側近選び 〜護衛騎士見習い任命〜
思いがけずルグラン公爵家の双子ちゃんが
護衛騎士見習いに立候補してくれました。
これで、騎士見習いが4人になります。
お友達にも、2人のご令嬢が立候補してくれています。
アデルは、どうするのでしょうか。
側近候補を決める話し合いから2日後の昼食の時間に、ロベールおじ様から先触れが来た。午後の授業終了後の空き時間に、私に会いたいとの事である。
対応したメアリが、私に報告をしてくれた後に尋ねる。
「騎士団長から姫様に面会依頼なんて、初めてでございますね。何かお心当たりがございますか?」
「いいえ、全く。騎士団長ですから護衛騎士の事かしら?」
本当に心当たりが無い。
何の用事だろ?
事件の事かな?
それくらいしか考え付かない。
メアリと二人で首を傾げながら、午後の授業の準備をした。そして、午後の授業が終わって居間で待っていると、すぐにロベールおじ様がやって来た。
「姫殿下、本日は急にお時間を取っていただきましてありがたく存じます」
「いいえ、構いません。ロベールおじ様もお忙しいのに、こうしてお訪ねくださるという事は、大事なご用件なのではございませんか?」
「はっ、実は私の息子達が姫殿下の護衛騎士見習いになりたいと申しております」
「はい? …それは、ダニエル様とジョエル様の事でしょうか?」
「はい、そうです」
「でも、お茶会の時はお二人とも、ロベールおじ様のような強い騎士になりたい、とは仰いましたけど、私の護衛騎士になりたい、とは仰いませんでしたよ?」
「いや、私の説明が悪かったせいもあるのですが、強い騎士になりたいと言えば、姫殿下が選んでくださると思っていた様です。兄のルネが、王太子殿下が選んでくださったのだ、と自慢していたのもあるでしょう。
私もまさか、姫殿下が本人の希望を重視なさるとは、考えもしておりませんで、家格を考えるとうちの坊主どもを選んでいただけるとばかり…。
楽観的に考えておりました。姫殿下の方針を事前に知っていれば、坊主どもに、選んで欲しいと伝えろ、と言い聞かせたのですが…」
そういえば、ロベールおじ様は、あのお茶会に来てなかったよね。
その場にいないとわかんない事だからねぇ。
「まぁ、そうだったのですか。二人とも、本当に私の護衛騎士になりたがっているのですね?」
「はい、それは間違いありません」
「でも、なぜ急にお話に来られたのですか?」
「あ、いや。実は、デュポンの所のご令嬢に通知があったと聞きまして、当家には来ていなかったものですから慌てまして…申し訳ありません」
「なるほど! デュポン子爵から経緯をお聞きになったのですね?」
「はい、その通りです」
側近候補に正式にお願いするのは12の月第一週始まりの日だからあと6日か。間に合うなら一緒にした方が、心象がいいんだよね。パトリス次第かな?
「メアリ、お願いがあります。パトリスに今の話をして、2人増やした場合、6日後までに事務手続きが終わるか聞いてください。可能であれば、4人一緒にお願いしたいのですけど、厳しければ別にします。いずれにしても、お母様にお話をしなければなりませんから、面会依頼もお願いします」
「かしこまりました。すぐに行って参ります」
メアリは、すぐに動いてくれて、一礼すると居間から出て行った。
「オリビア、お茶をお願いしますね」
「かしこまりました」
準備が出来ていたらしく、すぐにオリビアとマルティナがお茶とお菓子を出してくれる。私は、作法どおりにしてロベールおじ様にお茶を勧める。
「姫殿下、私の息子達を指名していただけるのでしょうか」
「はい、本人が望んでいて親の同意があるのであれば何も問題はありませんから」
私は、ニッコリ笑って答える。
「ところで、ダニエル様とジョエル様は、もう訓練を始めておられるのですか?」
「はい、昨年から模擬刀を振らせております。騎士を目指すなら、騎獣を手に入れなければなりませんので、課題は山積みですが、父上が姫殿下の護衛騎士にするのだと、張り切って指導しております」
「まぁ、お祖父様が?」
「はい。本当はわしがエルちゃんを護衛したいんだ、と言っておりました」
と、ロベールおじ様が苦笑いしながら言う。
お祖父様が絡んでるなら、ロベールおじ様も慌てるよね!
「ロベールおじ様、騎獣というのは、魔獣を調教して騎乗できる様にしている、と聞いた事があるのですけど、子どもにも扱えるものなのですか?」
「子どもの頃から魔獣の子を育てた場合、入学前から騎獣を持つ事もあり得ます」
「そうなのですね。どんな魔獣が騎獣に適しているのでしょう?」
「姫殿下が騎獣に興味がお有りなら一度、騎士団に騎獣を見に来られませんか? 実物を見ながら説明を聞いた方が、良くお解りいただけますよ」
と、ロベールおじ様がにこやかに誘ってくれる。
私、外出は難しいだろうけど、騎士団なら城の敷地内だから、行けるかも!
「ありがとう存じます。でも、よろしいのですか?」
「姫殿下の好奇心に満ちた瞳に絆されてしまいました。社交シーズンが終わった後なら、我々にも少し余裕ができるでしょう。事前にお知らせくだされば、準備を整えてお迎えいたします」
「嬉しいです。お言葉に甘えてスケジュールの調整をいたしますね」
歴史の授業で、お爺様に教えていただいた事の中に、魔獣は、神に選ばれて違う姿と飛行能力を与えられた動物であり、魔物は、神が造ったものでは無いから神が造った動物を敵視する。というのがあった。確か、神話の一説だったかな?
地球の生物学的な考え方からするとお伽話だけど、この世界は神が実在するから、意外と本当の事かもしれない。
私の中では、『神はエコ贔屓する者』だから、余計に有り得ると思ってしまう。
ちなみに、この世界では獅子は、想像上の動物なのだそうだ。
そういえば、レオアウリュム様の鬣は地球のライオンよりずーっと長かった!
ロベールおじ様と魔獣の話をしていたら、メアリが戻って来た。
「姫様、ただ今戻りました。パトリス殿は、可能だと言っております。王妃殿下には、本日の夕食後にお時間をいただけるとの事でございました」
「分かりました。ありがとう、メアリ」
「恐れ入ります」
「ロベールおじ様、お母様から通知があると思いますが12の月第一週始まりの日に正式なお願いをします。通知前にダニエル様とジョエル様に伝えるかどうかは、おじ様にお任せしますね」
「姫殿下、誠にありがたく存じます。愚息たちの事、どうぞよろしくお願い申し上げます」
「はい、承りました」
「それでは、私はこれにて御前失礼いたします」
夕食後、そのままお母様の居間に行って、ロベールおじ様と面会した話を報告しダニエルとジョエルを加える事を認めてもらった。
「アデル、私は学校での貴女の護衛体制を考えると、あと何人か護衛騎士見習いがいた方が良いと思っています。貴女が良いと思える子がいたら、まず私に教えて
ちょうだいね」
「はい。分かりました、お母様。それと、先日のお茶会でお友達になりたいご令嬢に出会えたのですけど、プライベートなお茶会にお誘いしても良いでしょうか?」
「あら! まぁ! それは素敵! どちらのご令嬢かしら?」
「はい、マルタン侯爵令嬢カロリーヌ様とマテュー侯爵令嬢フロランス様です」
「パトリス、資料はあるかしら?」
「取って参ります」
すぐにパトリスが、資料を取ってきてお母様に渡す。
「マルタン侯爵は法務局次長を務めておられるのね。マテュー侯爵は総務局次長。なるほど、二人とも中央貴族ね。お茶会に招待したいのは、お二人だけなのね?」
「はい、そうです」
あれ? お母様の顔が、どんどん難しい顔になってる。
何がマズかったんだろう?
「今は、初めてのお友達と仲良くしたいわよね…。アデル、少し政治的な話になるのですけど、できれば領主や地方貴族のご令嬢とも仲良くなって欲しいのです」
「えと、理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
「例の事件の影響で、領主の皆様の不安感が強まってきている様なの。周辺の領地を巻き込んでいるから、王家に疑われているのではないかとね…」
「お母様、事件の結末を公表するのは、いつの予定ですか?」
「社交シーズンの終わり、13の月第三週始まりの日に行う王家主催の夜会で公表の予定よ」
「その公表の時に、領主の皆様が納得して安心できる説明をお父様がすれば、それでよろしいのではありませんか? 子どもが態とらしく小細工すると、痛くもない腹を探られるような事になって逆効果ですよ? それに、社交シーズンが完了する第三週終わりの日まで9日残っているのです。必要なフォローは、そこでするべきだと思いますけど…」
お母様が、私の答えを聞いて、パチパチと瞬きを繰り返している。
「アデル、貴女…まぁ、驚いたわ」
「えっ?」
「だって、そんなに落ち着いてちゃんとした意見を言うのですもの。まさに、正論だから驚いたのよ」
「という事は、お母様は焦っていたのですか? お父様も?」
「いえ、お父様は焦ってなどいませんよ。私は、少し先走り過ぎましたね。ふふ、私は、随分と賢い娘を持ったのですね! いいわ。お友達とのお茶会は、メアリとよく相談して、思った様にやってご覧なさい」
「はい。ありがとう存じます、お母様」
早速、メアリにお茶会の相談をする。
相手の準備の都合を考えて日程を決めると良い、と言われたので、今日から15日後の12の月第一週終わりの日にした。
この国では、日付をカウントする習慣は無くて◯の月第◯週◯の日と言い表す。
1年が13ヶ月
1ヶ月が30日
1週間が10日
曜日という言葉は無くて、始まりの日、光の日、闇の日、火の日、水の日、土の日、風の日、金の日、銀の日、終わりの日となる。
そして、始まりの日、光の日、銀の日、終わりの日が、休日の扱いになる。
最初は、私の居間でお茶会をしようかと思ったけど、メアリから
「最初から王家のプライベートスペースである王宮に招いてはいけません」
と言われたので、王城の温室の東屋でする事にした。
ここは、お母様主催のお茶会でよく使われる場所だ。
招待状をメアリに作ってもらって、サインは自分で書く。
何かワクワクしてきた。
私専用の封蝋用印章もあった。王家の紋章である獅子と王女を表すティアラを、バラの蔓が囲んでいる可愛いデザインの印章で、初めて自分で封緘する。
招待状を出してもらって返事を待つ。すると、翌日には参加の返事が来たので、相手も喜んでくれているのだと期待値が高まる。
ああ、すごく楽しみだ。
前世では、今考えるとだけど、本当の友達と呼べる人はいなかった。
皆、心のどこかで私を憐んでいたのだと思う。
ちゃんと表に出してくれれば、私は拒絶できていただろうに、
それさえさせてもらえず、心優しい人の演出に利用されていた。
だからだろう。
自称友達と一緒にいると淋しくなった。
だけど、今世では違う。
本当の友達をゲットするため頑張るのだ!
王女なんだから無理だろうって?
そんなのやってみなきゃ分かんないじゃん!
護衛騎士見習い任命の日が来た。5刻(午前10時)の鐘と同時に、王城の応接室に入る。通知は王妃の名で出しているので、お母様が前方中央の一人用ソファーに座った。私は、お母様から見て左側のソファーに座る。私の後ろに立つのはいつもの様にセブランだ。
正面のソファーには、ダニエル、ジョエル、アメリー、ステファニーの順で座っていて、それぞれの父親が後ろに立っている。
「それでは、アデリエル、始めなさい」
「かしこまりました。皆様、本日はお忙しい中お集まりいただきまして、誠にありがとう存じます。ただ今から私の護衛騎士見習いを任命します。ルグラン公爵令息ダニエル様」
「はい!」
「貴方を、私の護衛騎士見習いに任命します。これからは、貴方をダニエルと呼びます。受けてくれますか?」
「はい! ありがとう存じます。よろしくお願い申し上げます!」
私は、ジョエルに顔を向けて話す。
「ルグラン公爵令息ジョエル様」
「はい!」
「貴方を、私の護衛騎士見習いに任命します。これからは、貴方をジョエルと呼びます。受けてくれますか?」
「はい! よろしくお願い申し上げます!」
元気一杯の双子ちゃん、嬉しそうな顔が見れて良かったよ。
ロベールおじ様、グッジョブ!
「ルグラン公爵家は、これを承認してくれますか?」
「承認いたします。謹んでアデリエル王女殿下に感謝を申し上げます。我がルグラン公爵家の誉れでございます」
「承認をありがとう存じます」
私とロベールおじ様でニッコリと笑い合った後、私は体をアメリーに向ける。
「デュポン子爵令嬢アメリー様」
「はい」
「貴女を私の護衛騎士見習いに任命します。これ以降、貴女をアメリーと呼びます。受けてくれますか?」
「はっ、謹んでお受けいたします」
「デュポン子爵家は、これを承認してくれますか?」
「はっ、謹んで承認いたします。どうか娘をよろしくお願い申し上げます」
「はい、承りました。承認をありがとう存じます」
そして、私は体の向きを緊張している様子のステファニーに向けて話す。
「ルロワ伯爵令嬢ステファニー様」
「はい」
「貴女を私の護衛騎士見習いに任命します。これ以降、貴女をステファニーと呼びます。受けてくれますか?」
「喜んでお受けさせていただきます。ありがとう存じます」
「ルロワ伯爵家は、これを承認してくれますか?」
「はい、もちろんでございます。このような栄誉を賜り心から感謝申し上げます。どうぞ娘をよろしくお願い申し上げます」
「はい、承りました。承認をありがとう存じます」
「では、貴方達の上司になる、私の護衛騎士を紹介します」
私の言葉を受けて、マティアスとマルクが、セブランに並ぶ。
「私の後ろに立っているのが、筆頭護衛騎士のセブラン、隣がマティアス、その隣がマルクです。今後は、セブランの指揮下に入ってもらいます。セブランから自己紹介してください。」
セブラン達が自己紹介を始めると、4人が顔を輝かせて釘付けになっている。
そこに、珍しく慌てた様子のメアリが近づいて来て、私に耳打ちする。
同じ様に、パトリスがお母様に耳打ちしている。
「姫様、陛下から呼び出しでございます。今すぐ、陛下の執務室にお急ぎくださいませ」
お母様の方を見ると、私の顔を見て一つ頷いた後、目線を扉に向けた。
ちょうどのタイミングで、セブラン達の自己紹介が終わった。
「セブラン、陛下から緊急のお召しがあったので、私は陛下の執務室に行かねばなりません。見習い達への説明をお願いします」
「ですが、それでは姫殿下の護衛が手薄になってしまいます」
そこへ、ロベールおじ様から声が上がる。
「卒爾ながら、私が姫殿下の護衛を承りましょう。ジル、うちの坊主たちを頼む」
「はっ」
「ダニー、ジョー、終わったらデュポン副団長の指示に従え。良いな」
「「 はい、父上 」」
「騎士団長が付くなら大丈夫でしょう。アデリエル、ここは私とセブランに任せて急ぎなさい。陛下をお待たせしてはいけません」
「かしこまりました。それでは皆様、陛下より急なお召しがありましたので、ここで失礼いたします。ダニエル、ジョエル、アメリー、ステファニー、貴方達は今日から私の護衛騎士見習いです。その立場に相応しい行動を期待しています」
私が投げかけた言葉への返事を聞きながら立ち上がると、お母様に一礼してすぐにお父様の執務室に向かうべく、応接室を出た。
お父様からの急な呼び出しで、中座せざるを得ないアデル。
一体何があったのでしょう?
次回は、例の事件のその後が明らかになります。




