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負けず嫌いの転生 〜今度こそ幸せになりたいと神様にお願いしたらいつの間にかお姫様に転生していた〜  作者: 山里 咲梨花


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初めての魔法

アデルはノビリタスコラに入学する前に使える様になった魔法『鑑定』の検証に

かなり期待している様です。

さてどうなるのでしょうか。

 朝からずっと小雨が降るどんよりとした天気であるにも関わらず、アデルの気持ちは浮き立っている。なぜならアデルにとって初めての魔法である「鑑定」魔法についてグラーチェステラと共に検証をするからだ。

 実はアデル、この検証が無事に終わって問題がなければ、こっそり誰にも内緒で他の漢字についても魔法が発動できるか試してみたい、と目論んでいるのだ。


 アデルは今、両親と共に、城に程近い貴族街にあるゴディエル公爵邸に、馬車で向かっている。

 馬車の中は久しぶりに親子三人だけの空間になっていた。その事もアデルの浮き立つ気持ちを助長している。

 今のところアデルが気軽に城外に出る事は許されていないが、両親と一緒であるならば話は別なのである。


 元王弟で魔法師団師団長のグラーチェステラであれば王城に呼び出した方が早いのに、わざわざ公爵邸まで出向くのには訳があった。

 先日、土の神ソルテールからアデルが賜った「鑑定」魔法について()()()()検証する必要があるのだ。


 神話めいた初代王の伝承は別にして、歴代のコントラビデウス達の中に、六つ柱の大神から魔法を賜った者は一人もいない。

 成人していれば何の問題もない、むしろ喜ばしい事であるはずの事が前例が無くアデルが幼いというだけで、親である国王夫妻を戸惑わせていた。

 当の本人であるアデルは、何の戸惑いも憂いも無く、いたってマイペースなのであるが…。



 私たちの乗った馬車がゴディエル公爵邸に着いた時には既に、グラーチェおじ様とステラおじ様が二人揃って玄関前でお出迎えをしてくださっていた。

 ご挨拶をして玄関ホールから移動しようとするとすぐにニコニコ顔のグラーチェおじ様に抱っこされてしまう。


 またしても自分で歩かずに運ばれてしまった。

 最近は成長著しくて、前に比べて育ったはずなんだけどなぁ。

 グラーチェおじ様、重くないのかしら?

 ウキウキ&軽々と運ばれちゃってるよう!

 これじゃあ、足腰弱っちゃうよう!

 ま、いいけど。


 応接室では、公爵家の使用人達がおもてなしをしようと待ち構えていた。


 おうふ、大歓迎なのは何故?


 お茶と一緒に美味しいお菓子をいただきながらお父様とおじ様方の話に耳を澄ませる。どうやらノビリタスコラの魔法クラスのカリキュラムについて話をしているようだ。


 しばらく歓談した後、お父様が本題に入るよう促した。すると今日は、珍しい事にステラおじ様が人払いして盗聴防止の魔法をかけた。


「わあ、今日のステラおじ様の魔法は以前見た時よりキラキラしているのですね」


 ステラおじ様が展開した盗聴防止の魔法は、以前見た時よりも青味が薄く淡い光を纏っている。


「今日の検証は内緒だからね。魔法の感知防止を重ねがけしているんだよ」


 おおーっ! 流石ステラおじ様だよ!

 魔法って重ねがけ出来るんだぁ!


「さあ姫ちゃん、今日は約束していた君の鑑定魔法について一緒に検証するよ」

「はい、よろしくお願いします」


 グラーチェおじ様は私をテーブルの横に立たせると、お菓子箱くらいの大きさの黒い箱をテーブルの上に置いた。


「では兄上、義姉上、打ち合わせのとおり始めさせていただきます」


 グラーチェおじ様の言葉にお父様とお母様が頷くと、グラーチェおじ様は黒い箱を開けて中の物がよく見えるようにした。

 黒い箱の中に収まっていたのは、淡紫色に輝く美しいネックレスだった。


 中央の大きな宝石は紫水晶かなぁ?

 やけにキラキラしてるけど…なんか嫌な感じ。

 紫色の宝石って他に何かあったっけ?


「まずは姫ちゃんの魔力の動きを診るよ。私が合図したら姫ちゃんは黒い箱の中のネックレスを鑑定してね。ああ、それからネックレスは触っちゃダメだよ。理由は鑑定すれば判るからね」


 私は魔法が放つ光を見た事はあるけど、魔力そのものが見えたことは無い。

 どうするんだろうと思っていると、グラーチェおじ様とステラおじ様が、立っている私がよく見える位置に移動して、私をジッと見つめて呪文を唱えた。

「ディアボリ ヴィ イルミナレ」


 グラーチェおじ様がどうぞと手で指し示したので、私はネックレスを見つめて頭の中に漢字の「鑑定」を思い浮かべる。

 ネックレスの上に現れたウィンドウには、鑑定結果が表示されていた。


 ネックレス

   中央の宝石  ダイヤモンド

   周囲の宝石  サファイア

   付与魔法   魅了

   付与魔法の効果 着用している者の理性を奪う

   特記事項   ダイヤモンドは付与魔法に汚染されて変色している


 何これ!

 呪いのネックレスじゃないの!


 驚いた私は、バッと顔をあげてグラーチェおじ様を見た。


「うん、その様子では鑑定できたみたいだね。鑑定結果については後で話すとして姫ちゃんの魔力の動きなのですが、義父上、どの様にご覧になりましたか?」


「うむ、アデル姫はちと特殊な性質を持っておられる様だね。考えてみれば伝承のとおりなのだが、実際に診るのは初めてなので驚いたよ」


「ステラ叔父上、もう少し詳しくお話しくださいませんか」


 ステラおじ様の言葉に対してお父様が前のめりになって説明を求めている。

 それに対して微笑みを返したステラおじ様は、お父様をスルーしてグラーチェおじ様に意見を求めた。


「そうですね。私が診た限りでは、姫ちゃんは周囲の魔力を取り込んで魔法を行使しています。体内の魔力は生命活動を維持する動きしかしていない様に思います」


「周囲の魔力を取り込むだと? そんな事、可能なのか?」


 お父様の疑問に答える代わりに、ステラおじ様がお父様に質問する。


「ルーチェは落とし子の伝承の中に『落とし子は周囲の魔力を吸収して、無尽蔵に魔法を行使する事ができる』というものがあるのを知らぬか?」


「落とし子の伝承ですか。そう言われれば落とし子の魔力が多い事の根拠として、その様な考察がありましたね」


「うむ。今、我々はその考察を事実として自分の目で確かめる事が出来たという事になるな」


 えーっ!

 魔力が減った感じがしないのはそういう事なのぉ!?

 空気清浄機かよ!


 ステラおじ様が満足そうに頷く横で、苦笑したグラーチェおじ様がお父様に説明を続ける。

「兄上、私には姫ちゃんの目に、周囲の魔力が集まって来て取り込まれている様に見えました。そうですね。取り込まれた魔力は、目の強化魔法を行使した時と同じ様な動き方をして魔力を放出していましたよ」


「強化魔法ならば消費魔力は少ないという事か」

「そうです。私の治療師としての結論は、今後姫ちゃんが魔法を行使しても、体内の魔力が消費される事は無い。姫ちゃんが体内の魔力を消費するのは、生命維持と六つ柱の大神への魔力の奉納だけという事になります」


 そこにステラおじ様が自分の考えを加えていく。

「六つ柱の大神は愛し子であるアデル姫に無理な事は決してさせぬであろう。魔力の奉納もまた然り。となれば何も心配する事は無いと考える」


 グラーチェおじ様とステラおじ様の話を真剣に聞いていたお母様は明らかにホッとした顔をしている。逆にお父様は難しい顔をして考え込んでしまった。

 でも、それもほんの少しの間の事で、すぐにステラおじ様とグラーチェおじ様に向かってお礼を述べた。


「ステラ叔父上、グラーチェ、今日はアデルの魔力の動きを診ていただき、ご教示いただきました事、心から感謝いたします」


「なに、治療に携わる者にとってはさして難しい事でも無い。患者を診るのと変わらんよ」


 ステラおじ様の言葉に同意する様に頷いたグラーチェおじ様は、私の方を見て次の話題を切り出した。


「じゃあ、次は姫ちゃんの鑑定魔法と私が知る鑑定魔法の違いを検証してみようか。まずは、このネックレスの鑑定結果を教えてくれるかな」


「はい。品名はネックレスです。中央の大きい宝石はダイヤモンドで、付与魔法に汚染されて変色しています。付与魔法は魅了でした。特記事項で着けた人の理性を奪う効果があるみたいです」


 私の説明を受けたグラーチェおじ様とステラおじ様は、驚いた様子で顔を見合わせている。


「どうなさいましたか? 私、何か変な事を申し上げましたでしょうか?」


 私の問いかけに吐息をついたステラおじ様が、私の疑問に答えをくれた。


「アデル姫、このネックレスを魔法師団でも鑑定したのだが、呪いのネックレスとしか判らなかったのだよ。それで、今まで解呪が出来なかったのだが、アデル姫の鑑定のお陰で今まで不明だった詳細が判った。これでこの呪いの解呪が出来るかもしれない」


「姫ちゃんの鑑定魔法は、私たちが使う鑑定魔法よりかなり精度が高いという事が判ったよ。ところで、人物の鑑定が出来るかどうか試してみたいのだけど構わないかい?」

「あ、はい。大丈夫です」

「じゃあ、私を鑑定してみてくれるかな?」

「はい、分かりました」


 私はグラーチェおじ様の顔をジッと見たまま、頭の中で『鑑定』の漢字を思い浮かべる。すると、グラーチェおじ様の頭の上に油膜のようなウィンドウが現れた。


 グラーチェステラ・ル・ハフ・コントラビデウス・ゴディエル

  年齢   30歳

  性別   男性

  配偶者  無

  出自   トールトスディス王国第16代国王の第三子

  肩書   ゴディエル公爵

  職業   魔法師 (魔法師団師団長)

  称号   六つ柱の大神の契約者

  加護   光の女神 闇の神 火の女神 水の神 土の神 風の女神

  特記   ※ ※ ※


 あら!

 鑑定できちゃった!

 でもゲームみたいにHPとかMPがあるステータス画面とは違うのねぇ。

 どっちかって言うと履歴書みたい!


 

「姫ちゃん、私の頭の上に情報が出ているのかい?」

 グラーチェおじ様が珍しくニヤニヤしながら私に聞いてきた。

「ああ、はい。私の視線で判ってしまうのですね」

 グラーチェおじ様がニヤニヤ顔を苦笑に変えて尋ねる。

「私の鑑定結果を教えてくれるかな?」

「はい。名前、年齢、性別、配偶者の有無、出自、肩書、職業、称号、加護、特記が表示されました」

「それでは詳細が判らないので、そのまま読み上げてもらっていいかな?」


 私はグラーチェおじ様に言われるままに鑑定結果を読み上げた。


「随分と詳しい事が判りますね。対象者のバックグラウンドがほぼ判ってしまう。それに姫ちゃんの視線は大きな欠点になりますね。対象者からは姫ちゃんの視線が不自然に見えるだろうから違和感を持たれるでしょうね」


 それな。

 私もそう思うよ。

 人物の鑑定ってバレちゃイカンやろ!


 グラーチェおじ様とのやり取りを聞いていたお父様が、私に手招きするので近くに寄って行くと、お父様は私を膝の上に抱き上げてしみじみと話し始めた。


「そうか。アデルは人物鑑定が出来るのか。なあアデル、父親としては人物鑑定が出来るという事は秘密にして欲しいし、本当に必要な時だけにして欲しいと思う。君は物事の本質を理解できる子だ。だから私の願いも理解してくれると思っている。アデル、約束してくれるかな?」


「はい、お父様。大丈夫です。約束できます。むしろ使用を禁止されなかった事を嬉しく思っています」


 私は、お父様から信頼されている事が判ってとても嬉しくなった。

 それと同時に後ろめたさに身体がムズムズする。


 本当はねぇ。

 脳内で漢字を思い浮かべて魔法が発動するなら、他の漢字は?

 なんて考えてたんだよねぇ。

 こっそり試したいんだけどなぁ。

 いや、鑑定魔法についてはちゃんと約束を守りますよ。

 約束は鑑定魔法に限定だもんね。うししっ!


 それからステラおじ様から忠告として説明された話によると、魅了という魔法は精神に干渉または操作する魔法である為、使用する事は禁じられている事や一般的には呪いに分類される事を教えてもらった。

 もし見つけてしまった時には、こっそりステラおじ様かグラーチェおじ様に連絡する事を約束させられた。

 何故こっそりしなくてはいけないのか尋ねると、禁呪は犯罪だから私の身に危険が及ばないようにする為だと念を押された。


 魔法がある世界と言えば、夢とロマンと冒険の世界だ、なんて単純に考えていた私は、いや、魔法で洗脳って怖くね? と思ってしまったのだった。



 その日の午後、国王の執務室隣の居間には、ゴディエル公爵グラーチェステラ、ゴディエル大公ステラルクス、ルグラン公爵ロベール、ランベール公爵イザーク、ルグラン大公フォルゴランス、先代ランベール公爵ラファエルが集まっていた。

 これを役職名で言うなら、魔法師団長、騎士団長、宰相、相談役三名である。

 この6名に国王を加えた7名で親族会議を行っている。

 ちなみに、現ランベール大公のアールブムビィアは政界から引退しているので、国王に呼ばれない限り親族会議には参加しない。


 公にはされていないが、トールトスディス王国の最高決定機関はこの親族会議である。国を家族経営していると考えれば解りやすいだろう。


 家族経営せざるを得ない最大の理由が、六つ柱の大神との契約だ。


 一般的な契約に違反した場合、契約違反した者だけが罰せられる。

 しかし、六つ柱の大神との契約に違反すれば、直ちに国を守る結界が消え、国が滅びに向かう。

 つまり全国民を巻き込むのである。


 六つ柱の大神と初代王が交わした契約に基づき、この契約の存在は『秘中の秘』となったが故の家族経営なのである。

 歴代のコントラビデウス達の努力によって、他国から見たトールトスディス王国は、強力な魔法師である国王による専制君主国であると認識されていた。


 今、親族会議の議題になっているのは、アデルが行ったネックレスの鑑定結果についてである。

 会議は、国王の挨拶に続きグラーチェステラの報告から始まり、ステラルクスの私見が述べられた所である。

 皆が取り囲むテーブルの上には、アデルが鑑定した呪いのネックレスがある。

 

 それをジッと見ていた国王ルーチェステラは

「グラーチェ、これはもしかして母上が父上と婚姻する前に巻き込まれた騒動の元になった物ではないのか?」

と尋ねた。

「兄上は知っておられたのですね。私は義父上から教えていただくまでは全く知りませんでした」

「いや、私も詳細は知らぬ」


 ルーチェステラの言葉を聞いたステラルクスが、彼等が生まれる前に起きた騒動について説明を始めた。


「このネックレスは35年程前に起きた騒動の原因となった物だ。騒動の概要だが、まず、ある貴族の令嬢が呪いのネックレスだと知らずに身に着けた事から始まる。その令嬢は、徐々に病的な被害妄想に陥り、それに伴って攻撃的な性格に変わっていった。加えて、当時の王太子だった先代国王の妃になるのは自分である、と思い込んでしまった。陰ながら一方的に慕っていたらしい。そうしてその令嬢は、当時兄上(先代国王)の周囲にいた女性に対して見境なく嫌がらせを始めた。果てには当時の兄上の婚約者だった王太后殿下を誘拐して殺害しようと企てたのだ」


「それでその令嬢の企てはどうなったのですか?」


「元々、自己主張が苦手で大人しくて優しい性格だった娘の急激な変わり様を心配して、見張っていた家族によって企ては阻まれたと聞いている」


「それからどうなったのですか? このネックレスが今、ここにあるのはどういう経緯があるのでしょうか?」


「ああ、このネックレスに原因があるのではないかと疑った令嬢の父親が、魔法師団にネックレスを持ち込み、娘の治療を依頼して来たのだ」


「もしかして治療をステラ叔父上がされたのですか?」


「いや、治療は当時の治療班担当の副師団長が施したが完治はしなかったよ。精神干渉系の魔法の恐ろしい所の一つは、後遺症が残る事だ」


「では叔父上は解呪の方を?」


「ああ、そうだ。当時の私は、研究班担当の副師団長だったし、王太子の婚約者がターゲットになったという事で、王城からも解析と解呪の要請があったからね。

だがこれが難しくてね。解除できないまま保管されていたのだよ」


 ここまで黙って話を聞いていたイザークが、驚いて疑問を口にした。

「ゴディエル大公でも解呪できなかったのですか?」


 すると苦笑したステラルクスがグラーチェステラと顔を見合わせた後、言い訳する様に返事をした。


「ああ、そうだよ。このネックレスを身に着けた令嬢に現れた症状は、我々が知る魅了魔法の症状とは全く違うものだったからね。私は令嬢の症状に合致する、あらゆる精神魔法系の魔法解除を試みたんだがね。出来なかったねぇ。まさか魅了魔法だったとは…。これに気付けない以上、解除できるはずが無いのだよ」


 そこへよく判らないといった風情のロベールがステラルクスに尋ねる。

「ステラ叔父上、魅了魔法も精神干渉系の魔法ではないのですか?」


「いやいや、ロベールの言うとおりなんだが…。簡単に言うとだね、人に直接向けて発動する魔法と、媒体に付与する魔法では、同じ魅了魔法でも構築方法が違うのだよ」


「構築方法ですか」

 ロベールが納得できないといった様子で首を捻っている。

 そこへグラーチェステラが噛み砕いて補足をする。


「ロベール、人に向けて魔法を発動する場合、例えば魅了であれば魅了魔法だけを発動して相手を状態異常にするでしょう?だけどこういう呪いのアイテムは、複数の魔法を重ねて付与したり、複数の魔法を合体させて付与するのが基本なんだよ。だから、私たちが遭遇する魅了のアイテムは、アイテムを着けた人間を保護して、周囲の人間を状態異常にする様に作られているんです」


「なるほど、このネックレスは着けた人間だけが状態異常になっていた。だから、魅了だと判らなかったという事か」


「そういう事。このネックレスの付与魔法が魅了だという事は、姫ちゃんの鑑定で初めて判った事だからね。判った上で、改めてこのネックレスの付与魔法は魅了という名で呼ばれても、魅了とは似ても似つかぬ呪いになっていると思いますよ」


「グラーチェの言うとおりだな。このネックレスの話はこの位で良かろう。今日の本題だが、この手の代物が、ノビリタスコラに持ち込まれた形跡がある、と報告があった」


「それは信頼できる話なのか?」


 ルーチェステラが会議の進行を再開して直ぐに落とされた爆弾にフォルゴランスが食い付いてきた。


「フォルゴ叔父上には何か思う所があるのでしょうか」


 フォルゴランスがテーブルの上のネックレスを指差しながら理由を述べる。


「そのネックレスが持ち込まれたのは隣国からであって、犠牲になったのは国境を守る領主の娘だった。情報の出先を開示してくれ。比較したい」


「そうですね。まずは情報の共有からですね。イザーク、頼む」


「かしこまりました。この情報は、ノビリタスコラの学校長ルフェーブル伯爵から報告されたものです。報告では、ノビリタスコラの寮に入っている三年生の女生徒に差出人不明の贈り物が届いた事が発端です。その女生徒は贈り物をされる様な事にも、相手にも全く心当たりが無かったようです。それで、急いで家族に確認した所、家族も知らないという事で、気味が悪くなって寮の監督教諭に届け出ました」


「ほう、その女生徒は賢明な判断をした様だな。それで?」


「この事は直ぐに学校長に報告されて、その贈り物は学校長の手に渡りました。

学校長は念の為にと思ってその贈り物を鑑定したのですが、その結果、その贈り物が呪いの腕輪だと判ったそうです。学校長は、35年前も教諭として学校に在籍していましたので、直ぐにこのネックレスの事件を思い出しました。今は同じ三年生に王太子が在籍している事を考えると疎かにしてはいけないと思い、まず、私に相談してきた、という流れになります」


「その女生徒の身元は?」


「フィデスディスレクス領の子爵の娘だそうで、ウリエル叔父上にも既にお知らせしてあります」


「ウリエルにはデクストラレクスの尻拭いで苦労をさせているが、此度も協力を頼むしかあるまい」


「ノビリタスコラの寮に直接送り付けてきたのなら、経路を掴むのは骨が折れそうだな」

「この手の呪いのアイテムは、海を挟んだ大陸のヴェーツ王国で作られた物が多いのですが、アイテムに製作者の名前が書いてある訳は無いので今までの統計と傾向から推測するしか無いんですよね」


 ロベールとグラーチェステラが、溜息をつきながら話をしているのを聞いていたラファエルが、初めて口を開く。


「前回も今回も王太子の周囲で起こった事だ。現時点で王太子殿下を狙ったものではないと判断するには早計だ。敵が何を目的とし、何を狙っているのか、明らかにならない限りこちらが後手に回る。皆、気を引き締めて事に当たってもらいたい」


 これにフォルゴランスが同意する。


「ラファエルの言うとおりだ。私もステラ兄上も、35年前の事を参考にするのならいくらでも話してやろう。必要なら王太后殿下にも当時の事を尋ねてみても良いのではないか?」


 これにステラルクスも同意する。


「それは良いな。王太后殿下には当事者で在られたから違う視点の話が聞けるかも知れぬ。私はまず、グラーチェと協力してその呪いの腕輪とやらを調べてみよう」

アデルの知らない所で、新たな事件が起ころうとしています。

一体どうなるのでしょうか。

次回は、ディー兄様の婚約者候補です。

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