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負けず嫌いの転生 〜今度こそ幸せになりたいと神様にお願いしたらいつの間にかお姫様に転生していた〜  作者: 山里 咲梨花


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レオアウリュムの過去

水の神オークレールの申し出は周囲への影響が大きいようです。

アデルに見えない所で、アデルのおじ様親衛隊が帳尻合わせに苦労しています。

 お兄様方が無事に騎獣を得る事ができた牧場からの帰り道に、ペルルの背の上でセブランに聞いた所によると、一回の訪問で騎獣を得る事ができた事はとても運の良い事なのだそうだ。

 しかも、兄弟二人ともとなると、本当に珍しい事らしく、セブランは

「王家の威光は流石でございますね」

と、しきりに感心していた。


 快適な騎獣移動で無事に城に帰り着くと、お父様は王宮に戻らずにそのまま王城に行ってしまった。何も言わないけれど、魔獣密売の件で休日返上になるのだろうと思う。


 休日に仕事に出かけたお父様だったが、夕食に間に合うように帰って来てくれたので、家族でいつもどおりに夕食を共にして団欒のひと時を過ごす。

 夕食の話題は、昼間の興奮冷めやらぬ、ディー兄様とシル兄様の騎獣の話だ。

お父様が騎獣との付き合い方を教えている。


 食後のお茶のために居間に移ると、お父様が私に優しく話しかけてきた。

「アデル、牧場で先延ばしにした話をしようか」

「六つ柱の大神から初代王が魔獣を賜った話ですね。私、楽しみにしていました」

 私がワクワクした気持ちでソファに座ると、家族皆が定位置に座った。


「ふむ。初代王にまつわる逸話は数多くあるが、その中でも魔獣を賜った逸話は、六つ柱の大神と初代王の信頼関係を示す良い逸話と言えるだろう」

「そうなのですね」


 私がワクワクした気持ちのままお兄様方の方を見ると、お兄様方もお父様の話に興味がある様子だ。家族の顔を見回したお父様は、穏やかな様子で話し始めた。


「初代王がこの国を建国した当初に創られた結界の中には、強大な力を持つ魔物が数多く残っていた。結界は外からの魔物の侵入を防ぐが、同時に、中から外に出す事も出来ない。しかも、創ったばかりの結界の中は魔力が安定していなくて、魔力溜まりも多く残っていた」


「という事は、結界内に新たに発生する魔物がいるし、その力も決して弱くないという事でしょうか?」

 ディー兄様がお父様に尋ねると、お父様はディー兄様の問いに頷いた。


「そうだね。結界が出来たばかりの頃は、結界が出来る前と何も変わらなかったという事になるね」


 それぞれの側仕えが、タイミングを見計らってお茶とお菓子を出してくれた。

お父様がお茶を手に取ったのを見て、私もお茶を飲む。


 あー、美味しい!


「外からのスタンピードの怖れは無くなったが、結界内の魔力が安定するまでは、魔物の討伐を続けて行わなければならない。当時は、魔獣を騎獣にするという概念すら無かったから、討伐の(たび)に多くの人や馬が犠牲になった」


 あー、最初は大変だったんだろうなぁ。

 今の環境になったのは初代王のおかげだねぇ。

 有り難や、有り難や。


「初代王は、魔力を多く持つ人間を集めて魔法の手解き(てほどき)をしたり、騎士団を構成して訓練を施したり、魔物狩りを生業とする者を集めて組織化したりと、色々と手を尽くしたが、犠牲がなくなる事は無かった」


 ん? という事は!

 魔法師団や騎士団、狩人組合(ユニオン)を初代王が造ったって事?

 一人で全部やっちゃう訳?

 すげえなぁ。


「それを嘆いた初代王は、ある日、六つ柱の大神にいつになったら結界内の魔力が安定するのかを尋ねた」

「六つ柱の大神は何とお答えになったのですか?」


「判らないとお答えになったそうだよ。初めての事だから正確な事は判らないが、早くて2年、長くて10年かかるだろうとね」

「随分と幅があるのですね。それで初代王はどうされたのですか?」


「うむ。魔物の討伐にかかる犠牲を説明した上で、討伐の手助けとなる強くて足が速い馬を賜りたいと願ったそうだ」

「馬ですか?」

「そうだよ。自分が殿(しんがり)で足止めをしている間に、他の者を逃がせるだけの強くて足の速い馬が必要なのだと」


 ほえー、初代王が自ら殿(しんがり)

 ほんとかなぁ?

 やっぱ、盛ってるのかぁ?

 ま、伝説ってそんなもんだしね、にひっ。


「お父様、もしかしてその頃は魔獣そのものが存在していなかったのですか?」


「いや、そんな事は無いよ。(まれ)に動物が魔力溜まりの影響を受けて魔獣化する事がある。魔獣化してしまった動物は、とても凶暴になって人や動物を見境なく襲う為討伐の対象になる。六つ柱の大神に賜った魔獣の子孫と違って、とてもじゃないが騎獣にできる様な生き物では無くなるのだよ」


「そうなのですね。ではお父様、魔獣が動物が変化した生き物であるならば魔物も動物が変化したのですか?」


「いいや、魔物は魔力溜まりから湧いて出て来るから全く違う生き物なんだよ」


 あれ? そういえば以前、

 魔獣は、六つ柱の大神に選ばれて違う姿と飛行能力を与えられた

 魔物は、六つ柱の大神が創ったものでは無い

 ってお爺様から教わってなかったっけ?

 何となく聞き流してたけど、こういう事だったのね。

 やっと、ちゃんと理解できたわ。

 ダメダメだなぁ、ワタシ、トホホ。


「それでお父様、六つ柱の大神は初代王の願いを叶えてくださったのですか?」

「ああ、六つ柱の大神は、まず、初代王に黄金の獅子をお授けになった」


 んな?

 黄金の獅子ってレオアウリュム様の事だよね。

 ああ、側近達が聞いているから

 名前を口に出さない方が良いのかな?


「初代王は、黄金の獅子を賜ったのですか? 魔獣では無くて?」


「そうだよ。初代王が賜った黄金の獅子は、魔獣ではなく神獣なんだ。その神獣は常に初代王の傍に居て、初代王の支えとなった。だから、初代王だけは神獣に騎乗する事が許されていたんだよ。そしてその神獣は、初代王が身罷られたのを見届けると光となって天に帰られた、と言い伝えられている」


 はぁー、レオアウリュム様は初代王の騎獣だったのかぁ。

 初代王の子孫である私達に優しいのは、そういう過去があったからなのね。

 おとぎ話じゃない、生きた歴史だねぇ。

 でも、肝心の魔獣は?


 納得のいかない私の(しか)めっ面を見てニヤリと笑ったお父様が話を続ける。


「騎獣となる魔獣が誕生した事は、初代王が黄金の獅子の力を借りて成し遂げた事の一つだね。黄金の獅子は神獣としての御力を振るって、まず、騎士団の馬の中で優れている個体を、コルヌエイコスに造り変えようとなされた。ところが、強大な神獣の御力は周囲の森にまで拡がってしまい、森の動物の優れた個体全てに神獣の御力が及んでしまったらしい。こうして、現在の騎獣の在り方へと繋がっていく、と言い伝えられている」


 ふーん、実際は違うと思うね!

 たぶん、レオアウリュム様を通じて六つ柱の大神がやったんじゃね?

 既存の動物を魔獣に造り変えるなんて、まさしく神業以外の何物でもないだろ。

 その上、魔獣に魔法まで授けたんでしょ?

 神の荒業!

 それだけのテコ入れをしないといけないくらいに切羽詰まっていたという事?

 うーん、今更考えてもしようがないかぁ。


「初代王の嘆きを見かねた六つ柱の大神が、初代王に神獣を遣わすほどの信頼を寄せていたという逸話だよ」


 うんうんと頷きながら熱心に話を聞いていた私は、以前ディー兄様から聞いた事を思い出していた。今は魔力が調整されているから、結界内に魔力溜まりが出来る事はない。だから結界内ではスタンピードは起こらない。では結界の外はどうなんだろう。


 最近学び始めた地理の授業では、国の北側が大森林に接していると学んでいる。そして、いくつかの領地は結界からはみ出している部分があるという事も学んだ。スタンピードは大丈夫なんだろうか、と考え込んでいると、ディー兄様がお父様に質問をしていた。


「父上、来週末は神殿に参拝しますが、親族会議の結論は出たのでしょうか?」

「その件に関してはまだ調整が必要なんだよ。来週の銀の日に説明しようと思っている。ディー、心配させて済まないが、もう少し時間をもらうよ」

「分かりました、父上」



 次の日には、週末の銀の日、5刻(午前10時)に王宮の会議室に集まる様に、と正式に連絡があった。



 銀の日、メアリと護衛騎士を連れて会議室に行くと、お父様、お母様、イザークおじ様、ロベールおじ様、お兄様方が集まっていた。

「お、アデル、来たな。アデリーヌの隣に座りなさい」

「はい、お父様」

「全員揃ったな。話を始めよう。グラーチェ、盗聴防止の魔法を頼む」

「かしこまりました、陛下」


 あら、今日はグラーチェおじ様が魔法をかけるんだね。

 グラーチェおじ様ったら相変わらずの無詠唱でサッと手を一振り。

 めっちゃカッコいい!


 魔法が展開されるとイザークおじ様が、側近達に魔法の範囲から出る様に指示をしている。それを横目で見ていたお父様が、皆が出たのを確認して口火を切った。


「さて、先月の神殿参拝の折、水の神オークレール様からアデルに対して、今後も六つ柱の大神と会って話をして欲しいと仰せになられた件について、親族会議で協議した結果を説明しておきたい。イザーク、頼む」


「かしこまりました。私から皆様に親族会議の内容について説明いたします。一言で申し上げますと、姫殿下が成人前であるにも関わらず神殿参拝を続けられる事にまつわる懸念事項について協議いたしました。面談の可否については、この場で懸念事項のうちの一つを解消できた場合に限り、姫殿下の意思を尊重する、という事になりました」


「その懸念事項とは何ですか?」

「姫殿下の魔力量でございます」


 政治や体裁と関係ない事を言われた私は、訳が分からずパチパチと瞬きを繰り返してしまう。


 問題は私?


「姫殿下は神殿の魔法陣で魔力を吸い取られている自覚はございますか?」

「はい。感覚的にですが分かっています」


「本来、子どもの魔力が体内で動く事は、成長の妨げになると考えられておりますので、ノビリタスコラに入学するまで洗礼以外は控えるのが常識でございます。

ところが、姫殿下は洗礼以降、毎月、神殿に参拝して魔力を奉納しておられます。これは姫殿下のお体に良い事とは申せません」


 ありゃ、問題は私の成長かぁ。

 また、心配させちゃったのかな?


「そうなのですね。私としては特に何も感じていなかったのですけど…」


 まあ、確かに、同じ年頃の子どもの中でも小柄だからなぁ。

 心配してくれるのは有り難い事だよね。


「それで、私は何をすれば良いのですか?」

「はい。本日は姫殿下の魔力量を測定させていただきたいと存じますが、よろしいでしょうか?」

「はい。大丈夫です」


 本当ならノビリタスコラに入学してからする事なんだろうけど…。

 これでおじ様達の懸念が払拭されるならお安い御用だ。


 イザークおじ様が頷いてグラーチェおじ様の方を見たので、私もつられてそちらを見た。

「姫ちゃん、僕が見ても良いかな?」

「はい。私はどうすれば良いですか?」

「こちらに来て僕の前に立ってくれる?」

 

 グラーチェおじ様が皆から見える位置に移動したので、私も移動してグラーチェおじ様の前に立った。

 グラーチェおじ様は、私が緊張しない様にだと思うけれど、ニッコリ笑って私に告げた。

「姫ちゃん、額に手を当てるよ。力を抜いてリラックスしてね」


 グラーチェおじ様は、熱を測る時の様に左手を私の額に当てて、右腕を胸の高さに上げると右の手の平を上に向けた。

「ボクユマノ ディアボリ ヴィ オステンデソーソム」

 グラーチェおじ様が呪文を詠唱すると、おじ様の右の手の平の上に直径3cm程の煙らしき物で出来た球体が現れた。


 うわっ、何だこれ!

 何か冷たい空気の膜が頭から降りてきた感覚!

 うえーっ! ゾクゾクする!

 ゆっくり足元まで通り抜けていくよ!

 これでスキャンされたのかな?


 グラーチェおじ様の右の手の平の上の球体は、スキャンが下がっていくに連れて灰色からどんどん明るい色になり、六つ柱の大神の貴色である六色のマーブル模様に変わっていく。そして球体は、色を変えながら大きくなり、スキャンが足元まで来た時にはバスケットボール位の大きさになっていた。


「おお、凄いな。こんな小さい身体にこれ程の魔力が…」

と、ロベールおじ様が言えば、ディー兄様が

「私はアデルより小さかった」

と言い、シル兄様が

「兄上はどの位の大きさだったのですか?」

と尋ねると

「これ位かな」

と言いながら、ディー兄様が手でバレーボール位の大きさを示した。

 それに頷きながらシル兄様が

「僕もそれ位でしたけど、高位貴族の子でもこれ位が普通ですよね」

とソフトボール位を手で示しながら言う。


「姫ちゃん、これは魔力の属性と量を可視化したものだよ。六つ柱の大神のご加護を賜った姫ちゃんの属性は全属性なのは知ってるね。量については私の卒業時よりちょっと少ない位かな」


「グラーチェおじ様、それって凄く多いという事ではありませんか?」

「身体が成長すると魔力量も増えるから先の事は分からないけど、姫ちゃんが兄妹の中で一番魔力が多い様だね」


 へぇー、これが落とし子特典なのかなぁ。

 あんまり実感ないけどねぇ。


「兄上、ご覧のとおり姫ちゃんの魔力量は既に大人と遜色がない量だから、多少の事では枯渇する事はないし、神殿で奉納を続けても問題はないと思うよ」

 グラーチェおじ様はそう言うと、右手を握って球体を消した。


「うむ。グラーチェ、ありがとう。さて、アデル、君の魔力量については問題ないと魔法師団長のグラーチェからお墨付きをもらった。これで、相談役の三人も納得するであろう。そこでだ。君はどうしたいと思っている?」


 私はちょっと考えてお父様に答える。

「そうですね。お父様とお母様のお考えを知りたいです。そしてそれを参考にして決めたいと思っています」


「そうか。父として希望を言わせてもらえるなら、毎月はやめて欲しいかな。

いくら魔力量が多くても、体内の魔力を動かす事は、子どもの身体には良くない事だからね」

「わたくしもお父様と同じ意見ですよ」


 ふむ、会う事自体は反対ではないんだね。

 てか、断れんだろ。

 後で何されるか分からんのに…怖っ。

 けど、私の体を心配してくれるのはすんごく嬉しい。

 あとさ、レオアウリュム様の依代としての負担が心配なんだよね。


「お父様、私は親族の皆様が反対なさらないのであれば、六つ柱の大神に謁見する事は構わないと思っています。お父様、お母様が仰るように、毎月にならないように六つ柱の大神にお願いしてみます」


「うむ、そうだな。アデルがそれで良いなら、明日、レオアウリュム様にその様に奏上してみよう」



 3の月の最後の日。

 朝食を済ませた後、神殿に行くための着替えをしながら、側仕え達といつもの様に雑談をしていたら、メアリからドキリとする質問をされた。

「姫様、全属性のご加護を賜った御礼の神殿参拝は、本日が6回目ですから最後という事でよろしかったでしょうか?」


 私は、ハッキリと今後も続くと言えなくて、曖昧に質問で返してしまった。

「そうね…。ねぇ、メアリ、私が神殿に参拝する事は、側近達には負担が大きいのかしら?」


「まぁ、姫様。左様な事は全くございませんよ。ご心配には及びません。私どもは姫様のお役に立つ事が喜びでございますから」

「姫様はお優しいから私達の事まで気にかけてくださいますけれど、私達は姫様のお世話ができて大変嬉しく思っております」

 私のショボンとした様子を見て、オリビアまでニコニコとフォローしてくれた。


 でも、そういう事じゃないんだよ。

 面会が続く事を側近達に何と説明すればいいのか。

 どこまで本当の事を話していいのか。

 判らなくて困ってるんだよ!


 それから私は、支度が済んでお父様の居間に行くまでの間、その事について悶々と悩んでいた。


 今日の神殿行きのメンバーは、昨日の打ち合わせと同じ顔ぶれだ。エレベーターの部屋に入った私は、お父様に悩み事を相談する事にした。

「お父様、これからも神殿への参拝が続くのならば、それを側近達にどう相談すれば良いのか、分からなくて困っているのですが、どうしたら良いのでしょうか?」

「ああ、どの様に、いや、どこまで話せるのか、といった所か?」

「はい、そうです」


 すると、話を聞いていたお母様が私に話しかける。

「アデル、その件は参拝が終わってから皆で話をしましょう。ルーチェ、親族会議で議論されたのでしょう?」

 お父様は微笑んでお母様に

「うむ」

と頷きを返すと、私の肩に手を置いて優しく諭す。

「アデル、細かい事はレオアウリュム様と相談して決めた内容を踏まえた上で話をしよう。今は、土の神ソルテール様に謁見する事に集中しなさい」


 あ、そういう事も親族会議で決めてくれたのね。

 あー、良かった。


 私はホッとしてお父様に返事をした。

「はい。分かりました、お父様」


 神殿に着いて全員で魔法陣に入って整列する。今日は、おじ様方も魔法陣に入るらしい。


 お父様が祝詞を奏上すると、足元の魔法陣が光って魔力が吸い取られていく。

 体内で魔力が動いている事は判るようになったけれど、魔力が減るという感覚が全く判らない。特に不快に感じる訳でもないので、魔力が減る感覚が判らないままだとマズいのではないかと不安になる。


 天井の光源から一条の光が差し込んで、神像の前の御台を照らす。いつもの様にレオアウリュム様が顕現した。


「やあ、ルーチェステラ、元気にしてたかい? 今日も家族揃って来てくれたんだね。嬉しいよ」


 そういえばレオアウリュム様は、初代王の騎獣で建国の支えになって…。

 ぬぬっ? あれ何?


「レオアウリュム様、お久しぶりでございます。本日も何卒よろしくお願い申し上げ奉ります。…あの、レオアウリュム様、恐れながら額の()()は如何なされたのでございますか?」


 お父様が凝視している視線の先、レオアウリュム様の額には、金の縁取りがある大きな煌めく宝石に見える物がくっ付いている。

「あ、これ?」

 そう言ってレオアウリュム様が自身の額を左前足で押さえる。


 あ、肉球見えた!

 ちゃんとあるんだぁ。

 さ、触りたい!


「六つ柱の大神が着けてくれたの。依代になる度に僕が疲れるのを、皆が心配してくれるでしょう? だから神力を補う(ぎょく)を賜ったんだ。似合う?」

「左様でございましたか。大変お似合いでございます」

 レオアウリュム様は嬉しそうに笑うと、尻尾をゆらりと一振りした。

「うふふ、ありがとう。さて、まずいつもの報告を済ませてしまおう。ルーチェステラ、何かあったかな?」


「はい。新領地フィデスディスレクスは、統治体制が整いまして復興が進んでおります。関連して、メリディアムディテ領を中心とした結界周辺は、ガレキの撤去が完了いたしました。また、魔獣の密売組織は六つ柱の大神のお導きをもちまして、組織を解体し不当に扱われていた魔獣を全て保護いたしました」


「うん、ちょっと待ってね。…重畳であった、今後も励んで欲しい、だって」

「かしこまりました」


「うん、じゃあ先月は質問を受ける事が出来なかったから、それも含めて何か質問があるかな?」

「はい。御教えを賜りたい事が一つございます」

「何かな? 言ってみて」


「はい。水の神オークレール様は、ルーチェオチェアーノスとこれからも会って話がしたい、と仰せでございましたが、それはどの位の頻度をお考えであられるのか御教えを賜りたく存じます」

「ふむ、ちょっと待ってね」


 レオアウリュム様はすぐに目を閉じて静かになる。しばらくして目を開けたレオアウリュム様が答えた。

「この件は契約外の事で六つ柱の大神からのお願いである。周囲の都合も関わってくるであろうから、そちらの都合に合わせる、と仰せだよ。ルーチェステラの考えを聞かせてくれるかな?」


「かしこまりました。コントラビデウス一族の共通見解としましては、ルーチェオチェアーノスの身体の成長の妨げになる可能性をご考慮いただけますと、大変有り難く存じます。父親として具体的に申し上げますと、面談が毎月になる事を避けていただけましたら、この上なく有り難い事だと存じます」


「なるほど…」

 レオアウリュム様は再び目を閉じて静かになったが、すぐに目を開けて答えた。

「承知した、との事だよ。ところで、ルーチェオチェアーノスはどう思っているのかな?」


「はい。わたくしが六つ柱の大神とお会いさせていただく事を両親が反対いたしませんでしたので、喜んで承りたいと存じます。そして、あくまでもわたくしの希望でございますが、一柱の神様と一年に一回、偶数の月にお会いさせていただけますと大変嬉しく存じますが、いかがでしょうか?」


 一年が13ヶ月だから偶数月が年に6回。

 2ヶ月に一人のペースなら良いかなと思うんだけど…。

 これなら両親もOKかな?


 私が奏上を終えてお母様の顔を見ると、お母様は微笑んで頷いてくれた。

「うん、ちょっと待ってね。……それで良いそうだよ。ルーチェオチェアーノス、六つ柱の大神のお願いを聞き入れてくれてありがとうね」

「とんでもございません。恐れ多い事でございます」


「ルーチェステラ、他に質問がある?」

「いいえ、ございません。ご配慮、有り難く存じます」

「じゃあ、ソルテールと代わるね」


 レオアウリュム様はそう言ってふわりと宙に浮かんでくるりと前転すると、溶ける様に姿が消えて眩しく輝く光の塊に変わった。その光の塊は、徐々に新緑の様な緑色の輝きに変わりながら人型を形造っていく。光が収束してカッと輝くと、そこには土の神ソルテールが顕現していた。


 ソルテールは若葉色の長髪を赤い組紐で緩めのポニーテールにして、同じ若葉色の瞳をしていた。袖無しの着物と袴の様な衣を身に付け、少し和のテイストを感じさせる。


 おー、全身緑だぁ。

 ゲームに出てくる戦国武将みたい。


「私は土の神ソルテールである。コントラビデウスの一族よ。会えて嬉しいぞ」

六柱目の土の神ソルテールと面会しました。

さて、どんな話になるのでしょう。

次回は、ソルテールの話です。

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