攻防戦2
帝国南部都市キルギオーネに疫病の狂天使が現れてから既に2時間以上が経過しているが、時間が経つにつれて攻防が激化していっている。
そんな中で帝国軍専属治療薬剤師である、スイズ・ハイルハニー・バイグスは数分ごとに増えてくる患者の治療を行っている。
『ふぅ・・・少し休憩』
そう言って額から流れる汗を拭き取るスイズ。
すると休憩しているスイズに同僚の治療薬剤師が差し入れとして水を差し出す。
『ありがとうございます』
『気にするな。俺たちが倒れたら救える人達も救えなくなってしまうからな・・・』
そう言っている同僚からは悲痛な雰囲気が感じられる。
気になるが・・・それは聞いてないけないことであり、スイズも理解しているので言わなかったが。
『それにしても・・・これ程の貴重な治療液を配って下さるなんてストレーツ公は凄いですね』
そう言って手に持っている小瓶に入った赤い治療液を揺らす。
この治療液は負傷者に飲ませると、たちどころに傷が癒える治療液であり、製造にはかなりの手間、そしてお金がかかるはずだ。
内臓の再生は出来ないが、噂では骨まで達した傷でも直す事が出来る治療液も存在するらしい・・・真偽は不明であり、本物を見たことがないので分からないが。
『ストレーツ公のご厚意だからな・・・公爵が言うには南部にいる公爵派閥の貴族と連絡が取れないらしい。しかし・・・よく本当にこれ程の治療液を集める事が出来たと思うよ』
そう言っている同僚からは少し・・・ストレーツ公に対して感謝よりも憎しみが宿っているようであった。
『・・・何故あの時もこれ程の治療液を準備してくれなかった』
憎しみと言っても過言ではない憎悪の炎瞳に宿す同僚。
そしてスイズは思い出す・・・この同僚が数年前に疫病の狂天使に襲われた都市へと赴いた部隊であるということを。
話では聞いている。都市を襲った疫病の狂天使に傷つけられてしまった警備兵や、騎士団、民間人の治療に必要な治療液が不足し、数十名が死んでしまったと言う話。
『い、今は治療に専念しましょうよ』
そう言って必死に話題を変えようとしたその時・・・突如として建物が揺れる。
今、スイズ達が治療に使っている建物は堅牢な壁に守られた、この都市でも1、2を争う立派な建物であり、ちょっとやそっとの衝撃では揺れない構造の建物なのだが・・・それが揺れるというとならかなりの衝撃であったのであろう。
『な、何事だ?』
そう言って取り付けてある窓から身を出して覗いて見ると・・・そこにはなにやら奇妙な生物が蠢いていた。
人・・・ではない奇妙な生物。
人間のような手足も見られるが人間とは異なり腕が六本に足が同じく六本・・・奇妙な事に六本ある脚だが自力で立つ事が出来ないのか立ち上がろうとしては足を滑らせ、転んでしまっている。
そして妊婦のように膨らんでしまっている・・・
ローブを着ており顔は分からないが・・・人間で無いことは間違いないが、疫病の狂天使だとしても何故か壁を叩くだけで人を襲おうとはしていない様子だ。
『あれは何なのでしょうか?』
スイズが疑問に思っているとその奇妙な生物に近づく騎士団の面々。
全員刀を取りだし攻撃しようとするが・・・一人の騎士団がある事に気がつく。
指を差している方向・・・何かがあるようなのだがローブに隠れていてスイズ達からは見えない位置にあるようだ。
『どうしたんだ?』
『わかりません・・・何かあったようなのですが』
そう言っていると上空を警戒していた風の属性魔導師が奇妙な生物に対して風の属性魔法・風弾を放つ。
風の属性魔導師が放った風弾は見事に奇妙な生物に直撃し・・・その着ているローブが魔法で斬られたのか、風で飛んで行く。
『・・・え!?うそ・・・』
『・・・騎士団の連中なのか?』
ローブが取れた奇妙な生物・・・その姿は疫病の狂天使を倒す為に都市へと赴いた騎士団であり、その姿は異形になってしまっていた。
その異形は顔が三つ存在し一つは普通の人間と同じように、そもう一つは顔の右横に、そしてもう一つは胸の部分に着いている。
全員女性の顔であり、ぼろぼろの服を着ている。
言葉を発する事が出来ないのか口をパクパクしている右横の顔に、完全に白目を向いてしまっている胸の顔。
何故こんな姿になってしまったのか?何故かこんな状態なのに生きているのか?
そんな疑問が頭に過るがそれよりも早く物事は進んで行く。
『ア・・・タ・・・タシュ・・ケテクレ』
『しゃべった・・・』
酷く静かになった周りから騎士団が言った一言が響き渡る。
そしてもう一度どそれは起こる・・・『助けてくれ』っと奇妙な生物は発言し近づいて行く。
自由に動かせない六本の足を動かしながら・・・
『・・・殺すぞ』
ポツリっと一人の騎士団が言い放つ。
その瞳は濁っており、虚ろな様子だが・・・
『あいつ等を殺すぞ!もう助からねぇんだ!』
『で、でも・・・』
『あんな姿になっているのにどうしろって言うんだよ!あいつを・・・ギェルを俺はもう見てられねぇんだよ!』
血を吐くような騎士団の叫び。
どうやらこの騎士団と奇妙な生物になってしまった騎士団とは知り合いなようだ。
その血を吐くような叫びを聞き、刀を持つ手に力を込める騎士団の面々。
覚悟は決まったようだ。
『行くぞぉ!』
一斉に奇妙な生物・・・もとい騎士団に斬りかかる。
ぎこちない動きで近づいて来ていた奇妙な生物は騎士団の動きについてこれないのか、斬られてしまう。
すると・・・
『ぎぁぁぁあぁぁ!イ、イタ・・・イ』
悲鳴を上げて斬られたところを抑える奇妙な生物。
このような状態になっているのにも関わらずに痛覚がちゃんと存在し、なおかつこの生物は見ているらしい・・・その証拠に斬り伏せた騎士団を睨むように見つめている。
『ドウシテ・・・私タチハ・・仲間ジャ、ナイノカ?』
その言葉を聞き騎士団、窓から見ていたスイズ達が凍り付く。
何故なら・・・もしその言葉が事実なのであれば今、騎士団の面々が戦っている奇妙な生物は自分が、自分達がどのような状況になっているのか理解してないようだ。
『・・・一体何がお前達をそうさせたんだ』
そう呟いた騎士団の目には涙が流れていた。
当然である。
つい先日まで一緒に話していた人がこんな・・・異形の姿になってしまったのだから。
『今・・・解放してやるからな』
そう言って奇妙な生物となってしまった騎士団を斬り伏せ・・・奇妙な生物が動かなくなってしまう。
『ちくしょう・・・ちくしょう!』
『すまない・・・』
懺悔の言葉を口にする騎士団の面々。
戦いが終わったようで、スイズ達も治療に戻ろうとしたその時・・・一人の騎士団が叫ぶ。
何事かと叫んだ方向を見ると・・・奇妙な生物の腹が蠢き・・・卵の殻を雛が割るようにして産まれ出てくる。
赤ん坊の鳴き声・・・とは言えない魂が震えそうな産声と共に小さな・・・赤ん坊の疫病の狂天使が誕生する。
世界を怨む産声に、そして同僚の腹を裂いて出てきた赤ん坊の疫病の狂天使。騎士団の面々を震え上がらせるには充分な演出であった。
『・・・悪夢』
『そんな・・・うっ・・・』
そんな悪夢のような光景を見てしまったスイズ達もまた気分が悪くなり、スイズは踞ってしまう。
『殺す・・・』
そう言って先ほど先陣を切って戦った騎士団が赤ん坊の疫病の狂天使に向かい・・・斬り倒す。
赤ん坊の疫病の狂天使は意図も容易く斬られ・・・そして絶命してしまう。
最後に世界を怨むように叫びながら・・・
『・・・くそがぁぁぁ』
赤ん坊の疫病の狂天使を斬り倒した騎士団が吼える。
その手には血に染まってしまった刀を握りながら・・・
赤ん坊の疫病の狂天使は何も強くはなかった。むしろ赤子のように弱かったのだ。
だが・・・だからといって何事もなかったわけではない。
戦意喪失という意味ではその戦いを目撃していた数十名が最早戦う事が出来なくなってしまった。
キルギオーネ城壁上にて・・・
城壁の上には魔導砲撃部隊と弓兵部隊が連携して疫病の狂天使の討伐に出ており、護衛として歩兵部隊も数名存在している。
そんな中で、無数の魔導弾や矢を喰らっているのにも関わらずに未だに動き続けている疫病の狂天使がいる。
頭部に鳥の・・・天使のような巨大な翼を持っており、大きさにして2m程度はありそうだ。
そして下半身は大きな蛇のようになっており、脚は見当たらない。
『また来るぞ!』
そう言って歩兵部隊が槍を突き出して突進してくる疫病の狂天使を止めようとするが・・・疫病の狂天使を止める事は出来ずに薙ぎ払われてしまう。
そして一人の歩兵部隊を拾い上げる。
拾い上げられてしまった歩兵部隊は頭を強く打ったのか気絶しており、抵抗出来ていない。
そんな抵抗出来ていない相手を・・・疫病の狂天使は喰らってゆく。
通常ではありえない・・・異常な大口を開けて歩兵部隊を丸呑みにしていき全てたいらげてしまう。
『くそ!?なんだよ彼奴は!?』
そう言って疫病の狂天使に向かって魔導弾を放ち直撃する。
しかし先ほどと同様に倒れる気配はない。追撃の矢が放たれ直撃するがそれでも絶命する気配はない。
圧倒的な・・・驚異的な体力の持ち主だ。
『ぎぃぃぃぃがぁぁぁぁあ!』
疫病の狂天使が吼える。
疫病狂天使特有の魂を凍らせるような叫びだ。
『また来るぞ!』
そう言って疫病の狂天使に対して魔導弾による弾幕を展開するが・・・その驚異的な体力によって少しではあるがゆっくりと近づいて来ている。
『増援来ます!砲撃を止めてこの場から撤退してください』
そう言って空から伝令が伝えられ・・・数秒後に疫病の狂天使に爆炎が襲いかかる。
放たれた火の属性魔法は余程高温であったようで、離れた場所に避難した部隊に暖かい、いや暑い風が吹き付けてくる。
これ程高威力の火の属性魔法を放てる人物はこの場に一人しかいない・・・その人物の名前はフレイ・ルーコイグ・ホルトロスキー。
キルギオーネに派遣された帝国魔導団・火の属性魔導団団長だ。
『助かったのか・・・』
魔導砲撃部隊の一人がそう呟いたその時・・・彼らは炎の中で蠢く者を見つける。
『私の魔法でも生きているのか・・・』
フレイは自分の放った魔法を喰らってもなおも活動を続けている疫病の狂天使を見て驚愕する。
確かにこの都市に入って数体の疫病の狂天使と戦い倒しているフレイではあるが、あれほど魔導弾や矢を喰らっていて見るからに重症なのにも関わらずにだ。
『お前達何か気がついたことはないか?』
『いえ・・・特には・・・フレイさんは何か気になることが?』
そう言ってフレイに問いかける弓兵。
問われたフレイはとある仮説をこの場にいる面々手短に話す。
あれほどの数の攻撃を喰らっているのにも関わらずに未だに衰えず動けているということは、何か秘密があるかもしれないということだ。
ただの勘違いかもしれないが・・・
『それにしても何故あの疫病の狂天使は襲いかかって来ないだ?』
『わかりません・・・ただ、あの疫病の狂天使は気まぐれなのか攻撃してくる時としてこない時があるんですよね』
『そうなのか?』
『いえ・・・正確には捕食した後の数分程度ですが』
『捕食・・・』
『もう少しで本格的に動くかもしれません・・・フレイさん再び魔法を使いますか?』
『いや・・・待て・・・私に考えてがある。この場の全員に伝えろ!こいつは私が殺る手を出すな!』
そう言って近づいて行くフレイ。
その姿は無防備で・・・疫病の狂天使に襲ってくださいと言わんばかりの無防備だ。
『きぃぃぃぎゃぁぁぁぁ!』
疫病の狂天使が咆哮と共に炎の中から出現する。
フレイの魔法の炎によって焼かれてしまい、所々の皮膚が焼け爛れるているのにも関わらずに疫病の狂天使はフレイを見つけると一目散に突進して行き・・・フレイを掴むとそのまま丸呑みにしてしまう。
『フレイさんが・・・』
『おい!本当に何もしなくて良かっのか?』
フレイが丸呑みにされてしまい動揺の色が隠しきれない弓兵達。
それもそのはずである。
自分に討伐を任せてくれと言った人物が目の前で丸呑みにされてしまったのであれば動揺してしまうのも仕方のないことだ。
『動くぞ!武器を構えろ!』
一人の魔導砲撃兵がこちらに近づいて来ている疫病の狂天使に気がつき、一斉に武器を構え・・・攻撃をしようとしたその時・・・疫病の狂天使に異変が起きる。
動きを止めたと同時に腹を抱えて暴れまわっているのだ。
その姿は異常であり、明らかにおかしい。
『一体何が・・・』
そう言って疫病の狂天使を見ていると・・・疫病の狂天使から焼け焦げた臭いがしてくる。
この場の誰も疫病の狂天使には火の攻撃をしていない。
なのにも関わらずに疫病の狂天使から焼け焦げた臭いがしてくるということはどういうことか?
その答えは数秒後に明らかになる。
『ぎぃぃぃぃあぁぁぁぁ・・・』
苦しそうな叫びと共に疫病の狂天使から噴水のように血が吹き出し、疫病の狂天使の腹がぶち破られる。
夥しいほどの血液が溢れだし、その中から捕食されてしまった騎士団や魔導団の面々の溶けた肉塊が出てくる。
そしてその中から生きた人間・・・フレイが出てくる。
『うヴぇぇぇぇ・・・く、臭えぇ』
そう言って咳き込みながら出てきたフレイは着こんでいたローブが全て溶けてしまったのかもう既に無く、衣服も所々溶けており肌を露出している。
『フレイさん!』
『すげぇ・・・まさかあの疫病の狂天使を内部から殺るなんて』
様々にフレイを称賛し、フレイに肩を貸して起き上がらせる。
近寄った弓兵と共に一緒に戻ろうとしたその時・・・疫病の狂天使がぬるりっと動き出す。
最早内臓機能などは既に失われてしまっているのにも関わらずに動き出したのだ。
人間・・・いや他の疫病の狂天使だとしても既に死んでいるはずなのに・・・
『フレイさん逃げ・・・』
フレイと一緒に戻ろうとしていた弓兵がフレイを突き飛ばし・・・そして疫病の狂天使に吹き飛ばされてしまう。
『が・・・ぐぅぅがぁぁ』
苦しそうに、必死にフレイを倒そうと這いずりながら近づいて来ている。
『全員撃ち殺せ!』
魔導砲撃兵の叫びで一斉に砲撃を開始し、フレイもまた火の属性魔法・火炎弾を放ち直撃する。
多数の魔導弾と矢、そしてフレイの魔法が直撃した疫病の狂天使は遂に絶命してしまう。
『・・・もう動かねぇよな?』
遂に動かなくなってしまった疫病の狂天使。
絶命した疫病の狂天使の周りのには悲惨な光景が広がっていた・・・
キルギオーネ最終防衛ライン
キルギオーネに赴いた シエン・ユネルメンス・フェール・ゼナーガ王弟を筆頭に即座にキルギオーネに存在する最も堅牢で、大きな屋敷を抑える事に成功した討伐部隊はこの屋敷から各方面に部隊を展開させて疫病の狂天使の討伐に向かっている。
幸運な事にこの屋敷はキルギオーネを治めている貴族の屋敷であり、その屋敷を借りて陣頭指揮に当たっているのだ。
そして今屋敷内に情報収集に赴いている野人がまた一人帰ってくる。
シエンの許可を得て室内へと入る。
『失礼します』
シエンの前で膝をつき現状の説明をしていると・・・再び扉が開け放たれ二名の野人が入ってくる。
一人はキルギオーネにある城壁にて情報収集を命じられた野人で、もう一人は治療薬剤師達が常駐する治療施設で待機していた野人だ。
『報告します。城壁上にて出現した疫病の狂天使をフレイ・ルーコイグ・ホルトロスキー様達が撃破されました』
『同じく報告します。簡易治療施設付近にて疫病の狂天使が出現し討伐に成功しました』
二人の野人から疫病の狂天使討伐の報告を受けるシエン。
しかし・・・治療施設から来た野人が出現した疫病の狂天使の情報を書いた紙を差し出し、それを読んだシエンの表情が曇る。
『それで王弟陛下・・・数名の治療薬剤師と歩兵部隊等の数名が戦意喪失してしまい戦う事が出来ない状態になってしまいました』
その報告聞き、頭を抱えてしまうシエン。
確かにこの報告書の書かれている事が本当であれば戦意喪失しても仕方ない。
『了解した。彼らを前線からから外しておこう。それとこの事実は拡散しないように・・・内密に処理してくれたまえ』
『了解いたしました』
シエンに報告を済ませて次の指示を聞いていると・・・再び扉が開かれ、汗だくになってしまった野人が入ってくる。
『報告します!王弟陛下・・・騎馬部隊団長、サマー・アラッシス・アルスタイル様が死亡してしまいました』
入って来た野人の報告を聞き、まだ不幸は続くと頭を抱えてしまうシエン。
しかし頭を抱えたところで死んだ人間が戻ってくる事はないことを理解しているシエンは、直ぐ様にサマーが抜けてしまった穴をどうするか考えようとすると・・・野人が再び口を開く。
『それで・・・サマー様を殺した者なのですが、どうやら周囲にいた歩兵部隊の話を聞く限りではどうも妙でして・・・』
『・・・疫病の狂天使ではないのか?』
その問いかけに対して野人がシエンに説明する。
何故、誰にサマーが倒されてしまったのかを・・・
『なるほど・・・その話が本当であれば私が赴くしかあるまい』
『なっ!?王弟陛下自らが戦場にお出になられるなど・・・はっ!?まさか・・・』
シエンが自ら出現すると言って最初は驚いた野人達であったが、つい先日野人部隊の団長から言われた事を思い出す。
今回のキルギオーネに王弟であるシエンが行くのには理由があり、その理由は明かす事は出来ないが。
そして今回どうやらそのシエンが自ら出撃する条件に当てはまっているということだ。
『分かりました・・・しかし護衛はどうしますか?』
そう言われ笑みを浮かべるシエン。
何故なら丁度良いタイミングであったからだ。
『護衛には我が国最強の騎士である。ジュラ・レイジスト・ウルエイオ騎士団団長を連れて行く。丁度良いタイミングで騎士団団長殿が休憩しているのでな』
その言葉を聞き、安堵のため息をしてしまう野人達。
『君たちも休憩し終えたら再び情報収集へと行ってくれ、私の変わりは参謀長が独断で決めてかまわない』
そう言い終えると隣で話を聞いていた参謀長がシエンに敬礼し、『王弟陛下の期待に必ず答えます』っと告げる。
野人達もその場で解散して、シエンも自ら出撃する為に準備する。
ほどなくして準備を終えたジュラが入ってくる。
『王弟陛下失礼します』
『かまわない。それよりも他の疫病の狂天使を頼むぞ』
『任せてください。王弟陛下には指一本触れさせませんよ』
『頼もしいな・・・だがこの事件の真相は未だにわかっていない。何がどうなるのかまだ誰にもわからないのだよ・・・なんとも不気味な話だよ』
『・・・この事件の裏で暗躍している者がいると?』
『確定してはいないがね。そもそも疫病の狂天使がこれ程出現するなど異例中の異例だからな・・・さて私の準備は完了だ。出撃するぞ』
『了解です』
そう言って屋敷を後にするシエンとジュラ。
キルギオーネにある廃墟にて・・・
この場所はかつてはキルギオーネにおける南側を警備している警備兵達の駐屯施設であり、今そこは疫病の狂天使によって破壊されてしまい廃墟同然となってしまっている。
そして今そこには二つの影が存在している。
一人は聖職者の衣装に身を包んだ女性とローブを着こんだ小さな人物だ。
女性の名前はマリアティアス・V・ヘリエテレス・・・そしてマリアティアスと楽しそうに話しているのは右腕が異形の人物。
声は若くまだ子供なのだろうが・・・この疫病の狂天使が暴れ回っているキルギオーネにおいては異常だ。
『少しは怨みは晴らす事が出来ましたか?』
マリアティアスに言われてローブの子供はとても上機嫌に、楽しそうに答える。
『少しは・・・ね。だけどまだだよ・・・まだ・・・まだ、まだ、まだ、まだ、まだ!ヘルの怨みは消えてない!ヘルが受けた痛み・・・苦しみ、そしてヘル自信の・・・悲しみが消えていないんだよ!』
そう言って苦しそうに叫び・・・地面に転がっている騎士団を斬り刻む。
声にならない悲鳴を上げて斬り刻まれてしまった騎士団は絶命してしまう。
しかしローブの子供・・・ヘルは斬り刻む事を止めずに・・・騎士団の原型がなくなるまで斬り刻み、ようやく落ち着きを取り戻す。
『はぁ・・・はぁ・・・ねぇ。マリアティアスさま』
ヘルはそのローブを脱ぎ顔を露にする。
まだ幼く年齢としては13・・・14歳程度の年齢らしき少女だ。
黒髪のショートヘアーに、真っ赤な真紅色髪が混ざっており、緑色の瞳をしている。
ヘルはおっとりと・・・マリアティアスに抱きつく。
その姿はまるで母にすがる子供のように・・・
『ヘルはもっと敵を斬り刻みたいの・・・』
『いいですよ。貴女が受けた数々の苦しみ・・・幾千もの犠牲の上に成り立つこの世界を変えて行きましょう』
『マリアティアスさま・・・』
マリアティアスはゆっくりと子供をあやすようにヘルを撫でる。
そして語りかける・・・『まずは手始めに帝国を滅ぼしましょう』っと。




