魔導の終着点
各地方に出払っていた魔導兵が戻って来ているのだが・・・魔導兵や魔導師の他にも女神の神眼の元に向かっている者達がいる。
その面々の名前・・・名称は疫病の狂天使。
強い魔力に引かれたからなのか?それとも単なる気まぐれからなのかは不明だが・・・各地方で暴れていた疫病の狂天使は導かれるようにして魔機国へと向かって行っている。
道中には人間の暮らしている里山や、集落などを気にしている様子もないその姿は、単に異様という他はないであろう。
現に疫病の狂天使と遭遇したのにも関わらずに素通りされたと言う者や、疫病の狂天使を見るなり脱兎の如く逃げて隠れたという者も複数いる。
通常・・・普通の何も魔力も、訓練もしていない農民が疫病の狂天使と遭遇してしまった場合、まず助かることはない。
赤子の手を捻るように、意図も簡単に殺されてしまうのが落ちだ。
偶然、運良く逃げることは出来るかも知れないが、助かる確率は極めて低く・・・確率としては十人の農民が一斉に散り散りに散らばって一人か二人生き残れるかどうかだ。
更に言うなれば疫病の狂天使は各個体ごとに固有の力を有しているのもおり、中には魔法を扱うことができるものもいる。
そんな疫病の狂天使が人々の頭上を、通り過ぎて行っているのだ異様としか言いようがないはずだ。
現に疫病の狂天使を目の当たりにした人々は口々にこう言っていた・・・『何か良くないこと・・・天変地異が起きるのではなのか?』っと・・・
『魔導兵や魔導師の他にも疫病の狂天使まで・・・』
『まさに世界の終わり』
『ねぇ、お母さんは大丈夫なの?』
『お母さんを信じてはいるけど・・・この光景は』
『しかし信じるしかありません・・・それよりもマリアティアス様の足手まといにならないことが重要です。皆さんそろそろこの場も危なくなってきていますよ?』
『仕方ありません・・・マリアティアス様の足手まといになるのは不本意です。指示通りこの場は撤退するとしましょうか』
アクセスの指示に従いこの場を撤退することにした面々。
アクセス達の願いは一つ・・・マリアティアスが無事に帰ってくるという願いを込め祈る。
旧魔機国上空・・・
目の前で無数の魔導兵、魔導師が餌食となってゆく中で、遠方から世界全てを怨むような夥しい殺意を感じ取ったマリアティアス。
その方向を振り向いて見ると・・・予想通り疫病の狂天使が此方に近づいてくるのを視界にとらえる。
まぁ・・・予想外の数ではあったが。
先に集まっていた魔導兵、魔導師よりも数は少ないながらも疫病の狂天使はマリアティアスでさえも驚くような脅威の能力を持っている者もいる。
はっきり言ってどちらの方が面倒だと言えば当然疫病の狂天使の方なのだ。
『また厄介な連中が・・・』
女神の神眼の放つ閃光の魔法をかわしながらこれ以上魔導兵、魔導師を吸収させないように立ち回っていたマリアティアスなのだが、疫病の狂天使の登場により上空へと回避し結界魔法を放つ準備に入る。
(できればそのまま彼方の方に全員行って欲しいのですがね・・・)
結界魔法を放つ準備をしていたマリアティアスなのだが・・・疫病の狂天使はマリアティアスに見向きもせずに女神の神眼に向かって行く。
それも全員。
どの疫病の狂天使も世界全てを怨む咆哮をあげて突撃して来たのだ。
そんな疫病の狂天使に対して、女神の神眼もまた先ほどと同じように閃光の魔法を発動させて焼き払ってゆく。
『これは好都合ですね』
マリアティアスはそう呟くと疫病の狂天使の数体に向かって防御魔法をかける。
それほど強力な魔法ではないが、並大抵の攻撃を防ぐには十分な強度の防御魔法なのだが・・・女神の神眼の放つ閃光の魔法は違った。
マリアティアスの防御魔法をまるで紙切れのように焼き払い、そして疫病の狂天使を焼く。
『この程度では足止めにもなりませんか・・・それにしても、疫病の狂天使を吸収できないのは何故でしょうか?』
自らの防御魔法が紙切れのように焼かれたのにも関わらずに、気にしている様子など微塵も感じられないマリアティアス。
それよりも、疫病の狂天使を使って何とか魔力の巨人となった女神の神眼をどうすればよいのか考える。
『邪魔な連中ですね・・・』
女神の神眼は面倒そうに疫病の狂天使を焼き払う。
しかしながら数が多く、そしてバラバラに攻めて来ているので閃光の魔法で焼き払ってもまた次の疫病の狂天使に攻められている状況が続いてしまっている。
一体一体はそれほど強くはないが、それでも疫病の狂天使がその身にどんな能力を持っているのかは未確認。
もしかしたら、女神の神眼の作り出したこの魔力の巨人にも通じる者が出てくるかも知れないと思っている矢先に物事は動き始める。
一体の疫病の狂天使が閃光の弾幕を掻い潜り、魔力の塊である巨人に噛み付いたのだ。
『何をして・・・』
女神の神眼が困惑しているのを他所に、噛み付いている疫病の狂天使はその強靭な顎の力によって巨人を噛み千切る。
女神の神眼は噛み千切られているのにもかかわらずに苦痛の表情は何一つ浮かんではいない。
噛み千切られているのが魔力でできているからか、どうやら神経という物は通っていないようだ。
『ぎぃぃぃぃぃがゃぁぁぁぁ!』
魔力の巨人を喰らった疫病の狂天使が世界全てを怨む咆哮を上げ・・・そしてその身体に異常が見られる。
それは巨大化だ。
魔力を喰らったからなのか疫病の狂天使は一回りほど大きくなったのだ。
何故巨大化したのかは気になるところなのだが、この疫病の狂天使を女神の神眼は観察、考えている暇はなかった。
更に次撃と言わんばかりに疫病の狂天使は噛み付いたからだ。
その姿は正に暴食の化身・・・止まることのない食欲に支配され命尽きるまで魔力の巨人を喰らおうとしている。
『この・・・穢らわ・・・しい・・化け・・・物がぁぁぁぁ!!』
疫病の狂天使に激昂した女神の神眼。
その怒号は凄まじく大気を震撼させる。
数体の疫病の狂天使がその怒号に気圧されたのか怯み、一瞬ではあるが攻撃を緩めてしまった。
そしてその一瞬を突き魔力の巨人が発光し、身体から針鼠のように鋭い棘が生え群がっていた疫病の狂天使を突き刺す。
その棘は閃光の魔法と同じなのか、突き刺された疫病の狂天使は焼けたようになりそして朽ち果てる。
しかしながら数体の疫病の狂天使を数体倒した程度では、焼け石に水と同じようにまだ女神の神眼に群がる疫病の狂天使は数多くいる。
『鬱陶しい・・・まるで蟲ですね。これでは目的を達成できないではないですか!』
最早我慢の限界と言うように女神の神眼は咆哮を上げ・・・そして先ほどと同じように身体から棘を出現させる。
しかしながら巻き込まれる疫病の狂天使の数は少ないが・・・そんな事は問題ではない。
何故ならこれは準備段階だからだ。
棘を出現させた後に女神の神眼はその場で自らの回転を始めたのだ。
最初はゆっくりなのだが・・・そこは女神の神眼、身体の至るところから魔力を放出させ回転を更に加速させる。
その姿は正に巨大な独楽のようであり・・・そして身体から出現させていた棘が遠心力によって飛び散る。
女神の神眼を中心にして渦を描き・・・そしてその回転は竜巻のように変化してゆく。
『人口的に竜巻を出現させた・・・しかもこの規模は!?』
女神の神眼の魔力の巨人が大きいからか、次第に回転で作り出される竜巻は大きくなり・・・そして周囲にいる疫病の狂天使を飲み込んで行く。
無論女神の神眼の周辺にいたのは疫病の狂天使の他にも、魔機国の魔導兵や魔導師も含まれていて巻き込まれてしまっている。
しかしながら女神の神眼が気にしている様子は毛頭ないようだ。
ちなみにマリアティアスは水と風の属性魔法で作り上げた鎖を、錨のように地面に深々と突き刺すことによって耐え忍んでいる。
そして程なくして女神の神眼が回転を止める。
『流石ですね・・・あの数の疫病の狂天使を全滅させるとは』
女神の神眼の回転によって全滅してしまった疫病の狂天使。
集まっていた魔導兵や魔導師も大半が巻き込まれてしまっているが・・・それでもその大半が女神の心臓に取り込まれてしまっている。
疫病の狂天使を掃討した女神の神眼は真の目的であるマリアティアスを探すが・・・周囲を見渡してみても何処にも見当たらない。
『隠れた?しかし何処に・・・』
女神の神眼が周囲を見渡していると・・・上空から何かが近づいてくる音が聞こえてくる。
その音に即座に反応してみせた女神の神眼は上空へ向けて閃光の魔法を発動させ・・・そして閃光の魔法が上空から近づいた来た物体を焼き払う。
『これは違う・・・』
上空から近づいて来ていた物体がマリアティアスではなく別の物だと見抜いた女神の神眼。
だが、上空とは真逆・・・地面からの接近して来ているのには気づくのが遅れてしまっていた。
『瓦礫に紛れて下から・・・』
魔機国が崩れ落ちた時に出た大量の瓦礫を風の属性魔法で操り、女神の神眼に弾丸の如く浴びせるマリアティアス。
上空からの攻撃に気を取られていた女神の神眼は反応が遅れたが・・・最早全身が魔力の塊となっている女神の神眼には瓦礫を飛ばして攻撃してくるなど大した攻撃ではなかった。
意識せずとも反射的に動く魔力の巨人。
閃光の魔法の射程圏内に入った瓦礫は悉く撃墜してゆく。
そんな撃墜している瓦礫の中で巧みに瓦礫を使い、閃光の魔法から逃れるようにして動いているマリアティアスを視界に捉える。
(なかなか上手く逃げているけど・・・あまいですね。この私の神眼からは逃れられませんよ!)
マリアティアスが次に移動する場所を予測し・・・女神の神眼が閃光の魔法を放つ。
神眼を使っての完璧なタイミングで放たれた閃光の魔法がマリアティアスが直撃する。
今度は真っ正面、絶対にかわす事のできない閃光の魔法を喰らったマリアティアスであったが・・・それも計算の内であった。
当たる直前に一点集中の防御魔法を何重にも発動させたことによって、今まで防ぐことなど到底出来なかった閃光の魔法を防いだのだ。
『防いだ・・・小癪な真似を!』
『やっと一撃防げましたが・・・このまま防ぎ続けるのは魔力が持ちませんね』
『一度防いだからっていい気になってますねぇ・・・でも貴女には圧倒的に決定打が足りていませんよ!』
『そうですね・・・ならばこれでどうでしょうか?』
そう言い終えると上空から金と銀の魔蝶杖が音もなく女神の神眼に向かって落下して行き・・・そして当たる直前に魔法が炸裂する。
一瞬にして魔力の巨人を覆い尽くす金と銀の薔薇。
『なっ!?いつの間にどうやって・・・』
一瞬にして視界を覆い尽くす金と銀の薔薇に驚き、戸惑う女神の神眼。
それもそのはずだ。
自らの目の前に一瞬にして、音もなく近づいて来たのだ誰だって驚くであろう。
それに最初に上空に攻撃して安全を確認しているのであれば尚更だ。
人というものは自らが大丈夫だ、安全だと判断した場所というのはどうしても確認が疎かになってしまうのは仕方のない事なのだ。
そしてそれは強者であれば尚更、傲りという形となり必然的に出てしまう。
何故音もなく金と銀の魔蝶杖が落ちてきたのかというと、これはマリアティアスが風の属性魔法を
金と銀の魔蝶杖に付与させたからだ。
付与させた風の属性魔法は特殊な形に魔力を固めることによって、通常であれば落ちる時に聞こえてくる風切り音を最小限に抑えることができる。
この特殊な形というのは梟の翼と非常に似ている形であり、金と銀の魔蝶杖にも風の抵抗を最小限に抑える形にしている。
それにより上空から落下してくる時の音を最小限にし、梟の翼を再現した風の属性魔法で微調整をしてう女神の神眼の目の前にピンポイントで落とすことができたのだ。
隙を見せた女神の神眼に対してマリアティアスは突撃を開始する・・・勝負を決める為に。
『しまっ・・・』
『遅い!』
女神の神眼の作り出した魔力の巨人に、手で触れられる距離にまで近づくことができたマリアティアスは手に持っている女神の白聖書を開く。
すると女神の白聖書からどす黒い文字が出現する。
『な、何なんですこれは!?』
驚き、戸惑っている女神の神眼を無視してマリアティアスは更にどす黒文字を操り・・・そして発動させる。
『全てを一つに・・・神法・全ては女神元に!』
女神の神眼にどす黒文字が魔力の巨人へと巻き付き・・・そして砕け散る。
文字が砕けると言う表現は適切ではないのかも知れないが・・・実際に女神の白聖書から出てきたどす黒い文字は硝子が砕けるように砕けのだ。
何が起きているのか理解できていない女神の神眼であったが・・・それ以上に理解できていないのは、まさかのマリアティアスであった。
その証拠にマリアティアスの顔は血の気が引いたように真っ青になってしまっており・・・どす黒い文字が砕けた瞬間に一瞬にして女神の神眼から距離を取る。
『今のは一体!?』
マリアティアスと女神の神眼がほぼ同時に驚きの声をあげる。
しかしながら女神の神眼はマリアティアスから驚きの声があがったことによって、マリアティアスの攻撃が不調に終わったと即座に判断する。
『心の声が聞こえていますよ!』
考えるよりも先に攻撃した方がよいと判断した女神の神眼の拳がマリアティアスに向かって迫りくる。
(まずい・・・このままじゃ)
迫りくる巨人の拳しに対して防御魔法を展開させて防ごうとするが・・・間に合わないと判断する。
巨城すら一撃で砕く魔力の拳がマリアティアスに直撃・・・するはずであった。
マリアティアスに拳が当たる直前に拳は炎に包まれる。
それもこの世の物とは思えない純黒の炎に・・・
『この炎は!?』
目の前で起きた出来事に驚いていると此方の方に近づいてくる複数の人影を捉える。
その複数の人影は先ほどマリアティアスと別れたアリセス達であり・・・無論その中には純黒の炎を操ることができるエリカもいる。
『この炎は!?』
『マリア様!』
『お母さん!』
『マリアティアス様!』
驚いている女神の神眼を他所にアリセス達は集結した。
マリアティアスの意向を無視した行動なのだが、その行動をマリアティアスは咎めるつもりは毛頭なく、むしろ全員に対して感謝しかなかった。
女神の神眼に神法・全ては女神元にが効かなく、エリカが攻撃してくれなかったらマリアティアスは攻撃を諸に貰っていたのだから。
いくら女神の呪怨骨鎧を装備していると言っても、攻撃全てを完全に完璧に無効化できるという保証はないのだから。
『この黒い炎消える気配が・・・仕方ない』
一向に衰える気配が感じられない純黒の炎を不思議に思い・・・そしてこの間までは危険だと判断した女神の神眼は焼かれている部分を切り捨てる。
『良く来てくれました』
『微力ながら力になれればと思い来ました』
『魔導六刀の面々は消耗が激しいので休んでもらっています』
エールの言ったようにこの場に集まった面々の中には魔導六刀の面々はいない。
マリアティアスの元に集まったのはアリセスを筆頭に、エール、エリカとアイカ、ヘルメスにソイルの合計で五人だ。
そんな五人に対してマリアティアスは身体能力を強化する魔法を発動させる。
更に風の属性魔法を全員に付与させることによってヘルメスの負担を軽減させる。
まぁ・・・エリカとアイカは自身で飛ぶことができるのであまり意味はないのかもしれないが・・・
『私もまだまだ未熟ですね・・・まさか消すことのできない炎があるのは知りませんでしたよ』
『驚いているにしては余裕の雰囲気が感じられるのですが・・・』
マリアティアスの問いかけに対して笑ってみせる女神の神眼。
その証拠に先ほど純黒の炎によって焼かれ、切り落とした腕が徐々に再生を始め・・・ものの数分の内に元通りになってしまった。
魔力の塊だからこのような芸当ができるのかは不明なのだが・・・それと同時に魔力の巨人が少し小さくもなっている。
つまり女神の神眼の作り出した魔力の巨人は、攻撃をすればするほど消費するということに他ならない。
『貴女に何故通じなかったのかは不明ですが・・・これで私の戦力は増大しました』
『へぇ・・・この面々が貴女の言っていた絶対に裏切らないという者達ですか?』
『えぇそうです。それに貴女の部下を全員を倒して来てくれましたよ』
『あぁ・・・あの連中ですか?確かに全員倒されましたね。せっかく強化させてあげたのに不甲斐ない連中ですよ。しかし問題はありません』
『強気ですね・・・戦力を失い奥の手を使っているのにその物言いとは』
『貴女さえ・・・貴女さえ倒せば全てが終わるのですから!』
女神の神眼が無機質な機械音のような声で叫ぶ。
そして行く手を阻むようにして展開していた金と銀の魔蝶杖を破壊する為に無数の魔法陣を展開させる。
閃光の魔法を放ち金と銀の魔蝶杖を破壊しようとした瞬間・・・マリアティアスは展開していた金と銀の魔蝶杖を手元に戻す。
『これはお気に入りですので、壊さないでもらえますか?』
閃光の魔法を周囲に撒き散らすようにして放った女神の神眼なのだが・・・怒りに任せて攻撃したからなのか大半は当たらないが、それでもマリアティアス達に向かって複数の閃光の魔法が襲いかかる。
しかしながらマリアティアスを含めエリカとアイカ、ヘルメスが魔法を発動させて迎え撃つ。
その隙にアリセス、エール、そしてソイルが女神の神眼、もとい魔力の巨人に攻撃を繰り出す。
『苛つくなぁ・・・ただ単純に雑魚が増えただけなのに!』
アリセス達の攻撃を喰らったことによって更に激昂した女神の神眼。
それに対してマリアティアス達は決着をつける為に動くのであった。




