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負けず嫌いの転生 〜今度こそ幸せになりたいと神様にお願いしたらいつの間にかお姫様に転生していた〜  作者: 山里 咲梨花


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理不尽なご都合主義

火の女神フランマルテのせいで、仕事が増えてしまったアデル。

お友達の事を考える暇も無く、休日は仕事、平日は授業の毎日です。

 お父様の執務室に戻ると、お母様と私の側近達が待っていた。

 お母様は私に駆け寄ると、いきなり私を抱き締める。

「アデル、神殿に行っていたのでしょう? 子どもが呼ばれるなんて今までに無い事だからとても心配したのよ」

「お母様は、私が神殿に行く事をご存知だったのですか?」

「まさか! ここに来てから知ったのよ。何があったか聞いても良いのかしら?」

「あ、そうですね。お父様、どうしたら良いですか?」

「アデルからお母様に話してやってくれるか? 全て話して良いから協力してもらいなさい。アデリーヌ、黙っていてすまなかった。要らぬ心配をさせたくなかったのだよ」

「陛下、私、心配はしましたけど、怒ってはおりません。大丈夫ですよ」

 お父様がお母様を軽くハグして耳元で何か囁いた。お母様はそれに頷いてにっこりする。


 両親がラブラブだと嬉しくなるよね。二人を見ている私も自然と笑顔になる。


 ロベールおじ様に護衛のお礼を言って、側近達を連れて一度自室に戻る。

 6刻(正午)の鐘から半刻(1時間)ほど過ぎているので、まずは昼食だ。


 食事を終えて、私が中座した後の事を、セブランとメアリに報告してもらった。お母様とセブランのおかげで特に問題は無かったようだ。中座は予定外だったのに上手くフォローしてくれて感謝しかない。私の側近達は、本当に優秀だ。


 その後は、いつもの様にメアリが

「私共が知っておくべき事がございますか?」

と尋ねてきたので、新しいお菓子を作る必要があるとだけ話をした。


 話が終わると、着替えて7刻半(午後3時)を目処にお母様の居間に行く。

 お母様にお願いして、盗聴防止の魔法を展開してもらうと、お母様が事件の事をどこまでご存知なのか聞いてみる。すると、大体の事はご存知だったが、デクストラレクスの災害が、実は神罰である事、レオアウリュム様とお父様の会話の内容の2点はご存知なかったようだ。


 私は、お父様から聞いた話とお母様の知っている事を照らし合わせて情報の共有をした後、神殿で起こった事を説明した。

 お母様は、神罰という神の御業に恐れおののき、火の女神フランマルテが、私を名指しして顕現した事に驚愕して、フランマルテからの依頼に困惑していた。


 私は魔法の範囲から出てお母様の側仕えに、お母様の為にお茶を淹れてほしい、とお願いした。

 お茶を飲んで、落ち着きを取り戻したお母様は、私に尋ねる。

「アデルは、そのお菓子を作れるのですか? 今の貴女は、厨房に近付いた事すら有りませんのに…」

「うーん、分かりません。作り方は知っていますが、前世でも実際に作った事は、無いのです。それにこの世界の食材が、前世と同じかどうかも判りません。ですが普段いただいているお菓子を見ると、案外上手くいくのではないかと思います」

「作ったことが無いのに、どうして作り方を知っているのでしょう? お母様には理解できないのですけれど…」


 うーん! 何て説明すればいいんだろう? 

 テレビやSNSなんて言っても、それこそ理解できないだろうし…。

 困ったなぁ!


「前世では、お菓子だけでなく料理全般の知識だけを得る手段があったのです。

それに、前世の私は自分の食事は自分で作っていたので、ある程度の物は作ろうと思えば作れたのです」

「アデルは、前世では平民だったのですか?」

「あ、いえ、私がいた国は、身分制度がありませんでした」

「身分制度が無ければ国の政事はどうするのでしょう? …あら、これは関係ありませんでしたね。とにかく、アデルが作り方を知っているという事ですね。

そして、火の女神フランマルテの依頼だから失敗できない。そうであれば、王女である貴女が作るという事はできませんから、城の料理人に作らせる事を認めていただけた事は、幸いでしたね」

「私も、自分のこの小さな手で作る事は、無理だと思っています」


 ケーキ作りは、家電が無ければ体力勝負になるからねぇ。

 7歳にしては小柄な私には、荷が重いよねぇ。

 でも、まずは


「お母様、食材の事を知りたいのですが、どうしたら良いでしょうか?」

「アデル、城ではなく王宮のシェフ(料理長)に作らせましょう。その方が指示を通し易いのです。食材を知るより、まずは、王宮のシェフに水の星のお菓子の話をするのです。ただし、アデルが考えた事にして、こんなお菓子が食べたいのだと話をしてみましょう。私は、アデルの話に興味を持ったという体で同席します」

「なるほど! 分かりました。お母様、よろしくお願い申します」


 頭で考えているだけでは先に進まない。

 この状況でシェフにひと当たりするのは、良い打開策だと思う。


 お母様は、盗聴防止の魔法を解除すると、筆頭文官のパトリスに

「アデルが新しいお菓子を考えたようです。実現可能か専門家の意見を聞きたいのでシェフを呼んでください」

と指示をした。


 王宮にあるお母様の執務室に移動して待っていると、パトリスがいかにもシェフといった出で立ちでふっくらという表現がぴったりの男性を連れて戻って来た。


「トマ、急に呼び出して申し訳なかったわね。アデル、王宮シェフのトマよ」

と、お母様が紹介してくれたので、私は立ち上がってトマの挨拶を受ける。

「アデリエル王女殿下、お初にお目にかかります。ただいまご紹介に預かりました王宮シェフを務めさせていただいておりますトマと申します」

「第一王女のアデリエルです。夕食前の忙しい時間にお呼び立てしてしまってごめんなさいね。どうか、私の相談に乗ってくださいませ」

 トマは、人の良さそうな顔を横に振りながら

「とんでも無い事でございます、殿下。どうぞ何なりとお申し付けください」

と言ってくれたので、私はソファーに座ってから、以前のアデルに寄せた話し方で

「ではね。私、こんなお菓子を食べたいなと思ったのですが、聞いてくださる?」

と言ってみた。

「どうぞ仰ってみてください」

「いつもの甘くて柔らかいお菓子、えと、フィナンシェというのかしら?」

「フィナンシェ…フィノシェの事ですね」


 おっと、少し発音が違うのか。

 こりゃ、食材の名前をそのまま言って通じるのかな?


「そう、そのフィノシェの甘さを少なくして、これくらいの生地を焼くの」

 私は、手で直径20cmくらいの輪を作って見せる。トマは、真剣な目で私を見ている。

「そしてね、その生地を半分に横に切って」

 私は、手刀で横に切るジェスチャーをして見せて説明を続ける。

「間に泡立てた生クリームと苺を挟むの。周りは泡立てた生クリームを塗って、上に苺を飾るの。とても美味しそうでしょう?」

 トマを見ると、すごく真剣に考え込んでいる。しばらく考えたトマは

「殿下の仰るイチゴとは何でしょう?」


 あちゃー、この世界に苺はないのかなぁ?

 ん? 私、日本語でイチゴって言ってない?

 フランマルテが日本語で『苺ショートケーキ』って言ってたから、

 そのまま日本語で言ってたよ!


「表面は赤くて粒々が付いていて、中身は白くて少し酸味があるの。これくらいの果物よ」

私は、人差し指と親指で大きさを示す。

「それは、フェーズの事でしょう。コンフィにしてビスキュイに乗せてお出しした事がございます」


 あ、苺ジャムのクッキーだ!

 それそれ!

 すごく美味しかったよ!


「そうです! それです!」

「それから殿下、私どもは生クリームを泡立てるという事をした事がございません。フォークで卵を混ぜると泡が立ちますが、その様な事でしょうか?」


 おー、これは困った!

 これは、泡立て器がないのか?

 泡立て器を作らせてもいいのか?

 六つ柱の大神よ!

 これは、『過度な知識の流布』に該当するのか?

 あー、わからん!

 どうしたらいいんだ!


 私が心の中で叫んだ途端、上からドンと圧がかかって、スポットライトの様な光に照らされる。それは、一瞬のことで、すぐに元に戻る。ビックリした私が、周囲を見回しても、皆、普通にしている。


 え? 私だけ? 

 気のせい?


 ふと下を見ると、膝の上に小さな紙切れが乗っていて、一言『該当しない』とだけ書かれている。再びビックリした私が、その紙切れを凝視していると、その紙切れはスーッと透明になって消えた。


 今のは六つ柱の大神からの返事?

 どんだけご都合主義なんだよ!

 そんなに苺ショートケーキが食べたいのか?

 そうなんだろうなぁ。

 はは…はぁ、もう、笑うしか無いよ。


「シェフ、私、考えたのですけど、金属の細い棒を何本かこんな風に曲げて、ここをギュッと束ねて、ここに握る所を付ければ、泡立て器が作れると思うんです」

 私がジェスチャーを交えてヤケクソ気味に説明すると、シェフはとても困惑した様子で、私から視線を外してお母様を見る。


 だよね。

 身分から言って、私を嗜められるのはお母様だけだもんね。


 その様子を見ていたお母様は、クスクス笑いながら言う。

「アデル、道具作りはシェフの仕事ではないわ。トマ、道具の事はさておきアデルの言うお菓子のことをどう思いますか?」

「はい、今までに無い新しい菓子になると思います。生地の方はフリーゴカンポス領の菓子キャトルキャルを参考にできると思います。あとは、生クリームを泡立てるというのが判らない所ですが、是非作ってみたいと思います」

「そう、ありがとう。今日はもう下がって良いわ。道具の件が解決したら、また、お願いする事にします」

「かしこまりました。御前失礼いたします」


「アデル、道具作りはグラーチェに相談しましょう。パトリス、魔法師団長に折り入って相談がある、と面会依頼を、そうね、明日7刻(午後2時)でお願いしてくださいませ。そろそろ、アデルも私も夕食の支度をしなくてはね」

 そう言われて窓の外を見ると、夕方になっている。

 続きは翌日に持ち越しだ。


 その日の夕食のデザートは、カットしたフェーズに粉糖をかけた物だった。

 シェフが、気を利かせたのかな? 

 フェーズは、日本の苺の2倍くらい大きかったので、すごくビックリした。


 翌日は、7刻前にお母様の執務室に集合した。

 また説明する所からかな? と思いながら、お母様に盗聴防止の魔法をお願いすると、グラーチェおじ様が、私がやろう、と言ってくれた。


 グラーチェおじ様、すごい! 

 さすが魔法師団長!

 無詠唱でサクッと展開した魔法は、

 イザークおじ様とお母様のものより少し青に近い色をしていた。

 私がその事を言うと、付随する効果は内緒との事。

 あー、私も早く魔法を覚えたいなぁ!


 おじ様は、私がお父様から聞いた事は、全てご存知だった。デクストラレクスの被害状況の確認は、騎士団と魔法師団の合同で行われたそうだ。神殿であった事についても、お父様から概要を聞いていると言う。

 隣国の王弟の魔力を込めた物、つまり、簡易登録の魔石を探す事を命じられたらしい。明日の朝に、先行している騎士団の精鋭を追って、デクストラレクス領に向けて出発する事になっているそうだ。


 王都からデクストラレクスの領都まで、騎獣で2日、馬で1週間、馬車だと倍の2週間かかる。


 通常は、城と領主の館にある転移陣で行き来できるのだが、デクストラレクスの領主の館が大破した時、転移陣も破壊されたので、それが出来ないのだそうだ。

 グラーチェおじ様だけは、国王の許可をもらっていて、王都とデクストラレクス領の間にあるデイテーラの領主の館に転移して、騎士団と合流した後、騎獣で移動するので、明日の夕方には着けるだろうと話してくれる。


 閑話休題(それはさておき)、昨夜の内に描いておいた簡単な図を見せながら、私の相談内容をかいつまんで話すと、グラーチェおじ様は興味津々になった。まず、泡立て器を説明すると、ただの道具ならすぐ出来ると言ってくれた。

 そこで、私は、家電の泡立て器を説明してみた。グラーチェおじ様は、ますます好奇心を露わにして、ブツブツと私にはサッパリの魔法理論を話し出す。どうやらお母様にも全く解らないらしい。ついでに、スポンジケーキの型、デコレーション用の回転台、絞り口金の話もする。


「姫ちゃん、申し訳ないが、私は明日から兄上の命令で出掛けなければならない。だから、今回の事は、義父上に頼むといいよ。私よりずっと魔道具に詳しいから」

「ステラルクス様にですか?」

「そう、火の女神フランマルテの命令ならコントラビデウス以外には話せないし、急ぐでしょう? 今聞いた話を義父上にして、姫ちゃんが描いてくれた図を渡しておくよ。たぶん、試作品を持って来ると思うから、申し訳ないけど義父上の相手を頼むよ。兄上の命令が無ければ私が作るけど、私は兄上の臣下だから許してね」


 かー! 同じ王弟でも雲泥の差だね!

 隣国の王弟に、おじ様の爪の垢を煎じて口に突っ込んでやりたいよ!


「とんでも無いです。ステラルクス様にお願いしていただけるのは、大変ありがたい事です。どうぞよろしくお願い申します」


 私の抱っこを堪能したグラーチェおじ様が去ると、お母様が私に言う。

「ステラルクス様は、グラーチェに輪をかけて魔法が大好きな方ですから、お相手するのは少し大変かもしれないわね」


 え? それはどういう意味でしょう?

 ああ、そういえば親族会議で『過度な知識の流布』の定義が欲しいなんて

 言ってなかったっけ?

 わー、本当にお相手するのは大変かもしれない!


 私はまず、ステラルクス様にお願いの手紙を出した。すると、グラーチェおじ様が言ったとおり、試作品ができたら連絡すると返事が来た。


 ふむ、返事の手紙をお母様に見せたら、しばらく放置だな!


 フランマルテに会った日から5日目。パトリスがお母様の伝言を持って来た。

ルー伯爵のご子息が私の側近入りを希望してきたので、面会日を設定するように、という事だ。

 私は、早い方が良いと思ったので、次の休日である3日後を指定する。

 お友達とのお茶会の前日だけど大丈夫でしょう!


 そして、その当日、ルー伯爵と次男のクロード様が王城の応接室にやって来た。

 クロード様は、明るい茶色の巻き毛が小さい顔を囲んだ長いまつ毛の女の子、といった容姿をしている。私を見るなり、きゃあ、ステキ!いう歓声が聞こえる様な仕草で、胸の前で手を組んだ。


 うん、可愛い!


 形どおりの挨拶のあと、ソファーに向かい合って座る。私の横にはお母様。

クロード様の横にはルー伯爵。

 まずは、無難な質問から始める。

「クロード様は、私の側近になりたがっていると聞いていますが、将来はルー伯爵のような魔法師になりたいのでしょうか?」

「いいえ、僕は服を作る人になりたいのです。だけど、父様からそれは平民がする事だと言われました」


 ん? 話が見えない!


「では、私の側近になりたい訳ではないのですね?」

「いいえ、父様から側近になれば王女殿下にお仕えできると聞きました。僕は、王女殿下のような人が着るドレスを作ってみたいです。本当は、僕もドレスを着てみたいのですけど、僕は男だから…ダメだから…」


 ほう、なるほど。

 そう来たか!


「クロード様が私のドレスを作ってくださるの?」

「はい、そうしたいです」

「でも、私の側近は、側仕え、騎士、文官のいずれかです。クロード様がやっても良いと思える仕事がありますか?」

「僕…分かりません」

「んー、私、こう思いますの。例えば、もしクロード様が私の文官見習いになったら、文官の仕事とドレスのデザインを両立するの。もちろん、私のドレスですから簡単にデザインの合格は差し上げられませんわよ」

「それができれば、僕は王女殿下にお仕えできるのですか?」

「ええ、服を作るのは平民の仕事ですが、基になるデザインを貴族がしても良いと思うのです。今は、その下地作りの為に文官を目指すのはいかがかしら?」


 あわよくば、専属デザイナーを育てられるかもしれない!


「僕、文官のお仕事がどんなものかわからないので、少し考えても良いですか?」

「ええ、もちろん。クロード様の気持ちが固まったら、ご連絡くださいね」


 このあと、お互いの好きな物の話で盛り上がって、思いがけずキャッキャウフフを堪能してしまった。私の中では、僕っ娘のクローディアちゃんでイメージが固まりつつある。

 ルー伯爵親子が帰って行った後、微笑みを顔に貼り付けていたお母様が呟いた。

「どう見ても女の子だったわ」

苺のショートケーキを作る為に、お母様の全面協力を得て、アデルも心強いです。

実は、お母様は失敗イコールアデルに神罰と危惧しているのですけど、アデルは分かっていません。

次は、お友達とお茶会です。

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