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負けず嫌いの転生 〜今度こそ幸せになりたいと神様にお願いしたらいつの間にかお姫様に転生していた〜  作者: 山里 咲梨花


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オデットの退任

アデルにとって初めての側近の退任です。

幼い自分の面倒を見てくれた、お姉さんのような側仕えです。

寂しい気持ちをグッと堪えて笑って送り出したいと考えています。

 ノビリタスコラの入学式が終わってから何日か経って気付いたのだけど、平日の昼間の王宮内がいつもより静かな気がする。そういえば、平日の昼間はお兄様方がノビリタスコラに通っていて不在なので、お兄様方の側近の姿まで王宮内で見かけなくなった気がする。成人の側近はノビリタスコラには入れないので、王宮で仕事をしているはずなんだけどなぁ。


 最近の夕食の席では、シル兄様の学校生活の様子が話題を独占している。時折、ディー兄様の体験談を織り混ぜながら、和やかに団欒のひと時を過ごしている。


 お兄様方は、学校生活が楽しくて仕方ないんだろうなぁ。


 入学式から1週間が過ぎて、退任する私の側仕えオデットの後任のクラリスが、側仕え見習いに正式に就任する為の挨拶に来た。

 クラリスは私の側仕えオリビアの三女で現在14歳、ノビリタスコラの5年生だ。平日はノビリタスコラに通うので、主に休日に仕えてもらう事になる。オデットが退任する1の月終わりの日までの平日は、授業が終わった後、引き継ぎの為に王宮に通ってもらう事になる。


 その日以来、私はオデットの退任の日が近い事を実感して落ち着かない気持ちでいるけれど、私が見ていない所では引き継ぎが順調に進められているらしい。


 アデルの幼い頃の記憶を思い起こすと、庭を走り回る私を追いかけるオデットの姿やイザベルと三人でおままごとのような遊びをしている場面、何をしたのか覚えてないが一緒にメアリに叱られている場面、私のイタズラに驚いたり慌てたりしているオデットの姿などの様々な情景が思い浮かぶ。


 今の私は、その頃の事を記憶として知ってはいるが、実体験の感覚が無い。

なのに胸を締めつけるような淋しさを感じているという事は、きっと幼いアデルにとってオデットは、なくてはならない姉のような存在だったのだろう。


 本当に感謝している事をどうにかして伝えたいのだけど…。


 オデットが出仕する最後の日、朝当番はオデットとクラリスのようだ。

二人が寝室に入って来る気配で目が覚める。まだ慣れていないクラリスは、寝室に入る気配からも緊張がバリバリに伝わってくる。


 これって、魔力の波動なのかな? 


 天蓋を開けながらオデットが声をかける。

「姫様、おはようございます。今朝も良いお天気ですよ。お目覚めでいらっしゃいますか?」

 私はベッドの上で体を起こして、ニッコリ笑って朝の挨拶をする。

「おはよう、オデット。起こしてくれてありがとう。クラリスもおはよう」

「おはようございます、姫様。ご機嫌いかがでしょうか?」

 クラリスが緊張のあまり堅苦しい挨拶をしたので何だか可笑しくなってしまう。

「プッ、ウフフ。クラリスったら緊張しすぎよ。ちなみに私のご機嫌は、クラリスのおかげでグンとアップしたわ」

 クラリスが真っ赤になった頬を両手で押さえたのを見て、私とオデットは思わずクスクス笑ってしまう。そこへメアリが入って来て、私達の楽しそうな様子を見て微笑みながら声をかけてきた。

「朝から何か楽しい事がございましたか? 姫様が笑顔で大変結構でございます。さあ、姫様。ベッドから出てくださいませ。朝のお支度を済ませませんと。姫様は本日、陛下と共に神殿に参られるのでしょう?」

「あ、そうでしたね。メアリ、ありがとう。オデット、クラリス、お願いね」

 私はサッとベッドから出て、朝の支度に取り掛かる。


 先月末、一族全員で神殿に行った時、光の女神ルーチェンナから

「闇の神ティーネブラスが会いたがっているから、来月もルーチェステラと一緒に神殿に来るように」

と言われたから、神殿に行かなければならない。


 さすがに、子どもの私が神殿に行く事が増えると、側近達にも納得してもらえる理由を話して、協力してもらわなければならなくなる。

 今のところ、お母様に相談して、女の子である私が全属性のご加護を賜るという特別な事があったのだから、お礼の参拝をした方が後々の為にも良いだろうという事になった、と説明している。

 確かに異例づくめの事だから、と側近達は理解を示してくれたが、王家の秘密に関わる事だと薄々は感じ取っているように思う。

 そこは、暗黙の了解という事でお互い弁えているのだ。


 いつもは筆頭側仕えであるメアリが、率先して私のお世話をしてくれるのだが、今日のメアリは、私のお世話をオデットに譲るようにしているようだ。


 朝の支度が終わったら朝食を取って、神殿に行くためのドレスに着替える。神前に相応しく装う必要があると言って、側仕え達が整えてくれるのだ。支度が済んだら側近達を連れて、お父様の居間へ向かう。


 お父様の居間には、何故か家族全員が揃っていた。お母様とお兄様方が、一緒に神殿に行くのだ、とお父様に訴えている。


 今日は、闇の神ティーネブラスに会うって判ってるからなぁ。


 周囲には側近達が控えているので、闇の神ティーネブラスに会いたい、とは絶対に言えない。だから、私が六つ柱の大神に全属性のご加護を賜った御礼詣でをするのであれば、王家に久しく無かった女性への全属性のご加護を賜った事に対して、王家として、家族として、一緒に御礼を言上するのは当然だ。などと言い募っているのだ。

 わざと事前に許可を得ず直前に押しかけて来る辺り、お母様とお兄様方が共謀しているのがバレバレだ。そして、バレても構わないと開き直っている所にお父様が苦笑している。


 別に一緒でも構わないんじゃないかな?


 結局、お父様が同行を許可したので、家族全員とイザークおじ様、ロベールおじ様の7名でエレベーターの部屋に入った。



 神殿から戻るエレベーターの部屋の中で、家族で話し合う必要があるとお父様が言い、皆が賛同したので、急遽、お父様の応接室で家族会議をする事になった。


 私は、お父様の居間で待っていたメアリとオデットに、急に家族会議をする事になったと告げた。

 昼食までの時間内に終われば良いが、もし長引いた場合、そのまま食堂に行く事も考えられるし、短い時間で着替えないといけないかもしれない。どんな状況でも対応できるように準備しておいてもらうのだ。

 応接室にはメアリと護衛騎士を連れて行き、オデットには部屋に戻って、控えている側仕え達と一緒に準備をしてもらう事にした。


 結局、昼食に間に合うように家族会議が切り上げられたので、自室に戻って昼食のために着替えをする事になった。子どもが食事を疎かにする事をお母様が許さなかったからだ。


「オデット、急な予定変更でバタバタさせてごめんなさいね」

「とんでも無い事でございます。私共には当然の事でございますから…。お心配りをありがとう存じます。ささ、姫様、こちらへお立ちくださいませ」


 オデットの誘導に任せて立てば、クラリスに指示しながら二人でドレスを脱がせてくれる。その後ろには、昼食用の軽めのドレスを持ったメアリが待っている。

 革靴を脱いで、靴下も脱げば下着だけの姿になる。すぐさまお湯で絞ったタオルで顔や手足を拭いてくれる。それから新しい靴下を履かされ、メアリが持っていたドレスを着せられる。靴は柔らかい布靴だ。

 感覚としては、よそ行きの服から普段着に着替えたという感じだ。


「姫様、こちらの鏡台の前にお座りくださいませ」

 オデットの声に振り向けば、ヘアブラシを手にしたオデットが、鏡台の横で待ち構えている。

「髪型も変えるの?」

「今は少し引っ詰め気味ですから緩くした方がお楽ではございませんか?」

「ああ、そうね。じゃあお願いするわ」

 鏡台の前の椅子に座ると、オデットがハーフアップにしていた髪を解いて、綺麗にブラッシングしてくれる。

「姫様の髪は艶があって銀糸のように美しい輝きがございますね」


 鏡に映ったオデットは、丁寧にブラッシングしながら名残惜しそうにしている。私は、少し感傷的な気持ちになったけれど、ここでそれを言うのは違うと思って、事更に明るく振る舞う。

「そう? 皆が毎日丁寧にお手入れしてくれるおかげね。いつもありがとう」

「恐れ入ります」

 ニッコリ笑ったオデットは、緩めの編み込みのハーフアップにしてくれた。


 支度を終えた私は、メアリ、オデット、クラリスの三人を連れて、護衛騎士と共に食堂に向かう。食堂にはお父様とお兄様方が先に来ていた。


 今日の昼食の給仕は、オデットが担当する。メアリにクラリスの教育を任せて、これで大丈夫だと安心した私は食卓に着く。すぐに、お母様も着替えて来たので、家族揃って昼食を取った。昼食は、私が質問した魔力操作の話で盛り上がった。


 食後の団欒の後、自室に戻った私にオデットが断りを入れる。

「姫様、私はこれから、今までお世話になった方々に退任のご挨拶をして、後任のクラリスを紹介して参りたいと存じます。どうぞ、しばらくの間お側を離れる事をお許しくださいませ」

「許します。滞りなく引き継ぎを済ませて来てくださいませ」

「かしこまりました」


 二人が部屋を出て行くと、私はメアリに目配せする。すると、メアリはニッコリ笑って頷き、オリビア、マルティナ、イザベルの三人に指示をする。


 実はメアリに、退任するオデットに感謝の気持ちを伝えたいが、どうしたら良いかを相談したのだ。するとメアリは実にアッサリと、感謝していると言えば良い、と言ったのだ。大袈裟な事をすれば却って身の置き所が無くなるだろう。だから、ありがとうと一言告げるだけで、オデットは喜ぶはずだと。

 私は、そんなものなのかなぁ、と思いながらも、言葉だけでは私の気が済まないと言い募ると、それではとメアリがお茶会を提案してくれたのだ。


 領主ではない子爵夫人になるオデットは、私が主催するお茶会に招待される機会はないだろう。思い出づくりにお茶会をして、その席で感謝を伝える、というのはどうかという提案だった。

 具体的には、クラリスの練習のためという事にして、オデットを招待客に指名すれば良いのではないか。他の側仕えにも協力をお願いすれば、皆、協力してくれるのではないか。と考えてくれたのである。


 思い出づくりか…。

 よし! 採用!


 という事で、オデットとクラリスが挨拶回りを終えて私の部屋に戻って来た時、私の居間にはすっかりお茶会の準備が整っていた。

「姫様、ただ今戻りました。各所への引き継ぎと顔合わせは滞りなく終わりましてございます」

「そう、ご苦労様でした。オデット、戻ってすぐで悪いのですけど、お茶会をした時のクラリスの給仕を見てみたいから、オデットとイザベルがお茶会の招待客の役をしてちょうだい。オリビアとマルティナはクラリスの補佐をしてね。メアリは、全体をチェックする役ね。今、人数が揃っているうちにしておきたかったから、皆、お願いね」


 急にお茶会と言われたオデットとクラリスは戸惑っている様子だったが、周囲の側仕え達がニコニコしているのを見て落ち着いた様子になった。

「では、招待客が到着した所からにしましょう。オデット、最後のごっこ遊びよ。ちゃんと付き合ってね」

「かしこまりました、姫様」


 オデットがニッコリ笑ってイザベルに目配せすると、二人で居間から出て行く。他の側仕えは、お茶会の時の位置に控えた。オリビアがクラリスに耳打ちして説明しているから、クラリスは大丈夫だろう。


 扉がノックされて、扉の内側を守る筆頭護衛騎士のセブランが対応してくれる。

「姫殿下、デュポン子爵令嬢並びにジラール子爵令嬢がお着きになりました」


 もちろん、護衛騎士にも協力をお願いしている。私がもっと幼かった頃、お茶会ごっこは何度もしていたので慣れたものなのである。

 クラリスが緊張した様子で招待客役の二人を案内する。招待客役の二人は慣れた様子で子爵令嬢として振る舞っている。まずは、年上のオデットから挨拶だ。


「アデリエル王女殿下、オデット・ル・デュポンがご挨拶を申し上げます。本日はお招きをいただきまして誠にありがとう存じます」

「ご機嫌よう、オデット様。どうぞこちらのお席にお掛けになって」

「アデリエル王女殿下、イザベル・ル・ジラールがご挨拶を申し上げます。本日はお招きをいただきまして誠にありがとう存じます」

「ご機嫌よう、イザベル様。イザベル様はこちらのお席へどうぞ」


 二人が席に着いたのを見た私は、微笑みながら挨拶する。

「お二人とも私の招待に応じてくださって、本当にありがとう存じます。本日は、私の心からの感謝を込めてお茶を準備しましたの。どうぞ、召し上がってくださいませ」


 私の挨拶が終わったのを合図に、私にはクラリスが、オデットにはオリビアが、イザベルにはマルティナがお茶を給仕してくれる。


 うん、完璧だ!


 作法どおりに私がひと口飲んで見せると、オデットとイザベルがティーカップを手に取ってお茶を飲む。


「これは…」


 お茶をひと口飲んだオデットが、驚いた顔で私を見る。


「ええ、アンナマリアベルです。私が、初めて主催したお茶会で使用した茶葉ですわ。あの時は、オデット様が裏方を引き受けてくださいましたので、無事に終える事ができましたのよ。私が主催するお茶会は、オデット様にとってはあの一度きりになってしまいましたので、思い出の茶葉になりますわね」


 私がニッコリと微笑んでオデットに言うと、納得の顔になったオデットは、

「ええ、そうですわね」

と答えた後、黙って何かを考え込んでいる。


「本日は、私が最近気に入っているお菓子を準備しましたの」


 私の言葉が終わると、すかさず側仕え達がシフォンケーキに生クリームを添えた一皿を給仕してくれた。私は、作法どおりにシフォンケーキをひと口分に切って、生クリームを乗せて口に運ぶ。


 うーん、良い出来。

 チボーはまた腕を上げたわね。

 うふふ、私のおやつのメニューがまた増えましたぁ。

 グッジョブ、チボー!


 苺ショートケーキを作ってもらってから、時々メアリを通じてチボーから相談を受けるようになっていた。内容はもちろんお菓子についてだ。その中で、シフォンケーキのレシピを渡していたのだけど、今回、それを出してもらったのだ。

 ニコニコ顔でシフォンケーキを食べる私を見て、オデットとイザベルもお菓子に手を付ける。


「まあ、なんてフワフワなんでしょう! 姫様、これは何というお菓子でございますか?」

「ギャトゥ・シフォンよ。絹のように軽い口当たりに、クリームシャンテがすごく合うでしょう? アンナマリアベルに合うと思って作ってもらったのよ。うふふ、オデットったら子爵令嬢から側仕えに戻っちゃってるわよ」


 オデットの横では、イザベルがクスクスと笑っている。周囲の側仕え達は笑いを堪えているけど、クラリスだけは真面目な顔をしている。

 アッと言うような顔をしたオデットは少し苦笑してから、居住まいを正して私を見る。


「姫様、このお茶会ごっこは、私の為のお茶会ではございませんか?」

「さすがはオデットです。簡単にバレちゃいました。長年、私に仕えてくれただけはありますね」


 オデットが複雑な気持ちだと言わんばかりの顔で、周囲の側仕え達の顔を見ている。皆が私に協力していると判ったのだろう。


「オデット、これはオデットの為でもあり、私の為でもあるのです」

 オデットは、何を言い出すのかと言うように不思議そうな顔で私を見る。


「私が、退任するオデットに何か形にして感謝を伝えたい、と我儘を言ったから、私の為に側仕え達が準備してくれました。こんな風に私は貴女達、側仕えがいないと何もできないの。本当に、日々感謝しています。

 ねえ、オデット、子どもの私に仕える事は、さぞ大変だった事でしょう。今まで本当にありがとう存じました。これからは自分と家族を第一に考えて、幸せな日々をお過ごしくださいませね」


 オデットが目に涙を浮かべている。


「姫様、私の方こそ、愛らしい幼子の姫様と遊ぶ日々はとても楽しくて、大変な事など少しもございませんでしたよ。今まで本当にありがとう存じました」


 オデットが目に涙を浮かべながらも微笑んでくれるので、私も微笑む。


「なんだか湿っぽくなってしまったわね。さあ気分を変えて、どうせなら皆でお茶にしましょう。お茶会ごっこは終わりよ。メアリ、良いでしょう?」

「仕方ございませんね。皆、姫様のお許しが出ました。一緒に姫様のお茶にご相伴いたしましょう」

 それからは、側仕え全員と一緒に、思い出話に花を咲かせて楽しくお茶の時間を過ごした。



 その日の夕食のための私の支度が、オデットにとっての最後の仕事になった。

支度が終わった私の前にオデットが跪いて、最後の伺いを立てる。

「姫様、私、オデット・ル・デュポンが姫様の側仕えとして仕える事を、この場をもちまして辞する事をお許しくださいませ」

「許します」

 私は、跪いたオデットの手を取って、感謝を込めて微笑みながら頷いて見せた。

 メアリから私を促す声がかかる。

「姫様、食堂に参りましょう」

「はい、参ります」

 オデットの手を放すと、オデットは両手を交差して深くお辞儀をした。

 私は、微笑みを残したまま食堂に向かって歩き出した。

オデットが結婚準備のため、退任しました。

寂しさもある一方、前向きなアデルはオデットの結婚のお祝いに想いを馳せます。

次は、闇の神ティーネブラスに関する事です。

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