交わる四つの刀
王城内に存在する一室・・・
クチルギに追われるようにして影の守護者と別れ、王城の一室へと逃げ込んだライフル。
途中に王城いる人々と目線が合ったりし、物珍しそうにしてライフルを見る者もいれば、気味悪がるようにしてライフルを避けるようにしている人など数名と出会ってしまった。
ライフルは基本的に影の守護者、もしくは一人での単独行動が多く、人とか変わるという事は滅多にない。
表立ってライフルの事を知っているのは国王だけなのだから当然だ。
一室へと逃げ込んだライフル。
幸運な事に走っている最中にクチルギを撒くことに成功したようであり、クチルギが追ってくる気配はない。
呼吸を整え、気持ちを落ち着かせるライフル。
あまりの衝撃的な出来事であったが故に、思わず逃げ出してしまったが・・・後悔という概念はない。
何故なら一目で、出会った瞬間にクチルギ、そしてアリセスが強者であると見抜いたからだ。
ライフルの第一使命はエルピーラ王国、第二王女ソイル・ネロクリリス・ラック・エルピーラの暗殺であり、クチルギとの戦闘をすることではないのだ。
影の守護者の面々もそれは理解しているのでもう一人の聖職者であるアリセス、そして今ライフルを襲っているクチルギも足止めする為に行動していたが・・・どうやらクチルギを足止めすることは出来なかったようだ。
『さて、拙者の任務を遂行しなけ・・・』
ライフルが逃げ込んだ一室を隔てた廊下から悲鳴が聞こえ、そして消えてしまう。
何者かが襲われたのであろうがライフルには関係のない話ではあるが・・・ライフルの近くで悲鳴が聞こえたということは襲った者が近くにいるということであり、警戒する必要がある。
『面倒な事になってしまっ・・・』
ライフルがぼやきながら周囲を警戒していると・・・何者かが走っている音が聞こえ、ライフルが潜伏していた一室の扉が開け放たれる。
そして入ってきたのは一人の少女であり、その瞳には大粒の涙が浮かんでいる。
身なりもよく、泣き顔になってしまってはいるがそれでも潜在的な美しさは失われていない少女。
何処かの貴族の子供だろうかと思ったライフルだが・・・その少女の胸元に掲げられている紋章を見て眉をひそめる。
何故ライフルがそのような表情になってしまったのかというと・・・その少女が誰なのか知っているからだ。
本来であればこの一室、この建物にいる事は珍しくはないが今は聖薔薇騎士団、そして聖薔薇騎士団と心を同じくする者たちによって攻め込まれている最中・・・つまり非常事態なのだ。
危機的な状況・・・王国が揺らぎかねない非常事態に現れた少女の名はダイヤ・ゴルディエムス・ニガラス。
国王と窮姫との間に産まれた子供だ。子供ながらも美しさは母親譲りであり、将来は多くの貴族から求愛されるれであろう少女だ。
『はぁ、はぁ・・・お母さ・・・ひっ!?』
ダイヤがライフルのいた一室に入り扉を閉め、辺りを確かめていると身を潜めるようにしていたライフルが目に映り息をのむ。
国王以外とはあまり人々と話したことがないライフル。
もちろん少女・・・もとより子供とは話したことも、触れたこともないライフルは突如として入ってきたダイヤにどうすればよいのかわからず、見ているしかなかったのだ。
そしてダイヤもライフルを見るのは初めてであり、ダイヤの様子を考えるに何者かに追われている様子だ。
『あ、あの・・・誰で・・・す・・・か?』
ダイヤの問いかけに対して無言になってしまうライフル。
何を言ったらよいのか?何をしたらいいのか理解できていないライフルは困惑してしまっているのだ。
『あ、あの・・・』
『す、すまない・・・あの・・・私はライフル。王国に仕える者だ』
『御父様に・・・』
『あぁ、君の父上エルレド・ファングラッツ・ロメテウス・エルピーラ国王に仕えている。君は何かに追われ・・・』
ライフルが自身について話していると、急にダイヤが一目散にライフルの元まで駆け寄り抱き付く。
余程恐怖だったのであろうか、号泣してしまいダイヤの叫び声がうるさいほどライフルの耳に響く。
一瞬、ほんの一瞬ライフルの右肩が奇妙な事になったが・・・何事もなかったかのようにいつも通りになっていた。
『な、泣かないでくれ・・・それに私は・・・あぁもう』
なかなか泣き止んでくれいないダイヤにどうすればよいのかわからず戸惑っているライフル。
余程怖かったのか泣き止む様子が感じらないダイヤに対して痺れを切らしたのか、ライフルは自身の身体に纏っている銀色の鎧を脱ぎ・・・そしてダイヤを抱き締める。
ぎこちないながらも初めて人を抱き締めるライフル。すると抱き締めているダイヤからよい香りが鼻を擽る。
そして落ち着かせるように優しく、優しく撫でるライフル。
するとダイヤは落ち着いたのかいつの間にか泣き止んでしまっており、ライフルの胸元はダイヤの涙と鼻水によって濡れてしまっていた。
『へぇ・・・ずいぶんと私とは違うのですね?』
声のした方向・・・この部屋の扉にいたのはライフルを追っていた人物。
クチルギが抱き締めあっているライフルとダイヤを見てつまらなそうにしていた。
『何故攻撃をして来ないのか?』そんな事を疑問に思っているとライフルの太股・・・下腹部に濡れた感触が広がり始める。
『え・・・なぁ・・・』
『い、いや・・・いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいぃぃぃぃぃやぁぁあぁぁぁ!?』
何事かと思い叫び声のした方向を・・・ライフルに抱き付いているダイヤを見るとそこには、狂乱状態になってしまったダイヤがそこにはいた。
狂乱してしまったが為に自分が今何をしているのか理解出来ていないダイヤ。
周りから臭ってくるアンモニア臭でだいたいは理解できるが・・・
『あらあら・・・その歳、王家の令嬢なのにお漏らしですか』
クスクスと悪戯っぽく嗤うクチルギ。
邪悪な笑みと共に持っている槍をダイヤに向けると・・・
『いぃぃぃぃぃやぁぁあぁぁぁぁ!!!』
更に激しく叫び声をあげ、ガタガタと震え始めるダイヤ。
その顔は想像を絶する恐怖を目の当たりにしたように泣き崩れてしまっていて、美人が台無しになってしまっている。
『・・・貴様この子に何をした?』
泣き叫ぶダイヤを宥めるように、安心させるように強く抱き締め、クチルギを睨み付けるライフル。
ライフルがより強く抱き締めたからなのかダイヤは泣くのを止める。
しかし今だに恐怖が続いているのかダイヤは小刻みに震え、ライフルから離れようとはしていないようであり、顔をライフルの胸元に埋めて必死に恐怖に耐えている。
『私は別にその子には何もしていないですよ』
手に持っている槍をくるくるとバトンのように回すクチルギ。
そして近くに置いてある花瓶の花に槍が触れると・・・まるで急速に水分が失われていくようにみるみる内に花が枯れてしまった。
予想だにしない出来事に一瞬戸惑うが・・・ライフルはより一層警戒の色を強くしてクチルギの一挙一動を見逃さないようにする。
『クチルギはただ・・・罰するべき者を処分してただけだからね』
クチルギの『罰するべき者』という単語に反応したのかダイヤの小さな身体が『ビクッ』っと動く。
『聞かなくていい・・・』
ダイヤに聞こえるように、そしてクチルギには聞こえないようにひっそりと呟き、ダイヤの耳を覆うライフル。
『こくこく』と小さく頷いたダイヤを見て、再びクチルギを睨むようにして警戒する。
『罰するべき者とはいったい?その・・・奇妙な槍で殺ったのか?』
『奇妙な槍?貴女も同類でしょうに・・・可笑しな事を言うのですね?』
そう言いながらライフルの右腕を見つめるクチルギ。
自身と同じく人間の欲望によって造られた魔導六刀だからなのか?
それともクチルギが特別だからなのか?
『この子もその罰するべき者だと言うのか?』
ライフルの問いかけに首を傾げ、『どうだろう』っと呟くクチルギ。
『まぁ・・・王族なんて輩は全員まともじゃないですからねぇ』
『・・・全員ではないだろう』
『あぁぁ!?』
ライフルの言葉がクチルギの逆鱗に触れたのか急に態度を変え、ライフル、そしてダイヤを睨み付ける。
その覇気を見えないながらも感じ取ったダイヤは再び小さな悲鳴をあげてしまう。
『・・・貴女はどうやらクチルギとは違うのですね?クチルギはあのお方に出会うまで自分が何者なのか理解していなかった。いえ、教えていただけなければ一生わからなかったというのに』
『あのお方・・・だと!?』
『えぇ、あのお方・・・マリアティアス・V・ヘリエテレス様によって』
『何者だ?』っと心の中で呟くライフル。
世間に疎いライフルにとって外の情報・・・特に王国以外の事などは知るすべがない。
そんなライフルがマリアティアスの事など知りよしもないのは当然であり、疑問が頭を過る。
『マリアティアス様が何者なのか理解出来ていないようですね?なら説明してあげましょう・・・偉大なるお方であるマリアティアス・V・ヘリエテレス様について』
そしてクチルギは、何故自身が王国に来たのか?そしてクチルギが本当の自分に目覚めた話を始める。
『そ、そんな・・・そんな事が・・・』
『えぇ、そうです。だから帝国は滅びました』
『国が、一国が・・・』
『生きる価値のない穢れきった者達が蔓延っていたのですから・・・当然です』
クチルギから帝国が崩壊してしまった事実、そしてクチルギの歪みきった価値観を聞かされ唖然となってしまうライフル。
そしてそれと同時にあることに気がついてしまう・・・
『まさか・・・お前国王を?』
『残念ながらまだ生きてますよ・・・まぁ、辛うじてですが』
『ケラケラ』っと嗤うクチルギ。
『何がそんなに可笑しいのか』そんな疑問を口にするよりも早く、異変が起きる。
その異変とはこの部屋・・・空間に亀裂が入ったのだ。
何がどうなっているのか?理解出来ないでいると・・・空間に入っている亀裂が更に大きくなり砕ける。
そして亀裂の中から絶世の美人・・・マリアティアスが出てくる。
『お喋りが過ぎますよクチルギ』
思いもよらない人物に一瞬、空白になってしまうが・・・ライフルは本能で理解する。
この人物がクチルギの言っていたマリアティアス・V・ヘリエテレスだと。
『さて・・・』
マリアティアスが一歩前に進む。
すると一瞬にしてマリアティアスを縛りあげる複数の鎖。
銀色に輝く鎖は傷一つ無く、そして光輝くそのさまは神聖なる物であると理解できる。
鎖の先端には鋭利なクナイ状になっていてその先端がマリアティアスの喉元に狙いを定めている・・・
『動くな・・・動けば一瞬で喉元を貫くぞ』
声を発したのはライフルであり、そしてその右腕・・・右肩からは五つの銀色の鎖が延びていた。
そしてその鎖は自由自在に動くのか重力を無視したように動いており、一本はマリアティアスを、残りの二本はクチルギを遮るようになっている。
残りの二本はライフル・・・というよりはダイヤを守るように警戒しているようだ。
『へぇ・・・それが・・・』
『動くな!』
先ほどよりも強い口調で警戒し、そしてクナイがマリアティアスの喉元を斬る。
肉にまでには達していないがそれでもマリアティアスの喉元からは鮮血が流れ出す。
『マリアティアス様!』
マリアティアスを助けようと動こうとしたクチルギだが、マリアティアスによって静止されてしまう。
『なるほど・・・これが貴女の力ですか?』
『・・・そうだ。そして動けば一瞬でお前の喉元を貫く』
『身体が鈍い・・・鈍化させる能力とは』
マリアティアスがライフルの事を無視して話を進めようとすると、鎖が更にマリアティアスを強く拘束し、皮膚に食い込んでいるのが目に見えてわかる。
しかしながら喉元にクナイを突き付けられ、身体を拘束されているのにも関わらずマリアティアスは苦しそうな顔をしていない。
『交渉しませんか?』
『交渉だと・・・』
交渉と言われ疑問に思っているライフル。
そんなライフルに対してマリアティアスは笑顔で答える。
『交渉というよりも・・・沈みゆく鎖刀こちら側に来ませんか?』
『この私がお前の手駒になれと?』
『手駒ではございませんが別にそれは別としまし・・・』
『断る!私が貴様に仕える義理はない!』
強い口調でマリアティアスの事を拒絶するライフル。
その瞳には強い意思が感じられ、そしてダイヤを強く抱き締めている姿は我が子を守る母親のようだ。
『義理ねぇ・・・』
『はぁ・・・』っとライフルを見ながら呆れたようにため息を溢すクチルギ。
『そうでしょうか?でも・・・その子はどうしますか?』
そう言いながらマリアティアスは微妙にしか動かない指でライフルが抱き締めているダイヤを指差す。
確かめにライフルだけであればこの暴動の中を脱出するのは容易い、そしてダイヤを連れて脱出する程度問題ではない。
『王城を脱出した後はどうするのです?』
マリアティアスの問に固まってしまうライフル。
確かにこの暴動の中、ダイヤと共に脱出するのは容易いことだ。
しかし・・・王城を脱出した後はいったいどうすればいい?
ライフルはずっと王家に仕えていた・・・今国王がどうなっているのかはわからない。
クチルギの話を聞くにどうやら良い状況ではないのは確かであり、王家に仕えるライフルにとって無論ダイヤも守るべき対象だ。
残念ながらライフルは家事等とは到底無縁の生活を今まで送って来ており、ダイヤもそうなのだろうと理解できる。
そしてライフルはお金を稼ぐ術という物も知らない・・・
腕に覚えはあるが・・・この暴動が起きてしまった王国でどのようにして暮らしていけばよいのかビジョンが見えていない。
ましてやダイヤは王家の血を引く者・・・平穏に暮らしていけるのか不明なのだ。
『お前の下に付けばダイヤ様が安全だと?』
『少なくとも今の王家よりは・・・』
悩むライフルだが・・・ライフルの胸に踞るダイヤを見て答えを出す。
『わかった・・・ならばお前に付こう』
『それは良かっ・・・』
『但し・・・ダイヤ様に危険が及ぶような事があるのであれば即刻この鎖が貴様の喉元を貫くぞ』
『別と構いませんよ・・・しかし』
不意にマリアティアスは自身の喉元に突き付けられている鎖・・・クナイに向かって一本前に出る。
するとクナイによって喉が斬られ・・・マリアティアスの喉から鮮血が溢れ出す。
何をしているのかと驚愕しているライフルを他所にクナイが引き抜かれ先ほどよりも大量に鮮血が溢れ出る。
『ごぼっ・・・喉元を・・・貫こうが・・・無意味なのですよねぇ』
『なんだ・・・お前は?』
マリアティアスの意味不明な行動に困惑してしまうライフル。
だが・・・そんなライフルの困惑を他所に目を疑うような事が起こり出す。
『そんな・・・傷が癒え・・・て』
マリアティアスの喉を貫き、溢れ出ていた血が止まり傷も治り始める。
そしてマリアティアスの傷口に染み込むようにして光輝く文字が入っていき・・・ものの数秒で何も無かったかのように元通りになってしまう。
傷痕すら残らず再生してしまったマリアティアスの喉を見て何も言えなくなってしまうライフル。
そして理解してしまう・・・マリアティアスという存在は自身の想像の範囲外の人外であると。
『まぁ・・・傷は癒えますが痛みは残るのであまりやりたくはないのですがね』
そう言いながら笑顔でライフルに鎖を解くように促し、ライフルはマリアティアス、クチルギの前に展開していた鎖を元に戻す。
元に戻った右腕を使い・・・ダイヤの頭を撫でる。
『っん』
『ダイヤ様・・・今は耐えてください。私がお守りします』
『まだ暴動は続いているようですね・・・とりあえずライフルはダイヤを守っていてくださいね』
『お前は・・・』
『少し用事がありますので・・・』
マリアティアスはライフル、そしてダイヤにお辞儀をしたあと結界魔法をこの一室に施す。
この部屋をからクチルギを引き連れてマリアティアスが出ていった後・・・ライフルはダイヤに膝をつき忠誠を誓う。
首狩りの森内部・・・
人が近づこうとしない森の中にこだまする金属音・・・その正体は二人の少女達が奏でる狂想曲の序章であるかのように次第に激しさを増してくる。
『なかなか決着がつかないねぇ』
『そうだねアイカ』
『早くお母さんに会いたいなぁ・・・』
『アイカは甘えん坊さんだなぁ』
『お姉ちゃんもじゃないの?』
楽しく談笑する二人の少女・・・エリカとアイカは感情が高ぶっているのか背中に生えている純白の翼がパタパタと動く。
そんな二人とは裏腹に戦いを続けている二人の少女。
魔導六刀が一振り『蠢く虐刀』ともう一振り・・・
王家に反旗を翻し、永久なる平穏を望む者。
自身の平穏の為であればだけであろうと殺してきた。王族であろうと女、子供であろうと・・・そして疫病の狂天使であろうと。
望むべくもなく手に入れてしまった力に翻弄され、ただひたすらに普通の暮らしがしたかった少女の名は『名もなき偽刀』。
魔導六刀の一振りである。
『きゃははは!もっと楽しもうよ』
そう言いながらヘルはガルに向かって異形の右腕を振りかざす。
その攻撃を余裕でかわす事に成功するガル。
そして好きだらけなヘルに対して は腕から生えている刀・・・鎌のような形状をしている刀で斬りつける。
腹部を深々と斬られたヘルだが・・・痛みを感じていないのかそのままガルを蹴り飛ばす。
『また斬られた・・・うーん。もしかしてガルって強いの?』
ヘルは腹部に左手を当てて・・・血のついた左手を舐める。
『・・・痛みを感じていない?貴様はいったい?』
『ヘルはさっき言った通り・・・人間によって造り出された刀。貴女もそうなのでしょう?』
ヘルは不思議そうに小首を傾げながら手に持っている小瓶に入っている液体を飲み込む。
するとヘルの傷は瞬く間に癒える。
『・・・確かに私も刀だ。お前と同じでな』
『そうだよねぇ。だからそんな力を手に入れたんでしょ?』
『望んだ覚えなど毛頭無いがな』
『ヘルも望んでないよ・・・だけど今はこの力で復讐するんだぁ』
ヘルは楽しそうに異形の右腕を開いたり閉じたりしている。
それに対してガルも自身の身体から出ている刀に目をやる。
(この力・・・こんな力さえなければ私は平穏に暮らしていけた筈なのに)
そしてその刀で近くに生えている木を斬る。
ガルよりも大きな太い木なのだが、まるで小枝を斬るように何の抵抗も無い。
そんな光景を見ていたエリカが純黒の炎をガルに向けて放つ。
しかし・・・その純黒の炎もまた先ほどの木のように斬り、そして純黒の炎が煙のように霧散する。
『アイカの炎同じ・・・魔法を絶つ事ができる力』
『やっぱりお姉ちゃんじゃ勝てないの?』
『相性的に無理かなぁ・・・まぁ重要なのは勝ち負けじゃないからね』
エリカとアイカが談笑しているのを他所に考察をしているのか、エリカとアイカを警戒している。
(あの二人の少女・・・エリカとアイカと言っていたようですが何者なのです?明らかに人間じゃない、亜人というよりもどこか疫病・・・)
ガルが考察していると回復したヘルが再び攻撃をするために特攻を仕掛ける。
痛み感じないヘルの突撃は一瞬の迷いも、躊躇もなく攻撃してくる。
『学習する気がないのですか?』
ヘルの攻撃をいなし、喉元に刀を突き刺そうとした瞬間・・・ガルに激痛が遅いかかる。
まるで深々と斬りつけられた傷口に、酸性の液体をかけられたかの如く激痛に襲われたガルは堪らず転げ回り、無様にも木に激突してしまう。
『な、なに・・・が・・・』
全身から流れ出る汗を気に止める暇もなく、ガルは激痛がした右足を恐る恐る見る。
すると其処には、ほんのかすり傷程度の傷があり血が流れている。
激痛とは程遠い傷痕を恐る恐る触るガル・・・しかし激痛など起こるはずもなかった。
『何が・・・』
激痛から解放されたガルが不思議そうに、そして困惑した様子でヘルを見つめる。
それに対してヘルは楽しそうに『ケラケラ』と笑っており、攻撃を仕掛けてくる様子ではない。
『これがヘルの力だよ!ガルの魔法を断ち斬る力と同じようにね』
『その異形の右腕がか・・・』
『そうだよ。正確にはこの刀だけどね』
そう言いながらヘルはガルに向かってその異形の右腕を突き出し・・・ガルに向かって遅いかかる。
決して速い攻撃ではない、避けられるような攻撃なのだが・・・激痛に対しての恐怖だからなのか思うように動く事が出来ず攻撃を喰らってしまう。
今度はかすり傷程度ではなく、太股を斬られたしまったガル。
すると先ほどと同じようにガルに激痛が襲い掛かり、ガルは堪らず地面に倒れて込んでしまった。
先ほどとは比較にならない激痛に襲われ倒れてしまったガルに対してヘルは楽しそうに腹部を蹴りあげる。
蹴りあげられた衝撃で宙を舞い、そして再び地面に激突してしまったガル。
『どう・・・じて・・・』
思わず泣いてしまっていたガル。
無様にも地面に倒れ伏せ、身体は土まみれになってしまいその顔には大粒の涙。
力を入れようともそれ以上の力でねじ伏せられ、そして立ち上がろうとすると直ぐ様にヘルによって斬りつけられる。
深く、決して致命傷を与えないように、そしてガルの意思を折るようにして攻撃を仕掛けるヘル。
『もう・・・許して・・・』
あまりの激痛に堪らず止めてくれと懇願してしまうガル。
その姿は恥を捨て、すがるようにヘルの脚に力なくしがみつく。
『許す?ヘルは別にガルの事が嫌いじゃないよ』
『だったら・・・』
『好きだからこそだよ!』
力なくしがみつくガルに対してヘルが今度は容赦無く踏みつける・・・筈であった。
『駄目ですよヘル。好きだからと言って自分の意見を押し付けては』
ガルを踏みつけようとしたヘルなのだが・・・奇妙な感触の物によって阻まれてしまう。
そしていつの間にかヘルの後ろに立っているマリアティアス。
どう考えてもマリアティアスの魔法だと理解したヘルは不満そうにマリアティアスを睨む。
『始めまして・・・私の名前はマリアティアス・V・ヘリエテレス。貴女が名もなき偽刀なのですね』
突如として現れたマリアティアスに一瞬どうすればよいのか戸惑うが・・・後ろでヘルがマリアティアスの邪魔にならないようにしているのを見て理解し、『こくこく』っと頷き答える。
『そうなのですか・・・ではまず』
マリアティアスは懐から乳白色の液体の入った小瓶を取りだしガルに飲ませる。
今のガルには飲まないという選択肢は無く・・・否応なしに乳白色の液体を飲み込むと直ぐに効果が現れる。
身体から力が沸き上がり、そしてヘルによって傷つけられた部分がみるみる内に再生して元通りになる。
そしてそれだけでは無く・・・
『何て美味しさなの・・・です』
今まで飲んだことの無いのど越し、そしてなんといっても味に驚愕してしまうガル。
『いや・・・驚くのはそっちじゃ無いんだけどなぁ』
予想とは違う反応に思わず言葉にしてしまったマリアティアス。
マリアティアスの言っていた通りに、驚くのは味やのど越しではなく・・・乳白色の液体を飲むことによって傷が癒えただけではなく、疲労は無くなり、活力が沸き上がり、そして肌の色艶も良くなっているということだ。
この乳白色の液体はマリアティアスが特殊配合した治療液であり、作れるのは世界にただ一人マリアティアスいない。
そんな液体を最後の一滴まで飲むんでいるガルを見て少しマリアティアスは考え込む。
『これ・・・食べます?』
そう言ってマリアティアスが取り出したのは箱詰められた色取り取りチョコレート菓子であり、焼きチョコや生チョコなど種類も豊富で、何よりも綺麗な色をしている。
通常色だけでは無く、白に黒、ピンク色や抹茶色など宝石を思わせるようなきらびやかな色合いをしている。
そんなチョコレートを見て思わず喉を鳴らすガル。
『どうぞ?』
マリアティアスが手に取り差し出すと・・・恐る恐る触れ、そして一通り見てそして匂いを嗅ぎ一口で食べる。
マリアティアスから差し出されたチョコレートを食べた瞬間・・・ガルの表情が一瞬にて緩みきった至福の表情へと変化する。
なんとも気が抜けた・・・先ほど戦闘をしていたとは思えないほどの表情になってしまったガル。
『・・・全部食べても良いのですよ?』
そう言いながら箱ごとチョコレートと差し出すマリアティアス。
そしてその箱を何の躊躇も、何の抵抗もなく受け取るガル。
一通り匂いや観賞した後に全て残さず全部チョコレートを食べ満足した表情のガルなのだが・・・自分に注がれる三つの視線によって我に返る。
『お、おのれ・・・こ、姑息な手を』
我に返ったガルが戦闘体制に入ろうした瞬間・・・すかさずマリアティアスは懐から三本の小瓶を取り出す。
するとガルの視線が一気にマリアティアスから小瓶へと移動する。
『そ、それは・・・な・・・なに・・・』
マリアティアスは手に持っている小瓶をガルに見えるようにして上下左右に移動させる。
するとガルの視線もまた上下左右・・・小瓶を追うようにして移動していく。
明らかに興味津々であり、ガルの表情、そして先ほどの行動から考えるにどう考えてもこの小瓶の中身が気になるようだ。
『差し上げます』
マリアティアスは手に持っている小瓶の内の一つをガルに向かって投げ、ガルはその小瓶をキャッチすると同時に蓋を開け一気に飲み干す。
小瓶に入っていた液体は金色に輝く透明な液体・・・因みにこの液体は別に治療液等ではなく、ただのジュース。
・・・と言っても世間一般に出回るような品物ではなく、このジュースの製造方法もマリアティアスしか知らない。
少し酸味の効いた味にジュースにした果実本来の甘さ、そして濃縮し抽出した特殊液を少量混ぜ混んだマリアティアスオリジナルのジュースはのど越し爽やか、嫌味な後味などは一切無い。
そんなジュースを一気に飲み干したガルの表情もまた、先ほどのチョコレートを食べた時と同じような表情になってしまっていた。
『残りも欲しいですか?』
マリアティアスの問いかけに対して無言だが、力強く何度も頷くガル。
その表情は期待と幸福。
未知の今まで味わったことの無い物を食べられる事に対しての喜びや、好奇心しか無く、マリアティアスやヘル、エリカとアイカに向けていた敵対心などは一切、微塵も感じられない。
『では名もなき偽刀・・・私と共に来ませんか?』
マリアティアスにこちら側に来ないのかと言われ躊躇してしまっているガル。
数秒間迷っていると・・・
『では・・・これは要りませんね』
そう言い終えと直ぐ様マリアティアスは手に持っている小瓶に力を加え・・・小瓶に皹が入る。
『にぁあっ!?』
小瓶に皹が入ってしまったことによって思わず声をあげて驚いてしまうガル。
『ま、まっ・・・待って・・・ください』
『別に来なくてもよいのですよ?ですが・・・』
そう言いながらマリアティアスは何処から取り出したのか、多種多様なきらびやかな色をしたキャンディを取り出す。
『今はお菓子しか持っていませんが・・・私はこう見えて料理は得意なのですよねぇ』
『確かにお母さんの料理は美味しいよね』
『そうだね。そこら辺の料理を提供しているお店よりも美味しいよ』
『確かに・・・ヘルも今まで味わったことの無い食べ物や飲み物を色々食べたなぁ』
『お母さん今日のご飯は何を作ってくれるの?』
『そうですねぇ・・・今日はお魚やお野菜を揚げた天ぷらという料理を作ろうと思っています』
ガルを他所に楽しく今日食べる料理について話始めるマリアティアス達。
正直ガルは王国を裏切りこの森に住むようになってからはあまり良いものを食べていない。
野生の猪や、鹿の肉・・・時には鳥や蛇と言った肉類に森で取れる野草、たまに食べれる木の実等しか食べていなかった。
王国にいた頃は少しはまともな料理を食べていた気がするが・・・それでもマリアティアスから貰ったチョコレートとのような嗜好品等は一度も食べた事がない。
そして森で生活しているガルはもちろん調味料という物は知ら無く、チョコレートの製造方法やキャンディの製造方法は知らない・・・つまり今この場からマリアティアスが去ってしまうとガルは二度とあの美味しい物を食べる事が出来ないということになる。
『あ、あぁぁ・・・』
『自分に素直になって良いのですよ。自分に正直に・・・思うままに・・・』
『で・・・も・・・』
『今まで貴女はその力のせいで不自由な生活をしていました・・・しかし、今日、今この瞬間をもって自由に行動して良いのです。何のしがらみも、何も躊躇わずに・・・』
『じ、自由に・・・』
『そう自由に・・・まず始めるに好きな物を食べましょう!食べ物を食べる時は至高の一時なのですから』
マリアティアスのその一言によってガルの心の中で何かが崩壊し・・・マリアティアスに付くことを決意する。
『これで四本・・・残りは二本ですね』
回りに聞こえないように呟くマリアティアス。
『お母さんこれで・・・』
『そうですね・・・後残りはあの子と地下にあると言われているアレですね』
そう言いながらマリアティアスは王国首都、エル・べリアスの方を見つめる。




