銀狼の狂信者VS業火の魔導師
周囲の光景が地獄と変貌してしまった区画・・・どろどろと溶けた燃える泥に、燃え盛る瓦礫。
原型を留めている物が数少なくなってしまった区画に、エールは周囲の状況を伺うように感覚を研ぎ澄ます。
周りに人間の気配はいないはずなのだが・・・
『動いた!そこだっ!』
何かが動いた気配を感じ取ったエールはその動いた場所に向かって単刀を投げつける。
すると燃える泥が動き・・・その投擲してきた単刀に向かって盾のように形成し攻撃を防ぐ。
そしてどろどろの泥の中から奇妙な格好をした人間が現れ出る。
全身隈無く武装していて、肌が露出しているところは一つも存在していない。
フルプレートとう感じの武装ではなくもっと別の武装・・・そう例えるのであれば宇宙服のような感じだ。
まぁ・・・宇宙服を知っている人から見れば大分・・・いや、かなり変わっているのかもしれないが、この世界で宇宙服という存在を知っている者は一人しかいないので変わっているというのもおかしな話だが・・・
身体全身を覆うようにして張り巡らされている配管に、剥き出しの歯車。
胸の中央には怪しく光輝く真っ赤な魔導石に、硬質な輝きを放つヘルメット。
明らかに他の者より浮いており、はっきり言って聖職者の衣装を身に纏っているエールよりも浮いている。
そんな摩訶不思議な格好をしているのだ誰かと言うと・・・火の最高位属性魔導師であるヴェルピウスだ。
何故ヴェルピウスがこんな格好をしているのかというと・・・これもまた魔法であり、女神の神眼が魔法国を支配したのが原因だ。
女神の神眼によって魔法国に存在していた全ての技術が集約され、そして応用される。
これは最高位魔導師であったヴェルピウス達も例外ではなく・・・新たなる魔法、魔導石、技術を用いて強化されたが故に、今まで・・・というよりもどんなにヴェルピウスが知恵を、知識を絞り出しても作り出せなかった魔法の開発も可能となったのが原因だ。
誰しも自分だけの知識、知恵、技術を持っている。そしてそれを人に教えたとしても完全に、完璧に、同じように再現することなど人間には不可能。
しかしながら人智を越えた存在である女神の神眼であれば可能。
故に・・・作り出されたのが今ヴェルピウスの発動している魔法『魔装・火鼠の衣』はヴェルピウスだけであれば一生作り出せない魔法である。
・・・衣という物には見えないかもしれないが。
『ほう・・・この熱量でも溶けないのか?』
ヴェルピルスがエールの投擲した短刀を不思議そうに見ている。
確かにエールの投擲した短刀は溶けてはいない。
ヴェルピルスの周囲の瓦礫は融解してしまっていて、燃えている物も存在する。
勿論その中には鉄でできた物もある。
『特殊な金属で作られているからですよ』
『ほう・・・』
そう言いながら短刀を見つめているヴェルピルス。
そしてエールが不適に微笑んだ瞬間・・・ヴェルピルスの持っている短刀が爆発する。
突然の出来事になぬも反応できなかったヴェルピルスはモロに直撃した筈なのだが・・・想像以上の硬さったようであり、ヴェルピルスのヘルメットに罅が入る程度であった。
『ちっ!』
まだ生きていると即座に理解したエールはヴェルピルスに向かって追撃するように更に投擲する。
しかしながら投擲された短刀がヴェルピルスに直撃することはなく、足元に突き刺さる。
『爆発すると・・・』
『爆発だけじゃないですよ』
エールがそう言うとヴェルピルスの足元に投擲された短刀から土の属性魔法が発動する。
するとヴェルピルスの周辺の地面が隆起し・・・ヴェルピルスが勢いよく空を舞う。
『何!?魔法だと』
空を舞ったヴェルピルスは崩れた態勢を維持しようと魔法を発動する・・・よりも速くエールの更なる追撃。
今度は別の短刀であり・・・空中で逃げる事ができなかったヴェルピルスに呆気なく直撃する。
そして無様にも落下していくヴェルピルスは融解した地面に直撃し、沈んでゆく。
『死んだかな?』
そう言いながら更に短刀を両手持つエール。
エールの得意分野は潜入や、暗殺などであり、真っ正面からの戦闘というのはあまり得意ではない。
そんなエールが何故ヴェルピルスと単独で戦っているのかというと・・・ヴェルピルスの魔法に原因がある。
ヴェルピルスの魔法は周囲を融解させ、どろどろに溶かす溶岩の魔法を使って戦う。
アリセス、ソイルは主に接近戦を専門にして戦う、ヘルメスは遠距離からの攻撃なのだが・・・相性の関係でヴェルピルスには不利。
アイカとエリカは倒さなければならない相手であるアクララ・・・
なので必然的にヴェルピルスの相手はエールとなってしまったのだ。
『確かめる手段としては・・・』
エールが考えていると不意に不思議な音が聞こえてくる。
その音はエールの周囲からであり・・・音は下、地面の下からだ。
『バレバレですよ!』
僅かに聞こえてくる音に反応したエールは即座に後方へと飛び退いて回避する。
すると先ほどまでエールがいた場所の周囲から火柱が一瞬にして吹き出す。
更に吹き出した火柱からどろどろの溶岩と、火山弾が周囲に飛散する。
そしてその中から現れた出るヴェルピルス。
しかしながらその頭部にはエールの投擲した短刀が突き刺さっているが・・・
『なんで頭に刺さっているのに死んでないんですかねぇ・・・』
気味悪そうな顔をしながら様子を伺っているエール。
ヘルメットを被ってはいるが頭に短刀が刺さっているその姿は奇妙であるが・・・
(あの男に投擲した短刀の能力は腐食腐敗のはずなのですが・・・)
ヴェルピルスに刺さっている短刀の能力は腐食腐敗の能力。
金属を溶かすことはできないが、それでも人間の皮膚を溶かす事が可能な短刀だ。
そしてその短刀が頭部に刺さっているのにもかかわらずに生きているヴェルピルス。
『ヨ・・・ク・・カワシタ・・・ナ』
何故か先ほどとは声質が変わっているヴェルピルス。
その表情はヘルメットによって遮られてわからないが・・・エールは微かに感じ取る。
人ではない者の気配を・・・
『不気味な奴・・・』
ヴェルピルスは周囲に広がる溶岩を集め・・・そしてどろどろに溶けた三本槍のような物を形成する。
溶けてしまっており、その先端は鋭くなっていないが・・・そんな事は問題ではない。
それは突き刺して貫通させる事を目的ではないのだから。
『溶槍・解弾!』
真っ赤に溶けかけた三本槍がエールに向かって射出され、飛んでくる。
しかしながらヴェルピルスが三本槍を作り出した瞬間にエールは、それが遠距離から攻撃する物だと即座に判断していたが為に余裕で回避する。
すると溶槍が接触した建物は融解し・・・そして炎に呑まれる。
当たれば即死・・・というよりもかすり傷でさせも致命傷になりかねない威力だ。
『鈍いですね。威力が強力でもかわすのは容易で・・・』
溶槍をかわし、相手の出方を探っていたエールだが・・・突如として今いる場所から距離を取り、逃げるようにしてまだ焼けていない建物の中へと逃げて行く。
『勘ガ鋭イ奴メ・・・』
ヴェルピルスがそう呟くと、エールが居た場所から細く尖った針のような物が無数に出現する。
数にして百以上。
これは土の属性魔法で作り上げられた『土針・怒威針』であり、指定した場所に術者が魔力を送ることによって発動する地雷式の魔法だ。
地雷式の魔法は触れた瞬間に発動する物と、魔力を加えることによって発動する物の二種が存在する。
どちらにも利点があるが、先ほどヴェルピルスが発動したのは後者だ。
そして土針・怒威針がかわされたのに少々驚いているヴェルピルスは、次なる魔法を発動する為に魔力を練る。
『・・・暑いですね。流石に耐熱性があるとはいえ、長引かせるのは得策じゃないですね』
建物内へと逃げ込んだエールは、暑いのかスカートをパタパタと動かし風を送っている。
確かにエールの着ている聖職者の衣服にはマリアティアスによって耐熱性が加えられており燃え難く、溶け難い素材となっている。
無論これはエールだけではなく、全員の衣服に施されているものなのでエールだけが特別というわけではない。
とは言え耐熱性を持っているとしてもそれはエールの着ている衣服であり、エール自信には付与されてはいない。
人には耐えることができる最高温度というのは決まっており・・・無論鉄をも溶かす熱量には耐えることは不可能。
直撃さえしなければただ暑いだけなのだが・・・それでも人間の生命を容易に脅かしているのは事実。
現にエールは暑さに耐えきれずに撤退せざる終えなかったのだから。
しかしながらこの撤退は一時的なもの・・・その証拠にエールは額に浮かんだ汗を拭いながら手に持っている治療液を飲み干す。
すると見る見るうちに疲れていた表情は和らぎ、呼吸も落ち着く。
これはエールの飲んだ治療液のお陰で、この治療液には体調を整える作用が加えられているのだ。しかも即効性。
無論数に限りはあるが・・・無くなる前にヴェルピルスを倒してしまえば問題はない。
『さて、残りのストッ・・・』
どのようにしてヴェルピルスを倒そうか考えているエールだが、ヴェルピルスが魔力を溜め込んでいるのを感知する。
(距離をとったのは得策ではなかったようですね)
エールは即座に硝子を砕き、ヴェルピルスに向かって短刀を二本取りだし投擲する。
しかしながらその攻撃を予知していたかのようにヴェルピルスは溶岩の盾を出現させ防ぐ。
一本だけだが・・・
一つの短刀溶岩の盾に突き刺さるが、もう一つの短刀は溶岩の盾に当たる直前に遥か上空へと飛んで行ってしまったのだ。
『起動!』
ヴェルピルスが作り上げられた盾に突き刺さった短刀から水の属性魔法が発動する。
水が爆発的に広がるが・・・ヴェルピルスが作り上げた溶岩の盾に触れた瞬間に蒸気へと変わってしまった。
『じゅうじゅう』っと音を立てて周囲に広がる蒸気。
瞬く間にヴェルピルスを覆い尽くしてしまった。
溶岩の熱量さえも耐えきれる火鼠の衣を着ているヴェルピルスにとっては、蒸気の熱量など問題はない。
少し周囲の熱量が下がる程度なのだ。
『無駄ナ・・・コト・・・』
『それはどうでしょうかねぇ・・・』
いつの間にか建物から出てきていたエールは、周囲のまだ無事な瓦礫を辿りヴェルピルスの近くまで行き・・・そして手に持っている短刀を投擲する。
蒸気に包まれ、そして溶岩の盾で身を守っているはずのヴェルピルスだが・・・エールの投擲した短刀の能力の前では無意味だった。
投擲した短刀が蒸気の中へと入った瞬間に、エールは能力を起動させると・・・蒸気が一気に光輝き、雷鳴が響き渡る。
先ほどエールの投擲した短刀の能力は電気を生み出す短刀であり、起動すると刀身から電気を発することができるという品物だ。
通常であれば相手に刺さることによって電気が流れるのだが・・・今は違う。
エールの投擲した短刀から生み出された水の属性魔法によって、周囲には蒸気が立ち籠め・・・そして蒸気の中は水の中に入るのと大差無い状態になってしまっている。
しかしながら火鼠の衣を装備しているヴェルピルスには、視界が悪くなってしまったという事しかわかっていなかったようだ。
それにより何の反応もできずに喰らってしまったのだ。
眩いばかりの閃光と雷鳴が一通り終わると・・・そこには溶岩の盾が無くなって動かなくなってしまったヴェルピルスが其処にはいた。
『死にましたかね?』
動かなくなってしまったヴェルピルスなのだが・・・まだ魔力を溜めたままであった。
そして溜め込んでいた魔力が発動してしまう。
『生きている?いやこれは!?』
暴発した魔力が溢れだし・・・ヴェルピルスに纏わり付く。
どろどろの溶岩がまるで生きているかのように動き始め・・・次第に形となる。
その形は溶岩で作られたスライム。
しかしながら大きさはかなり巨大で、十メートル級の大きさだ。
どろどろと周囲を融解させながら突き進んで行く溶岩の塊の中にはヴェルピルスがいるが・・・どうやらエールが何処にいるのかわかっていないらしくエールの居る位置とは若干外れた場所を移動している。
それどころか攻撃しようとする意志が感じられない。
まるでただ動いているだけのような感じだ。
『まさかこれは・・・』
スライムになったヴェルピルスに向かって瓦礫を投げるエール。
するとヴェルピルスに触れた瞬間に溶解し、瓦礫が燃え溶けてしまった。
『不味いですね。あの溶岩の盾を無効化しない限り私に勝ち目が無くなってしまいましたよ』
ヴェルピルスが作り出した巨大な溶岩スライムによって攻撃が届かなくなってしまったエール。
はっきり言ってエールの投擲能力や、暗殺能力では溶岩によって守られているヴェルピルスを倒すことはできない。
今のエールには・・・
『仕方ない・・・誰も見ないでくださいね』
独り言のように呟きながらエールは懐からある物を取り出す。
それは銀色に光輝くビー玉のような物で、中には液体が入っている。
これはマリアティアスによって作られた物であり、エール専用に作られた丸薬だ。
その効果は先祖帰り・・・
エールの血に秘められた力を覚醒させ、それを体現させることができる丸薬をエールは噛み砕く。
すると効果は直ぐに現れ出る。
エールの黒かった髪は銀色に変化し、頭部には獣のような耳。
そして髪に隠れて見えにくくなってはいるが瞳が縦に割れ・・・ふさふさの尻尾と両腕に銀色の体毛が現れ出る。
『禁断・銀狼の忌子・・・』
その姿は狼人と似ているが・・・少し雰囲気が違う。
何故ならエールは完全な狼人では無いからだ。
エールは狼人と人間のハーフなのだが・・・エールには狼人の特徴である獣の耳も尻尾も生えていない。
これはエールが半分しか血を受け継いでいなくことが原因であり・・・マリアティアスによってかけられた体内術式で暴走しないように抑えられている。
残念ながら血の影響によりマリアティアスと会う前は激昂・・・感情が昂ってしまうと狼人と似たような姿になってしまい、本能のままに暴れ回ってしまうことがあったのでマリアティアスにエールが頼んで施してもらったのだ。
それに、人間の国で暮らしていくには狼人の姿は目立ち過ぎるということもあり、エールがこの狼人の姿を忌み嫌っているのも原因だ。
しかしながら人間よりも狼人の方が身体能力が上なのも事実。
人間の姿・・・身体能力では勝てない相手の場合、丸薬を使用して狼人になってエールは戦う。
まぁ・・・エールは狼人と人間のハーフではあるが、血を覚醒させた者『覚醒古代種』なのでその身体能力は通常の狼人の比ではないが。
『覚醒古代種』
人間以外の種族・・・亜人や竜人、エルフや魚人や人魚にも稀に現れ出る現象で、血の覚醒者と言われることもある現象だ。
覚醒させた者は総じて通常ではありえない破格の身体能力や、魔力を使用することができる者であればかなり強力な魔法、竜法を発動することができる。
産まれた瞬間にもう既に覚醒させている者もいれば、後天的に何かしらの切っ掛けによって覚醒する者の二種類が存在している。
しかしながら両者共に何時、どのようにして覚醒古代種になるのか今日まで不明なままだ。
親が覚醒古代種だとしても、その子が覚醒古代種になる保証など一切なく、いくら子を増やそうとも意味はあまりない・・・
そんな神に選ばれた者の一人がエールなのだ。
まぁ・・・ハーフではあるが。
『さて・・・早めに終わらせましょうか?』
そう言うとエールは自らに持っていた短刀を折り・・・そして短刀の中に入っている液体を飲み込む。
ヴェルピルスの溶岩の魔法でも溶けることがなかったエールの短刀。
これは単純に耐熱性にずば抜けた物質で作っているからであり、この世界に存在する複数の鉱石を掛け合わせて作り上げた合金でできている為だ。
耐久性もかなりあるが・・・それでも人智を越えた存在である魔導六刀には及びはしない。
そしてその短刀の中にはそれぞれ液体が入っており、それによって様々な特殊能力を使用することができる。
この液体の中には魔導石を溶かした物もあり、エールの声に反応して発動するように組み込まれている。
四大属性魔法の他にも電気や磁気、冷気を発動させることができる物も存在する。
魔法の他には相手にデバク能力を与える物もあり、激臭や腐食腐敗、筋力低下などこちらも様々あるが・・・今のヴェルピルス相手ではあまり効果を期待できるものはない。
そんな数多くの能力を持っている短刀を折り、エールが飲み込んだ物はというと・・・
『予想よりも寒いですね。まぁ・・・溶岩の中に突っ込むのですから大丈夫でしょう』
そう言ったエールの口から冷気が零れ出る。
零れ出た瞬間に周囲の空気を凍結させ、氷の粒がポロポロと落ちてゆく。
しかしながらエールの口だけではなく、エールの周囲全体が冷気に包まれていたのだ。
地面は凍結し始め、周囲には空気中の水分が固まって落ちた氷。
明らかに異質な雰囲気となってしまったエールなのだが・・・これは先ほど口にした液体が原因だ。
エールの口にした液体は冷気を生み出す魔導石を溶かして作り上げられた液体であり・・・普通に使うのであれば短刀で刺した相手を凍りつかせるのを目的とした物なのだが、エールはその液体を飲み込んだのだ。
それはつまり自らの身体を内側から凍結させるようになものなのだが・・・今のエールであればその冷気に耐えることができる。
全身から冷気が溢れだしているその様は異様だが・・・この光景の中ではあまり問題はないであろう。
『冷喰鍍金・・・』
覚悟を決めたエール。
獣が狩りをするように腰を低くして・・・一気にヴェルピルスに向かって攻撃を仕掛ける。
その方法はいたって単純。
真っ正直からの一点突破だ。
ヴェルピルスの溶岩と冷気を纏ったエールがぶつかり・・・触れた瞬間から溶岩が凍りつき砕け散る。
しかしながら分厚い溶岩を一度の攻撃で、全ての溶岩を凍結させて砕くことができなかった。
砕いた瞬間から溶岩が溢れだしたが・・・その溶岩もまたエールによって凍らされ砕け散る。
『反撃もしてこないのですか・・・いったいどうなっているんでしょうね!』
更に攻撃を加えていくエール。
凍らせては砕き、凍らせては砕きを繰り返し・・・そしてとうとうヴェルピルスの元まで辿りついたエール。
そしてヴェルピルスに向かって拳を叩き込み、ヴェルピルスが溶岩の中から飛び出す。
熱せられ急速に冷やされたことによってヴェルピルスの火鼠の衣に皹が入り・・・そして砕け散る。
『起動。そして止め・・・』
エールが小さく呟くと先ほど空中へと飛んで行った短刀が勢いよくヴェルピルスを貫く。
この短刀は風の属性魔法の能力が付与されていて、自由落下と風の属性魔法による加速が掛け合わせに鋼鉄をも貫く速度に達したのだ。
『死んだ?』
ぴくりとも動かなくなってしまったヴェルピルス。
エールは警戒しながらも近づき・・・持っている短刀で首を切断する。
『流石に首を落としたのですから死んでますよね?』
首を切断され、そして胸部から腹部にかけて大穴が空いてしまったヴェルピルス。
そんなヴェルピルスに対してエールは顔を覆っているヘルメットを砕き、その素顔が露になる。
『腐敗している・・・あの時既に死んでいのでしょうか?』
ヴェルピルスの顔は腐敗してしまっていて・・・目を瞑りたくなるような悲惨な状況になってしまっている。
この腐敗はエールの投擲した腐食腐食の短刀の影響だと推測できるが・・・少々おかしなことになっていたようだ。
腐食腐敗の短刀によって顔の皮膚が爛れ・・・そして骨まで達してしまっている。
つまりそれは脳死・・・
先ほどまでヴェルピルスは生きてはいるが何も考えていない、何も感じていない、何も反応も示さない生きる屍となっていたのだ。
そんなヴェルピルスを憐れな瞳で見つめるエール。
『・・・これも運命なのでしょうか?憐れですね』
死んでしまったヴェルピルスに冷たく言い放つエールはこの場を離れて行くのであった。
そしてエールがヴェルピルスの元を離れてから数分後・・・ヴェルピルスの姿は跡形も無く消えてしまっていた。




