13 旅のお供(2)
ふわふわの黄色いスポンジケーキにたっぷりとろける生クリームとカスタードクリームが分厚い層を作っていて、その上には赤いイチゴや紫のベリー、それから柑橘類なんかのカラフルな果物が刻まれて乗せられ、甘い中に爽やかな芳香を放っている。
セシルは嬉々としてその幸せ一杯のスポンジで作られた城にフォークを入れる。
一口目、とろけるクリームたちが舌を滑らかに占領して柔らかなのに弾力あるスポンジにもまとわりついて予想以上のハーモニーを生み出す。
二口目、もう止まらない。
ケーキに夢中なセシルを見下ろして、ギルドマスターのアームと実力派傭兵のトランジスタが腕を組んで渋い顔をしている。
彼女の従者兼護衛であり、実は貴族位を持っているカナンを襲った「不幸」について彼女は追求してこなかった。代わりにケーキを要求してきたのだ。
突然の従者の不在に引き篭もりパワーモードを発生させるかと思われたセシルだが意外に落ち着いている。
「お嬢ちゃん、ひとつ聞いてもいいかい」
いつもは礼儀正しい強面トランジスタがセシルの前にどかっと腰を下ろして睨みつける。
引きこもりとは思えない強い瞳で見返してきたセシルを意外な思いで見つめ返してトランジスタは身を前に乗り出す。
「あんた、カナンが心配じゃないのか」
低い声を出した彼にセシルはニタっと笑って見せる。
その瞬間、ベテラン兵士の勘が動く。パッと後ろに飛び退いたトランジスタの座っていた場所に氷の刃が無数に突き刺さっている。
「おいおい、結構高いんだぜ。このソファ」
ギルドのアームは情けない顔で頭の中で修理にかかる費用の計算をしている。
「いきなり何をするのだ。話し合いの席に、女性とは言えいきなり攻撃するなど卑怯ではないか」
普段の礼儀正しさが戻ってきたトランジスタは無事な方の座面に座り直す。
「卑怯?カナンを襲っておいて、随分な言い草ね」
高慢な貴族のお嬢様。そんな印象を与える仕草でセシルが言う。
普段引きこもり属性のオドオドのせいで誰も気に留めないが、実は見め麗しいお嬢様であるセシルには、そんな高慢ちきな態度も似合ってしまう。
「だからって許される方法か?一人でいて不安かもしれないが」
抗議しているんだか気遣っているんだか分からない言葉である。
セシルは小さく吐息を付いて、手を払って見せる。するとソファは何事もなかったように綺麗な状態に戻り、アームを安堵させる。
「砦の魔女に喧嘩を売るんですもの。ただで済むとは思っていないわよね」
冷えた瞳がトランジスタとアームに向けられる。
「あんた、本当にあの子か」
値踏みするような表情でアームはセシルを見据える。
「あの子って言うのがセシル・トーラストを指しているのならば、そう、とも言えるし、違うとも言える。正解を答えてやる義務はないけれど」
セシルはどこか妖艶な色香を醸し出しながら答えて、食べかけのケーキを見て微笑む。それは母親のような表情で、見ていた男たちは疑問を持つしかない。
「砦の魔女殿、問答無用で従者を襲ったことを謝罪する」
トランジスタが真面目な顔で言い、頭を下げる。アームも横で同じようにしている。
「それで?」
セシルはケーキと共に出された紅茶のカップを手に取り、視線だけ動かして問う。




