の水を、水魔法で操って側溝に流してしまった。
水魔法で空中を舞うように移動していく大小様々な水の玉が、日の光にキラキラと輝いてとても綺麗で見惚れてしまう。
繊細な魔法操作が凄くね?
うーん、面白い。
二人目は、水流で削られた土壁の土を、土魔法でほぐしてサラサラにした。
強固な壁を土埃を立てずに、かつ、砂山が崩れるようにスルーッと、ふかふかの畑の土のようにしてしまったのには感嘆してしまった。
これって農業用の耕運機って要らなくね?
いやー、面白い。
三人目が、場内の地面を綺麗に平らに慣らして、硬く固めて元の状態に戻した。
一発でビシーッと平らにするのと固めるのを同時にすると、ドンと地響きがしてびっくりした。
土木工事が一瞬で出来ちゃうって事?
うひゃー、面白い。
お父様が言うには、これもデモンストレーションの一環だそうだ。
私の食いつき具合に、お父様が柔らかく微笑んでいる。
三人で分担したのは得意な魔法を見てもらう為で、生徒が魔力切れにならない様に配慮されているらしい。
この規模を一人で全部するのは相当な魔力量がないと出来ないのだ。
まだまだ知らない事の方が多いのだけど、前世の土木建設に該当する事業は全て魔法で片がつくみたいだ。
科学の代わりに魔法が発達するってこういう事なんだねぇ。
そういやライフラインが前世と変わらないくらい整ってるもんねぇ。
うーん、所変われば品変わるとはこのことだね、しみじみ……。
いやー、一口に魔法と言っても色々あるんだねぇ。
得意な魔法は属性に左右されるって分かったし……。
一人で感慨に耽っている間に、試合がどんどん進んでいく。
なんとなく眺めていると、攻撃魔法は武器を媒介にして発動しているけど、防御魔法は何も媒介にしていない、という事に気が付いた。
理屈は分かんないけど、その方が都合がいいのかな?
それとも理由なんて無いのかも?
いわゆる思い込み? 的な?
だって、魔法ってイメージできたら具現化できるんでしょう?
あれ?
もしかしてイメージ出来るか出来ないかが鍵なのかなぁ?
いやいや、そうだよ。
ディー兄様が教えてくれたじゃん!
魔法ってイメージ出来たもん勝ちだって事だよ。
バリアだってイメージ出来たら出来るんじゃね?
前世のアニメや映画で見た事あるじゃん!
なあーんだよぉ。
もっと早く気付けよ、わたしぃ!
お読みいただきましてありがとうございます。
アデルがやっと考え過ぎていた事に気付きました。
初めて投稿いたしましたので、評価等について言及していない作品は「作者が読者に評価等をされたくないと思っている」と判断される場合があるという事を、つい先日、知りました。
その様には考えておりませんので、評価やブクマ、感想などいただけますと大変嬉しく存じます。
どうぞよろしくお願いします。




