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負けず嫌いの転生 〜今度こそ幸せになりたいと神様にお願いしたらいつの間にかお姫様に転生していた〜  作者: 山里 咲梨花


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建国の日

建国の日のイベントが始まりました。

取り敢えず、主役はお父様なので目立たず大人しくしようと思っています。

この日からアデルは公的に8歳になりました。

 招待した全ての来賓が大広間に入場したので、一旦、王族専用の出入口から退出して控室に入った。

 控え室には、既にお祖母様が来て待っていた。それを見て、開始時間が近いと感じたお父様とお母様、ディー兄様が、用意されていたマントを急いで身に着ける。

 大広間では貴族の入場が続いているけれど、例え参加者全員が揃わなくても定刻には式典を始める予定になっている。


 王家の宴と同じ様に私達兄妹から入場するため、ディー兄様がマントを着け終わるのを待って一緒に扉の前にスタンバイした。

 5刻(午前10時)の鐘が鳴り終わると扉が開き、ディー兄様、シル兄様、私の順でコールされる。私は微笑みを顔に貼り付けて、兄様方に左右をエスコートされながら大広間に入り、ひな壇に上がって用意された席に着く。


 大広間では、王家の宴の時のような緊迫した雰囲気は全く無く、穏やかなお祝いムードが漂っている。席に着いた私の髪やドレスを整えてくれるお兄様方の甲斐甲斐しい様子が、なお一層、会場にいる人々の心を和ませているようだ。


 続いて、お祖母様がコールされて入場してくると、壇上の玉座を中心に私達の席と反対側に用意された席に向かって進み、優雅な仕草で席に着いた。


 最後に、お父様とお母様がコールされて入場して来た。お父様がいつにも増して自信と威厳に満ち溢れているように見える。二人はそのまま玉座に向かい、お父様は無造作に、お母様は優雅に、席に着いた。お父様が居住まいを正すと、大広間にいる大勢の人もつられたように居住まいを正すので、衣擦れの音で場内がザワザワする。


 何の連鎖だろ?

 面白いなぁ、うふふ。


 ひな壇に向かって左側の最前列に座っていたイザークおじ様が、その場で立ち上がってお父様の方に体を向けると、誰も居ないのかと錯覚してしまう程に大広間の中が静まり返った。


「只今より、ルーチェステラ王治政10周年を記念して、国王陛下より新年のお言葉を賜る。一同、静粛にせよ」


 イザークおじ様が席に着くと、お父様がゆったりとマントを捌いて立ち上がり、力強く演説を始める。


「皆、先ずは新しき年を迎えた事を共に寿(ことほ)ごう。それぞれの家、それぞれの領地でも新年を迎えた喜びを祝っている事と思う。我もまた、皆と共に新年を祝える事を心から嬉しく思う。今日の『建国の日』を、皆と共に祝える喜びを、六つ柱の大神に謹んで感謝する」


 お父様が胸に右手を当てて黙祷すると、会場にいる全員がそれに(なら)う。


 『名の秘密』を知っちゃったからなぁ。

 この祈りは確実に六つ柱の大神に届くよね。

 前世の記憶を取り戻してからいろんな事があったけど、

 家族が無事に今日の日を迎える事ができたのは、

 やっぱり、六つ柱の大神のご加護のおかげと言って良いと思うの。

 これからも、どうか私の家族をお守りくださいね。

 神殿には行けないけど、これが私の初詣です。


 黙祷が終わると、お父様は更に力強く演説を続ける。


「昨年は国内で大きな災害があった。加えて、年末の宴で発表した反逆によって、痛みを被った領地があった事は皆の記憶にも新しいと思う。我は、ここに集う者達が日頃から、民のため、領地のため、国のために多大なる努力をしている事に感謝すると共に、心からの称賛を贈りたい。其方達のおかげで、本日、我が治政は10周年を迎える事となった。今後も王として国のため、民のために精進する事を改めてここに誓う」


 会場内の人達から一斉に拍手喝采が起こる。椅子に座っている人達だけでなく、周囲に立っている警備の騎士や中央貴族のスタッフ、後方に控えている城の使用人達からも拍手が起こる。

 会場内を満足そうに見回していたお父様は、拍手が止むまで待っていたが、いつまでも鳴り止みそうにないと見て、右手を軽く上げて玉座に座った。


 再びイザークおじ様が立ち上がって来客の方に体を向けると、それだけで場内に静けさが戻った。


「これより、デイテーラ領主及びデクストラレクス領主について、国王陛下の裁定が宣下される」


 イザークおじ様が席に着くと、お父様が玉座に座ったまま宣下する。


「ジャック・ル・バロ・デイテーラは、己の家族を救う為に第一王女の襲撃に加担するという王族への大逆の罪を犯した。よって、領主を罷免し、爵位を剥奪する。情状を酌量して命までは取らぬ。新たなデイテーラの領主には、デイテーラの分家からギー・ル・デイテーラを指名する。ギーをこれへ」


 お父様が総務局職員のスタッフに声を掛けると、大広間の扉外に待機させていた初老の紳士を誘導してお父様の前に連れて来る。

 お父様の前に両手を交差して跪いたこの人は、デイテーラの地方貴族で、前領主の弟であり、罷免された領主の叔父に当たる人だ。


「ギー・ル・デイテーラ」

「はい」

「其方を本日より男爵に叙する。併せて、本日よりデイテーラ領の領主に任ずる」

 ギーは、お父様をまっすぐ見上げて答える。

「思し召し有り難く、慎んで拝命いたします」

「ギー、其方に元領主とその家族の監督を命ずる。決して領地から出さず、労働に依ってその罪を償わせよ」

「確かに承りました。ご厚情に心からの御礼を申し上げます」


 本当に厚情だよねぇ。

 何かの功績でもあった人なのかなぁ?

 過酷な重労働じゃなくても働いていれば良いって事だよね。

 そういう含みを持たせている訳だし。

 今となってはと言われたらそれまでだけどさ。

 人質に取られた家族を救う方法は色々とあったと思うのよ。

 相手の言いなりになっている様じゃ、領主失格だよね。

 本人にとっては却ってこれで良かったんじゃないかな。


 新たな領主となったギー・ル・バロ・デイテーラが、イザークおじ様の傍に用意してあった席に着くと、お父様が再び宣下する。


「バスチアン・ル・マキ・デクストラレクスは、反逆、大逆、売国、違法貿易の罪により、領主を罷免し、爵位を剥奪した上で、一族全員を死罪とする。その上で、領地の名を『王の信頼』の意味を持つ、フィデスディスレクスと改める。新たなる領主には、ランベール公爵家のウリエルを指名する。ウリエル、我が前に参れ」


 イザークおじ様の隣に座っていたウリエル様が静かに立ち上がり、お父様の前まで静々と歩いて来た。両手を胸の前で交差し、静かに跪く。


「ウリエル・ル・ランベール・マキ・フォンティーヌ」

「はい」

「本日よりフィデスディスレクス領の領主に任ずる。就任に伴い、侯爵位のままでフィデスディスレクスを名乗る事を許す。尚、フォンティーヌ侯爵位はランベール公爵家に返還する事を命ずる」

「慎んで拝命いたします。反逆の汚名に塗れた彼の地を、国王陛下の信頼に恥じぬ領地とするため、身命を賭して務めます」


 フィデスディスレクス侯爵となったウリエル様が席に戻り、お父様の声が響く。


「奇しくも『建国の日』に新たな領主2名が誕生した。我は356年前にこの国を建国した初代王に倣い、我が意を汲む者を選んだ。領地を引き継いできた誇り高き領主達よ。我が足元を支える優れ秀でたる貴族達よ。先達としてこの新たなる領主を受け入れ、導いて欲しい」


 お父様の言葉に、盛大な拍手が巻き起こる。

 これで、デイテーラ領主とデクストラレクス領主に対する正式な裁定が下され、後任人事も発表された。長きに渡り王国を揺るがせた大きな事件が決着したのだ。

 ただ、隣国に関する事は今後の外交に課題として残されたが、おそらくスッキリ解決するなんて事は無いと思う。

 それでも、どの顔も国内が安定していくという希望に満ちている。



 この後は、王城前広場に集まった民衆に、王城2階のバルコニーから王族全員のお手振りがある。その間、大広間では昼餐会の準備をする為、招待客全員に大広間から出てもらう。昼餐会に参加する人達には、王城の控室や応接室などを開放して休憩してもらうのだ。


 着替えの為に自室に戻った私は、桜色のフリルひらひらの姫ドレスに着替えて、サッシュをオレンジ色の物に変えた。髪はふわふわアップを下ろしてハーフアップに直し、再びティアラを着ける。


 支度を終えて廊下に出ると、普段は鍵が閉まっていて通れない2階の連絡通路を通って、真っ直ぐにバルコニーに向かう。お手振りの時は、バルコニーに一番近い客室を控室として使う事になっている。客室に着いて中を覗いてみたら、既に全員が揃っていた。


 優雅に見える様に歩くって時間がかかって大変なんだよ。

 王女は城内で走っちゃダメなんだって!

 心の中で、急げ、急げと唱えながら来たんだけど…。

 やっぱりビリだった。

 優雅に早く歩く技を身に付けねば…。

 幼いんだから仕方ない事なのに、こんな事でも負けず嫌いの私なのである。

 あー、疲れた!


「遅くなりまして申し訳ありません」

と言いながら客室に入って行くと、お父様が微笑んで返事をしてくれた。

「時間はまだある。大丈夫だよ」

 私が深呼吸をして息を整えていると、お母様が私の側に来て、私の手を取って撫でてくれる。

「アデルは洗礼を受けてから初めての事ばかりだし、今日は初めて民衆の前に出るから緊張するわよね。でも、大丈夫よ。バルコニーに出てしまえばお父様も私も、家族みんなが一緒ですからね。アデルはいつもの様に可愛く笑ってちょうだいね」


 お母様、ありがとう!

 でもね、緊張はしてないのよ。

 確かに民衆の前に出るのは、初めてだけどね。

 急いだからちょっと息を整えただけなの。

 と、また意味のない負けず嫌いが、心の中で発動している私である。

 疲れてんのかなぁ?


 イザークおじ様が、場が整った、と呼びに来たので、控室になっている客室を出て、バルコニーに通じる扉に向かう。

 バルコニーの前は広場になっていて、毎年『建国の日』だけ、城門からこの広場までを王都民に開放している。日本の皇室の一般参賀のようなものだ。

 広場からは王都の民が大勢集まっている様な喧騒が聞こえる。

 王家お抱えの楽団がファンファーレを演奏すると、少しの間、喧騒が止んだ。


 まずは、私達兄妹三人がバルコニーに出る。私達の姿が見えた途端に、民衆から歓声が上がる。

 私は背が低くて、目線がちょうど柵の高さなので、広場の様子は全く見えない。こうなる事を予測していたのだろう。気が利く王城の使用人が私専用の台を用意してくれている。シル兄様がエスコートしてくれたので、用意された台に上がると、バルコニーの柵の上に胸から上が出て、広場の様子がよく見えた。


 わあ、すごくたくさんの人が集まっている!

 最前列に民衆の方を向いて騎士が並んでいるのは、近衛騎士かしら?

 すごくカッコいい!

 騎士の前の柵まで、人が詰めかけているよ!

 あれ? 厩舎の上にも騎士がいる!

 警備の一環かな?

 それにしてもすごい人の数だなぁ!


 お兄様方に釘付けになっていた民衆の目が、柵からひょっこり顔を出してキョロキョロしている私に移り、わぁっと歓声が上がる。大声で可愛いと言っている声があちらこちらから聞こえてくると、それに気を良くしたお兄様方が私の左右に来てにこやかに手を振り始めた。


「ほら、アデル。僕たちのように手を振って!」

 ディー兄様とシル兄様の手の振り方を見て、少し大人しめにニッコリ笑って手を振ってみた。すると、民衆にウケたらしく、ドッと歓声が大きくなった。何となくだけど、民衆に受け入れられたような気がしてとても嬉しい。


 バルコニーの中央から少し外れた位置に、お祖母様が立って手を振り始めると、また歓声が上がる。お祖母様に民衆からの根強い人気があるのが良く分かる。


 続いて、お父様がお母様をエスコートして二人でバルコニーの中央に進み出る。すると、今までで一番大きく地響きのような歓声が上がった。歓声に応えてお父様とお母様が華やかに笑って手を振ると、国王陛下、王妃殿下、と民衆が叫んでいる声があちらこちらから聞こえてくる。

 お父様の人気ぶりに驚いていると、お父様が民衆に向かって大声で語りかける。


「トールトスディスの民よ。新たな年の始まりを共に迎えられる事を嬉しく思う。今年も皆の笑顔を見せてくれて感謝する」


 ウォーッという怒涛のような歓声に、10年目おめでとう、陛下ありがとう、などの様々な声が混じる。お父様とお母様の美しくて麗しい見目も相まって、アイドルのコンサートのようだと思ってしまった。


「ほぇ〜」


 しまった!

 民衆の熱狂ぶりに、思わず変な声を出してしまった。


 ディー兄様とシル兄様には私の間抜けな声が聞こえたようで、キョトンとした顔をした後、笑い声をあげてしまう。お父様が笑い声に気づいて、私達の方に寄って来てニコニコと声をかけた。

「どうした? 楽しそうだな?」

「はい、父上。父上の人気に驚いたアデルが変な声を出したので、それが面白くて笑ってしまったのです」

「そうか」


 右眉をクイッと上げてニヤリとしたお父様が、私を抱き上げてバルコニーの中央に戻り、お母様がお兄様方に手招きする。


「さあ、アデル。民にそなたの愛らしい笑顔を見せてあげなさい。片手で私の肩に掴まって、もう片方の手を民に向けて振るんだ」


 そう言われて周りを見ると、王家一家が寄り添って、民衆に手を振る図が出来上がっている。その体制で結構な時間を手を振って過ごしてから、王城内に戻った。


 うん、意外と楽しかった!


 広場の民衆を入れ替えて、もう一回バルコニーに出る。民衆の入れ替えが終わるまでは、控室として使っている客室で休憩だ。やっと、ゆっくりお茶が飲める。


 1限(30分)程過ぎた頃、イザークおじ様が呼びに来たのでバルコニーに出た。1回目と同じようにすごい歓声を浴びて王城に戻ると、昼餐会の時間まであと半限(15分)程になっていた。

 そのまま一階の王家専用控室に向かう。昼餐会では、私もホスト側の一員として席に着く事になっている。私のような子どもでも、王家の一員として参加する事に意義があるらしい。


 大広間の王家専用の出入口から入って案内された席は、右隣が女性領主のクロウディリエ男爵、左隣が法務局長のローラン伯爵、正面がランベール公爵夫人のアリエルおば様、右前がクロウディリエ領の信仰の長シャルル様、左前がメリディアムディテ伯爵だった。

 私の社交の指南役として、アリエルおば様がいてくれるので、かなり心強い。


 始まってみると、周りがちゃんとした大人ばかりである事に気付いた。お父様の治政10周年記念式典の一環である昼餐会という場でもあるし、私が子どもだという事もあったのだろう。周りの方は、公の場に初めて接待に出た私に興味津々の様子で、普段の生活の事など質問されたりした。

 私に話題が集中しがちだったが、当たり障りのない話題ばかり選んでくれているようで、本当に助かった。

 それに、アリエルおば様の見事な会話術に助けていただいたし、幼女モードを崩す事なく無難に終える事ができた。


 あー、疲れた!

 特に、メンタルが!


 昼餐会が終わると、大広間は大急ぎで片付けられて夜会の準備が始まる。

城の使用人達は大忙しだ。


 昼餐会を無事に終えた私は、自室に戻って正装から普段着に着替えて休憩する。この時点で時刻は7刻半(午後3時)を過ぎている。

 夜は、9刻半(午後7時)から夜会があるが、子どもである私はもちろん不参加である。代わりに王宮の食堂で晩餐会が開かれる。主催は王太子であるディー兄様で、招待するのは洗礼を済ませた一族の子ども達だ。

 大人達が夜会に参加している間、子どもだけで楽しく過ごす『建国の日』の恒例行事らしい。

 王家の子どもは、祝祭で賑わっている街中に遊びに行く事ができないので、その救済措置らしい。付き合わされる公爵家の子ども達には気の毒だが、王家の恒例行事ともなれば是非も無いだろう。今日だけは夜更かしが許されるとあって、お兄様方は楽しみにしている様子だった。


 晩餐は9刻(午後6時)開始予定だが、食べたばかりであまりお腹が空きそうに無い私は、メアリに頼んで、シェフのトマに私の晩餐の量を減らしてくれるように伝言した。


 すぐに厨房に行ったメアリが帰って来ると、今日の夜会にギャトゥ・フェーズを出す為に、王宮の厨房は大忙しで、甘い香りが充満していた、と報告してくれた。

「姫様、おそらくこちらの晩餐のデザートもギャトゥ・フェーズでございますよ」

 メアリが楽しそうに報告するので、今夜は早めに寝て、メアリ達が夜会に行けるようにしようと思うのだった。


 晩餐会のために着替えたのは、水色のフリフリ姫ドレスだ。公用のドレスというより普段着に近い。ちょうど支度ができたタイミングで、ディー兄様が迎えに来てくれたので、ディー兄様と廊下に出ると、階段の前でシル兄様が待っていた。

 三人で一緒に階段を降りると、ちょうどルグラン公爵家の馬車が王宮玄関の前に着いたところだった。出迎えのために三人で玄関ホールに待っていると、お祖父様とイヴォンヌおば様に連れられたルネ様、ダニエルとジョエルが入って来た。


 ホストであるディー兄様からお祖父様、イヴォンヌおば様の順に挨拶していく。

「お祖父様、朝からお忙しいところ、わざわざこちらにも顔を見せてくださって、ありがたく存じます。イヴォンヌおば様も、わざわざこちらにお寄りいただきましてありがたく存じます」


「なあに。可愛い孫達が集うとあっては、その様子を見たくなるのが当然じゃ。

気にするな」

「本当に。お義父様の仰るとおりですわ。やんちゃな息子達が、殿下方にご迷惑をおかけしないか気になりますもの」


 イヴォンヌおば様がおっとりと仰って、頬に手を当てて吐息をつくと、ルネ様が頬を膨らませておば様に文句を言う。

「母上、いつまでも幼子のように扱うのはお止めください。私はもう12歳です」

 後ろでダニエルとジョエルが、ルネ様そっくりに頬を膨らませて頷いている。


 三人ともヤンチャが可愛い!


「シル、エルちゃん、孫同士で仲良くしてやっておくれ」

「はい、お祖父様。僕は楽しみにしておりましたので、大丈夫です」

「私も楽しみにしておりましたわ」

 私の作り笑いに気付いたお祖父様が、私を抱き上げて小声で尋ねてきた。

「エルちゃんや、あまり楽しくなさそうだが、何かあったかな?」

「お祖父様。むしろ何も無いのです。だって女の子は私一人なんですもの」

 小声で答えた私の返事に目をパチパチと瞬きしたお祖父様は、納得したらしく、なるほど、と呟きながら私を降ろした。


 そこに、ランベール公爵家の馬車が着いたようだ。アリエルおば様に連れられたアンドレ様とジョルジュ様が玄関ホールに入って来た。

「アリエルおば様、お忙しいところをこちらにもお寄りくださいましてありがたく存じます」

「ディー殿下、息子達を連れて参りましたので、よろしくお願い申しますわね。

アンドレ、貴方が一番年上なのですから、ディー殿下をお助けして幼い子の面倒を見るのですよ」


 アリエルおば様がおっとりとアンドレ様に注意してから、お祖父様とイヴォンヌおば様に挨拶していると、お母様をエスコートしたお父様が、階段を降りて来た。


「姉上が子ども達を連れて来てくださったのですね。フォルゴ叔父上とイヴォンヌ夫人もありがたく存じます。息子達が楽しみにしていましたので、ご協力に感謝します」

「あ、そうだわ、ルーチェ。お義祖父(アールブムビィア)様とお義父(ラファエル)様を先に王城に送り届けたわ。

イザークの手伝いをすると伝言を頼まれたの」


 姉弟の気安さでアリエルおば様が言うと、お父様が動き出す。


「それはありがたい。それでは、王城に参りましょうか。ディー、シル、アデル、私達は夜会で遅くなる。あまり羽目を外さないようにしなさい」

「アデルは、疲れたらディーに断って先に休ませてもらいなさい。ディー、2階の客室を使って良いから、ダニエルとジョエルが眠そうにしていたら休ませてあげなさいね」

「分かりました、母上」


 お父様とお母様を先頭に、大人達が王城の方へ移動して行く。王宮には子ども達とその側近が残された。すると、ディー兄様がホストらしく案内を始める。

「さあ、みんな。食堂に入って食事にしよう」


 晩餐が始まると、専らディー兄様とアンドレ様が会話を主導し、楽しく食事ができた。来週からノビリタスコラに入学するシル兄様とジュルジュ様が、学校の事を聞きたがったので、私も興味深く話を聞く。

 デザートにはメアリが言ったとおりギャトゥ・フェーズが出され、皆、大喜びでお代わりをしていた。


 デザートが終わる頃になると、7歳もとい、今日から8歳の私の身体が、頻りに眠気を訴えている。

 それに気付いたディー兄様が、メアリを呼んで退室させてくれた。ここで限界が来た私は、マルクに抱き抱えられて自室に戻り、なんとか入浴して、ベッドに倒れ込むようにして爆睡したのだった。

建国の日のイベントを無事に乗り切りました。

意地を張っても子どもの身体はクタクタです。

次は、ノビスタスコラの学期始めと入学式です。

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