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攻防戦3

  キルギオーネに討伐部隊が到着し、戦闘を開始してから既に数時間が経過しているが・・・未だに戦闘は続いており疫病の狂天使と討伐部隊は更に過激になってしまっている。

  両陣営共に重度の被害が出てしまっており、最早この都市内でまともに原型を留めている場所は最終防衛ラインだけとなってしまっている。

  この荒れ果てた都市を見て驚愕し、怒りを露にしているジュラ、その横を駆けるシエンに数名の護衛。

  そしてシエンを運ぶ為にシエンに魔法を発動させている風の属性魔導師。

  低空飛行機で飛んではいるが、瓦礫が邪魔であり思うように進めてはいないが・・・

 

『これがキルギオーネ・・・南の都市もこのような惨状なのでしょうか』


  かつて栄えていた都市は廃墟同然のような光景が広がり、周りには共に戦った者達の亡骸が転がっている。

  地獄・・・その言葉が相応しいと言わんばかりになってしまっている。

  そして疫病の狂天使が、南側の都市で最も中央部に近い都市のキルギオーネを襲撃しているということはキルギオーネより南の都市も同じような惨状が広がっていると言っていいだろう。

  いや・・・もしかすればキルギオーネより酷い状況かもしれない。


『我々が此処で疫病の狂天使を倒さなければ帝国中央部もこのような惨状になってしまう。なんとしても此処で食い止めるなければならない!』


  シエンの覇気のある声が周りのいる騎士団達を鼓舞する。

  あと少し・・・騎馬部隊団長、サマー・アラッシス・アルスタイルが殺されたとされている場所まであと少しと迫るなかで、シエン達の目の前に何かが降ってくる。

  かなり大きな物が降って来たらしく着地の破片がシエン達に迫ってきて・・・


『土壁(アースウォール)!』


  土の属性魔導師が発生させた土の壁により瓦礫を防ぐ事に成功する。

  飛んでいた面々も、風の属性魔導師が被害の出ないように止めたのでシエン達は全員無事だ。


『何事だ!』


  驚いているシエンだが、既に騎士団達はシエンに言われる前に既に行動し、シエンを守るように各々の武器を構える。

  全員が武器を構え戦闘態勢に入った瞬間・・・地響きのような音が鳴り響き・・・


『来るぞ!』


  土の壁を破壊して疫病の狂天使が出現する。

  体格は大きく3m以上あり、そしてその身は鋼色に輝いている鎧に身を包んだ疫病の狂天使だ。

 

『ぎぃぃぃぃヴァァァァ!』


  フルプレートのマスクの下から世界を怨むような咆哮を上げながら突進してくる疫病の狂天使。

  その両腕は巨大な大剣に変化しており、地面に付きそうなほど長くなっている。


『うぉぉぉぉ!りゃぁ!』


  シエン達に向かって降り下ろされた大剣の一撃を同じくその手に持っている大剣で受け止めるジュラ。

  余程体重が乗った攻撃であったのかジュラから必死な息づかいが伝わってくる。

 

『援護します!』


  土の属性魔導師が魔法『大地の拘束(アース・バインド)』を発動させ、風の属性魔導師が鎧を貫く為に『風の矢(ウインド・アロー)』を発動させて援護しようとするが・・・風の矢(ウインド・アロー)はその堅牢な鎧によって弾かれてしまう。

  そして大地の拘束(アース・バインド)も効果が薄く、意図も簡単に引き剥がされてしまう。

  少し・・・ほんの少しではあるが大地の拘束(アース・バインド)によって力が緩んだ隙に脱出に成功するジュラ。

  しかしその顔色は優れず、額からは汗が滲んでいた。


『大丈夫かジュラ?』

『いえ・・・王弟陛下不味いですね。あの疫病の狂天使・・・かなりやり手ですよ』


  そう言って額の汗を拭い、大剣を構えるジュラ。


『確かに・・・まるで巨大な壁のようですね』


  大地の拘束(アース・バインド)を完全に引き剥がし、シエン達を見据える疫病の狂天使。

  巨大な大剣を構えるその姿はまさにギロチンのようであり、両腕の大剣が太陽の輝きを反射させている。


『私が相手をする。その隙・・・』


  ジュラが言い終えるよりも早く疫病の狂天使が行動を開始し斬りかかる。

  ジュラも疫病の狂天使を止める為に大剣を振るい、剣と剣が交じりあう。

  数度剣と剣がぶつかる音が響き、ジュラと疫病の狂天使の攻防が繰り返される。

  魔法を発動しようにも、加勢しようにも両者の攻防が凄まじ過ぎるので手をこまねいていると・・・息継ぎの為にジュラが大きく後方飛びシエン達の元に戻る。


『ジュラさん!』


  汗だくになりながら徹底したジュラに声をかける騎士団達。

  どうすることも出来ない状況だが、ジュラの盾になることは出来ると思ったのか意を決して疫病の狂天使に攻撃をする騎士団だが・・・その大剣を受け止めることは出来ずに斬られてしまう。


『なんという強さ・・・ならば!』


  そう言って土の属性魔導師は魔力を高め・・・


『大地の牢獄(アース・プリズディア)!』


  巨大な壁の牢獄を作りあげる。

  四方上下を囲む高さ5m、厚さ50cm程度の壁を作りあげる土の属性魔導師。


『今のうちに回復を!』

『わかった・・・だがあの程度ではあの疫病の狂天使を抑える事は出来ないぞ』


  そう言って治療液(ポーション)を飲み干していくジュラ。

  そしてジュラの不安通りに土の壁に皹が入り・・・砕け散る。


『さっきのは時間稼ぎ・・・私の本気を見るがいい!』


 そう言って土の属性魔導師は更に魔力を込め・・・


『大地の(アース)の大牢獄(ジオ・プリズディアス)!』


  先ほどよりも分厚い土の壁・・・最早城の城壁と言っても過言ではないほどの魔法を放つ。


『なるほど・・・さすがには帝国魔導団・土の属性魔導団のナンバー2だな』

『ふぅ・・・ですが不味いですね。あの疫病の狂天使予想以上に化け物ですよ』

『そうだな・・・王弟陛下。お話が』


  そう言って治療液(ポーション)の飲み終え、完全回復したジュラがシエンに話そうとすると、シエンは手を上げて発言を止める。

  その理由は・・・


『言わなくてもわかっている。私がいると戦いの邪魔になるのであろう』

『王弟陛下・・・』

『私達は先に行く・・・帝国騎士団団長・ジュラ・レイジスト・ウルエイオ。奴の相手は任せたぞ』


  そう言って懐に入れてある治療液(ポーション)をジュラへと投げ渡すシエン。


『餞別だ。受け取りたまえ』

『感謝します王弟陛下』

『王弟陛下私は残ります・・・あいつを王弟陛下を追わせるわけには行きません』


  そう言って魔法を維持したままの土の属性魔導師。

  何故か彼も護衛としてついて行かないのかと言うと・・・


『不味いな・・・このままでは』


  疫病の狂天使を捕らえた壁に目に見えて変化しているわけではないが・・・その内部では疫病の狂天使が壁を斬り刻み、破壊しようとしている。

  魔法というものは四教天使からその力を授かり発動させていると言われており、一定時間を過ぎるとこの世界から消滅すると言われている。

  しかしながら火の属性魔法や、水の属性魔法等に一定量の魔力を与え続けるとこの世界に留まっている事が判明しているので、今疫病の狂天使を拘束出来ているのだが・・・それでも持って数分程度しか持たないだろうと判断する。

 

 

  シエンがこの場を去ってから数分後・・・土の壁を破壊して疫病の狂天使が遂に動き出す。


『ぎぉぉぉぉがぁぁぁ!』


  咆哮を上げて辺りを確認しようとしたその時・・・閃光のような一閃が疫病の狂天使を斬り裂く。

  その堅牢な鎧を斬り裂き、人間であれば致命傷の傷を負わせる事に成功したジュラだが・・・それでも疫病の狂天使は絶命していなかった。

 

『くそ!?あの攻撃を弾いたのか?』


  疫病の狂天使とは少し離れた位置で攻撃を放ったジュラ。

  ジュラの放った攻撃とは飛ぶ斬撃・・・ジュラの大剣に組み込まれた風の魔導石による効果により発動することが出来る物だ。

  ジュラの大剣には風の魔導石の他にも多数の魔化を施されており、並大抵の剣より丈夫で、切れ味も抜群だ。

  その他にもジュラの装備する鎧にも多数の属性魔法を軽減させる魔導石を、硬度を上げる魔化や、自信の移動速度を上げる魔化を施されておりまさに一騎当千と言う言葉が似合うほどの能力を有している。

  しかし・・・そんなジュラの攻撃を喰らっても未だに生きている疫病の狂天使。

  そんな疫病の狂天使にジュラは更なる手段に出る。


『直接斬るしかないようだな・・・』


  そう言って下半身に力を入れ、一気に爆発的に疫病の狂天使に近づき・・・上段からの一刀両断。

  するはずであった・・・


  『ぐっ・・・』


  疫病の狂天使はジュラの上段からの攻撃をその両腕の大剣と・・・更にもう二つの大剣でも受け止めている。

  人間ではありえない・・・

  肩の辺りから双方に新たに出てきた大剣は最初の大剣よりは細長くなってはいるが、それでも大人が両手でなければ持てないような大きさだ。

  体格差、そして勢いがなくなってしまったジュラの剣を弾き、ジュラの首を斬ろうと大剣が迫りくる。

 

『あぶねぇ!?』


  疫病の狂天使の攻撃を間一髪かわしたジュラ。

  風圧で数本の髪の毛が斬られたらしく、舞っているがそんな事を気にしている暇はなく、攻撃をかわされた疫病の狂天使は次の攻撃に移る。


  数度剣と剣がぶつかり合い、ジュラと疫病の狂天使の攻防により辺りの景色が変化してしまっている。

  帝国最強の騎士と同等に渡り合える疫病の狂天使が凄いのか?それとも人智を越える四本の大剣を操る疫病の狂天使の攻撃と対等に渡り合えているジュラが凄いのか?どちらにしても並大抵の騎士で立ち入ることの出来ない攻防が続き・・・


『・・・ここだ!』


  ジュラの一閃が疫病の狂天使の大剣のガードを崩し、疫病の狂天使の右肩を斬り裂く。

  右肩が斬り裂かれてしまった疫病の狂天使は右腕が使えなくなり、左腕でジュラの攻撃を捌こうとするが・・・片腕が使えなくなってしまった疫病の狂天使は斬り倒されてしまう。


『ぎぃぃぃぐっ・・・』


  鮮血が溢れだした疫病の狂天使。

  致命傷の攻撃だが疫病の狂天使は未だ絶命していない・・・人間では死んでいる傷だが疫病の狂天使であればまだ生きているのだ。


『これで終わりだ!』


  瀕死の疫病の狂天使に向かって再度剣を振るい、疫病の狂天使を斬り刻み・・・疫病の狂天使が絶命してしまう。

  決死の死闘を制したジュラからは大量の汗が溢れだしてしまっている。

  疫病の狂天使の返り血によってその鎧も汚れ、所々が疫病の狂天使に斬られたようで傷がついている。

  あの大剣の疫病の狂天使相手にこれだけの被害ですんだのは帝国騎士団団長、ジュラ・レイジスト・ウルエイオが対峙したからであり、並大抵の騎士では相手にもならなかったであろう強者だったのだ。


『なんとか勝ったようだな・・・』


  杖を付きながら近づいてくる土の属性魔導師。

  立っているのがやっとであり、彼もまた疲労しているからなか汗だくで疲れきっている様子だ。

 

『受け取れ』


  そう言ってジュラに自身の持っている治療液(ポーション)を差し出す。

  ジュラも自身の治療液(ポーション)が残っているので不要と言い放つが、土の属性魔導師は『自分の魔力は既に空に近く、対して戦力にはならない。だから自分の分の治療液(ポーション)持って行ってくれ』っとのことだ。

  魔導師の魔力という物は治療液(ポーション)等では代用出来ない物で、自然に回復するしかないと言われいる。

  魔法国でも魔力を回復する治療液(ポーション)の開発をしていると聞いているが・・・帝国では開発することが困難だと予算を切られたと聞いている。


『わかった。お前は何処か安全なところに避難しておいてくれ』

『あぁ・・・』


  治療液(ポーション)を受け取ったジュラが急いでこの場を去る。

  疫病の狂天使に妨害されてしまったが、目的の場所まではあと少しであり、走って10分程度の場所だ。


『・・・さて、この身体で安全な場所まで後退できるのかなぁ』


  魔力がほぼ空となってしまった土の属性魔導師は虚しく空を見上げる・・・



  数分前騎馬部隊が全滅した現場にて・・・


  帝国騎馬部隊が全滅したと報告された場所に赴いたシエン達。

  周囲には疫病の狂天使との戦いによって倒されてしまった騎馬部隊、歩兵部隊の死体が転がっており、死臭が鼻を突く。

  シエン達は周りを確認しているが辺りには瓦礫と死体が転がっているだけで、野人(レンジャー)部隊が言っていた不振な影は見当たらない。


『・・・酷い有り様だ』


  シエンの護衛の重歩兵が嘆くように呟く。

  キルギオーネに赴く覚悟はしていたが・・・それでもこれ程の悲惨な状況を見てしまっては嘆きたくなってしまうものだ。

 

『警戒を怠らないでくれ・・・そして私の言った人物を見つけ次第私に報告を』

『了解しました』


  そう言ってシエンと共に来た野人(レンジャー)部隊が解散して、ローブの人物の捜索にあたる。

  そしてしばらくしてシエン達の来た方向、ジュラが残った方向からけたたましい金属と金属がぶつかり合う音が聞こえてくる。

  どうやらジュラとあの大剣の疫病の狂天使との戦いが始まったようだ。


『始まったか・・・頼むぞ我が国最強の騎士よ』


  辺りを警戒しながらジュラが勝つことを祈るシエン。

  するとしばらくして一人の野人(レンジャー)が慌てて戻ってくる。

  そしてその野人(レンジャー)を追うようにして物陰からローブの人物・・・子供が出てくる。


『見つけた・・・』


  そう言って速度を上げ・・・戻って来ている野人(レンジャー)に追いつくと、一撃を喰らわせて野人(レンジャー)に攻撃を当てる。

  野人(レンジャー)の方も反転して攻撃を迎え撃とうとするが、その反撃をもろともせずにローブの人物は止めようとしなかった。


『ぎゃぁぁぁ!』


  苦しそうな悲鳴、そして激痛な為か転げ回る野人(レンジャー)をよそにそのままシエンの元まで突き進むローブの人物。


『重歩兵部隊前へ、王弟陛下を守るのだ!』


  そう言って重歩兵部隊がシエンを守る為に全面に展開する。

  護衛の騎士団達も刀を抜き戦闘態勢に入り、数名の魔導師達も戦闘態勢に入る。


『この程度・・・』


  ローブの人物はその異形の右腕を露にし、騎士団達と戦闘を開始しようとした時・・・


『我が名・・・シエン・ユネルメンス・フェール・ゼナーガの名において命じる!攻撃を停止せよ!』


  重歩兵部隊によって守られたシエンが声を張り上げて命じる。

  この疫病の狂天使が暴れまわる戦場において、いくらシエンが声を張り上げたところで止まる者など皆無であるが・・・ローブの人物がその言葉を受け入れたのか動きが止まる。


『動きが止まった!?』

『王弟陛下の命令に従っているのか?』


  そう言って動きの止まったローブの人物に警戒心と同時に疑問を投げ掛けながらどうしようか迷っている騎士団の面々。

 

『警戒を解くなよ・・・』


  そう言いながら重歩兵部隊がローブの人物を囲むようにして展開し、重歩兵部隊の隙間からシエンが覗けるように隙間を作る。

  隙間は微々たる物であり、重歩兵部隊が直ぐ様に手に持っているタワーシールドを閉じるとシエンに攻撃出来なくなってしまう。

  重歩兵部隊の持っているタワーシールドは巨大であり、頭以外を隠すほどで取り回しはほぼ不可能だが、一列に並ぶとまさに壁のようになり、ローブの人物を囲んでいる風景は異様だ。


『さて・・・まずそのローブを脱いで貰おうか』


  そう言ってローブの人物にその着ているローブを脱ぐように命令するシエン。

  ローブの人物はシエンの命令通りにその着ているローブを脱ぎ、その姿が露になる。

  その正体はまだあどけなさが残る・・・年齢としては13・・・14歳程度の年齢らしき少女だ。

  黒髪のショートヘアーに、真っ赤な真紅色髪が混ざっており、緑色の瞳をしている。

  聖職者が着ているような服装をしてはいるのだが基本的な黒、下はロングスカートになっていてその両脇に銀の糸で刺繍されているのか十字架が描かれている。

  そして服装、年齢よりも眼を引くのはその異形の右腕である。

  赤く、血液のように巡っている紫色の模様・・・指に当たる部分の先端が鋭くなっており、そして剃刀のようになっていて、肩から腕にかけて黒色の鎧を着ている。

  その姿を見て驚愕している騎士団の面々。

  それもその筈・・・騎士団の面々は全員野人(レンジャー)を倒したローブの人物の正体は疫病の狂天使だと思っていだのだが、その正体が疫病の狂天使ではなく、右腕が異形の少女であったのだから。


『やはりお前だったのか、聞きたいことは山ほどあるのだが・・・まず最初に、どのようにしてあの命令を解除したのだ?あの・・・我が国の国民には一切手出しは出来ないという命令を』

『・・・それは』

『それは?』


  一拍おいてローブの少女はシエンの命令に従い答える・・・はずであった。


『教えてあげるわけにはいかないなぁ・・・』


  そう言いなローブの少女の手には綺麗な装飾が施された瓶を持っており、その瓶を地面に向けて叩きつける。

  瓶の中に入っていた液体が周囲に飛散すると・・・シエン、そしてシエンを守っている騎士団の面々の動きが止まる。

  そして次々に持っている刀を手放し、地面に倒れこんでしまう。


『な、なんだ!?』


  一人周囲とは異なり上空で待機していた風の属性魔導師のみが無事で、何が起こったのか状況を把握するよりも早くローブの少女は風のの属性魔導師を斬り伏せる。

  通常の人間のジャンプ力では届かない場所にて待機していた風の属性魔導師だが、ローブの少女のジャンプ力それを上回ってしまったのだ。


『これで全員拘束完了かな?』


  そう言いながら辺りを見渡すローブの少女。

  風の属性魔導師は気を失い、シエン、周りを警護していた重歩兵部隊も地面に倒れこんで動く気配がない。


『き、貴様・・・!?』

『う、動けない・・・』

『何をされた?』


  地面に倒れこんでいる騎士団の面々から疑問の声と、身動きが出来ない状況になってしまった恐怖が聞こえてくる。

  どうやらあの瓶に入っていた液体は麻痺系統の毒液だったようで、その液体の影響からなのかシエン、騎士団の面々は動けなくなってしまったようだ。

  しかしどうやら、視界や、聴覚・・・嗅覚は正常なようで首から下が麻痺してしまっている。


『さて・・・貴方には色々と聞きたいことがあるんだよね』


  ローブの少女はシエンを掴むと、引きずるようにして歩いて行く。

  その光景を何も出来ずに、声を張り上げ『止めてくれ』っと訴える事しか出来ない騎士団の面々。

  シエンも必死に抵抗しようとしているが、麻痺してしまった身体は動く気配がない。


『王弟陛下!』


  何ものかが近づく気配と共に現れた一人の騎士。

  その鎧は数多の戦闘によって傷や凹みがあるが、それでもなおその鎧を愛用し続けているのは愛着からか、それともそれ以上の鎧がないからか・・・

  動けない騎士団の面々は誰もが彼の登場を待ちわび、誰もが彼の名前を叫ぶ・・・帝国最強の騎士ジュラ・レイジスト・ウルエイオの名を。


『貴様・・・王弟陛下、我が騎士団に何をした!?』


  怒号のように覇気を飛ばしローブの少女に剣を突き立てるジュラ。

  帝国最強の騎士から発せられる殺気は常人にとっては恐怖の対象でしかなく、また同じ所属であり、殺気を向けられていない騎士団の面々でさせ身震いするほどだ。

  しかし、ローブの少女は飄々としている。

  帝国最強の騎士の殺気を当てられているのにも関わらずに何も気にしている素振りは見られない。


『貴様・・・』

『帝国最強の騎士ジュラ・レイジスト・ウルエイオ・・・お前と勝負してもいいけど今は忙しいの』

『なんだと・・・』

『こいつには聞きたいことが山ほどあるの』


  そう言ってシエンを足でつつくローブの少女。

  いくら子供だからと言ってこの国のナンバー2に対しての態度ではない。

  その事を目にしたジュラが怒りに駆られ、ローブの少女に斬りかかろうとしたその時・・・二つの影がジュラとローブの少女の前に落下してくる。


『貴方のお相手はこの子達がしてくれるから・・・それじゃお願いね』


  ジュラとローブの少女の目の前に落下してきた二つの影・・・それはこの世界に存在する絶望の権化、疫病の狂天使だ。

 

『こいつらは!』


  その姿を見て驚愕するジュラ。

  それもその筈である。

  たった二体の液体の狂天使であればジュラ一人でも倒すことは可能だ。

  その疫病の狂天使が強者でなければ・・・


『ぴぃぃぃぃぎゃぁぁぁぁ!』

『ぎぃぃぃぃがぁぁぁぁ!』


  二体の疫病の狂天使が世界を怨む咆哮に後退りしてしまいたくなる気持ち抑え、覚悟を決めて剣を強く握り締めるジュラ。


(まさかあの疫病の狂天使と同程度の存在が二体同時だと・・・)


  そう・・・ジュラの前に立ちはだかった疫病の狂天使は先ほどジュラが倒した疫病の狂天使と同程度の存在だ。

  一体は右手が大斧になっていて、左手には鋼鉄の輝きを放つ棍棒、そして四つ腕の疫病の狂天使と同じように大剣になっている。

  形状は先ほどの疫病の狂天使とは違っているが・・・

  そしてもう一体の疫病の狂天使の両手にグレートソード、そして四つ腕の部分にはその身体を守るように巨大なトゲ付きのタワーシールドを持っている。

  この二体の疫病の狂天使が相手では、ジュラも全力で挑まなければ勝つことが不可能な程の相手だと自身の勘が告げている。


『また何処かで会えるといいですね』


  そう言ってジュラ達に手を振りながらこの場を去ろうとするローブの少女。

 

(このままでは王弟陛下が・・・仕方ない多少の・・・腕の一本程度で済めばよいが)


  自身の身体を犠牲にする覚悟を決め、ローブの少女からシエンを取り戻そうと鎧に嵌められている魔導石を発動させる。

  この魔導石は風の属性魔法の効力が秘められた魔導石で、使用すると短時間ではあるが高速で移動することが出来る。

  しかし日に3回程度した発動することが出来ない。

  更に発動し終えてから数時間は発動出来ず、また疲労が溜まっている今の状況では身体に掛かる負荷が大きくなってしまうが仕方ないことだ。

  魔導石を発動させ一気に距離を詰めたジュラ。

  あと少しで手が届く・・・はずであった。


『な!?なんだ・・・これは!?』


  ジュラの行く手を防いだのは半透明な壁であり、ジュラと騎士団、そして二体の疫病の狂天使を囲んでいる。

 

『極・水牢獄』


  ジュラの向いている方向から近づいてくる影がある。

  ローブの少女と同じようなローブを着ていて、遠くからでも分かるようなスタイル・・・女性であることが分かる。


『迎えに来ましたよ』


  ローブの女性を見つけるや否や、ローブの少女は引きずっていたシエンをその場に置いて走って行く。

  その姿はまるで微笑ましい親子のように見られる・・・このような場所でなければ。



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