心の平穏
光の女神ルーチェンナからもたらされた情報は、先代国王の死の真相でした。
アデルは、初めて見る家族が苦悩する姿に、心の平穏を求めて心からの祈りを捧げます。
この国での年の数え方は、現代日本のような満年齢ではなく、昔の日本で元旦に一斉に歳を取ると考えられていた『数え年』の数え方になる。生まれた年が一歳と考えるパターンだ。
だから、私の誕生月は2の月だけど、建国の日から7歳と考えられ、明日の建国の日から8歳になる。
お母様の誕生月は13の月だから、生後一ヶ月で2歳になったという訳だ。
同じ様に、満年齢の数え方では即位してから8年5ヶ月だけど、明日の建国の日でお父様の治政が10年目に突入する。それを記念して『ルーチェステラ王治政10周年記念式典』が行われる。
でも今は、明日の事は考えられない。今の私達の頭の中は、他の事で一杯になってしまっている。光の女神ルーチェンナの話は、それほどの衝撃があった。
先代国王を殺した犯人が判明し、犯人が既に故人である為どうする事もできない歯痒さの中、気持ちの整理をするべく、お父様の居間でお茶を飲みながら、大人達がそれぞれの気持ちを吐き出している。
それを受け止める様に、話を聞いているのはお爺様だ。お爺様にとって先代国王は甥に当たる。
お爺様は、兄である先々代国王を宰相として支えていた。譲位により先代国王が即位した時、長男のラファエル様に公爵位と宰相の職を譲り渡し、自らは王の実子のみが使える尊称である大公となって、先代国王の相談役に就任した。
それなのに、ランベール大公になって2年後に先々代国王を、5年後に先代国王を続けて冥界に見送る事になってしまったお爺様は、すっかり気落ちして政界から引退してしまった。
お爺様の後を継ぎ、先代国王を宰相として支えていたラファエル様は、先代国王の急死に伴って急に即位しなければならなくなった若いお父様を支える為、宰相として務めながら常にイザークおじ様を側において鍛え上げた。
そして三年後に、イザークおじ様に公爵位と宰相の職を譲り渡して、サポートを続ける為にお父様の相談役に就任した。
お父様、イザークおじ様、ラファエル様の三人で、先代国王の毒殺の真相を突き止めようと苦労して、それでも出来なかった悔しさを語る。
先代国王は男ばかりの三人兄弟で、先代国王は長男、次男がステラおじ様、三男がお祖父様だ。
ステラおじ様は、若い頃から今で言う魔法オタクであったが、王弟として、魔法師団長として、先代国王が王太子の頃から支え続けていた。
自分の子が後継者争いの種になってはいけないから、と冗談の様に言い訳をして結婚せず、好きな魔法の研究をしていたのだが、先代国王の急死により冗談が急に現実的になり、周囲が勝手に後継者に担ぎ上げようとする動きが出てきた。
怒ったステラおじ様は、優秀で成人した王太子であるお父様がいるのだからと、お父様の即位と同時に臣籍降下し、ゴディエル公爵となった。
三年前に、王弟であったグラーチェおじ様を養子に迎え、公爵位と魔法師団長の職を譲り、ゴディエル大公となってお父様の相談役に就任した。
自分にとって、本当に大切な兄であった事、グラーチェおじ様に自分と同じ思いをさせたくない事を語る。
グラーチェおじ様も父を殺された悔しさ、兄を支えたい想いを語る。
王家の三男だったお祖父様には、騎士団長になって兄の役に立ちたいという望みがあった為、先代国王の即位と同時に臣籍降下してルグラン公爵となり、騎士団長として、筆頭護衛騎士として先代国王に仕えていた。
しかし、先代国王の毒殺を阻止できなかった責任を取り、お父様の即位と同時に爵位と騎士団長の職を長男のロベール様に譲って謹慎していた。今は、お父様に請われてルグラン大公として相談役になっている。
お祖父様は、自分の落ち度を悔やむ思いと、だからこそお父様とお母様を支える覚悟を語り、ロベールおじ様がお祖父様の想いを引き継ぐ覚悟を語る。
先代国王が毒殺された8年前は、お父様が22歳、お母様は21歳。
歴代の国王が、40歳前後で譲位による即位をしている事を考えると、随分若くして即位した事になる。
当時は、ディー兄様が3歳、シル兄様が生まれた直後だったので、私はまだ生まれていない。ディー兄様は、その頃の両親の様子を覚えていた。
産後の間もない体で王太子宮から王宮への引っ越しを指揮しながら、ディー兄様の不安をケアしてくれたお母様。昼間は全く姿を見せなくなったお父様が、早朝突然、ディー兄様の部屋にやって来て、黙って抱きしめてくれた事。お母様と一緒にお父様の身体の心配をしていた事などを語る。
目に涙を浮かべて話を聞いている私に、その頃の王宮は暗くなりがちだったけれど、初めての女の子である私が生まれ、喜びに沸いた事でようやく光が差して来たのだと、皆が口々に言う。
ここにいる人は全員、先代国王の暗殺で何らかの想いを抱えた人ばかりなのだ。
今までの私は、これらの話題に全く触れる事はなくて、つい先日メアリから話を聞くまでなにも知らなかった。父が、母が、兄が、おじ様達がこんなに苦しんでいたとは全く知らなかったのだ。
それでも、私達兄妹の笑顔が、皆の気持ちを引き上げて来たのだと言ってくれる優しい家族・親族の皆様のために、少しでも気持ちが楽になりますようにと祈らずにはいられなかった。
翌朝、気持ちを切り替えて早めに朝食を済ませると、建国の日の式典のために準備した正装に着替える。来賓の出迎えのために、式典の一時間前までに王城の玄関ホールに行かなければならないため、時間の余裕を持って準備を始めた。
今回の式典の来賓は、六つ柱の大神を祀る礼拝堂を守る長20名だ。隣国とのイザコザが解決していないので、他国には招待状を送らなかったらしい。
私は、他国についてはまだ隣国の名前すら知らない。我が国と接している国が一つしかないから、隣国と呼べば事足りてしまう。そのうち、勉強科目に地理が加わるだろうから、その時に教われば良いかなと思っている。この世界の事をもっと知りたいと思っているから、楽しみにしている。
今日の来賓である礼拝堂の長は、領地ごとに一人と決まっている。領内の各地にある礼拝堂の管理を行う人からの意見を取りまとめて領主に報告したり、礼拝堂に関する助言を行うなどの役目を担う方だ。領地ごとに信仰心が厚く、加護の属性数が多い人の中から領主が任命する。
礼拝堂の長は、信仰の長とも呼ばれ、人々の尊敬を集めており、国民の代表と言っても過言ではない方達なのだ。
今日の私の装いは、白に限りなく近い淡いピンクのローブデコルテ風プリンセスラインのドレスに、髪をふわふわとアップにして王女の証のティアラを着ける。
赤いサッシュに王女の記章を着ければ完成だ。
部屋から廊下に出ると、護衛騎士が待っていてマルクがエスコートしてくれる。エスコートと言うと聞こえが良いが、動きづらい正装の私が階段でコケないように支えてくれるのである。
階段を降りて王宮の玄関ホールから王城への連絡通路に向かう途中で、ディー兄様が追いついて来た。ディー兄様がマルクに声をかけてエスコートを代わってくれると、身長が近い分、私も楽に歩ける様になった。
ディー兄様は王太子の正装フル装備だけど、王家の宴で私が着たドレスと、今日のディー兄様のテールコートが、同じ生地と色合いだった。その事をディー兄様に言うと、この生地だけ兄妹三人分の正装を作っているらしい。三人が被らないように側仕え同士で打ち合わせしているけれど、せっかくお揃いで作ったのだったら、一度は三人でお揃いの正装をしてみたいなぁと思ってしまった。
王城の玄関ホールでは応接室に誘導され中に入ると、お父様、お母様、シル兄様が既に来て待っていた。
「今日の来賓である信仰の長は、貴族ではない方が殆どだが、各領主が付き添って紹介してもらう様に手配している。皆も友好的に振る舞ってくれるように頼む」
お父様が私達に向かって言うと、ディー兄様が心配そうな表情で質問する。
「父上、デイテーラとデクストラレクスの信仰の長は、どなたか付き添ってくださる方がいらっしゃるのでしょうか」
「うむ、大叔父上とステラおじ上にお願いしてある。だから心配は要らぬぞ。
さぁ、お前達に今日一日は王家の一員としての務めを果たしてもらうぞ。ディー、シル、アデル、できるか?」
「はい、父上。大丈夫です」
ディー兄様が自信ありげに答えれば、続いてシル兄様もお父様に答える。
「僕も、僕なりに頑張ります」
シル兄様が冷静に答えるので、私もそれに倣う。
「私は、私らしく頑張りますわ」
「うむ、期待しているぞ。さぁ、行こう」
お父様に続いて大広間に入ると、会場内は式典らしく整然と椅子が並んでいる。入ってすぐのひな壇側に椅子が5脚並べてあり、そこに入り口側からお父様、お母様、ディー兄様、シル兄様、私の順で並んで座ると、それぞれの護衛騎士が後ろに立つ。
大広間の入り口は幅が6m程ある。その入り口を真ん中で二分する様に近衛騎士が立ち、貴族達を誘導する為に中央貴族がスタンバイしている。
誘導の指揮をイザークおじ様が、警備の指揮をロベールおじ様が執っている。
イザークおじ様が『最初の来賓を通す』と合図して教えてくれたので、家族一同立ち上がって出迎える体制になる。
ここからは、天皇一家が園遊会で参加者と次々に話していく様子を思い浮かべてもらえば分かり易いと思う。相違点があるとすれば移動するのが相手の方で、私達は動かずに待っているという点だ。
最初に来られたのは、お爺様とデクストラレクスの信仰の長だった。何かと話題になっている領地なので、気を利かせて早めに連れて来られたのだろうと思う。
「陛下、アールブムビィア・ル・ハフ・コントラビデウス・ランベールが、今日の良き日にお祝いを言上する為に御前に罷り越しました。治政10周年を無事お迎えになられた事、誠に目出たくお慶びを申し上げます。御前に同道いたしましたこちらのお方は、デクストラレクス領の信仰の長を務めておられるジャンピエール殿でございます」
「おお、デクストラレクスの…。今度は領主の所業によって混乱が多々あったと聞いている。領民の様子など話して聞かせてくれぬか?」
「恐れ多い事でございます。まずは本日ご招待をいただきました事を感謝申し上げると同時に、治政10周年をお迎えになられた事を心からお祝い申し上げます。国王陛下のお言葉に甘えまして、私が住まう地の様子を申し上げさせていただきたく思います」
ジャンピエール様は、言葉遣いからもかなりの有識者だと思える。誠実な感じがする初老の紳士だ。
「うむ、祝いの言葉、嬉しく思う。我は民の様子が知りたい。何なりと聞かせてくれぬか?」
「承知しました。私の住まう地の領主であった者は、決して領民にとって良い領主とは言えませんでした。権力に追随する者達も領民を食い物にする者ばかりでございましたから、領民の苦しみは増す事はあっても減る事はございませんでした。
この度、国王陛下のご英断により悪い領主達を懲らしめてくださったので、領民達は喜んでいる者が殆どでございます。この後はどうぞ、領民にとって良いご領主様をお授けくださいますようお願い申し上げます」
「相分かった。必ずや期待に応えると約束しよう。ジャンピエール殿、式典の後は心ばかりの食事を用意している。せめてそれくらいは楽しんで欲しい。今まで民の心の支えとなってくれた事、心から感謝する。これからも信仰の長として民のために働いてくれよ」
「はい。有り難いお言葉を感謝いたします。これにて御前を失礼いたします」
ジャンピエール様は、お父様の約束の言葉や優しい物言いに感激したようにお辞儀をした。お父様がジャンピエール様に対して本当に友好的に振る舞っているのを見て、ジャンピエール様が信仰の長と呼ぶに相応しい方なのだと分かる。
お爺様とジャンピエール様がお母様の前に移動すると、少し間を空けてお父様の前に来たのは、ステラおじ様とデイテーラの信仰の長だ。
「国王陛下、ステラルクス・ル・ハフ・コントラビデウス・ゴディエルがお祝いを申し上げるべく参上いたしました。本日は、治政10周年の良き日を迎えられました事、心からお慶び申し上げます。ここにデイテーラの信仰の長、ロラン殿を伴いましたので、お言葉を賜りたく存じます」
「うむ。ロラン殿、貴殿の働きによってデイテーラの民が落ち着きを取り戻したと聞いている。近頃の様子はどうだ?」
「国王陛下、ロラン・ル・ドゥビエでございます。本日は、治政10周年を迎えられました事を心からお慶び申し上げます。この良き日に大変恐縮ですが、民の総意をお汲み取りいただきたく、お願いを申し上げる為に、お招きに応じて参上いたしました」
あ、お父様の右眉がピクリと跳ね上がった。
たぶん、私もお父様と同じ気持ちになったと思うよ!
だって、民の総意という大袈裟な言葉のチョイスが鼻持ちならない!
貴族だし、要注意だな!
「何じゃ、申してみよ」
「今回のデクストラレクス謀反の陰謀に、私達の領主様が巻き込まれてしまった折、国王陛下のお慈悲をもちまして一命をお助けくだされたと聞いております。
ご領主様は、領民思いのとても良いご領主様でございまして領民一同ご領主様を慕い、ご一家の行く末を案じております。どうかご一家の謹慎をお解きいただき、私どもの憂いを取り除いてくださいますようお願い申し上げます」
何だろう。
字面にすると凄くまともに見えるけど、
この人の言葉の中には、善意を偽装した被害者意識が見え隠れする。
なんかムカつくんだよね。
お父様は何と答えるのだろう?
「相分かった。領民達が領主一家の助命嘆願のため暴動になりそうであったところを、そなたと一部の貴族が抑えた事は聞いている。だが、その事と王族である我が愛娘が襲撃された事は別件として扱う。襲撃に加担した領主の従者が現行犯で捕縛された以上、領主を無罪とする訳には参らぬ。領民には不安も不満もあるであろうが、悪いようにはせぬ。我に任せよ。そなたはこの場を楽しむが良い」
うん、だよね。さすがお父様。
この人が公の場でお父様から引き出したかったであろう褒め言葉は言わず、
事実を言葉にしただけで、罪が明らかである事を突きつける。
最後に領民を慰撫する言葉で締め括れば、相手はもう何も言えない!
上手い!
ステラおじ様とロラン様がお母様の前に移動すると少し間が空いて、次にお父様の前に来たのは、フォルゴラスペス領の領主と信仰の長だ。
知らない人だなぁと思っていたら、お爺様が私の前でにこやかに挨拶を始めて、小声で教えてくれる。
「アデル姫、今、シル殿下と話しておられるのは、デクストラレクスの領民の心の支えとなってこられたジャンピエール殿でございます。襲撃の被害者であるアデル姫には思う所がございましょうが、領民達もまた被害者でございます。どうか優しい気持ちでお言葉をおかけくださいますようお願い申します」
「ご心配ありがとう存じます、お爺様。私ちゃんと理解できております。王女としての振る舞いができるように頑張りますね」
お爺様がニコニコして振り返ると、丁度、ジャンピエール様がシル兄様に辞去の挨拶をしている。私は、こちらに歩み寄って来られたジャンピエール様に、右手を出して握手を求める。
「ジャンピエール様、アデリエル・ル・セス・コントラビデウスです。
今日は、お招きに応じてくださいましてありがとう存じます」
私から先に挨拶して握手を求められた事に、ギョッとしたジャンピエール様は、どうしたら良いのかという風に狼狽えて、助けを求めるようにお爺様を見た。
お爺様がにこやかに頷いて、スッと右手で私が差し出した手を示して促す。それを見たジャンピエール様は、ゴクリと喉を鳴らして私の手を取り左膝をついた。
ジャンピエール様の痛ましげに歪められた顔を見て、私が襲撃された事を知っていて、申し訳なさに膝をついたのだと確信する。
「王女殿下、初めてお目にかかります。デクストラレクスの礼拝堂の長を務めておりますジャンピエールと申します」
私は、私の右手を取ったジャンピエール様の手に、扇を持ったまま左手を寄せて両手で包む形にする。この方に襲撃の事を詫びさせてはいけないと思いながら話をする。
「ジャンピエール様、私の目線に合わせる為に膝をついてくださってありがとう存じます。私、デクストラレクス領が被った大災害を始めとする様々な不幸を少しでも晴らす事ができますように、これ以上善良な領民の方々が苦しむ事が長引きませんように、と六つ柱の大神にお祈りいたしますね」
「王女殿下の方こそ、領主であった者のせいで、大変恐ろしい思いをなさったのでしょう? それなのに、このような優しいお言葉をいただきまして、誠に申し訳なく思います」
「私には、お父様もお母様もお兄様方もおりますし、助けてくれる者が周りにたくさんおります。恵まれている事に感謝しておりますの。私はまだ子どもですから何もできませんけれど、王女として民の為に神に祈る事はできます。祈る事が信仰の長様のお力になれるかどうかは判りませんけれど、どうかこれからも民の心の支えになってあげてくださいませ」
「おお、ありがたく…、誠にありがたく感じ入りました。今日は、王女殿下にお会いできて良かった。必ず、領民に王女殿下が我らの幸せをお祈りくださる事を伝えます」
「いえ、そのような事はなさらないでくださいませ。ささ、お席について、お父様の晴れ姿を見守ってくださいませ」
そう言ってジャンピエール様の手を引っ張って立たせると、スタンバイしていた誘導の係に目配せしてジャンピエール様の席まで案内してもらう。お爺様の顔を見たらやっぱりニコニコしたままだったので、あの対応で良かったのだと安心した。
ジャンピエール様を見送っていると、ステラおじ様が私の前に来て挨拶を始めたので、慌てて前を向く。
「アデル姫殿下、私と共に参りましたのは、デイテーラの信仰の長、ロラン殿です。領主一家のことを案じているようですが、姫殿下の目にはご不快に映りますでしょうか」
ステラおじ様! なんつーフリをするんですか!
もぉー、そのキラキラした目は何ですか!
どうなっても知りませんよ!
私はステラおじ様をちょっと睨んで、幼女モードでツンとしてフリに乗っかる。
「ステラおじ様、私、領主一家に同情はいたしますが、罪は罪。無かった事にはできません。全てはお父様がお決めになる事です」
そう言ってロラン様の方を見ると、私の前に進み出たロラン様は、私の前で左膝をつき両手を胸の前で交差して挨拶を始める。
あーあ、ステラおじ様のフリに乗っちゃったよ、この人!
王家を舐めてんのかなぁ。
いや、私を舐めてんだろなぁ。
「初めてお目にかかります。私はデイテーラ領の礼拝堂の長を務めますロラン・ル・ドゥビエと申します。王女殿下には、領主様の従者が大変な無礼を致しました。従者の過ちは領主様の責任です。領主様の事を許せとは申しません。ですがせめて、ご領主様のご家族の皆様の事はお目溢しいただきたく領民を代表してお願い申し上げます」
いや、襲撃の手引きですよ?
無礼なんて可愛いモンじゃないでしょうが!
領民の代表?
そんな実体のない言葉は免罪符になりません!
あー、上から目線が鼻につくぅ!
「ロラン様、今日はお招きに応じてくださってありがとう存じます。ロラン様は、今日の式典の来賓のお一人です。お客様がそのような事をなさっては、困ります」
私は右手で自分の頬を押さえてこてんと首を傾ける。ロラン様は、真面目な顔をしてはいるが、目はニヤニヤと言わんばかりに笑っている。ロラン様の後ろでは、ステラおじ様がニヤリと笑って顎でしゃくる。
分かりました!
引導を渡しますよ!
本当にどうなっても知りませんからね!
私は頬に手を当てたまま溜息をつくと、両手で持ち直した扇をお腹の前に持ってきて、姿勢を正す。
「ロラン様、先ほどゴディエル大公に申し上げたとおり、全て陛下がお決めになる事です。そして、私はこの国の第一王女です。その私が陛下の決定に否を申し上げる事はありません。先ほど陛下は、悪い様にしないから任せろ、と仰せになりました。陛下の、そして国の結論はもう出ているのです。今、貴方がなさっている事は、意味の無い自己満足です。さぁ、お立ちになって! あ、それと勘違いしないで欲しいので、申し上げておきますが、私、公私混同はいたしませんの。この国の王女として、民の幸せと安寧を願っております。陛下が出された結論がそのまま私の心です。さぁ、お席に着いて式典が始まるのをお待ちくださいませ」
私の口調の変わり様に、ロラン様が大きく目を見開いている。
幼女モードから溜息一つで王女モードに切り替えたんだもん。
そうなるよね。
ステラおじ様がロラン様に声をかけて立たせている。
ニヤニヤ顔のまま、ステラおじ様がロラン様に何事か小声で囁くと、
ロラン様がギョッとした様に私を見て、目を逸らした。
ステラおじ様、何を言ったんだろ?
まぁ、いいや。後はステラおじ様にお任せだ!
次、次!
「初めてご挨拶させていただきます。グザヴィエ・ル・バロ・フォルゴラスペスでございます。王女殿下とお話しできる機会を得まして本当に嬉しく思います。こちらに伴いましたのは、我が領の信仰の長、シモン殿でございます」
お? 子供扱いか?
ならば私も幼女モードに切り替えましょうかね。
いよいよ建国の日のイベントがスタートしました。
前世で培った接客スキルが役に立ちそうです。
次回は、建国の日です。




