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貴方は、ツギハギ令嬢の私の手を取った  作者: 悠木 源基


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第46章 新しい家族


「結婚式まであまり時間がないから仕方ないと、私だってお二人のドレスを着るのを泣く泣く諦めたのよ。それなのにシェリル妃殿下が横から入り込むなんてずるいわ。

 これからもずっとそんな我儘を許す気なの? 信じられないわ! 無理矢理お二人を将来王妃殿下の専属職人にでもするつもりなの?」

 

「いや。さすがに弟達の幸せを邪魔するような真似は絶対にさせない。そんなことをしたら、私は側近を辞め、次期宰相の座も拒否するよ。

 無茶な要望をされるのは、今回の一度だけだと誓う。本当に一度だけだ。だからお二人の願いを叶えて欲しいんだ」

 

 ウェンリー様は私達ではなく、キリア様に向かってそう言った。

 誰に向かって誓っているんだ!とルーカス様とハルディン様は怒っていた。

 けれど、キリア様に誓ったのだから、信用してもいいのかしら、なんて私は思ってしまった。ナタリアさんも仕方ないわね、という諦めの顔をしていたし。

 

 途中で伯爵夫妻もその話を聞いて、今回だけはその無理を聞いてやって欲しい。

 それ以後はもう、可愛い娘達に無理強いは絶対にさせないから安心しなさい、と言ってくれたので、その話はおしまいとなった。

 その後みんなから、出来上がった二着のドレスの出来栄えについて褒められ、ヨイショされたけれど、

(なぜ殿下はそんなに私達のドレスを望むのかしら?)

 と、ナタリアさんと私は内心納得できずに、頭に疑問符を飛ばしていた。

 

 

 するとそこに、観劇に出かけていたサリーナ様とリックス様がデートから戻ってきて、今大人気のお芝居の話をし始めたので、まだ少し剣呑としていた雰囲気が、あっという間にに霧散した。

 サリーナ様がうっとりした顔をして、

 

「ヒロインの着ていたウェディングドレスがとても素敵だったのよ」

 

 と、パンフレットに描かれた挿絵を指差して呟いたので、私とナタリアさんは思わず顔を見合わせた。彼女がドレスに興味を示すなんて珍しかったからだ。

 私達は阿吽の呼吸で頷きあった。

 

「サリーナ様。もし、このドレスがお気にめしたのなら、似た感じのドレスをお作りしましょうか? 私達二人の結婚祝いとして」

 

 私がこう言うと、サリーナ様はそれこそまるで花が咲いたように、パッと明るい笑顔を見せた。

 

「えっ! いいの? でも忙しいのでしょ?」

 

「ええまあ。でも、まだ二年の猶予がありますからね。

 もちろん、キリア様のドレスもお作りしますわ。さすがにウェディングドレスは今からでは無理ですので、イブニングドレスかお出かけ用のドレスになってしまいますが」

 

「私のドレスまで? 嬉しいわ。でも、本当に大丈夫なの?」

 

 キリア様の心配げな言葉に、私に代わってナタリアさんがこう答えてくれた。

 

「一度妃殿下からのお願いをお受けしたら、今後は他の貴族の方々からのご依頼も入って来るような気がするのです。

 ですからそれをお断りするのためにも、予約がすでに一杯入っている方が都合がよいのです。これ以上お受けできませんと嘘をつかずにお断りができるので。

 どうかお気になさらないでくださいね。もちろん奥様のドレスも作らせていただきますわ」

 

「ナタリア、そしてクリスティナ、貴女達は私の娘なのだから、今日からは呼び捨てにするわよ。そして貴女達もお母様と呼んでちょうだい」

 

 ケイト様、いえ、お義母様がそれはもう上機嫌でそう言ったので、カイトン伯爵家の居間はさらにほっこりした雰囲気に包まれた。

 自分はこんな素晴らしい家族の一員になれたのだ。私は心の底から嬉しかった。

 夕食後、夕焼けに染まる伯爵家の庭園を、ルーカス様と手を繋いで散策しながら私がそう言うと、

 

「ティナ、君が家族の一員になってくれて、僕もすごく嬉しいよ。

 だけど、この屋敷にはカイトン一族が年がら年中出入りするんだ。一族丸ごとがカイトン家の本当の家族みたいなものだから。 

 親類が多くて面倒だと思うけれど、どうかよろしく頼むよ。

 もちろん結婚式を挙げたら、二人で暮らせる家に引っ越すからね」

 

 私はこれまでも、カイトン一族の方々には散々お世話になりっぱなしで、感謝の気持ちしかない。みんな良い方達ばかりなので心配はしていない。

 それよりもルーカス様と二人きり。

 想像しただけで恥ずかしくなった。けれど、新婚生活を初めて思い浮かべることができて、とても幸せな気分になった私だった。

 

 

 そして、その二日後、ナタリアさんと私はそれぞれの婚約者と共に王宮に呼ばれ、王太子夫妻と対面した。

 そこで私達は、なぜそこまでして、シェリル王太子妃殿下が私達の作るドレスを望んでいるのか、その説明を聞かされた。

 

 その結果同じ働く女性として、妃殿下の気持ちが少しだけ理解できた。だからこそ私達は、その依頼を受けることにしたのだった。

 

 


 ✽✽✽

 

 

 やがてカイトン伯爵家では、久しぶりのパーティーが催された。

 そしてその話は、暫く社交界の話題の中心になったらしい。

 なにせ女嫌いだと噂されていたカイトン伯爵家の三人のご令息方が、揃って婚約発表をしたのだから。

 しかもそのお相手の婚約者は、私を含めて三人揃って規格外。

 北の辺境伯領のご令嬢で、完璧の淑女と称されるキリア様。

 カラッティー商会の娘で、超一流デザイナーのナタリアさん。

 そしてスミスン子爵家の一応令嬢で、自分で言うのもおこがましいが、天才お針子と綿毛の英雄の呼び名を頂いてるこの私。

 

 突っ込みどころが多過ぎて、言いたい文句があまりにもあり過ぎて、あの場では却って皆様は何も言えずにいた。

 いいえ違うわね。カイトン一族が勢揃いだった上に、なんと恐れ多くも王太子夫妻までいらしたあの場所で、いちゃもんを付けられるだけの度胸のある人がいなかっただけかもしれないけど。

 その後登城する度に、私はたくさんの人々(主に女性)から色々嫌味を言われたり、睨まれたりしたから。

 けれど、それは仕方ないと私は割り切っていた。いや、むしろ想像していたよりひどくない気もしていた。


 なにせナイフで刺される可能性もあるとアダムス様に言われて、私はブラウスの下に鎖帷子を付けていたくらいだから。正直重くて肩が凝って大変だった。

 

 しかし、そう大きな騒ぎにならずに済んだのは、エマ=ホールズ室長やお針子部屋の仲間、ジェミン=ケインズ男爵令息様、カイトン一族の皆様のおかげだということは重々承知している。

 もちろんルーカス様も……

 

 でも一番影響力があったのはシェリル王太子妃殿下だと思う。

 なにせ妃殿下は、婚約発表をしたあのパーティーで、ナタリアさんと私のファンだと公言なさった後で、私達に共同でドレスを作って欲しいと依頼してきたのだから。 

 しかも、皆様にわざとこうおっしゃったのだ。

 

「次の私の誕生日パーティーにはね、クリスティナ嬢とナタリア嬢の共同制作による、最新式のドレスを着るつもりなのよ。皆様も楽しみにしていてね。

 でも、少しだけ心配なことがあるの。ほら、ご存知の通り、クリスティナ嬢は王城で仕事をされている忙しい身でしょう? 

 それなのに、さらに精神的な負荷がかかると、私のドレス製作にも影響が出るのではないかと、不安で仕方ないの。

 もし、彼女にストレスを与える者達がいたら、皆さんもぜひ私に教えてね。速やかに対処(・・)しなければいけないから。

 それと、クリスティナ嬢とナタリア嬢の今後のスケジュールは、数年先までビッシリ詰まっているそうだから、依頼は当分控えてくださいね」

 

 と、にこやかに微笑みながらおっしゃったのだ。

 まあ、どの口が言っているのですか、そうツッコミを入れたくなったけれど、注文が来ない方がよいので黙っていた。

 女性からの嫌がらせや悪口なんて、今さら動じることはないと思う。

 とはいえ、それがなけなればそれにこしたことはなかったので、一応王太子妃殿下には心の中で感謝した私だった。

 (あとがき)

 

 キリアのウェディングドレスは一年以上前に、辺境伯夫人がカラッティー商会に注文しており、すでに出来上がっていた。

 そしてそのドレスのデザイナーは、いずれ彼女の二つ年上の義妹となるナタリアだった。


 読んでくださってありがとう

ございました。

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