12 旅のお供(1)
「キュウちゃん、ずっと眠っているね」
セシルがポケットの中を覗き込みながら呟いた。
一時期はセシルの肩に乗るくらいの大きさになっていたドラゴンが、更に小さくなり、子リスのように手乗りになってセシルのポケットにずっといる。
カナンは通りで最近見なかったんだ、と今更気が付いた。
戦士としてどうかと自分でも思うが、セシルの身の回りには通常にない事だらけなのでいつの間にか慣れが出てきたみたいだった。
セシルはギルドへの挨拶へ行く途中でこの土地の珍しいお菓子をゲットして上機嫌だ。甘い蜜のかかった揚げ菓子だが、持ち歩きできるように串に刺してある。
それを頬張りながら、セシルは大嫌いな挨拶というイベントを乗り越える。
「ドラゴンは小さくなってもその生命力は変わらないのですか」
「うん。今の見た目の大きさは関係ないよ。彼の力と重量は別の空間に保存してあるから、大きくなろうと思えばいつだってできるし。きっと脱皮の時期なんじゃない?」
セシルは何でもないことのように言った。
ドラゴンって脱皮するのか、とカナンは半信半疑で聞いている。
何せドラゴンに関しては何が正解なのか分かっていない。生態数の減少もさることながら、人間がドラゴンを飼うことはまずないからだ。攻略方法が考えられることはあっても、飼育方法が考えられてきたことはない。
「セシル様、ここが傭兵ギルドのって、なんで背を向けてるんですか」
逃げ腰のセシルの首根っこを捕まえて、カナンはレンガ建の傭兵ギルドの扉を開けた。
「おや、珍しい人が来たね。久しぶりだね、カナン」
ギルドの受付カウンターでスタッフと談笑していた大男がカンナを見て声をかける。
傭兵ギルドという荒事専門の組合の中でおっとり礼儀正しい男は珍しい。
「ああ、トランジスタ。久しぶり」
カナンは手を挙げて応え、カウンターの中にいた受付の男に目で合図する。
前もって挨拶に行くと伝えてあるから奥へ通されるはずだ。そしてお偉いさんと話をして指名した傭兵を連れて出発する。
頭の中であれこれ先の予定を考えながら、カナンはセシルを引きずったまま案内され奥へ向かう。
通常、奥へ通されるのはギルドにとっての賓客か上位ギルドメンバーなどの地位にある者だけだ。今回のセシルとカナンは貴族として扱われ、賓客として認められているのだ。
セシルは高名な魔女だ。通常であればその素性を知られるわけにはいかないが、傭兵ギルドでは暗黙の了解で知られている。それはカナンが従者と言うこともあるが、砦の主人が傭兵ギルドで有名であるからとも言える。
だから傭兵ギルドが彼らを裏切ることはない。その保証が砦の魔女には与えられている。
だからカナンは油断した。
ベテランの兵士にとって油断が命取りであると考えるよりも体が知っている筈なのに。
視界にキラリと光る刃物が目に入る。続いて、衝撃と痛み。
「カナン!」
セシルの叫び声が遠くなる。




