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負けず嫌いの転生 〜今度こそ幸せになりたいと神様にお願いしたらいつの間にかお姫様に転生していた〜  作者: 山里 咲梨花


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ステラおじ様の魔道具

ステラおじ様の試作品を試してみたい!

その事に気を取られて、自分が暴走している事に気付いた時には、やってしまった後のアデルです。

また、メアリに叱られてしまいそうです。

 ステラおじ様が帰った後、取り敢えず自室に戻って、落ち着く為にメアリにお茶を淹れてもらう。お茶を飲みながらケーキ作りについて考えていると、どうしても生クリームの泡立てが上手くいくかどうか、が一番気にかかる。

 何しろシェフが知らない事をしてもらう訳だから、どうしても上手く伝えられるか心配になってしまう。まずはお母様に報告して、シェフに連絡してもらわないといけないだろう。


「ねえ、メアリ。お母様に面会依頼をお願いしてくれないかしら。ステラおじ様が試作品を持って来てくださったからその報告をしたいし、改めて王宮シェフのトマに依頼したいから、相談に乗っていただきたいの」

「かしこまりました。すぐに、王妃殿下筆頭文官のパトリスに連絡して参ります」


 お母様には、王妃としての公務がある。最近は社交期間の後半に入ったためか、複数の高位貴族が主催するお茶会に出席したり、自分でお茶会を主催したりして、情報収集に忙しくしているらしい。特に、デクストラレクスの事件以降、各貴族の動向や噂話などの情報を集めては、お父様に渡しているらしい。

 それに加えて、これ以上動揺が広がらない様に、お母様独自の女性の情報網で、情報操作もしているらしい。


 お母様は本当にスゴい。

 ふんわりした雰囲気の外見をしているけど、実はやり手なんだよね。

 嫌味なく人を説得できる所とか、年齢関係なく貴族女性に慕われている所とか、

 こんな大人の女性になりたいなぁと思わせてくれる自慢のお母様なのよね!


 しばらく待っていると、メアリが帰って来た。お母様からは、

「平日の昼間は時間が取れそうにないから、今日の夕食の後にお話しましょう」

と返事を聞いて来てくれた。


 夕食の時間は、久しぶりに家族全員が揃った。お父様の仕事の目処が立った、という事で、和やかな雰囲気になり、会話の流れの中で、ステラおじ様の試作品の話になった。


 あれ? この後、お母様とお話する約束はどうなるのかな?

 いま、ここで話しちゃうの?

 明らかにお母様が会話を誘導してるよね?


お父様とお兄様方も、新しい魔道具に興味があると言う。


 なるほど、お母様はこの事を知っていて、会話を誘導したんだね。


 私が、試作品の受け取りの時、ステラおじ様と呼ぶ事を要望された話をすると、お父様がため息を吐いて困ったように言う。

「アデルは、一族の中で唯一の女の子だからか、皆が愛情を注いでくれるのは有難いのだが、親しさ自慢をしているのは、傍から見ていて嬉しい様な、困る様な…」

 それに応えてディー兄様が嬉しそうな表情でお父様に言う。

「それはアデルの素直な物言いや愛らしい仕草が、皆を和ませているからですね。遠慮されるより良いではありませんか」

 同調する様に頷きながら、シル兄様もお父様に言う。

「結構な事ではありませんか。その分、アデルの守りが厚くなりますよ。アデルのおじ様親衛隊ですね。もちろん非公式ですけど」

 シル兄様がクスクス笑いながら同意を求める様に周りを見回すと、お父様は呆れた様にお兄様方を見ていて、お母様はシル兄様につられた様にクスクス笑い出し、ディー兄様は満足そうに笑っている。

 私はと言えば、私ってば愛らしい仕草をしているの?と首を傾げながらも、家族が良ければそれが一番良いので、特に言う事はない。


 前世では、家族との縁が薄かった。今世では親孝行もしたいし、家族皆が笑っていられる様に努力するつもりもある。とは言え、王族という特殊な立場にあるのだから、努力すると言ってもその方法は大きく違ってくるだろう。当然、試行錯誤になるだろうし、私自身の幸せも忘れちゃいけない!


 そう! 今世では結婚したいんだよ!

 女性として愛され、大切にされたい。ここ大事ね!

 たとえ結婚できても浮気されたり放置されたりして、

 蔑ろにされたのでは意味が無い!

 都合の良い女扱いはゴメンなのだ!

 やっぱりお父様とお母様みたいなラブラブ夫婦、憧れるよねぇ〜。


 結局、私の懸念事項はその場で解消される事になり、王宮シェフのトマを呼んで試作品を試すのは、明日の夕食後、家族全員が立ち会う事になった。

 私は、生クリームと砂糖、金属のボウル大小一個ずつと氷を持ってきてくれる様に、トマへの伝言をお願いした。


 翌日は、12の月第二週闇の日である。改まって何事かというと、13の月第一週銀の日がお母様の誕生日なのだ。25日後という事になる。

 午前中の刺繍の授業で、お母様の誕生日に刺繍をプレゼントしたいのだと先生(イヴォンヌおば様)に相談した結果、プレゼント用の刺繍を教えていただける事になった。まだ、基本的な事も満足にできないのだが、先生考案の、本当に簡単でそれなりに見栄えのする花の刺繍を、ハンカチにする事になった。

 不器用なりに日頃の感謝を込めて、一針ずつ丁寧に刺していく。こういうのは、気持ちだから不恰好でも良いのだ。間に合うように頑張ろう!


 午後の歴史の授業では、歴代の王名を学んだ。今となっては当たり前の事だけど王名は全て六つ柱の大神から賜った名なので、長くて覚えにくく、しかも同じ名がない。なんとか三世など無いのだ。

 この国では、王太子が40歳を超えると譲位する傾向があり、在位期間が20年前後の王が多い。王が早逝すると、次代の王の在位期間は長くなる。在位期間が一番長いのは、初代王の45年である。お父様は17代目の国王で、先代が早逝したため在位期間は長くなるだろうと言われているらしい。

 王名が年号の代わりになるので、今年は、ルーチェステラ王治政9年になる。


 午前と午後の授業を終えたら一休みした後、授業の復習をする。その後は、夕食のために着替えをする。今日は、夕食後に自室に戻るのが遅くなる予定なので、側仕え達にその対応をお願いしておく。


 夕食後、食堂にシェフのトマが王宮の料理人を二人連れて来た。トマは挨拶した後、連れて来た二人を紹介した。いかにもな強面をしているのがスーシェフのモルガン、イケメン風の細マッチョがパティシエのチボーだそうだ。紹介はしてくれたが、応答するのはトマだけのようだ。


 お母様に促されて、早速、トマに話しかける。

「トマ、お願いしていた物は準備してくれましたか?」

「はい、王女殿下」

「では、そちらのテーブルに準備してきた物を出してくださる?」

「かしこまりました」

 トマが合図すると、モルガンとチボーが押して来たワゴンから、生クリームが入っているであろうピッチャー、砂糖が入っているであろう壺、銅のような色合いのボウル、氷が入っている陶器の器を出してテーブルに並べる。


 私は、メアリに合図してステラおじ様の試作品をテーブルに並べてもらう。料理人の三人の反応は、何だろう?程度の薄いものだが、お父様とお兄様方は食い付くように見ている。


「ではトマ、早速ですけれど、小さいボウルに生クリームを入れてください」

「かしこまりました」

 トマが小さいボウルに生クリームを50ccくらい入れる。


 それじゃあ、少なすぎるかな?


「トマ、今の量の3倍の量を注ぎ足してくださいませ」

「かしこまりました」

 トマが私の指示に従って注ぎ足すと、ボウルの中の生クリームは200ccくらいの量になった。


 私は、何も考えずに自席を立ってトマの近くに行き、生クリームの入ったボウルに触れる。すかさずセブランが私に付いて来て、咎める様に一言「姫殿下」と声をかけて来た。


 あ! これ、勝手に動いちゃダメなヤツだ!

 でも、確認だけはさせてもらわないと、上手くいくかどうか判らないよ!


 仕方がないので

「セブラン、確認だけさせてください」

と声をかけ、確認を続ける。


 ボウルは、ステンレスほど硬くなさそうだが、金属で間違いなさそうだ。一目見ただけでは何の金属か判らないけど、熱伝導は大丈夫だろう。

砂糖も確認しておかなきゃ。

「トマ、砂糖を見せてくださいませ」

「かしこまりました。王女殿下、どうぞ」

 トマは、壺から砂糖をティースプーンで一杯取り分けて小皿に入れて、私の前に置く。砂糖の色は、少し黄色がかった白色だ。精製してこの白色なのかは判らないが、この程度なら問題ないだろう。

 私は、ティースプーンの先でほんの少し砂糖を掬って口に入れる。

 セブランが「あっ」と言いながら手を伸ばしてきたが、私はにっこり笑って制止する。

 砂糖の味は、上白糖よりほんの少し甘味が強い気がする。


「トマ、生クリームをティースプーンの先にほんの少し、私にくださいませ」

 トマは、砂糖の味見をした私を見ていたので、了解と言うように頷いて、新しいティースプーンにほんの少し生クリームを乗せて差し出した。

私は、それを受け取って味見する。

それを見ているセブランは、動きこそしないがハラハラしているのが分かる。

 

 毒の心配かな?


生クリームは、牛乳で作った物よりクセがなく、少し脂肪分が多いように感じた。


 うーん、この組み合わせで美味しい分量ってどのくらいなんだろう?

 まあ、とりあえずで試してみよう!


「トマ、ボウルに入れた生クリームに、砂糖をティースプーンで三杯入れて、この器具を使って混ぜてくださいませ」

 私は、泡立て器を指差してお願いする。

「綺麗に混ざったら、もう一度味見させてくださいね」

「かしこまりました」

 トマが生クリームに砂糖を入れて泡立て器でかき混ぜると、落ち着いていたトマの目が驚きで大きく開いた。

「王女殿下、この泡立て器という器具で混ぜると、砂糖がすぐ溶けて生クリームに馴染みました」

 そう言ったトマは、すぐに新しいティースプーンを出して、生クリームをほんの少し掬うと、ティースプーンを私に差し出した。

味見してみると、ちゃんと甘くなっている。


 甘さの加減は好みだからなぁ。

 味の追求はトマに任せて、私は手順の説明を優先しなきゃ!

 それと、魔道具の試運転ね。


 私はトマに頷いて見せながら、ティースプーンを置いて、魔道具の泡立て器を手に取る。

「味の調整はトマに任せるつもりですので、今は生クリームを泡立てる事を試してみましょう。先ほど使った泡立て器でも、根気よく上手に混ぜればちゃんと泡立つのですけど、時間がかかるので、今はこの魔道具を使ってみてください」


 トマに魔道具を渡して使い方を説明しようとすると、お父様を始め、家族全員が立ち上がって、よく見るために近くに来た。それを待ってから泡立て器の使い方を一通り説明した上で、トマに魔力を流してもらう。すると、泡立て器がスムーズに作動したので、私は最後の指示をする。


「ではトマ、大きいボウルに氷を入れて…ああ、氷が少ないですね。 この大きいボウルに半分くらいは氷があった方が良いのですけど…」

 私がそう言いかけると、トマはチボーを見た。トマと目が合ったチボーは頷いて

「取って参ります」

と言って、食堂から出て行く。

 私が説明を続ける間に、お父様達はそれぞれの席に戻って座った。


「大きいボウルの半分くらいまで氷を入れたら氷の上に生クリームが入ったボウルを乗せて、冷やしながら魔道具の泡立て器で撹拌します。撹拌する時は、ボウル全体に行き渡らせるように魔道具を動かしながら混ぜます。生クリームは、泡立ってくるとだんだん固くなってきます。泡立て器を止めて持ち上げた時に、生クリームがピンと立つ様になったら出来上がりです」


 私がジェスチャーを交えながら説明を終えると、既にチボーが氷を持って戻って来ていた。トマは、私が説明したとおりに作業を始めた。私は、一歩下がってその様子を見守る。


「おお、凄いぞこれは!」

 トマが感嘆の声を上げた時、生クリームがホイップクリームになっていた。

興奮した様子のトマは、何も言わずに新しいティースプーンを出して出来上がったホイップクリームを掬って私に差し出す。

味見をしてみると、ちゃんと前世のホイップクリームに負けない物が出来ている。

「トマ、イメージどおりの物が出来ています。ありがとう存じます」


 そこに、お父様から声がかかる。

「私も味見したいのだが良いか?」

 私は頷いて、トマに言う。

「毒味は私がいたしましたので、お父様、お母様、お兄様方にも、味を試していただきましょう」

「かしこまりました」

と言ったトマは、モルガンとチボーに目配せして一緒に動き出すと、スプーンで綺麗に掬ったホイップクリームをスプーンごと小皿に乗せ、まず、お父様達の側仕えに渡した。


 あー、これが正しい手順だよねぇー。

 仕方なかったとは言え、やっちゃったなぁ、これ!

 後でメアリに叱られる!


 そんな事を考えながら、自分の席に戻る。

お父様は

「ほう、これは初めてだな!」

お母様は

「まぁ、美味しい!」

ディー兄様は

「旨い!」

シル兄様は

「僕、これ好きだな」

と、それぞれの感想をいただいた。

それを聞いた私は、思わずにっこり笑ってトマに尋ねる。

「トマ、生クリームの泡立ては上手くいった様です。これで、私の考えたお菓子は作れそうですか?」

「はい!しばらくお時間をいただければ、試作品をお出しする事が出来ると思います。この泡立てた生クリームは、なんと名付けましょうか?」


 確か、ケーキに詳しい知人が、ホイップクリームはフランス語で

 クレームシャンティと言うんだって言ってたよね。

 よし、パクろう!


「そうですね。クリームシャンテと名付けます。そのクリームシャンテは、冷やしていればしばらくは保ちますが、長く放置すれば溶けて液体に戻ります。そのまま持ち帰って、味見してみてくださいませ」


 それから私は、興奮して目をギラギラさせている三人の料理人にスポンジケーキの型、絞り口金、回転台の使い方を教え、試作品ができたらすぐに教えてくれるようにお願いして、お母様にバトンタッチする。


「トマ、モルガン、チボー、今日は遅い時間までご苦労様でした。試作品については、まず、私達の夕食のデザートに出してくださいませ。アデル考案のお菓子を、陛下も楽しみにしていらっしゃいます。頼みましたよ」

「かしこまりました。仰せのとおりに」


 お父様・お母様に、今日の打ち合わせに同席していただいたお礼を言って、食堂から自室に戻ると、案の定、メアリのお説教を聞きながら入浴する羽目になった。

分かっててやった確信犯だから、自分が悪い事は理解している。

まず、自ら動くのではなく側仕えにさせるべきだった事。

毒味なしで食物を口に入れた事。

セブランの制止を聞き入れなかった事など。

全て、王女としてしてはいけない事だとガッツリ叱られた。

しかも、側近達も危機管理がなってないと叱られるのだそうだ。


 火の女神フランマルテの事は言えないし、言い訳のしようがない。

 確かに、もっと考えて行動すべきだったと良く分かったよ!

 ごめんね、メアリ。

 ちゃんと反省するよ、ションボリ!

 

アデルの暴走の成果はありました。

これでようやく苺ショートケーキ完成の目処が立ちました。

次は、隣国の王弟のその後です。

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