魔機国・起動
アリセス達と別れたマリアティアスは一人の魔導兵に案内され、魔機国の中心都市へとたどり着いた。
数多くの高い建物は都市国、王国、帝国、そして竜王国にも存在していない。
それは世界から逸脱した風景だ。
天を衝く摩天楼に、無数に張り巡らされた配管。
そしてその建物や隙間からは、魔導兵がマリアティアスに向かって攻撃できるように待機しているのが気配で感じ取れる。
『何処まで行くのでしょうか?』
マリアティアスは先導する魔導兵に問いかけるが・・・答えが返ってくることはなく、無言で進んでいる。
女神の神眼によって支配されているので、この魔導兵が無視した訳ではないのだが・・・
『ところで案内するのはよいのですが、できれば狙わないで欲しいのですよねぇ・・・そんな無意味な事をしても魔導弾の無駄ですし』
嫌みな笑みを浮かべるマリアティアス。
絶世の美女であるマリアティアスの笑みは、たとえ悪意があっても人を惑わしかねない魅力があるが・・・それはどうやら魔導兵を支配している女神の神眼には効いていないようだ。
何も反応がないというのはそういうことなのであろう。
そんなマリアティアスに何も反応しないままに魔導兵は突如として歩みを止める。
『・・・ここが案内したかった場所ですか?』
『えぇ、そうです。ここが貴方の墓場ですよ!』
魔導兵が持っている 魔導散弾銃をマリアティアスに向けて発砲する。
すると同時に周囲に潜伏していた魔導兵も動き出し、一斉に攻撃を開始される。
魔導小銃や魔導散弾銃、魔導機関銃の他にも 炸裂型魔導銃と五属性回転式魔導銃の四方からの一斉射撃は正に戦争。
確認できる範囲では 魔導小銃を持っている者が多く、その次に射程距離が短い魔導散弾銃。
魔導機関銃、 炸裂型魔導銃と五属性回転式魔導銃は各四方に一人いるようだ。
長距離狙撃用魔導銃を持っている者はいないのか?それとも何処かに潜んでいるのかは不明でが、今の現状では確認することは不可能。
そんな絶望的な状況なのだが・・・マリアティアスはまだ生きている。
圧倒的な魔力に作り出される魔法の盾によって、迫りくる攻撃全てを防いでいるのだ。
全方位をから絶え間無く魔導弾がマリアティアスに撃ち込まれるが・・・マリアティアスは苦痛の表情を一切受けべてはいない。
むしろ余裕の表情だ。
『残念ながらこの程度の攻撃程度では死ねないですねぇ・・・そもそも先ほど私を倒せないとあの時にわからなかったのですか?』
結界魔法の中でクスクスと笑うマリアティアス。
マリアティアス言っている通り魔導弾が結界を破壊するほどの威力はなく、高威力のはずの 炸裂型魔導銃の爆撃でも攻撃は通じていない。
四属性の魔法と魔力を弾丸にして撃ち出すことができる五属性回転式魔導銃の弾丸さえも通じていない。
そんな弾丸が飛び交う真っ只中にいるマリアティアスなのだが、弾丸の中から迫り来る人の気配を感じ取りそちらの方を振り向く。
すると目線の先には魔導銃を持って突貫してくる魔導兵が視界に入る。
(この弾丸の雨の中で突貫してくるというのは・・・)
マリアティアスは突貫してくる魔導兵が魔導銃を構えた瞬間に、一瞬にして上空へと飛び立つ。
そして魔導銃から放たれた魔導弾がマリアティアスの作り出した結界魔法に触れた瞬間・・・一瞬にして砕け散る。
この事実から推測できるに、先ほどの魔導兵が放った魔導弾は反魔導物質で作り上げられた弾丸だと判断できる。
反魔導物質は魔導師にとって天敵。
そのため見つけ次第殺されてしまうのが大半なのだが・・・マリアティアスはそうではなかった。
『面倒ですね。ここで時間を潰しても意味がありませんから・・・』
マリアティアスはそう言うと懐から呪術石を取り出す。
遠方からマリアティアスを監視していた魔導兵がそのことに気がつくと、合図と同時に長距離狙撃用魔導銃がマリアティアスに向かって襲いかかる。
遠距離からのピンポイント狙撃・・・それは狙撃対象に気がつかれることなく倒せるはずであった。
『化け物め・・・なんなんです。あの反応速度』
遠距離からのピンポイント狙撃に気がついたマリアティアスは、余裕の表情を浮かべると同時に軽やかにかわして見せた。
しかし狙撃してくる方向をしっかりと見ながら。
『彼処にいるのですか・・・まぁ、問題ないですね。それよりも私の予想だと・・・』
そう言いながらマリアティアスは更に上空へと飛び立ち、完全に地上からの射程外に出る。
すると数名魔導兵が上空へと飛んで来るのを感じ取る。
これはマリアティアスがオリジナル魔法・誰が為に風は吹くのかを発動させている影響であり、それによってマリアティアスの周囲にいる者の気配を感じ取ることができる感知タイプの魔法だ。
これによって範囲内にいる動物や障害物を見分けることができ、形や大きさ、大雑把ではあるが所持している物なども判断できる。
これは風の属性魔法が触れることによって判断できるというもので・・・広範囲をカバーできるのだが、欠点としては室内の特に地下や、入り組んだ場所にいるものは感知することができないという欠点がある。
まぁ、その施設内に入に入ることができれば、誰が為に風は吹くのかを発動するさせて探し出すことも不可能ではない。
更に言うなれば屋外であったとしても、気流の関係によって探知することができない場合もあるで注意が必要な魔法なのだ。
しかしながらそんな魔法であっても先ほどの面々の動きを感知するのは余裕であり、そして予測通りにマリアティアスの事を追って来たのは少数の魔導兵で、その手には先ほど反魔導物質の弾丸を放った魔導銃を持っている魔導兵と五属性回転式魔導銃を持っている魔導兵が近づいて来ていた。
『さて、このタイミングで彼らが来たということは・・・』
先ほど逃げるようにして上空へと飛び立ったマリアティアスが今度は急加速し、地面に向かって急降下して行く。
すると次の瞬間先ほどまでマリアティアスがいた場所には、遠距離からピンポイント狙撃が飛んで来ていた。
あと数分もその場に留まっていたのであれば攻撃を喰らってしまっていたのかも知れないが・・・マリアティアスは見事にかわして見せた。
ちなみに遠距離から長距離狙撃用魔導銃の狙撃は気流と障害物の関係により、完全に場所を把握できているわけではない。
しかしながらそれでもかわすことが出来ているのは今、マリアティアスが上空にいるというのが大きな理由だ。
上空・・・つまり空にいるということは前後左右の動きだけではなく上下という立体的に動く事ができる。
地上でも立体的に動く事ができるかも知れないが・・・障害物や地形の関係により大きく制約されることも多く、明らかに空を飛んでいる者よりは移動範囲は狭い。
そしてそんな中で狙撃するということは至難という他はないが・・・それでも狙撃することが出来ているというのは女神の神眼の感覚共有という能力だからこそだ。
だが、急激な動きに反応できるかと言えば別物だ。
いくら感覚を共有し、先読みすることができたとしても反応することができなければ意味はない。
無論急激な動きをするのであれば急激な動きをした者にその代償を伴うが・・・マリアティアスにとっては雑作もないことだ。
急激に、急速に、急降下しても耐えることができ・・・そしてマリアティアスへと向かっていた魔導兵達とすれ違う。
そのことに反応することができなかった魔導兵は急停止し、追いかけようとするがマリアティアスは既に通り過ぎていた。
急停止して動きを始める者と、その時既に加速している者とでは圧倒的にスピードが違う。
どのような者でも初速がトップスピードよりも速いというのはありえないからだ。
『しまっ・・・』
思わず声をあげてしまった女神の神眼。
そんな事も気にせずマリアティアスは地上にいる魔導兵を視界に捕らえ・・・そして手に持っていた呪術石を放つ。
呪術石が地面へと激突した衝撃で砕け、中からモクモクと煙が発生する。
何事かと驚いている魔導兵、もとい女神の神眼が離れようと距離を取るが・・・残念ながら既に先手を打たれてしまっていた。
逃げようにも地上の魔導兵の周囲を取り囲んでいた結界により脱出不可能となってしまった魔導兵は、呪術石から出た煙を吸い込んでしまった。
『いったいこの煙は・・・』
煙を吸い込んでしまうのは仕方ないと判断した女神の神眼は、この煙の正体が何なのか確かめようと試みる。
しかしながら女神の神眼が確かめるよりも早く、煙の影響が出始める。
その影響とは睡魔だ。
抗うことのできない眠りへと誘われて行く魔導兵。
この睡魔は薬による効果や、単なる眠気などでは一切ない。
何故ならこの眠魔は死へと誘う眠気・・・身体が、脳が、本能自信がもたらす欲望の煙だ。
その欲望を魔力で無理矢理打ち消すことも可能であったが・・・女神の神眼はそんなことはしなかった。
それは単純に魔力の消費と釣り合っていないというのが理由だ。
女神の神眼は膨大な魔力持っているが無限ではない。
常に魔機国全体の監視に魔力を消費している状況であり、戦闘になれば監視時よりも多くの魔力を消費する。
今は最大の脅威であるマリアティアスの近くにいる魔導兵を操っているだけなので魔力消費は抑えられているが・・・それでも目の前の得体の知れない化け物相手に魔力を温存するのは得策なはずだ。
そして睡魔という欲望に支配された魔導兵は次々と眠っていき・・・そして地上にいた魔導兵は全員眠ってしまった。
『・・・まだ少し時間が足りない、仕方ないですね』
女神の神眼は更なる兵力を追加させるために、命令して兵を出撃させる。
魔機国全体が女神の神眼の支配下にあるということは・・・何処からでも魔導兵を出撃させることができるということだ。
先ほどの魔導兵よりも精鋭ではないが・・・それを数で補おうという作戦に出る。
『次から次へと・・・めんどうだなぁおい!』
急に口調が変化するマリアティアス。
その美しい顔は怒りからか歪んでしまっているが・・・それでも美人なのは崩れていない。
改めて出現してきた魔導兵に対してマリアティアスは風の結界魔法を発動させて次々と閉じ込めて行く。
マリアティアスが魔法を発動させて数秒後、先ほど通りすぎた魔導兵が向かって来ていた。
魔導兵が弾丸を込め・・・そしてマリアティアスが射程範囲になるよりも早く突風が吹き荒れる。
だがそれはただの突風ではない・・・突風と同時にマリアティアスは水の属性魔法を発動させていたのだ。
水というよりは泡の魔法で名前を『泡の氾濫』
これは無数の泡を生み出すだけの単純な魔法なのだが、この魔法は風の属性魔法と同時に使うことによってより強力な魔法へと進化する。
(泡!?何故・・・)
何故大量の泡に襲われた魔導兵と視界共有していた女神の神眼は視界を潰されるが・・・それは偵察要員として後方で待機していた魔導兵によってどうなっているのか見ることができた。
端から見ると大量の泡に包まれている魔導兵。
そして更にそれを一ヶ所に留めておくように風の属性魔法の結界を張っている。
(これでは反魔導物質の弾丸を撃ったとしても無意味ですね)
視界全体を泡の魔法で埋めつくされてしまったことによって、反魔導物質の弾丸が無意味になってしまったことに困惑する女神の神眼。
泡の氾濫に視界が遮られるだけではなく、纏わりつくことによって反魔導物質の弾丸を妨害しているのだ。
試しに反魔導物質の弾丸を撃ったが・・・泡は一時的に無くなるが直ぐ様に元通りになってしまい意味がなくなってしまうという状況。
そして更にその状況は悪化してしまった。
勿論その悪化した原因はマリアティアスなのだが・・・
『偽霞の虚庭園!』
マリアティアスは周囲を霞で埋め尽くす魔法、偽霞の虚庭園発動させて更に周囲に魔導兵の視界までも奪い去る。
濃い霞によって視界を遮られてしまった魔導兵、もとい女神の神眼は脱出しようと動くが・・・その動きと同時に霞は脱出しようとしている魔導兵と同じように移動している。
この魔法から抜け出すには圧倒的なスピードで霞を振り切って脱出するか、もしくはこの周囲に展開する霞を風の属性魔法によって吹き飛ばすかの二択しかない。
霞に魔法、斬りつけるたとしても無意味なように、威力の弱い風の属性魔法もまた意味がない。
しかしながら今この場に偽霞の虚庭園を突破するほどのスピードが出せる魔導師はいなく、そして吹き飛ばせるほどの風の属性魔導師もいない。
何故いないのかというと・・・これもまたマリアティアスに原因がある。
マリアティアスはこの魔機国に侵入するために速攻で突撃し、そして着地と同時に魔機国を覆い尽くすほどの巨大な、強固な結界を作り出したからだ。
速攻で突撃してきたことによって、魔機国周辺で警戒していた風の属性魔導師が置き去りになり、戻ろうとしてもマリアティアスの作り出した結界によって阻まれる。
これは魔機国が空中に浮遊していることが原因なのだが・・・流石の女神の神眼も魔機国全体を覆い尽くす巨大な結界を造り出せるとは思ってもいなかったのだ。
人間は自分の知識、経験、培ってきた技術を元に常識を作り上げ形成する。
そしてその常識を用いて行動するのが人間であり、女神の神眼もまた例外ではない。
元魔法国にいた全ての人間の知識、経験、培ってきた技術を持っていたとしても、それは魔法国の人間の常識。
王国へと進軍し、更に力を得たとしても全ての知識を得たわけではないのだ。
故に予想外というものも起きてしまう。
魔機国全体を結界で覆い防御するという案もなかったわけではない・・・しかしながら結界維持には膨大な魔力を消費するのは目に見えてしまっていたが為に実行しなかったのだ。
何時、どんな時に攻めてくるのかが不明であるのにも関わらずに、魔機国全体に結界に張るというのは愚策だと判断して風の属性魔導師を周囲に展開させることによって探知し、迎撃する態勢へにしていたのだがそれが仇となってしまった。
無論女神の神眼がいる場所は厳重に守られているが・・・
(これでは視界が封じられてしまいましたね・・・ですが後少し、後少しで・・・)
まだ時間が足りない女神の神眼。
しかしながらマリアティアスはそれを許してはくれなかった。
『さて・・・この周囲の魔導兵は無力化させました。次は貴女ですよ女神の神眼!』
そう叫ぶと、マリアティアスが周囲にある建物の中でも一番大きな建物に向かって行動を開始する。
風の属性魔法、風による浮遊を発動させて最上階へとたどり着いたマリアティアス。
そして窓を破壊し、中に侵入することに成功した。
『さて、この場所・・・いない?』
女神の神眼がいると予想し突撃したマリアティアスなのだが、予想とは裏腹に建物に女神の神眼はいなかった。
そしてその代わりにあったのはマリアティアスにも知らない魔導物質であった。
この魔導物質は高密度な魔力妨害装置・・・マリアティアスの探知魔法ですら妨害する装置なのだが、マリアティアスはそれを破壊する。
『味な真似を・・・』
当てが外れたマリアティアスは装置を踏みにじり、そしてこの部屋を破壊する。
そもそもの女神の神眼がいるのにも関わらずに警備する魔導師が少ない、もとい魔導兵の質も悪いのでよくよく考えればわかることなのだが・・・
『まさかこんな装置があるとは・・・いったい女神の神眼何処に?』
マリアティアスが女神の神眼の場所を探ろうと、施設の外にでようとした瞬間に予想外の出来事が起こる。
誰もが想像だにしない出来事が・・・
『何!?これは地面が揺れて・・・浮いているのに?』
地面が揺れているのを感じ取ったマリアティアス。
この魔機国は空中に浮いている浮遊国家。
なのにも関わらずに地面が揺れ動くということは、自然ではありえない。
そして何か強い、浮遊している大陸を揺るがすことができるほどの衝撃を感じ取ったわけでもない。
そもそもマリアティアスの結界魔法によって魔機国全体を覆っているので、何か強力な衝撃を感じた場合マリアティアスも感じることができるはずなのだが・・・それがないということはどういうことなのか?
魔機国内部で何かが・・・動いている?
もしくは何かが起動してしまったのか?
そんなことを考えていたマリアティアスであったが・・・魔機国が割れる。
比喩ではない。
魔機国が中央部分から蜘蛛の巣のようにして割れたのだ。
『何事です!?いったい何がどうなって・・・』
何が起きたのか理解できていないマリアティアス。
それもそのはずだ。地面が割れるのは土の属性魔法を使うことができれば可能なのだが・・・魔機国全体が割れるというのはありえないからだ。
しかもそれだけではない。
割れた魔機国から現れ出たのは無機質な・・・かなり巨大な物質。
硬質であることを表す光沢に不気味に脈動する光・・・
この異様な光景を目の当たりしたマリアティアスは直ぐ様にアリセス達の方へと急速に移動する。
しかしながらマリアティアスが移動している最中でも地面が割れ続けている。
『見つけた!しかしこれは予想以上に・・・』
アリセスを含めた、全員を見つけることができたマリアティアス。
魔導六刀の面々もまた決着をつけて地上に移動していたのは良いことなのだが・・・
しかし予想以上に地面が割れるスピードが速く、そしてこのままでは魔機国全体に及んでしまう可能性が出てきたのだ。
『マリアティアスさま!』
『アリセス・・・すみませんが予想外の出来事です』
『・・・何がどうなっているですか?』
『多分女神の神眼が原因なのですが・・・申し訳ございません。後のことは任せます』
『マリアティアスさまは・・・』
『女神の神眼の目的が私であるのであれば、この場から逃げることは出来ないでしょうね』
苦笑いするマリアティアスであったが・・・その表情、そして状況から考えるに良くない事態が起きているということをアリセス達は判断する。
マリアティアスの手助けをしようとも、相手の力が未知数。
手助けどころか寧ろ足手まといになってしまう可能性を考慮したアリセス達は、しぶしぶマリアティアスに促され別の場所に避難することに決定する。
エリカやアイカからは不満が出てきたが、なんとかマリアティアスの説得で納得してもらい全員無事にこの場を離れる。
『さて・・・いったい何が起きているのしょうね?』
そう言いながら振り返るマリアティアスの目の前には、崩れ行く魔機国があるのであった。




